17-631

631 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/24(土) 02:06:10.33 ID:DYzTTds00 [2/7]
「―――そう…。あたしもう子供じゃないんだから平気だし。
 今日? 今日は友達と先輩ん家でお茶会。あーだからもういいってば!
 ちゃんと明日夜帰ってくんなら文句言わないからさ。じゃね。」

「………。」



[遅れて来たクリスマス]

12月23日夕方。その日、巴マミの自宅で行われたお茶会は無事お開きとなっていた。
昼頃から昼食・ティータイムを兼ねて随分とみんなはしゃいだものだ。

「みんな気を付けて帰りなさい。迷子になったらいつでも戻って来ていいのよ?
 お姉さん泣いて喜んじゃうから。」
「誰がお姉さんだっつの。年上振るなら素直に寂しいって言えよ。」
「むぅっ!言わせておけば…」
「やるかー!」
「やめなさい杏子、貴女だって同じでしょう。」
「巴先輩、とっても美味しいお菓子でしたわ。余りがあれば持ち帰りたい程です。」
「あらあら、志筑さんに褒められると自信が付いちゃうわね。」
「やっぱ手作りは違うって事ですな。マミさん、ごちそうさまでした!」
「ケーキ凄くおいしかったです。またみんなで集まりましょうね。」

………………………♭♭♭………………………

マンションの自宅へ向かう途中、聞こえる賑やかな笑い声を通り抜け、明かりの灯らない部屋のドアを開けた。
先程さやかの両親から来た電話は、生憎急遽入った仕事で今晩留守にするという内容だった。
両親の不在などよくある事なのに、何故か今更になって胸に埋め様の無い隙間を感じてしまう。
多くの人達は家族や恋人と、これから訪れる聖夜という興に乗ずるのだろうか。
(何考えてんだろ…あたしだってさっきまでみんなと一緒だったじゃん。)
夕飯を食べる気も起きないので作る必要もない。かと言ってゆっくりとお湯に浸かりたい気分でもなかった。
こんな日はさっさと寝るに限る。シャワーだけ済ませてさやかは早くも床に就いた。
明日起きればまたいい事があるかもしれない。
最近夜更かしが多く寝不足気味なのも手伝って、さやかはすぐ眠りに落ちていった。

………………………♭♭♭………………………

―鹿目家自宅前―

「まどか、夜道には気を付けなよ。」
「随分重そうだけど、そんな装備(大荷物)で大丈夫かい?」
「大丈夫、問題無いよ。それじゃ、行って来まーす!」

鹿目まどかは、両手と背中に身の丈に相応しくない大荷物を抱えて家を出た。
例えるならフルアーマーまどかとでも呼ぶべき状態を、両親は心配そうに見守る。
案の定10秒程でギブアップしたまどかは立ち止まり、涙目で振り返り両親を見つめていた。

632 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/24(土) 02:07:59.94 ID:DYzTTds00 [3/7]
―美樹家自宅前―

「あ、あれぇ…?」

結局まどかは目的地まで父の車で送ってもらう事になった。それが10分程前。
合鍵でオートロックを抜け、さやかの自宅前に辿り着いたまどかは独り立ち尽くしていた。
まだ夜8半時だと言うのに目当ての部屋から見える窓は真っ暗。
インターホンを鳴らしても物音一つしないのだ。
まどかの知識だとさやかの自宅は今頃夕飯の時間帯の筈だが…。

「出掛けてるのかな…? とりあえず、お邪魔しま~す…。」

合鍵で玄関の鍵も開けて入室してみるも、やはり人が行動している気配は無い。
玄関にはさやかの靴があり、主が外出中という可能性はほぼ消えた。

明かりの消えたリビング、廊下。で、結局辿り着いたのはさやかの自室だった。
すぅすぅと聴こえてくる彼女の寝息。目当ての人物は早くも寝入ってしまったらしい。
音を立てない様に気遣いながら、常夜灯に照らされた愛しい寝顔に歩み寄る。

「(せっかく驚かせようと思って来たのになぁ…。
 とりあえず枕元にプレゼント箱を…っと。)」

まどかは自宅から持って来たリボンの付いた箱をさやかの枕元に置いた。
流石に大きな靴下とかいった子供っぽいものは無かったか。
とりあえず最低限の目的を果たしたまどかは、その寝顔を拝見しようと顔を覗き込む。

「(さやかちゃんの寝顔可愛いなぁ…。あれ? でも…涙の痕がある…。
 泣いてたのかな…? …違う、今も泣いてるんだ…。)」

ティーパーティーが始まる前、まどかはさやかの電話を耳にしていた。
孤独なクリスマスの夜を前にしても、仲間には心配をかけまいと何事も無かった様に振舞っていたのだ。
そんな親友の姿を思い浮かべて胸を痛めるまどか。思わず手を伸ばし、涙を拭ってあげた。

「………んん…」

目元に触れた熱に対し僅かに眉が動いたが、さやかが目を醒ます様子は無い。
すぐにまた先程と変わらず安らかな寝息を立て続け始めた。

「(えへへ…眠れる王子様はお姫様のキスで起きるのかな…?なんちゃって。)」

絶え間なく浮かび上がる涙を、今度は指ではなく唇で掬い取る。
そのままの道筋で唇をさやかの同じ場所に触れ、眠りを妨げない様に柔らかさを堪能する。

「…ちゅ…」
「………ぅ…ん…」

くすぐったそうに身を捩るさやか。起こしてしまったかなと思ったが、未だ眠りは深そうだ。
寧ろ起きてもらっても良かったかもしれない。そんな姫の願いも露知らず、王子は眠り続ける。

633 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/24(土) 02:09:22.49 ID:DYzTTds00 [4/7]
「(うーん駄目か…しょうがないよね。)
 おやすみなさい、さやかちゃん。」

無理に起こす訳にもいかず、まどかは部屋を後にする為に立ち上がろうとするがそれは叶わない。
さやかの手がまどかの服の裾をしっかりと掴んでいたのだ。

「(えっ…?) さやかちゃん…起きてる…?」

もう一度顔を覗き込む。しかしぐっすり眠っている事に変わりは無い。
どうやら無意識の行動らしい。だが小刻みに震える指は何かに怯えている様にも見える。
耐え難い孤独感の為か、はたまた温もりが立ち去る事を拒んでいるのかもしれない。

「(ふふっ…無意識だなんて赤ちゃんみたいだよ。
 さやかちゃん、やっぱり淋しかったんだよね…。)」

いつも自分がしてもらうを返してあげよう、頼れる背中を癒してあげたい。
そんな事を考えたまどかは、未だ涙の止まないさやかの頭をゆっくりと撫で始めた。
同時に漏れ始める気持ち良さそうな寝息。
辛そうだったさやかの眠りは、いつの間にか穏やかなものに変わっていた。

「(しょうがないよね。一応鍵は閉めてきたし…。)
 それじゃ…お邪魔しまーす…。」

………………………♭♭♭………………………

(チュンチュン…)
鳥の囀りとカーテンの隙間から差し込む朝日にさやかは目を醒ました。
だがさやかは今このひとつ状況が理解できずに居た。
何しろ寝起きには普段見慣れないものが二つ程存在するからだ。

「………あれ…? …なんで隣りで…まどかが寝てんの…???
 …それにこれ…プレゼント箱…???」

寝惚けているのかと思い目を擦り合わせたが目の前の光景は変わらない。
自分と同じベッドで眠るのは、見慣れたピンクの髪とあどけない顔の女の子。
何処をどう見ても大親友の鹿目まどかである。

「…おーい…まどかさーん…。」

揺すってみても起きる気配は全く無い。布団を剥ぎ取って気付いたのだが彼女は私服だった。
そして自分の枕元に置かれたプレゼント箱。
これを外部から持って来た張本人は、今目の前でぐっすり眠るこの子なのだろう。

「そっか…あんた、わざわざこれ届けに来てくれたんだ。ごめんね、さっさと寝ちゃって…。」

とりあえず朝食の準備をしようとリビングへ向かうが、食卓にも見慣れないものが置かれていた。
ラップに包まれたローストチキン、クリスマスケーキの形を模したポテトサラダ、巻き寿司のセット…
冷蔵庫にはメロンと未開封のジンジャエール、冷凍庫には箱に入ったアイスクリームケーキ…

この状況から推測できる昨日のまどかの様子が脳裏を駆け巡り、さやかは愕然とした。
おそらくさやかを驚かせる為に両親に頼み込み、荷物を持ち込み、二人でパーティーをする予定だったのだろう。

634 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/24(土) 02:10:43.02 ID:DYzTTds00 [5/7]
「………あっちゃぁ~…」

正直まどかは家族と共に過ごすのだろうと思っていたさやか。
まさか自分の下に押しかけて来るなど考えてもいなかった。
やってしまったなと頭を抱えながら、昨日不貞寝(ふてね)してしまった事を激しく後悔していた。

さやかが寝起きの着替えを終えた頃、寝癖の付いたまどかがのそのそと寝床から這い出てきた。

………………………♭♭♭………………………

「まどかごめん!ホンっっっトにごめん!!」
「え?えええええ??? あの、わたし全然怒ってないよ…?」

土下座すら辞さない勢いのさやかの謝罪に戸惑うまどか。
まどかとしてはさやかの寝顔も唇も堪能できたので怒ってなどいなかったのだが。

「ぅぅ…わざわざ嫁が夜這いに来てくれたのに…あたしってホント馬鹿…」メソメソ
「ううん、何の連絡しないで来たわたしが悪いんだし…。」

本当はプレゼントを置いてそのまま帰ろうかと思っていたが、
さやかが離してくれなかったのでそのままベッドに潜り込んだ事は黙っていた。

「それよりやかちゃん。ちょっと遅くなったけど、クリスマスパーティーしようよ。」
「へ???」
「料理も、プレゼントも、あるんだよっ!」

昨夜かなりの重装備ながらもまどかが持ち寄った料理にプレゼント。
食べ物もアイスも適切な形で置いておいたので、どれも無駄にはならず済みそうだ。

「そういえばこのプレゼント、開けてもいいの?」
「えへへ~、どうぞ♪」

丁寧に包装された、炊飯器程の大きさのプレゼント箱。
中から出て来たのは2.5頭身くらいのぬいぐるみ二体だった。
片方はピンクのツインテールとリボン、片方はブルーのショートヘアーとヘアピンが特徴的だ。

「可愛いぬいぐるみだね。何だかあたしと…まどかっぽいけど?
 よくこんなに似てるの見つけたもんだね。

 ―――…って……ん…? ちょっと待てよ…。」

「うぇひひひ♪」

考え込むさやかを楽しそうに期待を込めて悪戯っぽく見つめるまどか。
二人に似たぬいぐるみが着ている服は見滝原中学の制服に酷似している。
自分達の制服に都合良く合わせた市販マスコットなどある訳が無い。

「これ…もしかしてまどかの手作りじゃん!?」
「わーい、やっと気が付いてくれたんだー!
 まどかぬいぐるみだけだと寂しそうだったから、さやかちゃんのも作ってみたの。」
「まどか……ぅぅっ…ありがとう…。」

635 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/24(土) 02:11:56.71 ID:DYzTTds00 [6/7]
ここまでしてくれたまどかの好意が嬉しくてさやかは涙目になっていた。
まどかの特技は裁縫。自分を模したぬいぐるみを無事完成させたまでは良かったが、
相手のいないぬいぐるみが可愛そうで結局さやかの分まで作ってしまった。
かつ離れ離れにするのが可愛そうで、両方共さやかにプレゼントする事にしたのだ。

「あ、でもあたし何も返すもの持ってないよ。」
「じゃぁお返しに…さやかちゃんが欲しいな。」
「………あたしが…欲しい…? ………へっ!???」

突拍子も無いまどかの要求にさやかの思考が停止する。

「わたしね、さやかちゃんと二人きりでパーティーしたかったから、今ここに居るんだよ。
 あ、あのね…。さやかちゃんの…こ、ここ…恋人になりたいなぁって…駄目…かな…?」
「こ…ここここここ―――!?」

慌てふためくさやかに対し、ここぞとばかりに目前に迫るまどか。両手を握り見つめる瞳は本気だ。
触れているの手はいつもと変わらない筈なのに、握られただけでさやかは急に胸が熱くなった。
耳元まで林檎の様に真っ赤になってしまったが、
大親友が本気で向けてくれた気持ちを無駄に出来る程、情に疎いさやかではなかった。

「あ…あたしみたいなので…良かったら…いいけど…?」
「えへへ…それじゃ…。好きだよ…さやかちゃん…―――ちゅっ」

身を乗り出すまどか、観念して受け入れたさやか。キスを合図に二人だけのパーティーはこれから始まる。
今は朝の午前九時。少し遅れてしまったが、さやかにも無事クリスマスが訪れた様だ。
冷えたチキンを温め直し、飲み物を開けて二人は宴を楽しんだ。

[遅れて来たクリスマス]

おしまい。思ったより長くてスミマセン;

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最終更新:2012年01月02日 20:24
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