886 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/26(土) 11:46:51.89 ID:Q3sb3VtX0 [2/3]
恐縮ながら、以前スレ14内で灯火させていただいたピアノSSの修正版と完結編を置かせていただきます
両方読むと結構時間かかるかもしれないので、お時間に余裕のある時にでもどぞ
修正版
あんまり変わってないような…
完結編
修正前を読まれた方は読まなくても話に付いて行けると思います
誕生会と文化祭でほむほむばっかいじめてる気がするので救済のつもり
[A Maiden's Prayer]の続きみたいなもの
前回以上に言ってる事やってる事が支離滅裂です。学校の設定は現代(2011年)とはかけ離れた設定かも。
やたらほむほむの出番が多いですが一応まどさや(さやまど?)です。最後の外来語は気にしないでください。
あと今回はURL無しです。目当ての曲が無かった…(´・ω・`)
[私が見守る未来]
「さやかちゃん、県外の高校に行くの?」
「う"…聴かれてたか…。」
職員室からさやかが出てくるのを待っていたまどかは、漏れて聞こえた会話を耳にしていた。
さやかとしてもずっと黙っている訳にはいかない、いつかは話さなかればならない話たった。
「隠すつもりじゃなかったんだけどさ…。なかなか言い出せなくてごめん。」
「ううん、わたし応援するよ! 離れてたってわたしはさやかちゃんの―――」
"恋人だから"と言おうとしてまどかは躊躇った。
恋人ならずっと一緒に居られるのか? 大人になるまで離れ離れでも好きで居てくれるのか?
幸せを手に入れた矢先、これから先の事を考えるだけで不安になった。未来は幸せになる為にある筈なのに…。
「どしたのまどか?」
「わぇっ!? な、何でもないよぉ…!」
不安がモロに表情として表れていたらしい。
顔を覗き込まれたまどかは真っ赤になりながらも慌てて取り繕おうとする。
勿論さやかにとってまどかのこの程度の嘘を見破るのは造作も無い事だが。
「悩み事があるならさやかちゃんに話しなさいよ?」
「うん………。」
俯いてしまったまどかを宥めようと、さやかの両腕がまどかの背中を包んだ。
不安な時二人がスキンシップを率先するのは今も昔も変わらない。意味合いが少々異なるだけで。
「まどか…もう一人で考え込むのはナシだから…ね?」
「うん…わかったよ…。いつかちゃんと話すから…少しだけ待ってもらえないかな…?」
「よしよし! 嫁は今日も良い子だなぁ〜!約束だよー?」
「えへへっ♪」
さやかのピアノはまどかのお陰で音を取り戻し、自身の未来にまで影響する程になっていた。
ピアノを専攻できる高校へ進む為に見滝原を離れる…さやかが選び、周囲からも薦められた道だった。
さやかの腕の中で頭を撫でられながらまどかは心に決めていた。
一番大切な人の夢なんだから、それはとっても嬉しい事だなって。
恋人同士なんだから離れても寂しくなんてない。また会えるんだから。
だからさやかちゃんの夢をわたしも大切にしなきゃ。
………………………………♭♭♭♭♭♭………………………………
「カー○ィDXのグ○メレース!」
「お!よく知ってたね!正解〜!」
「ビッグ○リッヂの死闘!」
「正解!流石にイントロですぐ理解ったよねー」
「最早ピアノの法則が乱れてるんですけど…」
「フェ○ト/ゼロのオープニングですわ!」
「正解〜!やっぱ今流行ってるのかな。」
放課後リサイタルが終わった後には軽くゲームの様な催しが行われる様になっていた。
ゲームやアニメの曲をさやかがピアノで弾き、観客の生徒たちが何の曲か当てるというもの。
クラシック楽曲の演奏はともかく、さやかの開放的な性格が現れたちょっとした遊び心である。
観衆の中で暁美ほむらもその1人として見つめていた。鹿目まどかと、そのまどかが寄り添う美樹さやかを。
放課後ピアノを弾く時もさやかの隣には常にまどかが居て、意識を共有するかの様に楽譜を捲る。
諦めは着けたつもりであるけれど、それでもつい二人の姿を追わずには居られなかった。
だからその日は放課後にまどかが居ない事にもすぐ気付いた。珍しく家の用事により、放課後すぐに帰宅したそうだ。
独り帰路に着くほむらは、同じく独りで校門を出たさやかに遭遇した。
「隣…いいかしら?」
「おっ? ほむらと二人で帰る事になるなんて珍しいねー。」
何故ほむらが声を掛けたのか、ほむら自身もよく理解らなかった。
ただ単に"淋しいから"というのも理由かもしれない。ピアノを聴いた直後でその音が名残惜しいのかもしれない。
まどかに最も近い人に触れてみたい…そんな探究がもほむらの心を動かしていた。
「今日もし時間があるなら、貴女の家にお邪魔したいのだけど。」
「え??? そりゃ構わないけど…今日はまどかうちに来ないよ?」
「そういうのじゃないわ。ただ、貴女に弾いて欲しい曲があるのよ。」
「なんだそんな事か〜。あたしで弾ける範囲でだけど、リクエストなら何でもお答えするよ。」
面倒見が良く人当たりの良いさやか。
一方は以前程ではないものの、未だにやや近寄り難い雰囲気の残るほむら。
それでもほむらは嘗ての戦友として他の生徒達よりはさやかと親交があった。
「ピアノを本気で弾く人ってもっと固いイメージがあったのだけど、なんだか貴女らしいわね。
私達子供が親しみ易音楽で楽しませるなんて。」
「楽譜のまましか弾かない人にはあんましなりたくないからね。
どうせなら楽しくやる方がいいじゃん? ずっと張り詰めてるのもなんだしさー。」
「そうね。そういう音楽の楽譜を探したりするのも楽しそうだわ。」
「残念ながらクラシック以外はほぼ楽譜持ってないんだなーこれが。
あたしは自分で聴いたのを好き勝手アレンジしてるだけだよ。」
「え…?」
鼻に掛けず言うさやかだが、実は凄い事ではないのだろうか。ほむらは疑問に思いつつ驚いていた。
その後も何気ない会話を続けながら歩いていると、さやかの携帯電話から振動音が発せられる。
「…っと、メールだ。―――。ごめん、ちょっとデパート寄っていいかな。買い物行かなきゃいけないや。」
「荷物持ちくらいなら手伝うわ。」
デパート食料品売り場
牛乳、鶏肉、レタス、プチトマト、ニンジン、ジャガイモ、ブロッコリー、マッシュルーム…
さやかはメモも見ずに次々と食材を買い物カゴに放り込んでゆく。
「こんなもんかなー、あとはまだ家にあったっけ。あ、卵少ないから追加しとこっと。」
テキパキと手際の良いさやかの買い物を見ながらほむらは思った。
携帯食品、レトルト食品、インスタント食品…自分の思い浮かべる買い物とは内容が随分違うなと。
帰り際にさやかの片手には買い物袋。何も手伝わないのも悪いから、とほむらはさやかの鞄を手に持った。
―それなりの重量がある荷物を片手で軽々持つのね。生身の私が華奢なだけなのかな…。―
魔法の力は完全に失われ、元の身体能力に戻ってしまったほむら。改めて本来の自分というものを痛感させられた。
眼鏡は使わずコンタクトレンズで日常生活を送るのも、これまで築いた自分を失いたくないという部分があるからだ。
しかしほむらの中では、密かにさやかに対して劣等感より思慕という感情が先行し始めていた。
マンションのオートロックを潜り、さやかは自室の鍵を開ける。
時刻は深秋の夕刻。陽の翳りにも関わらず電気は点いていなかった。
「家族の方はまだ帰っていないのかしら?」
「うち親が共働きだからさ。年頃の一人娘を放っといて酷いよねー、全く。」
さやかは冗談交じりに言うが、ほむらは冗談として受け止めたくなかった。
ほむらも一人暮らしをする身であり、家族で暮らす幸せを羨んだ事が少しくらいはある。
家族が傍にありながらも、自分と似た状況にも関わらず自然と明朗快活に過ごすさやか。
何故か普段の彼女を気の毒に感じ、胸が締め付けられる思いだった。
案内されたリビングでは既に差し込み始めた夕焼けが漆黒のピアノを黄金に染め上げていた。
「この夕焼けに似合いそうな切ない曲…なんていうのは駄目かしら?」
「ありゃ、もうそんな時間か。うーん…クラシックじゃなくてもいい?」
「ええ。貴女の音なら何でも絵になりそうだから。」
「そんじゃぁご期待に沿える様頑張らないとね!」
ゆったりとした短調のワルツに、時折ジャズにも似た装飾譜が彩るメロディの響き。
そこにはまるで夕陽に独り佇んでいる様な情景が映し出される。
ほむらにとっては切なく、けれど大切な思い出達を振り返り、叶わぬ夢の跡先を陽の黄昏に紛らわせる。
現実逃避の一端であり愚かな妄想かもしれない。でもその妄想も幻も人にとっての糧となるのだ。
人は弱いから。強くありたいと願ったほむらも本当の自分は弱いまま。それでいいと思った。
だから………ほむらは躊躇う事なく涙を流した。
「うわっ!ほむら大丈夫!??」
「…ええ…心配しないで。感傷的になり過ぎただけだから…。」
ほむらは以前元魔法少女の仲間を集めて演奏した時も泣き出したが今回は違った。
涙を堪える事もせず、満ち足りた悲し気な笑顔の中で、己が感情の命ずるままに頬を濡らし続ける。
「心配しないでってそんな…ピアノ弾いて目の前で大泣きされりゃ気にするよ。」
一瞬どうすべきか混乱したさやかだが、まどかをあやす時と同じ様にほむらの肩を優しく抱いた。
「優しいのね、さやかは。」
「友達を心配するのは当たり前の事じゃん。」
「…ごめんなさい。本当言うと…今日は泣きたくて貴女にピアノをお願いしたのよ。」
「じゃぁ…あたしはその泣きたい理由を聞きたいな。友達でしょ? 仲間でしょ?」
さやかは慈しむ様に問い掛ける。ヒビ割れた硝子が崩れてしまわない様に。
一呼吸置き、少し俯いてからほむらは答えた。
「………。そう…友達よ…。だから…私はもう、手に入らない…。」
「…?」
「まどかは貴女の恋人になってしまった。」
「………そっか…あたし鈍感だね…。」
「それに…今また私は貴女に惹かれようとしている…」
「え…!?」
これじゃ恭介に人の事言えないな…そう考えかけた矢先にさやかは面食らっていた。
この状況で告白紛いの言葉をすらっと言えるほむらに。
「正直、魔法少女の頃の貴女程頼りないものは無かったわ。
なのに…本来の女の子としての美樹さやかはこんなに頼れる存在で、
お人良しで前向きで、人に見せない努力家で…やっと気が付いたのに…もう遅過ぎて……
まどかも貴女も遠くに行っちゃうんだもの……私………」
髪を撫でたさやかの手がそれ以上を言わせなかった。
「傍に居ちゃいけない友達が何処に居るの?
そりゃあたしとまどかはそういう仲になっちゃったけど…
だからって、ほむらがまどかの傍に居ちゃいけないって理由にはならないと思う。」
さやかは手元からハンカチを取り出しほむらの頬に添える。
「…ズルいのね…さやかは…」
「あたし頭良い方じゃないから、気の利いた台詞とか上手く言えないけど…
何もほむらがまどかから離れる必要は無いんじゃないかな? 今も友達なんでしょ?」
"離れる必要は無い"、その言葉にほむらは顔を上げる。
とても嬉しかった。まどかの傍に居られる事が。それに負けない程にさやかの傍にも居たいと思った。
「じゃぁ…私はまどかの友達…ううん、親友で居たいけど、貴女の親友でも居てもいい?」
「そりゃ光栄だね! ほむらはまどかの親友。ほむらはあたしの親友だ。」
「うん…うん…!」
さやかは子供の様に頷くほむらを微笑ましく思った。
本当はこんなに無邪気に笑える女の子なんだと。
「そろそろ晩御飯の支度しなきゃいけないんだけど、ほむらどうする?」
「え?貴女が…???」
「帰りにメールが来てさ、今日は親が食べる分も作って置いといてって頼まれたわけですよ。」
失礼なくらい目をぱちくりさせて驚くほむら。
さやかが親から受け取ったメールの内容は"買い物をお願い"ではなく"今日の夕飯をお願い"だったのだ。
デパートでさやかが選んだ食材も、全ては自分が調理する為のもの。
(じー…)
ほむらが物欲しそうにさやかをじっと見つめている。
「あっ…言っとくけどマミさんレベルを期待されても困るよ?
晩御飯の材料はちょっと余裕持って買っといたし、もうメニューも決めちゃってるけど………
………食べて行く?」
その瞬間、待っていましたとばかりに目を輝かせるほむらだった。
クリームシチュー、オムライス、サラダ。
先程の謙遜にも関わらず、テーブルには主婦が作るものと大差無い食事が並べられていた。
「おいしい…! それに…暖かい…」
「そりゃシチューだからあったかくないと。」
「そうじゃないのよ…誰かと一緒の食事が、こんなに暖かいのって久しぶりだから…。
さやか、貴女私が思ってたよりずっと女の子らしいわ。もっと自分に自信を持てばいいのに。」
「そ、それ照れるなぁ…」
"女の子らしい"、頭を掻きながら慣れない褒め言葉に戸惑うさやか。
元々ピアノを始めた理由に女の子らしくないからというものもあった。
(クスッ) そんなさやかを見て今度はほむらが微笑ましいなと思う番だった。
「ほむらだって一人暮らしじゃん。あたしなんかより余っ程生活力ありそうだけど?」
「私は携帯食で済ませる派だもの。自炊なんて考えた事も無かったわ。」
「さいですか…。」
夕食を終えると既に外は真っ暗。そろそろ冷え込み始める季節である。
「こんな時間だけど一人で大丈夫?」
「護身具はちゃんと持ってるわ。」
「おいおい………。明日休みだし泊まって行ってもいいんだよ?」
「それには及ばないわ。まどかに怒られてしまうもの。」
「う、スミマセン…。」
「夕飯おいしかったわさやか。また、その…
いつか一緒に食事したいわ…できれば貴女の家で。今度はまどかも一緒に。」
「そだね。じゃ、気を付けてね。ばいばい!」
エントランスを抜け、見送るさやかを背にしてほむらは静かに決心した。
この二人を離れ離れにしてはいけないと。
自分の大切な人を、こんな素敵な人から手放させはしない。絶対に。
まどかの傍に居ればできる事があるのだから。
………………………………♭♭♭♭♭♭………………………………
職員室前で独りさやかを不安そうに待つまどかにほむらは話を持ちかけた。
"大好きな人の夢を大切にする"、まどかはそう言いつつも暗い影と焦りを隠せずに居た。
「貴女は本当にそれでいいの?」
「え…? 何…言ってるの…?」
「貴女が本当に大切な人の事をもっと考えてあげて。」
「だって…さやかちゃんの夢だから応援したいって思ってるんだよ。」
「さやかではなく貴女自身の気持ちを聞いているのよ。」
ほむらは譲らない。まどかの真意を見つけ出すまで到底譲るつもりなど無かった。
問い詰める度に僅かずつメッキが剥がれ落ち、隠された迷いが声色に表れ始める。
「大切な人だから…邪魔するなんてできないよ…迷惑かけるなんて…駄目だもん…。」
「さやかが貴女にそうして欲しいと言ったのかしら? 「夢を叶えるから暫く離れよう」と言ったの?」
「え…? そうじゃないけど…。さやかちゃんはそんな事………言わないよ…きっと…。」
だって…だって…! わたしなんかじゃ何にも役に立たないし…
勉強あんまり得意じゃないし…料理もできないし…―――」
(パァン)
その瞬間乾いた音が響きまどかの声を遮った。音を立てた手を握り締めたほむらは怒りの視線をまどかに向ける。
突然の出来事にまどかは目を疑い、呆然としたまま鈍く痛む頬に手を当てていた。
「ほ…ほむらちゃ…」
「何もできないって今から諦めてどうするのよ!!
まだ一年あるのに貴女は何の努力もしないで指を咥えて見ているつもり!?」
魔法少女だった頃には想像もつかない程に強く叫んだほむら。
まどかの"諦め"という牙城を崩すには十分だった。
「………ないよ…離れたくないよ…。ホントは…ずっと一緒に居たいよ…。」
「そう…ちゃんと言えたじゃない。」
やっとまどかの本当の気持ちを聴く事が出来た。やはり大切な人との別れなど決して望んではいなかったのだ。
ほむらは泣きじゃくる子供をあやすのではなく、褒める様にまどかの頭を撫で続ける。
「でもわたし…さやかちゃんの為に何かできるのかな…。」
「一人では無理かもしれないけど、私が力になるわ。だから勇気を出して。」
「うん…。」
「相手の幸せだけ望んでも、自分も幸せでなければ相手が悲しむだけよ。
だから、貴女も幸せになりなさい。」
………………………………♭♭♭♭♭♭………………………………
この日はまどか、さやか、ほむらの3人での下校。今日は英語のテストの話題で持ち切りになっていた。
元々それ程勉強が得意ではなかったまどかが100点を取ったのだ。
「そっか〜、ほむらがまどかに勉強教えてたんだね。」
「さやか。これは貴女の為でもあるのよ。」
「へ…???」
急に自分に視点が当てられてさやかの目は点になっていた。
「貴女の目指す高校は音楽系の学科と外来語系の学科があったわよね。」
「わたしもさやかちゃんと同じ学校に行きたいから、だから今のうちに頑張ろうかなって。
さやかちゃんが迷惑じゃなければだけど…。駄目…かな…?」
「それにいつの日か、さやかは外国へ留学するかもしれない。海外の大学へ行くかもしれない。
だから…その時もまどかにはさやかの力になって欲しいのよ。」
「まどか…ほむら…。」
さやかは"自分の為に無理しないで"などとはとても言えなかった。
まどかの直向きさとほむらの友情を拒否するつもりも理由など無いのだから。
「親友のお節介と思ってもらっても構わないわ。けど、貴女一人で行かせる事はできない。
慣れない場所でさやかの一人暮らしなんて想像しただけで不安だもの。」
最後の"不安"は建前である。先日さやかの生活力を真近で目にしたばかりだ。
本当の願いは"まどかを独りにしないで欲しい"だったが、それではさやかに押し付ける形になってしまうから。
「ほむらちゃんってば最近凄く厳しいんだよー。勉強中ずっと起こられてる気がするし…。」
「人聞きが悪いわね。私からの愛よ!愛!
卒業までにドイツ語、フランス語、イタリア語の基礎程度はみっちり習得してもらうから。」
「うう〜っ…もっと優しく教えて欲しいのにぃ…。」
「優しく教えてたら頭に入らないでしょう。」
「あはは…ほむら意外と家庭教師とか向いてるのかもね。」
軈てほむらとの分かれ道が近付く。
いつかはまどかとさやか2人きりになれる様、いつも通りの笑顔で見送るべく振り返るほむら。
「それじゃぁね。」
―そう、これでいい…これでまどかの幸せを守れる。
これでいいのよ…これで私は元通り独りになるだけ…―
「ほむらは優しいなぁ〜」
だがそう容易く帰してはくれないらしい。
心を見透した様なタイミングで撫で始めたさやかの手は、ほむらの心の空白を自由になどしない。
「んなっ!???」
「ほむらちゃんだけずるいー!」
「よーし、じゃぁ二人まとめてこうだ〜!」
(ギュッ! ムニュッ…)
さやかの広げた両手がまどかとほむらを包み込んだ。
抱き付かれ慣れているまどかはともかく、ほむらは一瞬で体温が沸騰するほど紅潮してしまった。
「△※★◇@☆▼!??」
「あはは、ほむらちゃん顔真っ赤だよー♪」
「あ、当たってるわよさやか…!」
「へ?何が???」
「だ、だから背中に…!」
さやかの腕は逃れようとするほむらを逃がさない。こうしてじゃれ合いが隙間を埋めてゆくのだ。
ほむらが無意識に作り上げようとした未来という壁はいとも容易く打ち砕かれてしまった。
息が掛かりそうな耳元でさやかは言う。
「ほむら…こっそり寂しそうな顔してたけどさ、大事な事忘れてない?」
「何かしら…?」
「離れる必要なんて無いって言ったじゃん!
そりゃ毎日は会えなくなるのかもしれないけど…休みの日くらい遊んだりしようよ!」
すっかり観念したほむらに、今度は同じ腕に抱かれたままでまどかが言う。
「ねぇほむらちゃん、前わたしに言ったよね。
"相手の幸せだけ望んでも、自分も幸せでなければ相手が悲しむだけ"じゃなかったっけ?」
「ぅ"…。」
「もう、言い出したほむらちゃんが一番理解ってないよね。」
「…全くだわ。」
「だからずっと仲良しさんだよ〜!」
(ギュッ)
今度はまどかが小さな身体を精一杯伸ばして、二人をまとめて両腕で包み込んだ。
その腕の中に、最高の親友と最高の恋人の温もりを感じて。
………………………………♭♭♭♭♭♭………………………………
―1年半後―
―わたしとさやかちゃんは二人共無事同じ高校に進む事ができました。
さやかちゃんは音楽科、わたしは外国語科で授業は殆ど違うけど、登下校と昼休みはいつも一緒です。
ほむらちゃんの猛特訓のお陰でわたしは英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語が読み書きできるようになりました。
さやかちゃんが触れるかもしれない外国語だから力になれたら嬉しいなって。
外国に居る仁美ちゃんにエアメールを送れるくらいにはなりました。まだ喋れる自信は無いけど…。
放課後にはいつもさやかちゃんのピアノを聴いてから帰ります。
お料理はやっぱりまださやかちゃんの方が上手だけど…わたしもちゃんとお手伝いしてます。
あっ、肝心な事を忘れてた。わたしたち、二人で一緒に同性…じゃなくて同棲生活を始めたんです。―
「まどかが通訳に?」
「わたしだって頑張ってさやかちゃんに近付こうとしてるんだよ?
今すぐには無理だけど…ちゃんとさやかちゃんのお手伝いできる様になってみせるよ!」
「可愛い奴め〜♪ まどかはあたしの嫁になるのだ〜!」
中学の頃と同じ台詞に同じ日常。だがさやかの抱擁は以前とは随分違っていた。
腕を肩と腰に回し、互いの身体が真っ直ぐ触れ合う様にそっと抱き寄せる。
「さやかちゃん…」
「どしたの?」
「ん…なんかね、随分変わったなって思ったの。
さやかちゃんが抱きしめてくれるのが、前よりずっと優しくてあったかいなぁって。」
「何て言うんだろ…大事な嫁を粗末には扱いたくないからかな。
随分意識しちゃうんだ…。今はまだよく理解んないけど、なんでかこうしてるだけでドキドキする…。」
お互いの右薬指にはペアリング。2人なりに"将来式を挙げよう"と約束した証である。
二人で相談した結果、結婚指輪を左手に、婚約指輪を右手に填める事にしたのだ。
「さやかちゃんちょっと髪伸びたよね。ほんの少し変わっただけで凄く美人さんな感じだよ。」
「まどかだって結構髪伸びてるじゃん。リボンの結び方もちょっと変わって、前より大人っぽいよ。
でもやっぱまどかは"可愛い"けどね♪」
「うーん…やっぱりわたし達って変わらないところはあるのかなぁ。」
「変わってゆく事だってあるけど、どんなに変わってもあたしはあたし、まどかはまどかだと思うよ?」
同じ様でいて変わりゆく世界、心地良い胸の高鳴りとほんの少しの名残惜しさがそこにある。
まどかは顔を上げ、二人の視線を交錯させた。
「えへへっ♪ さやかちゃん大………ううん。さやかちゃん…好きだよ。」
「大好きじゃなくて、"好き"?」
「う、うん…。さやかちゃんの気持ち、ちょっと理解った気がする。」
親友としての"大好き"から恋人としての"好き"は、まどかなりに成長したいという願望の現れである。
気付けばこうして道端で人目も気にせず抱き付きあっていたワケで…。
「Guten Tag Damen. Sind zwei Leute nah, aber sind, Sie paaren sich?」
「―――ふえっ!??」
突然道行く女性に話し掛けられた。他校の制服を着た同じ背丈程の女生徒。
大きめの丸っこいキャスケット帽に頭はすっぽりと覆われており、彼女の顔はよく見えない。
「ど、どどどどうしようさやかちゃん!? たぶんドイツ語で話しかけられちゃったよ…!」
「まどか!辞書出して辞書! あ、とりあえずあたし達まだ結婚はしてないです! えーと…」
半分パニックになったまどかは訳すどころではなかった。
むしろさやかの方が単語を聞き取れたらしい。でもそれは何処かで聞き覚えのある声で…
「(クスッ) さやかにフォローされてどうするのよ、まどか。」
「―――ってその声…ほむらちゃん…!?」
女性が帽子を取ると、丸いキャスケット帽に仕舞い込まれていた長い黒髪が現れる。
そこには以前と変わりない様子の暁美ほむらが居た。
「ほむらがどうしてここに?」
「私も近くの高校になったから、二人を驚かせようと思って悪戯してみたのよ。
まどかは相変わらずね。勉強と外来語は貴女がリードするんでしょ?」
「ぅぅ…わたしまだ英語くらいしか喋れないのに酷いよぉ…。」
「正直言うと、やっぱりまだまどかだけにさやかを任せるのは心配だったの。」
「ええっ! それもっと酷いよー!」
「近くの高校って事はほむら、この近くに引っ越したの?」
「ええ。それにこの街、私の家族が居るのよ。今は実家から通っているの。」
家族という温もりに触れたから、ほむらの近寄り難さも冷たさも今は見る影も無い。
既に手術を行う程の病気でもなく、魔法少女でもない。身内を遠ざける必要は無いわけで。
「あの…ほむら先生、できたらまた勉強の方よろしくお願いしやす…。」
「そのくらいは任せなさい。」
「…ねぇほむらちゃん、さやかちゃんにだけ甘くない?」
「へ?そうかしら…!? さやかはできるだけ本業に集中すべきよ。」
ジト目のまどかと何故か慌てるほむらの対峙が妙に新鮮だった。
見滝原を離れる直前までのほむらの手解きの甲斐あり、今ではまどかも人並み以上に頑張っている。
「その代わりと言っては何だけど、また近いに内さやかの手料理を食べたいわ。」
「ほほぅ…ほむほむはお母さんだけじゃ満足できないというわけですか。」
「その呼び方は恥ずかしいからやめなさい…。」
「ほむちゃんと三人でご飯楽しみだなー♪」
「だ、だからやめなさいって!」
―恋人にはなれなかったけれど、大切な親友が二人も傍に居る…こんなのも悪くないよね。
二人ともとても素敵な人。もう少し傍に居たい…神様はそんな我侭を許してくれたのかな…私が見守る未来を。―
ほむらと別れ、二人は下宿先のマンションへ向かった。
学生が借りるにしてはやや贅沢なものだが、それぞれの両親が理解し後押ししてくれた結果だ。
―マミさん、杏子ちゃん、お元気ですか? 今度の三連休にそっちに戻るので、また一緒に遊びましょう。
三人で撮った写真を添付しておきます。
鹿目まどかは恋人と親友に囲まれて、とっても嬉しいなって思ってしまうのでした♪
「メール送信おっけー…っと。
あ、桜の花びらだ。見て見てさやかちゃんー、こっちたくさん咲いてるよー!」
季節はまだ春風薫る四月。舞い落ちた桜が、まだプレスされてあまり間の無い初々しい制服を彩っていた。
「ホントだ。まどかとお揃いだね。」
「え? わたしと?」
「うん、お揃いの綺麗なピンクだよ。桜の花は春だけで落ちるけど…あたしの桜は年中咲いてるんだよね。」
そう言ってさやかは"桜"を抱き寄せた。青い葉が色鮮やかな花を、姫君を護るかの様に。
舞い踊る桃色の下で重なる二人の物語はまだ始まったばかりだ。
[私が見守る未来]
おしまい。
最終更新:2011年12月04日 16:01