461 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:34:31.92 ID:Qfqwz4lgO
今日も1日1まどさや!SS投下させていただきます!
本編第九話IFなお話です。
魔女化してしまったさやかを助けるため杏子と共に魔女の結界へと向かうまどか。
そこで彼女が見たものは…
魔女となったさやかが作り出したと言う結界の中にある長い廊下。薄暗く二人分の足音しかしないその世界を、杏子についていく形でまどかは進んでいた。
「ねぇ、杏子ちゃん…」
「あん?」
「本当に、私がさやかちゃんを助けられるのかな…」
まどかは今まで色んな魔女を見てきた。そのどれもが元々魔法少女…ひいては人間だと思えないような異形で。
魔法少女でもない一般人である自分が本当に助けられるのか、自信が、ない。
「…いいんだぜ。嫌なら帰っても」
「そんなんじゃ…!」
「だったら信じなよ、あいつの…さやかの親友である自分自身を」
杏子の言葉にまどかはハッとする。それを振り向かずとも察したのか杏子は周囲を警戒しながらも言葉を続けた。
「アタシは言ったはずだよ。友達が呼びかけたら、さやかは人間だった頃の記憶を取り戻すかもしれない。それができるとしたら、たぶんアンタだけだって」
杏子にとっては悔しい話だが、彼女ではさやかの心に声は届かない。可能性があるもう1人、上条恭介は連れてきたら逆効果になる危険性も大きい。
魔法少女のからくりを全て知り、尚且つさやかにとって大切な存在…それは鹿目まどかという少女にしか当てはまらないのだ。
「杏子ちゃん…私」
「それにさ、周りをよく見てみなよ」
「えっ…あっ…!」
杏子に言われて廊下の壁を見回したまどかは言葉を失ってしまう。
そこにはさやかとまどかの数々の思い出が、いっぱい映されていたのだ。
「最初はアタシや坊やの映像だけだったんだけどね。進むにつれてアンタばっかり映るようになってた」
「さやかちゃん…」
「さやかの心に一番近いのは間違いなくアンタだ。だからアンタは自信をもってアイツを取り返すことに専念しとけばいい。しばらくはアイツの代わりにアタシがアンタを守ってやるからさ」
杏子の言葉に、さやかの心象を正直に映すこの世界に、まどかは揺るぎない自信を持つ。
確かに自分はさやかの親友なんだと。いつも守られてきた恩返しを今こそするときなんだと…
462 名前:461続き[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:36:05.76 ID:Qfqwz4lgO [2/8]
「…さてと、お喋りはここまでにしとこうか」
「えっ…きゃっ!?」
急に声が低くなった杏子を見ようとしたまどかは、いきなり動き出した床に立ってられず座り込んでしまう。杏子は槍を構えると遥か先にあった扉を睨み付けた。
「杏子ちゃん、これっ!?」
「アイツに気付かれたみたいだな…いいか、どんな姿でもそいつはさやかだ。間違っても化け物なんて言うなよっ!」
「そんなの当たり前だよ!」
「へっ、よく言った!……行くぞっ!!」
ゴォォォォッと音が鳴りそうなスピードで動く床は2人を扉へと運んでいく。そして扉が後少しという所まで来た瞬間、杏子は未だ座り込んでいるまどかを脇に抱えると、扉を槍でぶち抜いた。
(待ってて…さやかちゃん!)
扉を破壊した事で漏れ出してくる白い光に包まれるまどかと杏子。
今2人はさやかの心象世界、その最奥部に足を踏み入れたのだ。
463 名前:462続き[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:37:17.64 ID:Qfqwz4lgO [3/8]
††
「な…なんだこりゃ」
白い光が晴れた時、まどかと杏子は広い部屋にいた。
まるでホールみたいに天井が高かったりするのは異常ではあるものの、それ以外は普通に家具や小物が置かれ、普通の部屋にしか見えない…壁一面に貼られているものを除けば。
「これ、私…?」
壁一面に貼られているのは笑顔、泣き顔、怒り顔、照れ顔、寝顔…ありとあらゆるまどかの写真。
まさに【鹿目まどか記念館】とでも言うべき様相がその部屋には広がっていた。
「おいおい、ストーカーの部屋じゃあるまいし、これはいくらなんでも…「杏子ちゃん、誰かいるよ!」何っ!?」
まどかの指差す先にあったのは人1人が眠れるくらいの大きさのベッド。
その上に…【彼女】はいた。
「えっ…」
「はぁ…?」
まどかと杏子は絶句するがそれも無理はない。
なぜならそこにいたのは…
上半身は騎士のような甲冑を着込み、下半身は魚のようになっていた…
胸につけるは大きなピンクのリボン、頭にちょこんと乗るは小さな王冠…
「あー…暇だなぁ…」
今までの魔女とは違い、普通の人間の言葉を喋るその顔は…彼女が人間だった頃と全く同じ。
それはそう…【人魚のコスプレをしたさやか】にしか見えなかった。
464 名前:463続き[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:38:54.00 ID:Qfqwz4lgO [4/8]
「……さやか、ちゃん?」
「おいおい、ちょっと待て…アタシが見た時は確かに他の魔女みたいに…「サヤカチャーン」……はっ?」
魔女化した瞬間に見た魔女と目の前にいる笑顔のさやかがどうしても繋がらず、混乱する杏子の横を小さい何かが通り過ぎていく。さやかの名前を呼びながら彼女の所に飛んでいく使い魔だろうそれは…どう見てもまどかを模していた。
「あ~!おかえり、まどかー!」
「サヤカチャン、タダイマーー!」
胸に飛び込んでくる小さなまどかをさやかはそれはもういい笑顔で抱き締める。しかも小さなまどかは一体だけではないらしく、さやかの座るベッドからさらに四体ほど衣装の違う小さなまどかが出てきた。
「いや~!嫁にこんなに囲まれて舞い上がっちゃってますね、あたし!」
「……」
「……」
五体のミニまどかとじゃれているさやかをまどかと杏子は呆然と見つめている。なんというか…あまりにも幸せそうなさやかに声をかけることが躊躇われるのだ。
「……」
「あ、おい…」
しばらく続いた一種の膠着状態はまどかがさやかに向かって歩き出した事で破られる。いくら無害そうに見えても相手は魔女、杏子は当然まどかを止めようとしたが、その背中が「大丈夫」と語っているのがわかり、引き止めようとしたその手はゆっくり下がっていった。
「サヤカチャン、ダイスキー」
「あはは、あたしも大好きだよまど「さやかちゃん」か…」
目の前まで近付いたまどかがさやかの名前を呼べば、彼女はビクッと身体を震わせる。その様子からさやかの心、その奥にある闇を悟ったまどかは…勢いよく彼女に抱きついた。
465 名前:464続き[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:40:48.46 ID:Qfqwz4lgO [5/8]
「っ!!」
「さやかちゃん…」
「や、やだ…離して…」
「いやだ、絶対に離さない」
「お、お願い…まどか…お願いだから……」
さやかの懇願を無視してまどかは彼女をさらに強く抱き締める。まどかが力を強くする度にさやかが被っていた【笑顔という名の仮面】が剥がれていき…いつしかさやかはツー…と涙を流していた。
「あ、あたし…こんなことしてもらう資格ないよ…」
「どうして?」
「だ、だってあたしまどかに酷いこと言ったじゃない!それに見てよ、この姿を!気持ち悪いでしょ、こんな化け物になっちゃったんだよあたし!だから…」
「だからここに閉じ籠って私に似た使い魔と仲良くしてたの?」
「そ…そうだよ!だってあたし、まどかがいなきゃまともに戦えもしないくせにまどかに八つ当たりして傷つけて…あたしみたいな最低な奴にもうまどかの友達なんて言う資格…「さやかちゃん…ごめん」え…っ!!」
パァンという音と共にさやかの頬に紅葉の跡がつけられる。
まどかに殴られた―その事実が理解できず、呆然と頬をなぞるさやかを睨むまどかは今までにないくらいに…怒っていた。
466 名前:465続き[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:44:17.52 ID:Qfqwz4lgO [6/8]
「さやかちゃんのバカっ!!」
「っ…!」
「なんで私の気持ちを無視して勝手に結論出しちゃうのっ!?さやかちゃんはそれでいいかもしれないよ…でも私がさやかちゃんが死んじゃったって聞いてどんな気持ちだったかわかるっ!?」
「だ、だってあたし死んでるもん…それに今じゃこんな化け物に…」
「どんな姿だってさやかちゃんはさやかちゃんだよ!私の大切な親友のさやかちゃんなの!……これ以上、私の親友を馬鹿にしないでっ!!」
「ーーーーっ!!」
まどかの真摯な思いがさやかの心を震わせる。止める術を忘れてしまったかのように涙が溢れだし、再び抱きついてきたまどかの肩を濡らしていた。
「さやかちゃん…私、どんな姿でもさやかちゃんが生きててくれて嬉しいよ…だからもう自分を責めないで…」
「あたし、いいの?まだまどかの友達でいいの?」
「もちろんだよ!」
「あたし、もう人間に戻れないかもしれないよ?ここから一生出られないかもしれないんだよ?」
「だったら私が会いに来る!さやかちゃんが寂しくないように!」
まどかの瞳には恐れも迷いもない…彼女は本気で半分魔女と化したさやかを受け入れようとしている。それはもう孤独に生き、いつか魔法少女に倒されるしか未来がないと思っていたさやかにとってとても嬉しくて、同時に辛い道を歩ませてしまうまどかに申し訳なくて…
「まどか…まどかぁ…!」
さやかがまどかの背中に手を回し、抱き締め返した瞬間にまどかを模していた使い魔達がスーッと消えていく。彼女達はさやかの二度とまどかとは会えない寂しさが作り出したもの…
役目を終えた今自ら消える事を選んだのだろう。
「さやかちゃん…独りぼっちになんか絶対させないから…」
「うわぁ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
467 名前:466続き[sage] 投稿日:2011/06/11(土) 21:48:06.40 ID:Qfqwz4lgO [7/8]
††
「あーあ…なんか気負いしてきたのが馬鹿みてぇ…」
まどかとさやかが2人の世界に入ってしまった事で放置を食らっていた杏子はつまらなそうにポッキーをかじっていた。
「わかってんのかねあいつら…これから間違いなく地獄を見るってのにさ」
決してハッピーエンドではない、半分だろうがさやかが魔女になってしまっている事に変わりはないから。
これからさやかは幾多の魔法少女に命を狙われるだろう。そして彼女の親友であろうとするかぎりまどかもそれに巻き込まれる事になるのは容易に想像出来る。
(それでも、アイツはさやかから離れようとはしないんだろうね…ほんとに変な奴)
泣きながら抱きついているさやかの背中を慈しむように撫でるまどかを一瞥し…杏子は踵を返した。
「でも、まぁ…こういう結末ってのも悪くないかもね」
ハッピーエンドではないとはいえ、愛と勇気が勝つストーリー…これもまたその1つの結末。少なくとも今の2人は幸せなんだろう…それを1人から2人分になった泣き声で確信しながら、杏子はいつの間にか直っていた扉を閉めたのだった…
―友情の魔女 美樹さやか
その性質は後悔
親友に向かって放った言葉を永遠に後悔し続ける魔女
二度と会えないという負い目から親友に似た使い魔を産み出し、共に過ごす日々を送るしか出来ない
精神が残っているものの、それはまるで救いにならない
この魔女を救いたくば真に彼女を思う親友を連れてくればいい
女神の素質を持つ少女は必ずや悲しみに生きる魔女を救い出してくれるだろう
以上です!
半魔女化さやかをまどかが愛と勇気で助ける…そんな感じで書かせていただきました!
ちなみに杏子初書きですね…途中から空気だったのは反省材料です。
それでは失礼いたしました!
最終更新:2011年08月15日 21:31