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728 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/14(水) 01:01:46.35 ID:v7TXkeqd0 [1/2]
この流れの中で投下しづらいがw
http://loda.jp/madoka_magica/?id=2698
百合でなく、友情でもなく、ありふれた冬の情景が淡々と続くSS
別段互いを意識することなく、当たり前のように隣に居て、
同じものを見て、同じ体験をして、共に成長してゆく的な
妙に説教臭いのは、自分が一応教育業界の端くれに居るせいかw

需要があるか分からんけど、濃ゆーい味付けの百合SSの合い間の
塩むすび&味噌汁くらいの意味はあるかもしれん…

それは,私たちがまだ一年生だった頃の,ある冬の日の出来事。


「ま〜どか♪」ヒタッ
「ひゃああっ,つ,冷たいよ,さやかちゃんの手」
「ん〜まどかのほっぺは温かいな〜」スリスリ
「もう,さやかちゃんってば〜! 私のほっぺはカイロじゃありません」
「んふふ〜,ふくれるまどかも可愛いですな〜」

募金箱を抱えている私が抵抗できないのをいいことに,さやかちゃんは私の頬にかじかんだ手を当てて離しません。そう。私たちは寒空の下,駅前広場の一角に立っています。見滝原中学の伝統行事の一つ,生徒有志による街頭募金。大勢の生徒が街ゆく人たちに募金を呼びかける,はずだったのですが…

「結局,私たちのクラスから来たのは二人だけみたいだね」
「まあ,この時期はみんな忙しいからね。恭介は第九の市民コンサートのリハーサルがあるんだって」
「仁美ちゃんもお稽古事の発表会でどうしても抜けられないって言うし…」
「誰も来てないクラスもあるみたいだし,二人来ただけでも上出来だよ」

今年のこの行事の担当は,私たちの担任の早乙女先生なのですが…肩身が狭くないといいけど。

「まどか,募金箱持つの疲れたでしょ。あたしが代わるよ」
「うん,じゃあ今度は私が赤い羽根を付ける係をするね」

行き交う人たちの足取りも,どこか忙しげで。募金の呼びかけに応えてくれる人はなかなか現れません。時間を持て余し気味のさやかちゃんと私は,いつしか街ゆく人たちの観察を始めていました。


「あ,まどか見て。あの子自分より大きな人形を抱えてるよ。かわい〜」
「ホントだ,すごく大事そうに…。クリスマスプレゼントかな?」
「まどか好きそうだもんね,ああいうの。買ってあげよっか〜,ぬいぐるみなしじゃあ眠れない誰かさんのために」
「い…いい要らないもん! ら,来年こそはぬいぐるみなしで寝られるようになるんだから!(さやかちゃんから新しくプレゼントされたら絶対無理だけど…)」
「あんた去年もそんなこと言ってなかったっけ〜? 『来年は中学生になるんだから〜』とか言って」
「も,もぅ〜/// からかわないでよ,さやかちゃん…」
「んふふ〜(ぬいぐるみなんかより,まどかの方がずっと可愛いよ♪)」


「ねぇさやかちゃん,あそこにいる人って神父さん…かな?」
「みたいだね…あ,何か演説始めちゃったよ」
「一緒にいる女の子は娘さんかな? 大きい方の子は私たちと同じくらいに見えるけど(気のせいかな…すごくお腹を空かしているみたい…)」
「新しい時代を救うには新しい信仰が必要,か…。どう考えてもうさんくさい新興宗教じゃん! まどかはああいうのに引っかかったらダメだよ」
「う,うん(本当に悪い人,なのかな…)」

  (誰も父さんの話を聞こうとしない…)
  (納得できない。父さんは間違ったことなんか言ってない)
  (5分でいい。ちゃんと耳を傾けてくれれば,正しいことを言ってるって誰にでも分かるはずなのに…)
  「お姉ちゃん,モモ,お腹空いたよぉ…」


「…なんか,クリスマスが近いせいか,カップルが多いね…」
「そうだね…目のやり場に困っちゃうよね〜」
「あっ,また一組向こうの通りに入っていったよ」
「ま,まどか聞こえるって! …あの通り,ラブホテル街だから」
「そ,そうなん…だ…/// あ,また一組…」
「…あ〜何か腹立ってきた。お〜い,そこのお二人さ〜ん! 今晩,盛り上がっちゃうんですか〜!?」
「さ,さやかちゃん,聞こえるってば!(そんなとこまで想像してたなんて…///)」


「え,募金? お〜,小さいのに感心だね〜」ナデナデ
(あれ? この子のおでこ…)
「それ幼稚園の名札? へぇ〜ゆまちゃんって言うんだ。…ほらまどか,ボケっとしてないで赤い羽根!」
「えっ,あっ,ご,ごめんね。…はい,ありがと」
「じゃあまたね〜。…ねぇまどか,何か気になることでもあったの?」
「う,ううん,何でもないの(おでこに火傷の跡があったような…それも何か所も…もしかして,これって…)」


「はい,少ないけど,これ」
「わぁ,ありがとうございます!」
「あなたたち,見滝原中? 一年生かしら,偉いわね」
「えっ,あっ,その制服…」「あなたも,ですか?」
「ええ,二年生よ。本当は私も手伝いたいところなんだけど,夕方はどうしても抜けられない用事があってね」
「いいんですよ,この時期はみんな忙しいみたいだし。募金してもらっただけで,もう十分です」
「ありがとう,寒いけど頑張ってね」
「はい!」「ありがとうございます!」
「とっても素敵な人だったね,さやかちゃん」
「うん,ウチの学校にあんな美人がいたとはね〜」

  「ねえキュゥべえ,あの二人に魔法少女になる資格があるって,本当?」
  「素質としては十分だね。ただ,二人ともまだその時期ではないみたいだ」
  「そう…じゃあ,その日が来たときのために,魔法の技術をもっと磨いておかないとね。未来の後輩に,格好悪いところ見せられないもの♪」
  (…ほかに資質のある子を二人見つけたし,ボクとしても収穫だったね)


「すみません,見滝原中央病院はどちらでしょうか?」
「それなら,そこの通りを右に行って,2つめの信号を左に入ったところにありますよ」「…どこか,具合が悪いんですか?」
「ええ,心臓の方がちょっと…いえ,私じゃなくて娘が,ね。…あなたたちと同じくらいの歳かしら? すぐに命に関わる病気じゃないんだけど,専門のお医者さんが少なくて,こうして色々な病院を見て回っているの。あの子の病気は長期療養が必要で,あまり学校に行けないせいか,引っ込み思案で友達も少なくてね」
「そう…だったんですか」「娘さん,早く良くなるといいですね」
「ごめんなさいね,変な話で邪魔しちゃって。…変なお願いかもしれないけれど,あの子が学校に復帰して,もしも同じクラスになれたら,お友達になってあげてくれないかしら?」
「も,もちろんです。こちらこそ,お願いします!」「それくらい,お安い御用です!」
「ありがとう。それじゃあ,あなたたちも風邪を引かないでね」

「早く良くなるといいね,その子」
「うん,そうだね…」
「…さやかちゃん?」
「ん…いや,同じくらいの歳の子が,私たちの知らないところで苦労してるんだなって…。理屈じゃ分かってるつもりだけど,実際に身近にいるんだって知っちゃうと,色々考えちゃうよね」
「うん…そうだね」


「美樹さん,鹿目さん,お疲れ様。どのくらい集まったかしら?」
「あっ先生,お疲れっす」「あんまり大した額じゃ,ないですけど…」
「あら,随分集まったじゃない,上出来上出来。大分暗くなってきたし,今日はお開きにしましょう」
「やった〜! うう〜,早く帰って温まんないと」
「あの,先生,一つ質問してもいいですか?」
「ええ,何かしら?」
「私たちが集めた募金なんですけど,その,…ちゃんと恵まれない人たちのために使われているんでしょうか?」
「えっ…まどか,それってどういう意味?」
「えと,ね,私も聞いた話なんだけど…募金を管理している人が,お金を勝手に使っちゃったりすることが,あるとかないとか…」
「何それっ!? 本当ですか先生!?」
「え,いや…うん,そうね。ここだけの話,詳しい使い途がよく分からないとか,ちょっと首を傾げるようなことに使われていたりとか…。まぁ,先生も噂話程度にしか知らないのだけれど」
「えぇ〜!! それじゃあ,あたしたちの努力って…。あ〜何かまた腹立ってきたなぁ〜!」
「まあまあ…。あなたたちにはまだ理解できないかもしれないけれど,お金の集まる所っていうのは,どうしてもその手の話が,ね。でもね,みんなが少しずつ寄付してくれたお金が,多くの人たちを助けてきたことも,また事実なの。それに,人の助けになる事って,必ずしもお金ばかりじゃないわ。
 そもそも年末の募金活動というのは,近所に住む人たちの中で困っている人がいたら,せめて笑顔でお正月を迎えられるように助け合いましょうっていう昔からの活動が,そのルーツらしいの。例えば,最近は一人暮らしのお年寄りが多いでしょう? そういう人たちにとっては,近所の人からちょっと一声掛けてもらうだけでも,随分助けになるんじゃないかしら?
 人間のすることだから,すべていきなり完璧に,という訳にはいかないけれど…。まずは自分にできることから始めて,少しずつ良くしていくことはできると思うの」
「……」「先生…」
「今回の募金の使い途は,先生がちゃんと調べて報告するから安心して。さあ,あまり遅くなるとお家の人が心配するから。そうそう,これ,差し入れの中華まんと缶コーヒーよ」
「わぁ,美味そう! あ〜今度は急にお腹が減ってきたよ〜」グルルー
「えへへ…さやかちゃんのお腹って,立ったり鳴ったり忙しいね」
「あら,鹿目さんったらうまいこと言うのね」
「ち,ちょっとまどか,からかわないでよ〜///」
(ティヒヒ,さっきのお返しだも〜ん♪)


「せっかくだからお家の人に持って帰ってね」と,早乙女先生がくれた中華まんがいっぱい入った袋を抱えながら,さやかちゃんと私は家路に着いています。さやかちゃんは缶コーヒーを,私は,コーヒーが苦手な私のためにさやかちゃんが途中の自販機で買ってくれた,缶入りココアを飲みながら。中華まんとココアの温かさが,冷え切っていた身体の中と外から染みてきます。

「中華まん,おいしいそうだね」
「うん,そうだね…」

いつもなら真っ先にかぶりつくはずのさやかちゃんが,袋の中の中華まんを見つめながら上の空で答えました。

「…さやかちゃん?」
「ん…いや,先生の話を聞いて,あたしに何ができるんだろうって考えてたんだけど…。あたしん家の隣に一人暮らしのお婆さんが住んでてさ,息子さんの家族が東京にいるらしいんだけど,あんまり会いに来てないみたいなんだよね。この中華まん,ウチの家族じゃ食べ切れないし,後でお裾分けついでにお邪魔してみようかなって」
「さやかちゃん…」

この短い時間の間にそんな所まで考えてるなんて…。やっぱりさやかちゃんの行動力はすごい。それに比べて私の考えたことといったら,手が冷たいとか,足が疲れたとか,中華まんおいしそうとか…ああ,恥ずかしい ///

さやかちゃんに負けていられない! 気を取り直した私は,今日街で見かけた人たちのことを一人ひとり思い出してみることにしました。

自分より大きなぬいぐるみを抱えた女の子。幸せなクリスマスを迎えられますように。
神父さんの言っていることが正しいのかどうか,私には難しくてよく分からないけれど…。せめて二人の娘さんがひもじい思いをしなくてすみますように。
ラブホテルに向かうカップル…はともかくとして ///
募金をしてくれた小さな女の子。…せめてクリスマスくらい,パパとママに優しくしてもらえますように。
同じ中学にいる素敵な先輩。二年生になったら,私もあんな風に大人っぽくなれるかなぁ。
そして,心臓の病気で入院しがちな女の子と,その子のために病院を探して回るお母さん。ここの病院で早く良くなって,お友達になれるといいなぁ。

今の私に,直接できることなんか何もないけど。ただこうして,お祈りすることくらいしか,できないけれど…

「あっ,一番星みっけ!」

冬の空気に息を白くしながら,いつもの弾んだ声でさやかちゃんが言いました。自分にできることを早々に見つけた私の親友は,いつもの調子に戻ってむしゃむしゃと中華まんを頬張っています。

「そんなに急いで食べたら,のどにつっかえちゃうよ」

そんなさやかちゃんを,笑いながら気遣って。私は思います。今の私たちにできることは,ほんの小さなことかも知れないけれど。奇跡や魔法なんか使えなくても,こうして少しずつ色々なことを学んで,ちょっとずつでいいから,世の中を良くしていければいいな。


…そんな風に思っていました。そう,私たち二人がこの世界の真実を知ってしまう,あの日が来るまでは…

<了>

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最終更新:2011年12月18日 00:55
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