3 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/27(日) 12:56:21.13 ID:VwUHC2fB0 [1/5]
「いい加減にしてよ! そんなことまでまどかの気に入るようにしなきゃダメだなんて、あたしはまどかの召し使いかなんか!?」
「そんなこと言ってないじゃない! またすぐそうやって話そらして! お願いだからちゃんと私の話聞いてよ!」
「聞いてるじゃないこうやって! そもそもまどかの言ってることがむちゃくちゃなのよ! 全く、まどかがこんなわがままな子だなんて思いもしなかった!」
「ひどいよ、さやかちゃん! どうしてそんなひどいこと言うの!? もう私のこと好きじゃないの!?」
「あーそうかもね! こんな身勝手で人の話も聞かないまどかにはあたしもう付き合いきれない!」
「……っ! もう怒ったよ……! 私、本気で怒ったからね! もうさやかちゃんとは口きかない!」
「あ~らそう。どうぞご自由に! どうせ三日と持たないでしょうけどね!」
「そんなこと言ってていいの!? 私、本気だからね! あとで後悔しても知らないからね!」
私とさやかちゃんは、大ゲンカをした。
*
その晩、私たちはケンカしてから寝るまで一切口をきかず、ベッドも別々で眠りについた。
翌朝目を覚ました私が居間に行くと、さやかちゃんは仏頂面で朝食の準備をしていた。目は合ったが、私はおはようの一言も言ってあげない。
ぷいっと顔を背けた私を見て、さやかちゃんもさらに不機嫌そうな顔になった。わざと音を立ててテーブルに食器を並べていくので、
私も無言で朝食を摂り、当然いってらっしゃいのキスもしないで私は家を出た。
朝のさやかちゃんの態度で、さやかちゃんが反省するまで絶対に口をきいてあげるもんかと決意を新たにした私は、
さやかちゃんのことを努めて頭の中から追い払いながらお仕事に励んだ。
あまりに頑張りすぎて、うっかりまだ限界を迎えていない魔法少女のことろにも現れてしまいそうになったくらいだ。
いつもの1.5倍増しのペースでお仕事を片付けた私は、さあ家に帰ろうかなという段になって、さやかちゃんのことを考えた。
こっちに来てから初めての大ゲンカだったし、日中私がいない間にさやかちゃんにも考える時間はたっぷりあったはずだ。
私が本気で怒っていることは十分伝わったはずなので、さやかちゃんは今ごろ後悔し始めているかもしれない。
さやかちゃんが謝るって言うなら許してあげてもいいかもしれないと思いながら、私は家の玄関のドアを開けた。
明かりはついている。さやかちゃんの気配もする。なのに、いくら待ってもさやかちゃんは迎えに出てこない。
玄関に立ち尽くしているのがバカらしくなって、私は靴を脱いで廊下を進んだ。
さやかちゃんはキッチンにいた。私がその背中をにらみつけていると、気配に気づいたのか私の方をちらりと見た。
だけど、すぐに何も見なかったかのように顔を前に戻してしまった。
「……っ!」
今朝と何も変わらないさやかちゃんの態度に怒りが込み上げ、私は思わず怒鳴りそうになったがどうにか我慢した。
ここで怒鳴ってしまっては、昨晩のケンカが再現されるだけで何も変わらない。さやかちゃんの不誠実な振る舞いに私が心底怒っていることを思い知らせるためには、
絶対に口をきいてしまってはダメだ。何より、私が先に口を開いてしまったら、さやかちゃんはしてやったりとばかりにほくそ笑むだろう。
その晩も、私たちは一言も口をきかずに過ごした。私はうっかり口をきいてしまうことを避けるためになるべくさやかちゃんのそばに寄らず、視線も合わせないようにした。
明日になれば、明日までこのままだったらさすがにさやかちゃんも私がどれだけ怒っているか思い知るはずだよと何度も自分に言い聞かせながら、
私は早く時間が過ぎてさやかちゃんが反省してくれればいいのにと思っていた。
ずっとそんなことを考えていたため、お風呂に入ったとき、洗面所にバスタオルを持ってくるのを忘れてしまった。
さやかちゃんはもう寝ている。声を上げてさやかちゃんにバスタオルを持ってきてもらうことも考えたが、こんなことで私の方から折れる形になってしまうのは悔しい。
覚悟を決めた私は濡れた体のままバスタオルを取りに行ったが、気が焦ってなかなかバスタオルが見つけられない。
ようやくバスタオルを見つけたときには、すっかり体が冷えてしまっていた。私は、私がこんな目に遭うのも全部さやかちゃんのせいなんだからと繰り返しながら、布団をかぶって寝てしまった。
4 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/27(日) 12:57:03.56 ID:VwUHC2fB0 [2/5]
信じられないことに、その次の日もさやかちゃんの態度は変わっていなかった。
いつもなら毎朝優しくキスして私を起こしてくれ、朝食の間中もひっきりなしに親父ギャグを連発して私を笑わせてくれていたさやかちゃんが、私の方を見もせずに押し黙って朝食を食べている。
お行儀が悪いからと食事中はつけないことにしているテレビをつけ、不機嫌そうに画面を見つめている。
ことここに至って、私は愕然とした。あまりに平然としているさやかちゃんの態度もショックだったが、
それ以上にさやかちゃんの態度が変わらないことに予想以上にショックを受けている私自身にショックを受けていた。
私は心のどこかで今朝になればさやかちゃんが謝ってくれるに違いないと期待していたのだ。
それは、これまで私たちがケンカしたときには必ずさやかちゃんの方が一両日中に謝ってくれたということもあったし、
まるでその場にいないかのようにさやかちゃんに構ってもらえない私の寂しさが限界を迎えつつあったせいでもあった。
思わず目頭が熱くなって泣いてしまいそうになり、私は顔を隠しながら朝食の途中で席を立った。これ以上このままさやかちゃんのそばにいたら、心細さに耐えられなくなる。
それでも絶対に私からは口を開いてなるものかと意地になった私は、そのまま家を飛び出した。
すぐに息が切れ、頭も痛くなってくる。苦しさのあまり足を緩めると、同時に必死にこらえていた涙もこぼれだした。
ちょうど道にあったベンチにふらふらと腰を下ろし、私は嗚咽をおさえながら泣いた。
さやかちゃん、私を見てよ。いつもみたいに私を構ってよ。私の頭を撫でて、抱きしめてよ……。
さやかちゃんに構ってもらえないことが、こんなにも辛いなんて思いもしなかった。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
私はただ、さやかちゃんとずっと一緒にいたいだけなのに。
もう限界だ。さやかちゃんに謝って楽になろうと私は思ったけれど、それでも私は立ち上がれなかった。
意地なのか思い込みなのか自分でももうわからなくなっていたが、ここで先に折れてしまってはだめなんだと私の中のなにかが繰り返している。
「お仕事……行かなきゃ……」
枯れ果てた涙を拭って、私は力なく立ち上がった。
「そんなに意地を張っていて、どうなさるおつもりですか?」
突然、背後から声をかけられた。
思わず振り返ると、いつからいたのか仁美ちゃんがベンチのそばに立っていた。
「仁美ちゃん……また勝手にこっちに来て……」
私は泣きはらした目をごまかすために笑おうとしたが、顔が引きつって上手く表情を作れなかった。
「わたくしのことはどうでもいいのですわ。事情は存じませんがまどかさん、あなたは自分で自分を苦しめてらっしゃるんじゃありませんか?」
「そんな……こと……」
「いいえ。わたくしもまどかさんの親友です。親友のことなら自分のことのようにわかります。さあ、まどかさん。今すぐさやかさんのもとに行ってくださいな」
仁美ちゃんの言葉は力強く私の心を揺り動かした。さやかちゃんのところへ? 私、行っていいの?
「でも、私……お仕事に行かなきゃ……」
「お迎えのお仕事は、今日の分まで明日なさればいいでしょう。まどかさんはさやかさんのことでそんなに辛そうな顔をなさっているのでしょう?
ならば、さやかさんのもとへ行くべきです。行って、その辛さをぶつけるのです! さあ、早く!」
「でもなんで、私がさやかちゃんのことで泣いてるって……」
「申し上げたでしょう。親友のことは自分のことのようにわかると。そんな悲しそうなまどかさんは、見ていられません。
さやかさんの隣で笑っていてこそ、まどかさんのあるべき姿ではありませんこと?」
仁美ちゃんの言葉が、私の全身に染みわたっていく。私のするべきことが、はっきりと示されたような気がした。
「仁美ちゃん……ありがとう!」
私は、一目散に走りだした。
5 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/27(日) 12:57:59.53 ID:VwUHC2fB0 [3/5]
家に帰ると、さやかちゃんは私の方に背を向ける格好で自分のベッドに腰掛けて本を読んでいた。
突然家に帰ってきた私を見てさやかちゃんは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに仏頂面に戻って本に目を戻した。
私は、もうためらわなかった。さやかちゃんに駆け寄り、背後からさやかちゃんに力いっぱい抱き付いた。
ああ。さやかちゃんの体温だ。さやかちゃんの匂いだ。それらを感じ取った途端、私の心のこわばりは瞬く間に解きほぐされていった。
もう何年もさやかちゃんに触れていなかったような気がする。私は、懐かしさで胸がいっぱいになり再び泣き出していた。
「……もう口きかないんじゃなかったの?」
さやかちゃんが口を開いた。そのさやかちゃんの声すら、懐かしくて愛おしかった。
「……口きいてないもん。抱き付いてるだけだもん」
私は、先にさやかちゃんがしゃべったんだから私から口きいたことにはならないはずとまだ屁理屈をこねている自分が、なんだか無性におかしかった。
「……まどか、泣いてるの?」
前を向いたまま、さやかちゃんが言う。
「……悪い?」
私はこれだけ返すのが精いっぱいだった。
「……ごめんね、まどか」
さやかちゃんが、ぽつりと謝罪の言葉を口にした。その言葉は、私の心に満ちていた悲しみを跡形もなく洗い流してくれるようだった。
「私こそ、ごめんなさい……さびしかったよ、さやかちゃん……」
「あたしも……なんであんなこと言っちゃったのか、ずっと後悔してた……まどか!」
さやかちゃんは私の方を向くと私を抱きしめ、ベッドの上に押し倒してぎゅーっとしてくれた。今度こそ、私はさやかちゃんのもとに帰れたんだという気がした。
「まどか! まどかっ! ごめんね、ずっと無視したりつっけんどんな態度とったりして、本当にごめん!」
「ううん、私こそ……。自分で口きかないなんて言っておいて、さびしくて仕方なかったの……。さやかちゃんに構ってもらえなくて、死んじゃうかと思ったよぉ……さやかちゃあああん……」
私たちは二人とも、涙を拭いもせずに泣いていた。
「まどかぁ……まどかぁ……。ごめんね……まどかいっぱい傷ついたよね……もうこんなことしないから……絶対、しないからぁ……」
「うん……うん……私も、絶対しないよ……。ごめんね、いっつもさやかちゃんに謝らせて……」
ぎゅうっと抱きしめあって、私たちはいつまでも泣き続けていた。
*
「というわけで、無事に仲直りできたの。本当にありがとう、仁美ちゃん」
「ごめん、世話かけちゃったね。本当に感謝してる」
「いえいえ。お二人の幸せはわたくしの幸せですもの、お礼には及びませんわ。仲直りできてよかったですわね」
「うん! 仁美ちゃんのおかげだよ」
「ほんとほんと。もうあんなしんどい状況もうこりごり」
「ふふっ。ところで、ケンカの原因はなんだったんですの?」
「あっ、聞いてくれる、仁美ちゃん! さやかちゃんったらひどいんだよ! 何度言ってもわかってくれないの! 私以外の子に手を出すのはやめてって!」
「……ゑっ?」
「私がこんなに辛い思いをしてるのに、全然わかってくれないんだよ! しかも一度だけじゃなくて、前にも、その前にも、違う子に手を出して!」
「……さやかさん」
「ちょっと待った! なんかまどかの言い分だと、あたしがとっかえひっかえ浮気しまくってるみたいに聞こえるんですけど!? あたし通りすがりの道で転んだ子を助け起こしただけだよ!」
「……は?」
「そんなの、浮気も同然だよ! だってあの子、絶対さやかちゃんのこと好きになってる! もうさやかちゃんのことしか見えないって表情してたもん!」
「いや、あの子魔女だったじゃん! 表情っていうか、そもそも顔なかったじゃん! しゃべってもないし、そんな素振り全っ然なかったよ!?」
「私にはわかるの! 神様だから! それに、さやかちゃんみたいな王子様に助け起こされて好きにならない女の子なんていないよ!」
「それはさすがにあんたの惚れた欲目だよ! 恋は盲目にもほどがあるでしょ!?」
「とにかく、私のこと好きなら私を不安にさせるようなことしないで! 私だけを見ててくれなきゃやだ!」
「……バカップル及び>>1乙ですわー……」
最終更新:2011年12月04日 16:11