159 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/19(月) 02:10:57.76 ID:pUTv8Ltt0
まどさや仁美を救いたくてSS製作中。
長いので三部構成…のつもりでしたが、後編が更に三つに分かれて合計五部構成に;
文章が相変わらずなので何を表現したいのか理解り辛いのは…ご察しください。
なんか後半さやかちゃんのお話になっちゃってる気が…。
続きは来週…とは言わないけどできれば今週中に何とか。
まどさや仁美SS後編2
[Gate of Magia]―後編?―
人は格も愚かなのか…傍観者である感情が無い筈のインキュベーターは何故か困惑していた。
塔の様に聳(そび)え立つ光の帯。
魔法少女同士の争いは終局を向かえようとしていた。
互いが傷付き傷付け合う、ただそれだけの死闘。
しかしそれはお互いが本来望むべきものではない筈だ。
全身を星の光で焼かれた佐倉杏子は槍を片手に方膝を突いていた。
用いた技も魔法も圧倒的なパワーに押し返され、既に勝利への万策は尽きてしまった。
杏子「シケた人生だったけど…このままじゃほむらの奴に顔向けできないよな…。
せめて最期くらい…いい夢見せてくれよ…こんなバケモノ相手に死ねるんだ…
腕の一本くらいもぎ取らせてもらうさ…!」
杏子は黒く染まりかけた己のソウルジェムを握り締め祈りを捧げる。
せめて自分の命の輝きが未来への布石になるなら…と。
さやか「(マズい…!!)」
―螺旋凶つ煌光の紅(ブリューナク)―!!
顔を歪めながら自嘲的な笑みを浮かべる杏子。
ソウルジェムを砕く事で得られる協力無比なエネルギーを槍で相手に叩き込む決死の技。
自らの命を何者をも貫く弾丸として発射すれば、鉄壁の装甲を持つ騎士も無傷では済まないだろう。
さやか「(―――間に合え…間に合えッ…!!)」
一片の輝きを残す紅い光は美しく十字に煌いた。
(ブチッ!)
杏子「―――な……」
赤黒いソウルジェムは爆砕する寸前、全力で駆け寄ったさやかによって剥ぎ取られていた。
同時に杏子の変身は解け得物も消え去る。
さやか「ふ〜、間一髪ってトコだね。一人ぼっちで死のうとか、考えなくていいんだよ?」
杏子「………テメ…」
今まで死闘を繰り広げていた相手に対するとは思えない優しい笑みを見せるさやか。
手の中のソウルジェムを見て安堵していた。それはまだ僅かながら輝きを残している。
杏子は力無く崩れ落ち、さやかの腕の中に抱き留められていた。
………………………………♭♭♭………………………………
膝を突いた巴マミの身体がそのまま地面に倒れる事は無かった。
彼女の背後には小規模なクレーターが存在する。
天地救済す円環の理…その一撃は相対する魔法少女を狙ってはいなかったのだ。
マミ「……どうして…暖かい…の……?」
漆黒だった筈のソウルジェムにはグリーフシードが当てられている。
変身は解かれ、重力に引かれ地に伏せる筈の身体は抱き抱えられていた。
まどか「マミさんは頑張りました…。もうこれ以上ないってくらい、頑張りました。
だから…もう独りじゃなくていいんですよ。」
マミ「………か…なめさ……」
まどか「ごめんなさい…勝手にマミさんの嫌な事思い出させて…怒って当たり前ですよね…。
でもわたし思うんです。正義の味方っていうのは孤高であって、決して孤独じゃないんです。」
マミ「何…言ってるの…。こんな私なんかじゃ…正義の味方になんて…。」
マミは自分に回された小さな両手が嬉しくて、両頬を伝い涙が流れ落ちる。
指を小さく横に振ってまどかは続ける。
まどか「マミさんは見滝原の正義の味方ですよ。
今だってほむらちゃんや杏子ちゃんの為に戦ったじゃないですか。
正義の味方は必ず仲間が居るんです。だから…もう自分で自分を独りにしないでください。」
マミ「…ぅ……ぅぅぅぅぅ……」
まどか「わたし知ってますから。マミさんがどれだけ寂しかったのか、一人ぼっちで我慢して来たのか。
だから、いっぱい泣いてください。」
………………………………♭♭♭………………………………
ほむら「ぅぅぅっ…どうして…どうして…」
虎の子の盾を破壊され ほむらのソウルジェムは黒く染まり始めた。
眼に涙を浮かべたほむらを絶望が支配してゆく。
しかし黒く染まりかけたソウルジェムは突如として輝きを取り戻した。
ほむら「―――えっ…!??」
目の前に手を差し伸べ、笑顔で迎える緑髪の天使が居た。
困惑するほむらだが、一切の支えを失った彼女はとにかくその手を取っていた。
まどか「終わったよ仁美ちゃん!」
まどかの背中には泣き疲れた巴マミが幸せそうに眠っていた。
さやか「こっちも終わったよ。杏子は無事だ。」
杏子「馬鹿ヤロー! は、早く降ろせっての…!」
さやかの背中にも何とか意識のある杏子が赤面しながら手足をバタつかせていた。
仁美「わたくしの魔法で、ほむらさんの身体を戦う前の状態に戻しました。
精神状態を戻す事は出来ませんが、これでほむらさんの傷と魔力は暫く心配ありませんわ。」
ほむら「なっ…!? 馬鹿な事を…」
杏子「わりぃほむら…見ての通りだ…。アタシ等見事に全滅…。
こりゃコイツ等の言い分聴くしかないらしいな…。」
再び六人の魔法少女が集結した。死闘の結果はほむら、杏子、マミの敗北。
まどか陣営の完全勝利だった。しかも奇跡的に一人の死者も出してはいない。
まどか「ほむらちゃん、これでお話聴いてくれるよね?」
ほむら「………。でも私はまどかを…ただまどかを救いたいだけなのよ!」
杏子「おいほむら…いい加減…」
ほむら「私はただまどかを…たった一人の友達を…」
(パァン!)
頬を乾いた音を立て、手の平がほむらの頬を打っていた。
打ったのは誰でもない、ほむらが唯一の拠り所としていたまどかだった。
まどか「わたしだけしか見ないほむらちゃんなんて、嫌いだよ?」
ほむら「―――っ…! やだ…そんなのやだよぉ…!
…ならないで…私を嫌いにならないでぇ…!」
子供の様に泣きじゃくるほむら。まどか、さやか、仁美の三人は過去を知っているとは言え、
今までの彼女からは考えられない姿に全員が驚いていた。
まどか「それじゃ、約束。」
ほむら「…約束…?」
まどか「ここに居るのはみんな友達。みんな仲間なんだよ。
だから一緒に頑張ろ? もう悲しむのはほむらちゃん一人だけじゃない。
悲しい事はみんなで分けて、一緒に嬉しい事を手に入れよう。」
ほむら「うん…うんっ…!」
それからマミが目を覚ました頃合で、まどか達はほむら達にこれまでの簡単な経緯を説明した。
マミ「つまり志筑さんの魔法なら、ワルプルギスの夜の反動を受けたまどかさんを元に戻せるのね?」
仁美「はい、わたくしが傍に居る事が前提にはなりますけれど。
わたくしの時間遡行魔法は、遡る時間が大きい程その効力を失います。
強力な因果を持つまどかさんを確実に遡行させるには可能な限り短い時間が望ましいですわね。」
ほむら「さっきまでの貴女の力で考えるとそこまでシビアになる必要は無いと思うのだけど…
念には念を入れて…という事かしら?」
仁美「そうですわね。一度失敗すれば取り返しがつかないのですから、慎重に考えるべきかと思いますの。」
杏子「なる程、だからずっと隠れてたって訳か。」
ほむら「…もしかして、巴さんに捕らえられた私を助けたのは貴女…?」
仁美「うふふっ、その通りですわ♪」
さやか「いざとなったらあたしが正体バラしてでもマミさんを助けるつもりだったけどね。」
マミ「うーん…今更なんだけど、全てを見透かされてたって思うと複雑な気分だわ…。」
ほむら「全く…そんなにコソコソ隠れて行動しなくてもいいのに…。」
まどか「ストーカーしてる人には言われたくはないなー。」
ほむら「うっ…。」グサッ
まどか「それにほむらちゃん、正直わたし以外どうでもいいと思ってたよね?」
ほむら「ううっ…」グサグサッ
さやか「はいはーい!まどかさんそこまで〜!」
仁美「これからはお友達なのですから仲良くしましょう。ね、ほむらさん?」
ほむら「ぅぅ〜…まどかがいじめる…。」
仁美「過去を振り返りたいお気持ちならわたくしもよく理解りますもの。
貴女とわたくしの願いは同じなのですから。」
QB「やあ、無事に終わったみたいだね。」
全員「!!」
遠くから事を見届けていたインキュベーターが何処からともなく現れた。
全員の鷹の様な視線が一斉に集まる。
杏子「今更何しに出て来やがった淫獣!」
マミ「諸悪の根源…やっぱりラスボスは最後に登場するものよねぇ。」
QB「おやおや、マミまでそんなに邪険に扱わないでよ。
僕は鹿目まどかが居る限り、君達に不利な事なんて―――」
(グシャッ!)
最後まで言えず白い生物は矢で貫かれていた。
ほむら「…ふぅ、まどかも無駄だと理解ってるのに…」
(グシャッ!)
(グシャッ!グシャッ!グシャッ!)
スペアの出現地点に合わせて剣、槍、銃弾が的確に的を打ち抜いてゆく。
仁美「あ、あの…」
さやか「流石にやり過ぎじゃ…。」
この2秒程の間に12体程、インキュベーターの残骸が四散していた。
まどか「ごめんね、ぬいぐるみはちょっと黙っててくれるかな?」ニコッ
杏子「こ、怖ぇ…。」
屈託の無い笑顔で容赦無く邪魔者を排除するまどか。
大切な仲間達との時間は邪魔させないよ、と暗にそう告げたのだった。
仕方なくインキュベーターは再び遠くで独り考察を練る事にした。
QB「やれやれ…まぁ一家団欒だけは邪魔しない方が良さそうだね…。
人間の感情は未だに理解らないけど、"救済"が無意味じゃないって事ははっきりしたよ。
限りなく絶望に近い場所から希望への到達、それは言わば破壊と創造だ。
何れは魔法少女が必ず到達する絶望、そこから希望と結束が生み出す新たなエントロピー。
これは次の魔法少女達との契約にも役立ちそうだね。」
………………………………♭♭♭………………………………
―ワルプルギスの夜、進路最終地点―
暁美ほむらの自宅にて、対ワルプルギスの夜についての円卓会議(マミ命名)が行われた。
画像を含めたあらゆる観点で分析あい、進路、攻撃方法、耐久力、現在の六人の戦力…
まどか「わたしと仁美ちゃん、力になれなくてごめんなさい…。」
杏子「気にすんなよ。もしもの事考えての作戦なんだから。」
ほむら「私達の帰る場所を守るのが貴女達の仕事よ。」
さやか「後ろでまどか達が待っててくれるってだけで、あたし達は心強いよ。」
仁美「何かあったら立て直しにすぐ戻って来てくださいね。
お怪我はわたくしが出来る限り時間退行で治癒致しますわ。」
魔女の破壊と因果による反動を受ける可能性のあるまどか。
最悪の可能性を考え、まどかと唯一それを阻止出来る仁美は後方に待機しておく事になった。
ただし、もし前線の四人が危機に陥った場合はその限りではない。
まどか「ここからはまだ誰の記憶にも無くて、わたしでも知らない未来です。」
仁美「でも皆さんの力を合わせればきっと…!」
マミ「それじゃみんな、作戦の確認よ。まず私と暁美さんが遠距離から道を開くわ。
佐倉さんはとにかく、私達の主砲である美樹さんをサポートして本体に近付ける事。
美樹さんは魔女本体以外には極力無駄な魔力は使わないでね。
あと私達三人に言える事だけど、美樹さんの魔力はグリーフシードですぐに補給してあげる事。」
生半可な攻撃では舞台装置の魔女にマトモなダメージは通らない、
ほむらは身を持って知っていた。どれだけ火器を打ち込んでも通じなかった。
その事実を受け、まどかの次に段違いの火力を誇るさやかが攻撃役を勤める事になったのだ。
さやか「う〜…緊張するなぁ〜…。」
杏子「何言ってんだ、あんだけ凄い剣持ってんだからもっと自身持ちゃいいんだよ。」
まどか「そうだ! 行く前にみんなに渡したいものがあるの。」
まどかは神の財宝を展開し、原点の中から何かを探し出そうとしていた。
それがこれから前線に赴く四人に少しでも自分が出来る事だ。
まどか「杏子ちゃんには…この槍をあげるね。
この人は杏子ちゃんと同じ教会の女の子だったんだ。
杏子に渡されたのは、宝石の埋め込まれた十字架を模した槍。
普段扱う細身な長槍と比べると、より長く太い。専ら振り回す事に長けていそうな形状だ。
杏子「へぇ…二槍流ってのも悪くないな。サンキュ!」
まどか「マミさんにはこの銃。ホントは同じのが二つあれば良かったんですけど…。」
手渡された二本の銃は大きさこそほぼ同一だが、片方はシリンダーが虹色に輝く白銀の長銃。
一方は対照的に黒く鈍い光を放ち、幾箇所も補修が施された様子の長銃。
マミ「これは…きっと未来と過去の魔法少女の武器ね?
なんだかロマンに溢れるわね♪ ありがとう鹿目さん! さっそく技名考えなきゃ…」
杏子「ってオイ!そんなのは後でいいだろ!」ビシッ
まどか「ほむらちゃんには、これをあげるね。別の時間軸のわたしが持ってたと思うんだけど…。」
ほむらが受け取ったのは、上端に花飾りが付いた木の枝を模した弓。
未だ彼女の記憶から決して色褪せる事の無い過去のまどかの得物だった。
ほむら「これって…!? ありがとうまどか…大事に使うわね。」
次は自ずとさやかの番なのだが…まどかは神の財宝を見渡しながら動きを止めた。
まどか「ごめん、さやかちゃんには…渡す武器無いよね…。」
さやか「たはは、やっぱし…?」
純粋な力を求めてさやかが手に入れた魔法は強力無比な聖剣。
それ以上に攻撃的な魔法少女の武器などそうそう在りはしなかった。
まどか「だから…こんなのしか渡す物無いけど…」
まどかは徐にまどかは自分の髪を結わえた二つの赤いリボンを外し、さやかに手渡した。
さやか「えっ…?」
まどか「これ、わたしだと思って付けてて欲しいな。」
さやか「ええっ!? でもあたしリボンなんて似合わないし…。
これはまどかが付けてるから可愛いんだしさ…。」
自己評価の低さ故にさやかは躊躇う。まどかと違って女らしさに欠ける、
愛らしさに劣る自分が大切な人の所持品を受け取る事に抵抗を感じていたのだ。
ほむら「似合わないだなんて、自分を粗末にしないで。」
さやか「ほむら…。」
仁美「ではせっかくですし、交換というのはどうでしょうか?」
さやか「えっ…?」
まどか「それじゃ、代わりにさやかちゃんのヘアピン貰えるかな。」
さやか「う、うん…。」
仁美の提案で二人はリボンと髪飾りを交換する事になった。
さやかは慣れない手付きでリボンを結ぶ。
ショートヘアーの青型からは結んだ赤のリボンがはっきりと見えていた。
一方、ヘアピンを留めたまどかはすっかり髪を降ろした状態になっている。
さやか「…変じゃない…かな…?」
杏子「意外と…なんて言っちゃ失礼か。全然違和感無いと思うぞ?」
ほむら「青に赤というのも効果的な組み合わせだわ。」
マミ「鹿目さんは髪を降ろして大人っぽくなったわね」
仁美「これだけでも随分雰囲気が変わるものですのね。お二人共とても似合ってますわ♪」
まどか「さやかちゃん可愛いよ〜♪」ギュッ
さやか「おわっ!? ちょ、みんなの前なんだから抱きつくのは…」
マミ「ラブラブな後輩二人を引き裂いたら先輩の面子が立たないものね。先導は任せなさい。」
杏子「絶対…生きて帰ろうな。あのデカブツにはさやかに手出しさせねぇからよ。」
ほむら「貴女はまどかの一番大切な人。それだけは忘れないで。」
さやか「みんな…。」
この場の誰もがまどかとさやかの仲を祝福していた。
協力関係になってから決戦までの数日間、とっくに仲間達には気付かれてしまっていた様だ。
仁美「この戦いが終わったら、またいつもの"あれ"をやりましょうね。」
さやか「うん。それからまた、前みたいに一緒に学校行こうよ。」
まどか「さやかちゃん…絶対に無理しちゃ駄目だよ?」
さやか「うん、約束するよ。」
まどか「じゃぁ、約束………」
まどかはさやかの両肩に手を置き、目を閉じてそれを訴えた。
周りの目を少し気にしていたさやかだが、その内決心して右手をまどかの腰に回していた。
左手で顎を少し持ち上げ、ゆっくりと近付く。息が掛かりそうな距離になれば更に体温が上がる。
さやかも目を閉じ、二人の唇が静かに触れると自然と力が抜けた。
周囲には顔を赤らめながらチラ見する少女が三名、うっとりと眺める少女が一名。
………………………………♭♭♭………………………………
―ワルプルギスの夜、暴風圏内―
マミ「さぁ、最初から飛ばして行くわよ!ティロ・フィナーレ!」
ほむら「私達はまどかと一緒に戦ってる…まどか、力を貸して!」
激しい暴風の中、四人を阻む触手と使い間を片っ端から殲滅して道を作る。
巨大な魔女が放つ使い魔全てを排除する必要は無い。
本体に攻撃を届かせるべく、一箇所をこじ開ければ良いのだ。
杏子「ヒュー!これすっごい爽快じゃん!行っくぜぇぇぇぇ!!」
マミ「佐倉さん!油断しちゃ駄目よ!」
二槍流で豪快に槍を振り回す杏子。撃ち漏らして近付いて来たものをまとめて薙ぎ払う。
近付く程に風は強く容赦なく渦を巻いて四人を阻む。
それでもマミとほむらが道を作り、杏子が盾となってさやかを本体導く。
さやかは暴風の中、何とか舞台装置の魔女の歯車へと辿り着き、剣を振り下ろす。
さやか「約束された(エクス)ッ!勝利の剣(カリバー)ッ!!」
(ドゴォォォォォォッ…!)
(ギャァァァァァァ…!!)
聖剣を突き立てそのままの勢いに魔力を叩き込むと、同時に魔女から消魂(けたたま)しい雄たけびが上がる。
魔女の悲鳴は多少なりとも有効なダメージが与えられた証た。
さやか「―――おぉぉぉぉぉぉッ!!」
杏子「おっしゃ!効いてるぞ! …と!邪魔すんなよッ!」
四人は回転する歯車に取り付いたまま各々が役割通りに武器を動かす。
無数の炎の槍、巨大な瓦礫の塊、黒い触手から沸いてくる使い魔…
マミ、ほむら、杏子の三人はとにかく阻む者共を排除し続けるだけだ。
鬱陶しい使い魔を薙ぎ払いながら、マミはグリーフシードをさやかのソウルジェムに当てた。
早くも黒ずんでいたさやかのそれはすぐに輝きを取り戻す。
マミ「やっぱり随分と消耗するのね…!」
さやか「こうやって…全力で叩き込み続けるなんて初めてですからね…!
はぁぁぁぁッ!」
さやかは再びありったけの魔力を込めて聖剣を振り下ろした。
杏子「チッ!瓦礫か…! こりゃ随分でけぇな…!」
ほむら「任せて!」
人為的な建造物、道路すら暴風によって宙を舞い、魔法少女達に襲い掛かる。
ほむらは時間を止め大量のミサイルを構えた。
暴風で若干狙いは反れるだろうが、巨大な瓦礫に命中させるには十分だ。
爆風と共に掻き分けられた道路の瓦礫は、細かく砕けた事によって暴風に乗り上空へと舞い散った。
マミ「二人共!グリーフシードの数は!?私はあと6!」
杏子「6だ!」
ほむら「5よ!」
マミ「くっ…思ったより消費が激しいわね…!」
グリーフシードは自分の達の魔力にも勿論、主に急速に魔力を消耗し続けるさやかの為に消費していた。
最優先すべきは魔女撃破の要であるさやかである。今の彼女無くしてワルプルギス撃破は考えられない。
さやか「もう一撃!約束された(エクス)ッ!勝利の剣(カリバー)ッ!!」
(ズドォッ!ビキビキビキッ!!)
(ア"アアアァァァァァッ!!)
さやかの聖剣が大きく魔女の歯車に食い込み、遂に舞台装置の魔女に亀裂が生じたのだ。
杏子「おおっ!コイツは行けるぜ!もう一踏ん張りださやか!」
マミ「余裕のある人は美樹さんと一緒に裂け目に攻撃よ!ティロ・フィナーレっ!」
(ゴゴゴゴゴ…)
ほむら「―――!!」
ワルプルギスの夜はゆっくりとその向きを変え始めた。
その様子を感じたほむらは顔色を変えた。
ほむら「マズいわよ!正位置に反転されるわ!!」
さやか「するとっ…どうなんのよ!?」
ほむら「上を向かれたら見滝腹どころじゃない…地球上の文明全体が危険よ!!」
杏子「何ィッ!??」
マミ「ちょっと!それ洒落にならないじゃない!!」
(ゴォォォォォォ!!)(アハハハハハ―――)
怒り狂った愚者の象徴は全てを振り落とそうをその回転を増し始めた。
今まで漂っていただけのそれは突如迷走飛行で予期せぬ方向へと暴れ始める。
杏子「うわぁっ!急に暴れ出しやがるぞコイツ!今まで三味線弾いてたってのかよ!」
さやか「くぅっ…! 約束された(エクス)…勝利の剣(カリバー)っ!!」
杏子「さやかぁっ!!」
聖剣を発動中、尽きかけた魔力を補おうと杏子が咄嗟にグリーフシードをさやかに捧げる。
マミは周囲に大量のマスケット銃を展開して使い魔を打ち落とす。
ほむらの弓が本人の意思により、さやかの砕いた魔女の裂け目に的確に誘導されて穿つ。
嵐と回転の勢いは尚増し、歯車は徐々に傾き始めた。
さやかは突き立った聖剣を、マミはリボンを巻き付かせ、杏子は得物を裂け目に突き刺し、
ほむらは足元の時間を停止して各々を舞台装置の魔女本体にしがみついていた。
さやか「まだまだぁぁぁぁッ!!」
(ズドッ!バキッ…バキバキッ…)
更に歯車は裂け、一部分が砕け崩壊を始めた、さやかはとにかく魔女の中心部へを剣先を向ける。
それでも嵐と回転の勢いは尚増し、既に歯車は横倒しに近い状態だった。
(オォォォォォォォォ…)
舞台装置の魔女そのものが大地震の様に震え始めえた。
最早この魔女が現在時速何キロで空中を駆け巡っているのか理解らない。
例えるなら飛行機が横回転しながら空を駆け回る…そんな具合だ。
マミ「きゃぁぁぁっ…!」
杏子「ちっくしょぉぉぉ…うわぁぁっ―――」
さやか「マミさん!杏子!」
杏子とマミは暴走し続ける魔女から遂に振り落とされてしまった。
ここまで酷い回転だと最早使い魔など関係無い状態だ。生み出された瞬間に吹き飛んでいるだろう。
それでも残るさやかとほむらは魔女をこのまま取り逃がす訳にはいかなかった。
この勢いで地球上を暴れ続けられては街の一つ二つどころの被害では済まない。
さやか「約束された(エクス)―――っ!?? ぐっ…勝利の剣(カリバー)っ!!」
(ドゴォッ!!)
魔女の本体が半壊した。スカートの一部が脱落する。
しかしさやかは激痛に顔を歪めていた。酷使が祟り、ソウルジェムにひびが入ったのだ。
グリーフシードを当てようとしてほむらは異変に気付く。穢れとは明らかに違うそれに。
ほむら「さやか!ソウルジェムが危険よ!一旦引くわ!志筑さんに見せないと!」
さやか「あたしは大丈夫!それより…こいつこのままじゃ危険なんでしょ!」
ほむらの制止を無視してさやかは魔力を注ぎ続ける。
ここまで来て引く事は出来ない。明らかに魔女は崩壊しかけているのだ。
さやかは右手に持った聖剣を付き立てたまま、左手で鞘の反対側に手を掛け、鞘の先を分離させた。
分離した先からは、鞘に収められていた聖剣と同じ白銀の刀身がもう一振り現れたのだ。
六角形に近い形状の青い柄に黄金の意匠…それは今魔女に突き立っている聖剣の姉妹剣とも呼べる代物。
ほむら「そんな事言ってる場合じゃ…貴女に死なれたら誰がまどかを支えるのよ!」
さやか「そっか…だからこそ…あたしは…!」
だからこそ、大切な人の為にさやかは戦いたかった。誰も失いたくなかった。
左手で二つ目の聖剣を翳し、魔力を込めるとそこには太陽にも劣らない灼熱の豪華が纏わり付く。
それでもグリーフシードをさやかのソウルジェムに当てながらほむらは懸命に訴え続けた。
魔女が揺れ震える、真横にまで傾いた歯車に、ほむらはしがみ付くだけでも精一杯になっていた。
ここまで時間停止で止めていた足場にも限界が訪れる。
ほむら「きゃぁぁっ…! 貴女はまどかの王子様なんでしょ!?」
私はまどかを…守れるけど…あの子の笑顔…支えられるのは―――」
最後まで伝える事は出来なかった。ほむらも振り落とされてゆく。
さやかは深く突き立った剣を支えに、二本目の聖剣の名を呼び力を解放した。
さやか「―転輪する(エクスカリバー)…勝利の剣(ガラティーン)!!―」
(ピキッ…)(ゴォォォォォ…ッ!ドッ!!)
遂に魔女を聖剣の一撃が貫いた!
一本目の聖剣が星の加護を受けた剣なら、この二本目の聖剣は太陽の加護を受けた剣。
炎の帯が大地に刺さり聳(そび)え立ち、天空を一直線に駆け抜ける。
しかし同時にさやかのソウルジェムはひび割れてゆく。
穢れはグリーフシードによって浄化されてゆくが、それとは別な物理的な損傷が顕著になっていた。
(ギャァァァァァァァッ…)
悲鳴と共に崩壊してゆく巨大な魔女。
勢いを失った魔女は惰性のまま回転を続け、軈(やが)て大地へと墜落する。
何処までゆくのだろうか。分離し続ける魔女の亡骸達と共に、さやかもまた地に落下してゆく。
………………………………♭♭♭………………………………
地平線ギリギリで舞い昇がる炎の帯。
前の時間軸で三人が魔女狩りをした時、幾度もさやかの剣が見せた光景だ。
戦場で放たれたそれは二人に勝利を確信させる証であった。
仁美「あの青白い光は…! さやかさん、遂にやりましたわね!今回は"太陽の剣"の方ですわ!」
まどか「うん…。」
仁美「どうしたのですか、まどかさん…?」
仁美はまどかのソウルジェムを確認するが、別段変化は無い。
まどか「わたしは大丈夫だよ。だけど…嫌な感じがする…。」
仁美「えっ…?」
………………………………♭♭♭………………………………
―ワルプルギスの夜、墜落地点―
舞台装置の魔女は崩壊し、その活動と存在は完全に砕かれた。
嵐は収まり、周囲は傷跡となった瓦礫の街。幸いにも住宅街や
避難所の直撃は免れた様だ。
暴走する魔女と共に随分流されてしまったが、ここがまだ見滝原間である事は間違いない。
騎士は死闘を共にした一振りの剣に凭(もた)れ掛かりながら大地に立っている。
またもう一本の剣も彼女の傍(かたわ)ら突き立ち、主と共にあった。
「……やっぱ…駄目…だよ…ね…。
魔女に…は……ならずに…済みそう…だけど…。」
見つめる手の中のソウルジェムはっきりと輝きを残していた。
あの激戦の中、仲間が必死にグリーフシードを何度も捧げてくれたからだ。
だが激しい消費と補充の繰り返し、度重なる酷使と負担により幾重にも亀裂が生じボロボロだった。
手持ち最後のグリーフシードを触れてみるも、色鮮やかさを取り戻すだけで修復される事は無い。
手の平に握ったソウルジェムの破片がポロリと落ちた。
命を示す輝きは失われてゆくが、そこに決して穢れが現れる事は無い。
さやかは頼りない笑顔で、ソウルジェムに慈しむ様に微笑み掛けた。
「…あ…りがと…ね…。あたし…の…無茶に…付き合って…くれ…て…。」
大切な人に貰った赤いリボンがブルーの髪と共に風に靡(なび)く。
こんなにも穏やかに感じる風は随分懐かしい気がする。この街に平穏が戻った証だ。
今ここに立って居られる、許された時間の限りこの街を見ていたい。
古い伝説のあの人もこんな最期だったのだろうか。
「(でも…少なくともあたしには、後悔なんてないよ。
ちゃんと街を守れた。たくさんの人を守れた。大切な人達も守れた。
ああ…でもたぶん、まどかにはこっ酷く怒られるんだろうな…。)」
青き命の証は尚も破片となって手の平から零れ落ちてゆく。
強いて挙げるなら、さやかにとってそれが唯一の心残りかもしれない。
でもいつか綺麗になった街で、あの子の笑顔が取り戻せるのなら…それ以上の幸せは無い。
「…破壊と…その…代償は…差し引きゼロ…か…。
あたしって……ホント……… ………」
英雄を、かの騎士王を夢見た少女は穏やかな顔で眠りに落ちた。
[Gate of Magia]―後編?―
おしまい。後編?に続きます。たぶん。
最終更新:2011年12月31日 11:27