504 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:35:27.04 ID:6bRa5l890
さやか☆まどかの2話目がようやっと出来たのでうpります。
普段は日常の1コマ的な短編SSを、ネタを思いついた時に勢い任せで書いてた俺には、シリアス系の続き物は難しかった。
びっくりするほど筆が進まなくて、何度も泣きそうになったよ!w
イベント配分を間違えて、2話目が異様に長くなっちゃったし。書き上げた後で気が付いたけど、もう直す気力がなかったw
戦闘シーンなんて初めて書いたから、何回書き直してもしっくり来なくて、4回目の書き直しで妥協する事にした。
何か最近SSが増えてきたしクオリティ高いのが多いから、自分のを晒すのはちょっと恥ずかしいw
ついでに1話目のリンクと、1話目と平行で書いてたSSをおまけにうpります。
おまけの方は、まどかの願い事で3人復活して5人共闘の末にワルプル撃破みたいなラストを想定してその後を書いたもの。
最終回放送前にうpるつもりだったのが、間に合わなかったのでお蔵入りにしてた奴です。
この前存在を思い出して確認してみたら、だいたい7割くらい出来てたので、もったいないから続きを仕上げてうpる事に。
IFエンド物という事でご了承ください。
仕上げとそれ以前で1ヶ月以上も間が開いちゃったもんだから、文体が途中から変わった様な気がする部分があるんだけど、
おまけだから気にしないのだw
さやまどSSです。杏マミ成分も少し(マミさん死んだ後だけど)。
続き物の二話目ですのでご注意下さい。
魔法少女や魔法についてなど、独自設定が出てきますがご了承下さい。
多分あと二話。
足元も覚束ないような暗闇の中、あたしは背後にまどかをかばいながら、
必死に目を凝らしてどこかに潜んでいるはずの魔女の姿を探していた。
ふいに、ほんのかすかな風切り音と共に、何かが飛んでくるような気配を感じた。
「こっち!?」
音が聞こえた方へと剣を振る。
鋭い音を立てて剣をはじかれながらも、何とか魔女の攻撃を横に逸らした。
「ダメ、攻撃を逸らすだけで精一杯。魔女がどこにいるのかは全然分かんない!」
「わたしにも見つけられない。どうしよう、このままじゃやられちゃうよ!」
まどかの焦った声。
確かに、このままじゃジリ貧だ。何とか魔女の居場所を見つけないと、攻撃することすら出来ない。
「恐らく相手は暗闇の魔女だ。このまま闇の中で戦うのは無謀だよ」
落ち着いた声でキュゥべえがアドバイスしてくる。
相手の居場所も分からないほどの闇の中で戦うのが無謀だなんて、言われなくても分かってるっての!
魔女がどこに居るのか分からないのはこの暗闇のせいなんだから、何か明かりになる物があればいいんだけど。
何かないかな、何か明かりになる物……。ほんの一瞬でもいい、この暗闇を照らせるような物があれば……。
考えに集中しかけたあたしの耳に、先ほどと同じようなわずかな風切り音が届いた。
やばっ、反応が遅れた!
とっさに防いだものの、剣をはじき飛ばされてしまった。
この暗闇の中では、はじかれた剣がどこに飛んで行ったのかも分からない。
剣を探すのを諦めたあたしは、新しい剣を用意しようと武器を具現化する魔法を使った。
青く輝く魔力があたしの右手に収束して、さっきまで持っていたのと同じ剣が具現化する。
その様子を見ていて思いついた。
魔法を使う時の魔力の輝きで、闇を照らせるかもしれない!
一瞬いけると思って喜びかけたけど、すぐにそれじゃダメなことに気がついた。
具現化の魔法は、自分の手元にしか使えない。遠くを照らし出せないのなら、あんまり意味がない。
武器を具現化する時の魔法の光ってのは、いいアイディアだと思ったんだけどな。
ん、武器? そうだ、まどかの矢! まどかの放つ光の矢なら、この暗闇も照らせるかもしれない!
「ねぇ、まどか。まどかの矢で周りを照らせないかな?」
「わたしの矢? うん、一瞬だけなら出来るかも!」
「じゃあ、その瞬間に魔女がどこに居るのか見つけて、何とか張り付いてみる」
「分かった。さやかちゃん、行くよ!」
「オッケー、いつでもどうぞ!」
まどかの矢が上に向かって放たれる。
ピンク色に光る矢は闇を切り裂いて飛び、細かく分裂して雨のように周囲に降り注いだ。
はっきり明るいと言えるほどじゃないけど、闇が薄れてうっすらと辺りの様子が照らし出される。
すばやく周囲を見渡したあたしは、自分たちから少し離れたところに、人影のようなものが浮かび上がったのに気が付いた。
居た! あれが魔女だ!
「見つけた!」
見失わないように全速力で魔女の元へ迫る。
一気に間合いを詰めたあたしは、ダッシュの勢いを剣に乗せて魔女の身体へと斬り付けた。
硬い!?
渾身の力を込めたはずの剣が、あっさりとはじき返された。
なによこいつ、なんでこんなに硬いの?
「くっそ、硬くて攻撃がほとんど通らない!」
「言っただろう、闇の中で戦うのは無謀だよって。恐らく、この魔女は闇が深いほど力を増す特性を持っているんだ。
数メートル先も覚束ないようなこの暗闇の中では、きっと無敵に近いんじゃないかな」
後ろから聞こえるキュゥべえの声。
無謀ってそういう意味だったの!? だったらはっきりそう言ってよ!
心の中でぼやきながら、必死に魔女の攻撃を防ぐ。
間合いを詰めたおかげで、この暗闇の中でも何とか魔女の姿が見える。
どこから攻撃されるかさえ分からなかった今までと比べれば、攻撃してくる姿が見える分、防御や回避はやりやすい。
とは言っても、このまま避けてるだけでは、さっきまでとあまり変わらない。
何とかダメージを与える方法を考えないと。
さっきのダッシュ斬りはダメだったから、別の攻撃を試してみよう。
そう考えたあたしは、右手一本で持っていた剣を両手で握りなおした。
「はっ!」
正面から来た攻撃をかい潜り、気合の声と共にカウンター気味に剣を突き出した。
かすかに切っ先が食い込んだけど、どれだけ力を入れてもそれ以上は刺さらない。
「これでもダメ!? どれだけ硬いのよこいつ!」
「さやかちゃん、わたしがやってみるよ」
そっか、相手が暗闇の魔女だって言うのなら、まどかの光の矢には弱いかもしれない。
あたしは剣から左手を離すと、そこに魔力を集中して再び武器の具現化魔法を使った。
左手を中心に青い光が輝き、剣の形に収束する。
別に二本目の剣が欲しかったわけじゃない。
武器を具現化する時の魔力の光を、こちらの居場所が分からないまどかへの目印とするためだ。
「まどか、今光ったところを狙って!」
叫びながらバックステップして、自分にまどかの攻撃が当たらないように距離をとる。
その直後、空気を切り裂くような鋭い音と共に、まどかの矢が飛んできた。
矢の光で周囲の闇がぼんやりと照らされ、まどかの放った矢が魔女の身体に深々と突き刺さっているのが見える。
効いてる! やっぱり、まどかの矢なら効くんだ!
それなら、この調子でまどかに攻撃を続けてもらえば、きっとこいつを倒せる!
勝機が見えたと思ったその時、魔女の身体に突き刺さっていた矢が消え去り、先ほどまでと同じ闇が戻ってきた。
その途端、矢が突き刺さって出来た傷が、まるで時間を巻き戻すかのように塞がっていく。
あたしは予想外の出来事に、思わず目を疑った。
こいつ、闇の中ならダメージの回復まで出来るの!?
「ダメ! 効くには効いたけど、矢の光が消えて暗くなった途端に回復されちゃった!」
「そんな……。それじゃ、どうすればいいの?」
「継続的な光で照らすか、照らし出した一瞬で倒すしかないんじゃないかな?」
キュゥべえの口調は相変わらずで、大ピンチの真っ最中とは思えないほど落ち着いている。
あんまり無茶を言わないでよ!
継続的に闇を照らせるような光があれば魔女の居場所を見つけるのにあんなに苦労しなかったし、
魔女を一撃で倒せるほどの攻撃が出来るのなら、最初からやってるってば!
ん、ちょっと待って。あたしには出来ないけど、まどかならどうだろう?
あたしに出来ないからといって、まどかにも無理だとは限らない。
「まどか、こいつを一瞬で倒せるような技とかある?」
「……準備にちょっと時間がかかってもいいなら出来るかも」
「いいよ、時間稼ぎは任せて」
幸い、まどかには何か当てがあるみたいだった。
だったら、あたしがやるべきことはただ一つ。
ひたすら魔女の攻撃をしのいで、まどかのために時間を稼ぐ!
暗闇の中で微かに見える魔女の姿を睨みつける。
魔女が緩慢な動作で右手を持ち上げるのが分かった。
次の瞬間、ぞっとするほどのスピードで魔女の右手が振り下ろされる。
あたしは刹那の判断で上半身を逸らして、魔女の攻撃を何とか避けた。
ちょっと厳しいけど、防御に徹すればしのぐだけなら出来そう。
まどかの準備が出来るまでくらいなら、きっと持ちこたえられる。
そう思った時、魔女の足元に真っ黒な犬の姿をした使い魔が現れた。
使い魔をけしかけてけん制するつもり?
確かに、同時に仕掛けられたらちょっとヤバい。
油断なく魔女と使い魔の両方を見据えるあたしの前で、使い魔の身体が形を変え始めた。
瞬く間にその姿は大振りの剣へと変わり、それを手に取った魔女が素早く斬り付けてくる。
あたしはとっさに剣を斜めに突き出して、斬撃を受け流そうとした。
とんでもなく重い!
ものすごい衝撃に剣をはじかれ、受け流しきれなかった斬撃があたしの肩をわずかにかすめた。
思わずあがりそうになった悲鳴を必死に押さえ込む。
悲鳴なんかあげて、まどかの集中を乱すわけにはいかない。
痛みをこらえながら、あたしは手に持っていた剣を魔女に投げつけた。
どうせ攻撃するつもりはないんだし、まともに受け流すことすら出来ないなら、重い剣なんて持ってても邪魔なだけだ。
魔女の鋭い斬撃をフットワークだけで回避する。
ただでさえ真っ暗で視界が悪いのに、魔女が手にしているのは周囲の闇に溶け込みそうな黒い剣だ。
あたしは見えにくい剣ではなく、魔女の身体の動きに注意を払うようにして、全力で避けることに専念した。
一回攻撃を避ける度に、大きく神経をすり減らされる。
まどかの準備、まだ終わらないの?
さすがに焦りを覚え始めたその時、待ち望んでいたまどかの声が届いた。
「さやかちゃん、お待たせ!」
待ってました!
あたしはさっきと同じように、武器を具現化する魔法を発動させた。
青く光る魔力が剣を形作るのを待たずに、魔女の身体に叩きつける。
「撃って!」
叫びながら横っ飛び、地面を一回転して距離をとる。
あたしが体勢を立て直した瞬間、まどかの叫び声が高らかに響き渡った。
「ティロ・フィナーレ!!」
普段とは比べ物にならないほど強く輝く矢は、魔女の身体をあっさりと貫いた。
その直後、矢を構成していた魔力が解放され、まばゆい光が嵐のように激しく荒れ狂う。
光はあれだけ強固だった魔女の身体を、ずたずたに切り裂いていく。
やがて光が収まると、まるで最初から存在していなかったかのように、魔女の姿はあとかたもなくなっていた。
魔女が消えると同時に結界が解除されて、辺りを包み込んでいた闇が薄れていく。
あたしは唯一残っていたグリーフシードを拾い上げ、まどかに向けて微笑みかけた。
「まどか、お疲れ」
「さやかちゃんもお疲れ様」
笑顔を返すまどかの後ろに回って、背中にぎゅっと抱きつく。
「今の凄かったじゃん。なに、必殺技?」
「えへへ、マミさんがよくやってたのをちょっと真似してみたの」
「ほほー、まどかの先輩直伝の技ですか」
あたしが魔法少女になってから二週間が過ぎた。
やっつけた魔女は今日ので五匹目。使い魔も含めれば十匹以上だ。
あたしは少しずつ魔法少女生活に慣れてきたし、まどかもずいぶん立ち直ったような気がする。
少なくとも、自分から亡くなった巴さんのことを口に出せるくらいには回復した。
「今日の魔女、強かったね。だいぶ慣れてきたと思ったけど、やっぱりまだまだだわ」
「そんなことないと思うけどな。さやかちゃん、まだ二週間とは思えない戦いぶりだったと思うよ」
「僕も今までたくさんの子と契約を交わしてきたけど、こんなに早く適応した子は少なかったよ」
まどかに続いてキュゥべえまでそんなことを言い出した。
褒めてもらえるのは嬉しいけど、あたし自身は褒められるほど上手にやれているとは思っていない。
「いやほら、上手く戦えてるのはまどかと一緒だからだよ。あたしに出来ないことはまどかがフォローしてくれるからさ、
それで上手くいってるんだと思う」
「それを言ったら、わたしだってさやかちゃんに助けてもらってるよ」
「君たちは魔法少女としての特性的にも相性が抜群だからね。お互いの短所を上手く補いながら戦えているんだろうね」
自然と顔がほころんだ。
自分の戦いぶりを褒められるよりも、まどかと二人だから上手く戦えてるって認められたことの方が嬉しい。
そんなことを思っていると、あたしと同じように微笑んでいたはずのまどかが、急に取り乱したような表情を浮かべた。
「さやかちゃんの肩、血が出てる! 怪我したの?」
あぁ、言われて思い出した。さっき、魔女の攻撃がかすめたんだっけ。
もうそんなに痛みを感じないし、魔法で癒すほどの怪我じゃない。
あたしはそう思ったんだけど、まどかは違うみたいだった。
まどかがあたしの傷口にかざした手から、柔らかい光があふれ出す。
傷口は、ほんの数秒であとかたもなくきれいに塞がった。
「まどか、ありがと」
あたしがお礼を言うと、まどかはほっとしたように微笑みを浮かべた。
いいな、回復魔法。さっきの傷くらいなら何てことないけど、もっと大きい怪我をすることだってあるかもしれない。
そういう時に自分で怪我を治せれば便利だし、覚えられるものなら覚えたい。
「ね、キュゥべえ。あたしにも回復魔法って覚えられるかな?」
「覚えられるよ」
あっさりとした答え。
あっさりしすぎていて、聞いたあたしの方が驚いてしまった。
「え、ホントに?」
「回復魔法は身体能力の強化や武器の具現化と並んで、最も基本的な魔法だからね。魔法少女なら誰でも覚えられるよ」
「そうなの? 便利そうだから難しいかと思った」
「考えてもごらんよ。命懸けで魔女と戦う魔法少女にとって、怪我をするなんて日常茶飯事だ。もし回復魔法が
一握りの子にしか使えなかったら、ほとんどの子は大きな怪我をする度に入院しないといけなくなるだろう?」
言われてみれば、確かにその通りだ。
もし回復魔法がなかったら、今日みたいな小さい傷ならともかく、大きな怪我を負ったらしばらく戦えなくなっちゃう。
そんなことになれば、怪我が治るまでの間に、魔女はいったい何人の犠牲者を出すだろう。
考えただけでもぞっとする。
「なるほどね。じゃあ、まどかにやり方を教えてもらおうっと」
「まどかに回復魔法を教わるなら、一緒に防御結界の張り方も教えてもらったらどうだい? さやかの能力的に、
あまり使い道はないかもしれないけどね」
「防御結界か、そういう魔法もあるんだ。せっかくだから、ついでに教えてもらおうかな。
でも、そんなに簡単に覚えられるものなの?」
「どっちも基礎魔法だからね、それほどの苦労はしないはずだよ。
ただし、回復魔法で他の子の怪我を治すのには少しコツがいるかな」
自分の怪我を治す方が簡単なのか。でも、せっかく回復魔法を覚えるんだったら、
まどかが怪我した時に治してあげられるようにしたいな。
そう思った時、力なく微笑む恭介の顔があたしの脳裏をよぎった。
コツを覚えれば、他人の怪我を治すことも出来るんだよね。だったら……。
「ねぇ、普通の人の怪我を回復魔法で治すことって出来る?」
「普通の人? 不可能とは言わないけれど、あまり現実的ではないね」
「どういうこと?」
「君たちの身体は魔法を使いやすくするために、魔力に馴染みやすいように調整されているんだ。
だから、怪我を負っても少ない魔力で効率的に傷を癒すことが出来る」
そんなこと初めて聞いた。でも、そういう調整がされてても不思議じゃないかもしれない。
魔法少女になったばかりでも基本的な魔法は使えたし、ある程度は戦えたもんね。
「そういった調整がされていない普通の人間に回復魔法をかける場合、その効果はずっと小さくなる。
もちろん、まったく効かなくなるわけじゃないけどね」
効果がずっと小さくなるって、大きな怪我は治せないってこと?
それじゃ、あんまり意味がない。
「効果が小さくなった回復魔法でも癒せる程度の傷なら、魔法なんか使わなくても自然治癒に任せればいい。
もしも現在の医学では完治が困難なほどの大怪我だったら、回復魔法で癒すためには膨大な魔力が必要となるだろうね。
今のさやかでは、グリーフシードをたくさん用意しないと間に合わないと思うよ」
膨大な魔力、たくさんのグリーフシード。
どっちも、魔法少女になったばかりのあたしでは手が届かないものだ。
「ね、現実的じゃないだろう?」
「……そうだね」
あたしは小さくため息をついた。
回復魔法を覚えても、恭介の怪我を治してあげるのは難しいか。
すぐに手を治してあげられれば、きっと喜んでくれると思ったんだけどな。
まぁ、恭介の手は治らないと決まったわけじゃない。
グリーフシードだって、もっと効率よく戦えるようになれば、たくさん集められるかもしれない。
今は無理でも、きっと時間が解決してくれる。
あたしはそんな風に考えて、自分を納得させることにした。
「さて、じゃあ今日はもう帰ろ。明日も学校だよ?」
「うへぇ。まどか、イヤなこと思い出させないでよ」
「あはは、魔法少女は辛いね」
そう、魔法少女は辛いのだ。
学校が終わった後、魔女や使い魔を探して町中を歩き回り、見つけることが出来たら戦闘開始。
結界内に入り込んで、押し寄せる敵をなぎ倒してひたすらに突き進む。
やっと奥までたどり着いたら、グロい魔女を死闘の末やっつける。
かなりの大仕事だ。しかも魔女探しは毎日だよ? 愚痴もこぼれるってもんだよ。
まぁ、願い事も叶えてもらったし、こうやって戦うことで魔女の犠牲になる人たちを減らせるんだから、
文句はないんだけどね。
そう、文句なんてあるわけない。
何も出来ない、何のとりえもないと思ってたあたしが、剣を振るう事で人を助けることが出来るんだから。
誰かの役に立てることがすごく嬉しい。魔法少女になってからは、毎日が充実感に満ちている。
魔法少女さやかちゃんは、世のため人のために人知れず頑張るのだ!
なーんてね。
魔法少女さやか☆まどか
第二話「あたしがここに居る理由」
「恭介、こんにちは!」
「やぁ、さやか。今日も来てくれたんだ」
放課後、あたしは恭介のお見舞いに来ていた。
いつもなら恭介が喜んでくれそうなCDを持ってくるんだけど、今日のあたしは手ぶらだった。
今までだったら、CDを探す時間なんていっぱいあったんだけどな。
最近のあたしは魔法少女としての活動が忙しくて、CDを探す時間を作るのも難しくなっていた。
「恭介、ごめんね。今日はちょっと、良さそうなCDが見つからなくってさ」
「かまわないよ。さやかが探してきてくれたCDはまだたくさんあるからね。聞くCDには困らないよ」
「あはは、それならいいんだけど」
ベッドの脇に椅子を引き寄せる。
腰を下ろしながら恭介の様子を窺うと、今日はずいぶんと落ち着いているみたいだった。
日によっては、リハビリが思うように進まなくて落ち込んでいたり、
本当に治るのかという不安からだろうか、涙を見せることもある。
そんな時は、あまり長居をしないようにしている。
恭介は、あたしにそういう弱いところを見せたくないみたいだったから。
「学校の方はどう? 何か変わったことでもあった?」
「えーと、早乙女先生が彼氏にフラれた」
とっさに思い浮かんだ話題は、今朝のホームルームでの出来事についてだった。
先生ごめんなさいと、心の中で一言だけ謝る。
「また? 僕が入院してから何度目だっけ」
「三度目、かな? 先生、男運ないのかなぁ。目玉焼きの焼き加減がどうとか言ってたよ」
「目玉焼きがきっかけなの? それは酷いなぁ。さやかはそういう相手に引っかからないようにね」
「あ、あたしは大丈夫だよ!」
……恭介のバカ。
いくら幼馴染だからって、何とも思ってない相手のところに、こんなに頻繁にお見舞いに来るわけないのに。
そういうの、分かんないんだろうなぁ。ホント鈍感なんだから。
そうして、あたしは恭介に日々の他愛もない出来事について話した。
学校での出来事、恭介の友達の様子について、あたしの身の回りの話。
ホントに何でもない話題だけど、こんな会話でも恭介の気を紛らわせてくれると信じて。
二十分ほど話したところで、あたしは椅子から立ち上がった。
名残惜しいけど、そろそろ魔女退治に行かないといけないからだ。
「ごめん恭介。あたしそろそろ帰らなきゃ。この後、ちょっと用事があるんだ」
「あ、うん。分かった。さやか、用事がある時は無理して顔を出してくれなくてもいいよ」
その言葉を聞いて、思わずドキリとした。
あたしは少しでも恭介を元気付けてあげたくてお見舞いに来てるけど、
恭介がそれを喜んでくれているのかは分からなかったから。
「無理なんてしてないって。あたし、恭介に何もしてあげられないからさ。
せめてお見舞いくらいは行かないとって思ってるだけだよ」
少し迷ったけど、もう一言付け加える。
「……それとも、ひょっとして迷惑だった?」
「そんなことないよ。いつも明るくて元気で、悩みなんてなさそうなさやかを見てると、
落ち込んでる自分がバカみたいに思えて元気が出てくるんだ」
「何よそれ! それじゃ、あたしがバカみたいじゃん!」
「ご、ごめん、言い方が悪かった。ヘンな意味じゃなくて、いつもポジティブなさやかは凄いなってことだよ」
「ホントにぃ? まぁ、喜んでもらえてたならいいや。それじゃ、また来るね」
あたしは恭介に軽く手を振ってから病室を後にした。
まどかとは下の待合室で待ち合わせをしている。ひょっとしたら、もう来てるかもしれない。
あたしは急いで待ち合わせ場所へ向かおうと、ちょうどドアが開いていたエレベーターに駆け込んだ。
ガラス越しに見滝原町の風景が飛び込んでくる。
一見すると平和な町並みだけど、今もこの町のどこかで魔女が人を襲っているかもしれない。
そう思うと、一人でもたくさんの人を守りたいという気持ちが湧いてくる。
今日も頑張らなきゃ!
心の中で気合を入れたところで、エレベーターが一階に到着した。
エレベーターから降りると、あたしの姿を見つけたまどかが笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「さやかちゃん」
「まどか、お待たせ。待った?」
「ううん。今来たところだよ」
病院を待ち合わせ場所にしているのには、ちゃんと理由がある。
精神的・肉体的に弱っている人たちが多い病院が魔女に狙われると、他の場所とは比べ物にならないくらい大きな被害が出る。
言ってみれば、一番チェックしなければならない最重要地点だ。
その最重要地点から魔女探しを始めることによって、万が一にもチェックし忘れるようなことがないようにしてるわけ。
魔女探しは毎日やるものだから、巡回ルートを固定しちゃう方が分かりやすいし、チェックミスも減って好都合なんだ。
別に、あたしが恭介のお見舞いに行くのに便利だからってわけじゃない。
いやまぁ、そういう面がまったくないとは言わないけどさ。
病院からまずは歓楽街へと向かう。
魔女の呪いの影響で多いのは交通事故と傷害事件、そして自殺だ。
こういう交通量が多い道路はしっかりとチェックしなくちゃならない。
ソウルジェムの反応を常に確認しながら、ゆっくりと歩いていく。
せっかちなあたしにとって、こういう地道なやり方はじれったさを感じてしまう。
いつも、もう少し手っ取り早い魔女の探し方があればいいのにと思う。
マンガみたいに「あっちに魔女の気配!」って察知できれば簡単なんだけどな。
「ね、キュゥべえ。魔女の気配を察知する魔法ってないの?」
「僕の知る限りではないね。何なら、そういう魔法が実現可能か研究してみたらどうだい?」
「研究って言われてもなぁ。あたしは魔力の細かい制御は苦手だし」
「わたしもマミさんに聞いたことあるよ。『そういう便利な魔法があればいいんだけどね』って言われちゃった」
「そうそう楽は出来ないか」
こうして雑談しながら歩いていくと、つくづく、一人じゃなくて良かったなと思う。
あたしはまどかと二人だから、地道な魔女探しも気を紛らわせながら続けることが出来る。
こういう地味な作業を毎日繰り返すのは、とても大変なことだ。
魔女は探せば必ず見つかるわけじゃないし、魔女をやっつけても、人助けにはなっても誰かに褒めてもらえるわけじゃない。
まどかが魔法少女になるまで、たった一人でこの町を守ってきた巴マミという人は、とても強くて優しい人だったんだと思う。
出来れば会ってみたかったな。
まどかから巴さんの話を聞く度に、あたしは強くそう思った。
今さら言ってもしょうがない事だけど。
もしあたしがもっと早く契約していれば、三人で戦っていれば、巴さんを死なせずに済んだかもしれない。
そう思うと、少しだけ悔しかった。
まぁ、魔法少女になれば命懸けで戦う必要があるわけだし、まどかがあたしを巻き込みたくないと思って
黙っていたのも分かるんだけどね。
「さやかちゃん、ジェムが反応した!」
「ん、近いね。行こう!」
ジェムが指し示す魔力の気配を追いかけてあたしたちがたどり着いたのは、薄汚れた廃ビルだった。
使われなくなってずいぶん経つのか、ビルはかなり荒れ果てている。
「夜中に来たら幽霊でも出そうなビルだね」
「や、やめてよさやかちゃん」
「あはは。魔女をやっつける魔法少女が、幽霊怖がってどうするのさ」
「そんなこと言ったって、怖いものは怖いよ」
「大丈夫だって。もし幽霊が出てきたとしたら、あたしがやっつけてやるからさ」
あたしはビクビクしながら辺りを見渡すまどかの手を握ると、引っ張るようにして歩き始めた。
暗いビルの中に踏み入り、足元に散らばるガラスの破片やゴミに気をつけながら、結界の入り口を探す。
奥の部屋に目指す結界の入り口を見つけたあたしたちは、ためらうことなく結界の中へと入り込んだ。
「ずいぶん不安定な結界だね。使い魔かな?」
「使い魔かぁ。さくっとやっつけて巡回に戻ろうか」
使い魔と言っても、人を殺す存在であるという意味では魔女と変わらない。
断じて放っておくわけにはいかなかった。
慎重に周囲を警戒しながら進むあたしたちの頭上に、落描きのような姿をした使い魔が現れた。
子どものようなはしゃぎ声を上げながら、辺りを飛び回っている。
「わたしがやるね」
まどかが弓を引き絞る。
弓にあしらわれたつぼみが、注ぎ込まれた魔力に呼応して鮮やかな花を咲かせた。
放たれた矢は使い魔に鋭く迫り――突然現れた槍に斬って落とされた。
「えっ!?」
どこかに、別の奴が潜んでる!?
あたしは戸惑いの声を上げるまどかをとっさに背中にかばった。
周囲を警戒して注意がそれた隙に、使い魔が慌てたようにその場から逃げ出してしまった。
「悪い悪い。正義の味方ごっこを楽しんでるところに、水を差しちゃったね」
突然そんな声が聞こえてきた。
聞こえてきた方に目を向けると、赤い服を着た魔法少女とおぼしき子が肩に槍を担いでいる。
そいつは薄い笑みを浮かべながらこう告げた。
「あたしは佐倉杏子。マミとは昔、肩を並べて戦ったこともある仲でね。あいつが死んだって聞いてやってきたのさ」
この杏子って奴、笑みを浮かべてるように見えるけど、目が笑ってない。
どこか冷めた目線で、あたしたちを見据えている。
「あんたなんでしょ? マミとコンビを組んでた魔法少女ってのは。聞かせてくれないかな、なんであいつが死んだのか」
違う……。こいつが見ているのは"あたしたち"じゃない、まどか一人だ。
たぶんこいつの視界には、あたしは映ってすらいない。
「あたしはね、あいつの考え方は気に入らないけど、強さの方は認めてた。
あたしには、あの巴マミがそう簡単に死ぬとは思えない」
言葉を続けながら、悠然とした足取りで歩み寄ってくる。
「とは言っても、相手はあのワルプルギスの夜だったんだ。
さすがのマミでも、力及ばず死んじまっても不思議はないかもしれない」
杏子はそれまで浮かべていた笑みを消して、肩に担いでいた槍を下ろして石突きで地面を叩いた。
「でもね! ベテランのマミが死んだのに、ヒヨッコのあんたが生きてるのはどういうわけだい?」
「わ、わたしは……」
明らかな敵意を向けられたまどかが、ひるんだように一歩後ずさる。
そんなまどかの様子を見た杏子は、さっきまで浮かべていたのと同じような笑みを見せた。
「勘違いしないで欲しいんだけどね。あたしは別に、あんたがマミを見殺しにして生き残ったんだとしても、
そのことを責めるつもりはないよ」
そこまで言ったところで杏子は再び笑みを消して、鋭い視線でまどかを睨みつけた。
「でもね、マミを見殺しにしたあんたが、マミと同じやり方をしてるってのは気に入らないね。
あいつのやり方に憧れを抱くのなら、どうしてあいつが死ぬようなことを許したんだい?
自分の相方は見殺しにしたくせに、使い魔倒して正義の味方ごっこかい?」
「……」
まどかは何も言わない。ううん、何も言えない。
巴さんを死なせてしまったことについて、まどかはずっと自分を責めてきた。
一人生き残ってしまった自分を責め続けながらも、魔法少女として魔女を倒すことで罪を償おうとしてきた。
そうしていくうちに、自分を責めるよりもこの町を守るという巴さんの遺志を継ぐことを考えて、
罪の意識を振り切ってきたんだと思う。
それなのに、こいつに責められることで、振り切ったはずの罪悪感がよみがえってしまったのかもしれない。
「黙ってちゃわかんないだろ。はっきりしろよ!」
まどかの顔がみるみる青ざめていく。
あの時命を捨ててまでこの町を守ったまどかが、戦いもしなかった奴に責められて、罪悪感にさいなまれている。
そのことに、強い憤りを覚えた。
なんでこんな奴に、まどかが責められなくちゃならないんだ。
あの場に居なかったこいつに、まどかを責める資格なんてない。
もし、まどかを責めていい人が居るとしたら、それはまどかと一緒に戦った巴さんだけだ。
そして、巴さんはきっと、まどかを責めたりなんかしない。
あたしは巴さんとは一度も会ったことはないけど、それだけは断言できる。
「やめろよ! まどかは巴さんを死なせちゃったことを、今でも悔やんでるんだ!」
あたしは二人の間に割って入り、まどかを背中にかばいながら杏子をにらみつけた。
まどかをかばったことで、杏子の目が初めてあたしに向けられた。
「あんたの話なんか聞いてない。あたしはそっちの奴に聞いてるんだ。関係ない奴はすっこんでな!」
杏子はそう言うと同時に槍を振るった。
下段から払うように迫る槍を剣で受け止めようとした瞬間、柄の部分がバラバラに分離してあたしの視界いっぱいに広がった。
思わず唖然としたあたしに、上下左右からバラバラになった槍の柄が襲い掛かる。
「うわぁっ!」
反応することすら出来ずに、あたしは大きく吹き飛ばされた。
「さやかちゃん!」
まどかの悲鳴を聞いて何とか立ち上がったあたしに、杏子がチラリと視線を向けた。
その瞬間、自分が叩き斬られたようなイメージが頭の中に湧き上がった。
一瞬遅れて、ゾクリとした悪寒が体中を駆け巡る。
ひょっとしてこれ……、殺気って奴?
ガクガクと足が震えだしたあたしから、杏子はあっさりと視線を外した。
その視線の先に居るのは――まどか。
ちょっと待って。あんた、話を聞きに来たんじゃなかったの?
話を聞きに来たのに、どうして殺気を込めてまどかをにらみつける必要があるのさ。
そんなに殺気立ってまどかをどうするつもりなのよ。
まさか、まどかを……まどかを、殺そうとしてるの?
頭の中に、傷だらけになって横たわったまどかの姿が思い浮かんだ。
一番大切な友達が、自分の知らないところで命を落としたことを知って。
どうしようもない絶望感に泣き喚いて。
たった一度の奇跡によって取り戻した。
そう、取り戻したんだ。
それなのに、こいつはまどかを殺そうとしている。
あたしから、まどかを取り上げようとしている。
そんなの、絶対に許せない!
あたしは、杏子がまどかへ向ける視線を遮るように立ちふさがった。
真っ向から殺気を浴びるけど、今度は震えない。まどかを失うことに比べたら、こんなの全然怖くない。
「あんたなんかに用はないって言ってんだろ。怪我しないうちにどきな」
「まどか、下がってて」
杏子へと視線を向けたまま、後ろに居るまどかに声をかけた。
さらに、まどかを守るために自分の後ろに防御結界を張る。
これで、あたしを無視してまどかを攻撃することは出来ない。
前に出て戦うのが仕事のあたしには、防御結界の魔法なんて使う機会はないと思ってたけど、覚えておいてよかった。
「さやかちゃん、待って!」
「まどか、あたしがここに居る理由、忘れちゃった? まどかを守るためだよ!
まどかを傷つける奴は、あたしが絶対許さない!」
あたしの言葉を聞いた杏子が、あざけるように笑みを浮かべた。
「魔法少女になったばかりのヒヨッコが、でかいクチを叩いてんじゃないよ!」
杏子があたしに向かって槍を振るう。
さっきと同じように、バラバラに分離した槍の柄があたしの視界いっぱいに広がった。
「ナメんな!」
両手に持った剣で、力任せに叩き斬った。
剣で断ち斬られた杏子の槍が、本当の意味でバラバラになってあたしの周りに転がり落ちる。
杏子は一瞬驚いた顔をして、それから、面白いものを見つけたとばかりに口元を歪めた。
面白いものなんてあるもんか。あいつが武器を失った今がチャンスだ。
懐に飛び込んで、剣のみねを打ち込んでやる。
全速力で間合いをつめて剣を振り上げたその時、あたしは杏子がまだ笑っているのに気がついた。
ギクリ、と嫌な予感が湧き上がる。このまま攻撃するのはヤバい!?
迷いが生まれた瞬間、杏子の口が動いたのが分かった。
「ナメんな」
杏子の胸元に飾られた真っ赤なソウルジェムから、あたし目がけて新しい槍が飛び出してきた。
予想外すぎて、まったく反応できない。
槍は愕然とするあたしの右肩をあっさりと貫いた。
「うああああっ!!」
肩を貫かれた衝撃でバランスを崩したあたしは、後ろに吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
身体中に激痛が走り抜け、あまりの痛みに意識が遠のいていく。
右手から力が抜けて、握っていた剣がこぼれ落ちた。
「さやかちゃん!?」
まどかの叫び声で、混濁しかけた意識がはっきりした。
この……くらいで、
「負けるもんか!」
右肩に突き刺さったままの槍を、左手で無理やり引き抜いた。
傷口からどくどくと血が流れ出して、ズキンズキンと激痛が響く。
あたしは痛みをこらえながら魔力を集中、覚えたばかりの回復魔法を発動させた。
足元に魔法陣が現れ、青い光があたしの身体を包み込む。
肩の傷は、ほんの一瞬で嘘のように塞がった。
「さやかちゃん、一人で無理しないで! わたしが」
「大丈夫! あたしは大丈夫だから、まどかは下がってて!」
まどかの言葉を無理やり遮った。
こいつは魔女じゃない、あたしたちと同じ魔法少女だ。
まどかが同じ魔法少女を攻撃出来るとは思わないし、仮に出来たとしても、後できっと傷つくと思う。
あたしはまどかにそんなことをさせたくない。だから、ここはあたしが戦うべきだ。
拾い上げた剣を構え、一直線に距離を詰める。
間合いに踏み込んだ瞬間、剣を横薙ぎに振り抜いた。
あっさりと斬撃を受け流した杏子が、あたしの背後に回りこむように距離を取ろうとする。
とっさに後を追いかけようと振り向いた先に、槍の穂先が襲い掛かってきた。
強引に身体をひねるが避けきれない。刃がわき腹を掠め、灼熱感が走る。
痛みをこらえながら、無理に避けようとしたせいで崩れた体勢を立て直した時、
杏子は既に間合いから離れたところで悠然と槍を構えていた。
あたしは地面を全力で蹴り、さっきと同じように真正面から距離を詰めた。
杏子が槍を振るって迎撃してくる。
剣で払いのけようと思った瞬間、またしても槍の柄の部分が分離した。
バラバラに分離した柄による、多方向からの同時攻撃。
惑わされるな、こいつの槍は構造的に意外ともろい。さっきみたいに叩き壊してやればいい。
剣を振り上げたその時、分離したはずの柄が戻り、元の槍の形を取り戻した。
呆気に取られたあたしに、槍が袈裟懸けに振り下ろされる。
全力で剣を振り下ろそうとしていたあたしには、避けることも防ぐことも出来なかった。
「あああああっ!」
斬撃をまともに食らったあたしは大きく吹き飛ばされ、周囲に鮮血が飛び散った。
「さやかちゃん!?」
あたしはまどかに悲鳴を上げさせてしまったことを悔やみながら、剣を支えにしてかろうじて立ち上がった。
痛みに耐えながら、何とか意識を集中して回復魔法を使う。
傷は瞬く間に塞がったけど、身体がずっしりと重たく感じられた。
覚えたばかりでまだ使い慣れていない魔法を、立て続けに使ったことによる疲労のせいだ。
あたしは何度も攻撃を受けていて、魔法を繰り返して使ったことによる魔力の消耗も激しい。
あいつの方は一度も攻撃を食らってないし、魔法も武器の具現化を二回行っただけ。
悔しいけど、力の差は明らかだった。
「ちょっとさ、いい加減にしてくれない? 何度も言ってるけど、こっちはあんたなんかに用はないんだ。
勝ち目なんかないってまだ分からない? 邪魔しないで大人しくすっこんでなよ」
呆れたような口調で告げる杏子。
杏子は構えを解いて、懐から取り出したお菓子をパクつきはじめた。
杏子のそんな様子に、強い嫌悪感を覚えた。
こいつには、自分の知らないところでまどかに死なれてしまったあたしの気持ちも、
そばに居たのに巴さんを守れなかったまどかの気持ちも分からないんだ。
負けたくない。そんな奴なんかに、絶対負けたくない。
「うるさい、勝ち目なんか関係ない。あたしはどんな時でも、どんな奴が相手でも、絶対にまどかを守るって決めたんだ!
大切な人が苦しんでるのに何も出来ない無力感も、大切な人を死なせてしまった罪悪感も分からない、
そんな奴なんかに絶対負けるもんか!」
あたしの言葉を聞いた杏子の顔から、呆れの色が消えた。
代わりに浮かび上がったのは、ひどく苦しげな表情。
杏子はすぐにその表情を消したけど、見間違えではないと思う。
まるで何かを強く後悔しているようなその顔は、自分を責めていた時のまどかのように見えた。
何よこいつ……。何でそんな顔するのよ。
「やめた」
杏子はそう言うと同時に、右手に持っていた槍を消した。それどころか、変身まで解除してしまう。
「徹底的にぶちのめしてやってもいいんだけどね、あたしは魔法の無駄使いはしない主義なんだ。
今日のところは見逃してやるから、少し頭を冷やすんだね」
杏子はそれだけ言ってから、あたしに背を向けてすたすたと歩き去っていった。
戦う相手が去ったことで緊張の糸が切れたのか、意識が少しずつ薄れていく。
かすれていく視界の中に、まどかが泣きながら駆け寄ってくるのが見えた。
あぁ、もう、失敗した……。まどかを泣かせたくないから頑張ったはずだったのに、結局泣かせちゃった……。
あたしって……、ホント馬鹿……。
次回予告
魔法少女になって誰かを救うようになって、あたしは強くなれたんだと思ってた。
でも、そんなのはあたしの勝手な思い込みで、あたしは弱い美樹さやかのままだった。
魔法少女さやか☆まどか
第三話「あたしには奇跡なんて起こせない」
最終更新:2011年08月15日 21:35