まどさや仁美の三部構成のお話です。
ただ"とある理由"により前編は仁美が殆ど登場しません。
また、前編は本編と被る場所が多いのでサクサク進めてます。
ついでに某アニメのパロっぽい武装とかあります。理由は続きにて。
暁美ほむらは再び時間軸を超えこの世界へ現れた。今度こそ望んだ未来を手にする為に。
刻は静かに動き出す…ほむらの内に秘めた誓いと、未だ見ぬ存在の思惑を乗せて。
[Gate of Magia]―前編―
○命を繋ぐ者
「おーい転校生、一緒に帰ろう!」
「さやかちゃん、暁美さんだよ。」
「…ほむらでいいわ。」
暁美ほむらはかつて無い程自分に対し友好を求める美樹さやかに驚いていた。
彼女は従来であれば、自分が鹿目まどかに固執する事に対して敵意を向ける傾向にある筈なのだが。
いつしかまどか、ほむら、さやかの三人で帰路に着く様になっていた。
ほむらとしては護衛対象を増やすつもりは無かったが、さやかの契約阻止は望むべき事項だった。
数日後、巴マミによる魔法少女体験ツアーは統計通り行われていた。
まどかとさやかの携行を忠告したが二人は一向に聞き入れない。
「マミさん、ほむらちゃんとは仲良くできないのかな?」
「本人にその気が無いなら無理ね。」
「そうですか…。」
「くっ…こんな事してる場合じゃ…!」
「大人しくしててくれないかしら。この子達は私が守るわ。」
制止を試みたほむらは巴マミの魔法によって捕縛されていた。
この戦闘においてマミの死亡確率はかなり高い…
ほむらにとっては彼女も貴重な戦力として失いたくはない存在であった。
「―――…!?」
自分を拘束していたリボンが突如として解けた。
巴マミの死亡による魔力の消滅…一瞬それが頭を過ぎったが、リボンは明らかに切断されていた。
供給の途絶ではなく外部からの干渉…しかしほむらには推量する暇など無い。
一刻も早く巴マミの元へ向かわなければ。
「マミさん!しっかりしてください!」
「マミさん…死んじゃやだよ…」
結果として巴マミの救助には成功したが、彼女は重症を負ってしまった。
数日間魔法少女として行動するのは不可能であろう。
「ソウルジェムは無事よ、命に別状は無いわ。ただ、すぐに病院で手当をさせた方が懸命ね。」
マミを病院へ送り届けた後、まどかとさやかからは何度も礼を言われた。
それでもほむらは気にも留めず受け流す。己の信念を貫く為に。
○甲冑の魔法少女
「僕の左腕はもう動かない…現代の医学では直らないんだ…。」
「奇跡も!魔法も!あるんだよ!」
さやかは上条恭介のお見舞いに、ここ数日毎日の様に病院へ出入りしていた。
その度ほむらは契約しない様忠告を繰り返すが、さやかはむしろ共に戦えるなら悪くないと言い出す。
しかしほむらにとっては魔法少女としての美樹さやかは障害にしかならない。
「(美樹さやかは必ず魔女を産む。それは私の戦力を削ぐ結果にしかならないわ。)」
軈てまどかが魔女の結界に巻き込まれ、それを救うべく魔法少女となったさやかが駆け付ける。
ほむらの考えなど知る由もなく、二人は無事に生還できた事を喜んでいた。
「美樹さやか…契約してしまったのね。」
魔女の結界から抜け出したさやかとまどかを待っていたのは冷淡な表情を続けるほむらだった。
結局さやかが魔法少女になるのを阻止する事は叶わなかったのだ。
しかし、ほむらにはそれ以上に気掛かりな点があった。美樹さやかの衣装が彼女の記憶とは違うのだ。
マントにスカートとという基本的なシルエットは同じだが、肩や二の腕は露出しておらず、
上半身は細身の青い光沢の甲冑に包まれている。スカートにもビスが入り、布の様な滑らかさは感じられない。
その他にも両腕の篭手、ブーツに近い形状の具足、腰に携えた巨大な鞘…相違点を挙げればキリが無い。
今の美樹さやかは魔法少女というよりは少女騎士とでも形容すべき出で立ちであった。
「マミが手負いだって聞いて来てみりゃ…アイツがルーキーか。邪魔になるなら…ブッ潰すだけだ。」
病院の屋上では上条恭介の復帰に伴うヴァイリンが奏でられていた。
それはさやかと一緒にお見舞いに来たまどか、たった二人の観客の為ものだ。
病院から出るさやかとまどかの前に現れたのは、隣町から訪れた魔法少女、佐倉杏子だった。
「さっきのやり取り、全部見てたよ。
あの男の為に契約したんだろ? 迷う事なんて無いさ、貰っちまいなよ。」
「………。笑いたいなら好きにすれば。」
しかしさやかが怒りに任せて取り合う事は無かった。
「まどか、美樹さやかから離れなさい。貴女は魔法少女に関わるべきではないわ。」
「…っ!? 何だよテメェ! いつの間に…」
突然割って入ったのは暁美ほむら。
彼女特有の時間制御により瞬時に介入したのだろう。
「待ってよほむら! あたしはまどかを守りたい。あんただってそうじゃん?
だったら二人で一緒にまどかを守ろうよ。」
「一緒にだと? オイ新入り、アンタグリーフシードの価値理解って言ってんのか?
魔法少女の命に関わる物だよ!他人の為にそんな大事な物を譲り合うなんて馬鹿な話があるか!」
「なんでそうなるかな〜…。できればあんたとも仲良くしたいんだけどなぁ…。」
「さやかちゃん…。」
困惑した様子でさやかは嘆く。杏子の否定に対しては怒りより呆れが先行したらしい。
一方相対する二人の魔法少女に脅えた様子で、まどかはさやかの影に隠れながら事の成り行きを見守っていた。
「貴女…今美樹さやかと話しているのは私よ。邪魔をしないで貰えるかしら。」
「割り込んで来たのはアンタじゃねーか。
アタシはただ、仲良くとか甘った事言ってるトーシローが許せないだけだよ。」
「…そうね。なら、1分待つからお好きにどうぞ。」
暗に"先に喧嘩を売る権利"を譲渡しようと言うほむら。
その様子に仕方無くさやかは応じる事にした。
「さやかちゃん…喧嘩は駄目だよ…。」
「あたしもあんまし乗り気じゃないんだけど…ここは仕方ないね。」
「ケッ!そこの金魚のフンにも魔法少女ってモンの現実を見せてやるよ!」
○不可視の決意
裏路地に対峙する二人。杏子の後方にはほむらが、さやかの後方にはまどか。
槍を構える杏子を見てさやかも巨大な鞘から武器を抜き出すが…
「はぁっ!」
(ヒュン―――ガキィン!!)
「何っ…! (得物が見えねぇだと!? どう言う事だおい…!)」
金属音を立て何度もぶつかり合う二人の武器。
しかしさやかの手は傍目には透明な空間を握っている様にしか見えない。
周囲には魔力が風の様に薄く蠢き、それが武器の存在をはっきりと認知させている。
杏子の槍には確かに何かが激突しているのだが、不可視の武器に間合いを取れず杏子は手を焼いていた。
「チッ…! 得物の長さが理解らないってんなら―――コイツを喰らいな!」
杏子の持つ長槍は鎖で連結された複数の節に別れ、さやかを捕らえようと螺旋状に広がった。
それに反応したさやかは一歩踏み出し…
(キン!キン!ギィン!)
斬り、薙ぎ、返し…繰り出された三度の閃光は、的確に鎖の箇所を打ち抜いていた。
さやかの持つ不可視の得物が剣であると確信したその瞬間、杏子のそれは一瞬でバラバラになった。
「―――う…嘘だろオイ…!?」
「はぁぁぁぁっ!!」
丸腰の杏子に、一気に攻め込んださやかを阻止する手立ては無い。
さやかは渾身の力を込め、剣ではなく篭手を填めた拳で杏子の鳩尾(みぞおち)を殴打した。
「ぐふ―――…っ!?」
杏子は背後の壁に叩き付けられていた。素手で殴られた為、かろうじて殺傷力は無い。
その結果に驚いていたのは杏子ではなく居合わせたほむらだった。
「(佐倉杏子が…負けた…!?)」
「もう…こんな無駄な争いはしたくないんだけどね…。行こう、まどか。」
「さやかちゃん…。」
ビルの屋上でインキュベーターを呼び付けるほむら。
彼女は限界を迎えたグリーフシードを相手に放りながら問い詰めていた。
「素人である筈の美樹さやかがベテランの佐倉杏子を退けた。
美樹さやかには魔法少女としての才能が十分にあったと言う事なの?」
「それを僕に聞かれても困るよ。僕はさやかと契約した覚えは無いんだから。」
「―――!?」
「君だってそうだろう? 時間朔行者暁美ほむら。」
○万全の策
暁美ほむらは自らの統計と現実の差異を推測していた。
巴マミから受けた拘束が解かれ、彼女を救えたのは事前に契約していた美樹さやかではないのか?
だがそれは否。例えさやかがあの時点で契約していたとしても、離れた空間に干渉する能力は無い。
「アタシと手を組むだと? だがアンタの手の内が理解らないんじゃね…。」
「いいわ。貴女にも見せてあげる。」
ほむらが杏子をあっさりと自宅に招き入れたのはイレギュラーを警戒するが故である。
この時間軸は何か違う。学校襲撃の時と同じ様に、誰かの手の中で踊らされる訳には行かないのだ。
その為に脅威となる存在には確実に手を打ち、戦力は確実に確保する必要があった。
白い魔法少女と黒い魔法少女の様な脅威、その記憶はまだほむらの中に深く刻まれていたから。
「マミ!? なんでアンタがここに…。」
「久しぶりね、佐倉さん。貴女も暁美さんに誘われたのね。」
ほむらの自宅には既に先客の巴マミが居た。怪我から数日、病状も回復した模様だ。
ほむらは映像を交え、今まで自分が体験した事を杏子とマミに話す。
時間を幾度と無く朔行した事、魔法少女とソウルジェムの関係。
最終的に鹿目まどかに待つ結末と、彼女と街を救う手段を…。
「では、美樹さんを戦力として考えるのは難しいのね?」
「ええ。美樹さやかは、私の知るどの時間軸の彼女よりも優秀だわ。
でも彼女の性格とその願いが致命的。むしろ魔女となった場合の脅威が大き過ぎるわ。」
「じゃぁ殺しちまうのかよ? 一緒に居る鹿目まどかが魔法少女に関わるのもマズいんだろ…?」
「殺すとは言わないけど、とにかくまどかと美樹さやかを離さなければ取り返しの付かない事になる。」
「可愛そうだけど…暫くの間、美樹さんには鹿目さんと離れてもらうしかないわね。」
ほむらの目的、まずは鹿目まどかを美樹さやかから遠ざけ、魔法少女になるのを防ぐ事。
これは最悪の魔女の誕生を防ぐ為でもある。
そして美樹さやかの監視。彼女がワルプルギスの夜まで戦力となるなら良し、
もし途中で魔女になる様であれば変質する前のソウルジェムを破壊する。
美樹さやかの契約を阻止できなかった以上、これがほむらに取れる最善の策であった。
○姫と女騎士と…
「できれば魔法少女に関わってもあんたとは仲良くしたいんだけど。」
「残念だけど、無理な話ね。貴女がまどかと離れない限りはね。」
誰も居ない夜の街外れ。さやかの後ろにはやはりまどかの姿があった。
対峙するのはほむら、そして杏子とマミの三者。
和解を持ちかけたさやかに対し、ほむらはまどかとの決別を要求した。
「…もういいよ、さやかちゃん。全て…話そう…?」
「まどか? …そうだね。」
それまで一般人として、魔法少女の争いに介入しなかったまどかが初めて動いた。
ソウルジェムを取り出し見せる桃色の輝き…
現れたのは、ほむらの記憶に深く刻まれた、魔法少女鹿目まどかの姿だった。
「―――おいほむらっ!話が違うじゃねぇか!!」
「そんな…!! まどか…どうして貴女は……」
鹿目まどかの契約を防ぐのは重要な目的だったが、それは既に叶わぬ願いだった。
唇を噛み締め左腕の盾を構えるほむら。
「暁美さん!?」
ほむらは砂時計を動かし、この世界を捨て、過去へ逃れるつもりだ。
しかしその刹那―――天上から女性の一声が響く。
―させませんわ!!―
「―――!!?? これは…!?」
ほむらの盾はおろか左腕は微塵も動かない。その腕の周囲をローマ数字で構成されたリングが漂ってた。
突如現れたリングは明らかに魔法によって作られたものであり、ほむらの魔力の行使そのものを妨げている。
「ほむらさん。わたくし達の、お話を聴いていただけませんか?」
現れたのは癖毛掛かった緑色の長い髪を持つ魔法少女。
絢爛な意匠が各所に施された淡翠の鎧を身に纏い、緑髪の耳元には羽飾り、腰に纏う布…
手には巨大な刃を備えた斧槍を持ち、その姿はまるで西洋の神話にある戦乙女の様だ。
その刃の先がほむらの左腕を示している事から、リングはこの斧槍から放たれたものだろう。
「志筑…仁美…。何故貴女が…。」
名を呼ばれた魔法少女は、まどかを守る様にさやかの対に降り立った。
清廉な面持ちで降り立つ姿、それは姫の従者とも思える光景である。
未来を変えるべく集結した紫、紅、黄、三者のベテラン魔法少女。
相対するのは桃色の姫君、蒼の女騎士、翠の戦乙女。
[Gate of Magia]―前編―
おしまい。中編に続きます。
最終更新:2011年12月18日 22:50