758 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/12/25(日) 22:54:14.62 ID:OZVukUG30 [2/2]
まどさや聖夜SS…なんですがこっちは暗い内容なのでろだです。
状況説明が今一つな気がする…。
年末はもうちょっと明るいお話にさせていただきます。
[Ever Clear Blue]
この世界から鹿目まどかという存在は消えていた。それは彼女の家族でさえも例外ではない。
自分が概念となった時点で理解りきっていたのに、ショックで随分と泣いてしまったのは現在も忘れない。
身寄りの無いまどかは、唯一彼女の存在を記憶している暁美ほむらの自宅に厄介になった。
しかし最初に公園で会った弟のタツヤ…次に母の洵子を切っ掛けに、世界は鹿目まどかを受け入れ始める。
まどかが円環の理を構築してから、気付けば半年以上の月日が経っていた。
短い様でいて、とても長い時間を経てやっと取り戻した日常。
止まっていたまどかの時間はやっと動き出した。
――――たった1つを除いて―――
12月24日。その日は巴マミの自宅でパーティーが行われていた。
夜8時を廻った頃、お開きにはまだ早いというのにまどかは一人席を立とうとする。
「あら?鹿目さん、夜はまだまだこれからよ?」
「…巴さん。こんな日の夜くらいは2人きりにしてあげるものよ。」
「…っと、そうだったよな。」
「みんな…ごめんなさい…。せっかく誘ってもらったのに…。」
祝福されるべき場の空気を淀ませてしまったのが申し訳なく、まどかは頭を下げる。
だが直後、むしろお仕置きとばかりに杏子がまどかの両頬を抓っていた。
「馬〜鹿! そんなシケた面すんなっての!」
「ひょ、ひょうこひゃんいひゃいいひゃい」
手足をバタつかせてまどかは抗議する。
引っ込みがちなまどかを押し上げる役割を、最近は杏子が担う事が多くなっていた。
"足りないもの"は四人共が自覚していたし、敢えてそれを批判する様な事もしない。
このお仕置きは"元気出せよ"の合図。差し詰め妹分を悪戯っぽく扱う類のものだ。
「大切な日なんだ。ちゃんと笑顔で行ってやんなよ?」
「ありがとう、杏子ちゃん! じゃぁ行って来ます!」
………………………♭♭♭………………………
急いで自宅に立ち寄り、デパートで買い物を済ませ、人気(ひとけ)の無い場所を探して駆け出す。
白い息を吐きながらまどかが辿り着いたのは見晴らしの良い公園だった。
「ここなら大丈夫かな…?」
まどかはきょろきょろと辺りを気にする仕草を見せる。
他の誰にも触れる事のできない聖域は、彼女だけに許された不可視の逢瀬なのだから。
祝福すべく選んだ場所は、無数の街頭に彩られた夜の街を一望できる絶景だった。
「さやかちゃん。」
大切な人の名前を呼ぶ。彼女は虚であり、姿形はおろか声や息遣いも認識される事は無い。
本来現実世界の時間軸において、既に生を終えた存在であるからだ。
今存在するのは彼女の思念のみ。拠り所となる器はとうに灰となっている。
不可視となった"彼女"の存在を明確に認識できるのは鹿目まどかだけ。
―まどか―
「やっと2人きりになれたね。」
虚ろな存在に向けた笑顔。誰よりも大切な人を照らしてあげたい笑顔。
しかし彼女から笑顔が返される事は無く、視線を落とした浮かない表情が現れるばかりだ。
―あのさ―
「ん? 何かなさやかちゃん?」
―どうしてあんたは…今でもあたしに拘るのよ…?―
「うーん…そんな事言われても困るなぁ…。
"さやかちゃんがここに居るから"としか答えようが無いよ。」
―――ッ…!! あたしはもう居ないんだよ! 死んでるんだよ!―
―今もこうして…声だって届かないのに…こんなの…こんなあたしなんて…―
さやかの表情は悔しさをかみ殺した悲痛なものだった。
それでも叫ぶ喉元から空気が振動する事は微塵も無い。
「ここに居るよ!!」
―………!―
「さやかちゃんは、ちゃんとここに居るよ。
わたし達の記憶だけじゃない。ちゃんとさやかちゃん自身の意思で居るんだよ?
言葉を伝えようとしてくれたり、考えたり、泣いたり、笑っ…てはくれないけど…。
声は聴こえなくても、さやかちゃんの顔を見てれば何言ってるかちゃんと理解るよ。」
―まどか…。あんたの気持ちは凄く嬉しいよ。―
―でもさ、まどかは今生きてるんだからさ。ちゃんと"生きてる仲間"を大切にすべきでしょ。―
「…さやかちゃんは優しいね…。あのね、ほむらちゃんに言われたんだよ。
こっちに戻ってからしばらくお世話になってて、何回かデートだってした。
でもね、いつも見抜かれてたの。"貴女の心にはいつも美樹さやかが居る"って。
"貴女が本当に大切に想っている人の事を考えなさい"って振られちゃった。
だから今日だって送り出されたんだよ…えへへ…。」
―馬鹿…―
そんなまどかを見てさやかは涙を拭い、今日始めて困惑気味にではあるが笑顔を見せた。
「今日はクリスマスなんだよ。さやかちゃん、ほらほらこっち座って。」
雪が疎らに降り注いだ公園のベンチに座り、2人は肩を寄せ合って座り込んだ。
まどかの片手には、先程デパートで買い付けた白い箱が握られている。
「ケーキ買ってきたんだよ。2人だから小さいのだけど…。」
箱から出てきたのは苺の乗ったショートケーキが二つ。
まどかは1つをさやかの足元に、1つは自分の足元へと置いた。
まどかは次の言葉を発しようとしたが、その前に、さやかの頬から涙が伝い落ちる。
「さ、さやかちゃん…!? ごめんね…そういうつもりじゃなくて…でも、あのね…。」
霊体であるさやかは実体に触れる事は出来ない。それは先程置かれたケーキも然り。
そんな彼女に現実を突き付ける形で傷付けてしまったと、まどかは危ぶんだが杞憂に終わる。
まどかの心中を見透かしていたさやかは首を横に振っていたのだ。
―違うよ…。嬉しくて泣いてるの。―
―こんなになったあたしの為に、今も優しくしてくれてるまどかが。―
さやかははどかの気持ち・愛情だけで嬉しかった。
これが例え現実に負けない為の形式ばったものだとしてもだ。
「当たり前だよ。この世界で一番大切な人の為だもん。その人の為なら、わたしは何だってできるよ。」
さやかの涙は止まらない。それどころかますます溢れ出すばかりだ。
"まどかは必ずあたしが守るから" その誓いが果たされる事は永遠に無い。
まどかの為に何もできない事と、この世界に生存を認められない事が悲しかった。
「さやかちゃん…お願いだから…もう泣かないで…。
…ぐすっ…でも…こんなお願いは…ズルいよね。
わたしなんかより、さやかちゃんの方がずっと悲しいのにね…。」
神様に近い存在となり世界までのルールまで書き換えたのに唯一取り戻せなかった。
それが悲しくてまどかは涙を流す。
―まどかこそ…あたしの為に…泣かないでよ…。―
「……ぐすっ…えへへっ、そうだね!」
まどかは涙をぐっと堪え、目元を拭ってさやかに向き直る。
今日まどかが二人きりになりたかったのは何も泣き合う為ではない。
「わたしからさやかちゃんへの、クリスマスプレゼントだよ。」
どうしても渡したいものがあったから二人きりになったのだ。
この日の為に用意しておいた、自室の机にずっとしまっていた小さな箱。
中から現れたのは一対のリング。一方はピンクの宝石、もう一方はブルーの宝石を冠していた。
――えっ…指輪…!?―
「このままじゃあげられないから、少しだけ魔法使うね。
…わたしさやかちゃんの為にできる事、このくらいしか無いけど…我慢してくれるかな…?」
まどかがピンクの宝石が付いた指輪に口付けすると、それは透き通った様に輝き始めた。
明らかに現実のものではなくなった物だが、まどかは魔力を通して一時的に触れている。
「さやかちゃんにあげるこっちの指輪だけ霊体にしてみたの。左手出して?」
―左…? ってあんたまさか…!?―
「えへへ。勿論填めるのは…ここだよ…!」
左手を出してから気付いたさやかは狼藉する。
ピンクの宝石が散りばめれれた指輪は、霊体であるさやかの薬指に填められた。
「これでさやかちゃんはわたしのものだよね♪
それで、こっちの青いのが…」
まどか自ら右手で指輪を持ち、今度は自分の同じ場所に填めようと試みる。
だが…
「さやかちゃん…?」
―じゃぁさ、あたしにも填めさせてよ?―
まどかの右手にはさやかの右手が添えられていた。本来はさやか自身の手で指輪を納めたいがそれは出来ない。
ならせめて形だけでも伝えさせて欲しいんだ、とさやかの目が訴える。
「ありがと、さやかちゃん。やっと嬉しそうに笑ってくれたね。」
―え…? あ…うん…。―
さやかの手が指輪を誘う様に動く。導かれるのは指輪を持ったまどかの右手。
まどかが望んだ聖夜への願い、それは指輪の交換。
さやかの指にはピンクの、まどかの指にはブルーの指輪がそれぞれ輝いている。
―まどか―
「えへへ…///」
熱も音も無い静かな誓いのキス。静かに、ただ静かに絡めあう二人。
誓いのキスは現実の暖かさこそ無いものの、心の隙間に凍え続けていた二人を幸福感で満たすには十分だった。
「さやかちゃん、今日からはうちで一緒に暮らそうよ。今はちゃんと居場所があるんだ。」
―えっ…でもあたし邪魔にならない…?―
「むぅ、そんな事無いよ。さやかちゃんが居ないとわたし、寂しいよ…?」
―ぅっ…。―
ややオーバーに目をウルウルさせるまどかにたじろぐさやか。
例え霊体であってもまどかの押しには弱いらしい。
「だからね、その居場所をさやかちゃんに分けてあげたいなぁって。
いいよね? 答えは聞かないけどっ♪」
―あははっ…。もう…しょうがないなぁ、あたしの嫁は。―
「さやかちゃん、大好き♪」
その日からまどかのベッドには毎晩青髪の天使が添い寝をする様になった。
神様に射止められたたった一人の思念は、神様を守護する天使となる道を選んだのだ。
………………………♭♭♭………………………
「鹿目さん、その指輪…!」
「どうやら上手く行ったみたいね。」
「んー…でもまどかって言うとピンクとか赤系のイメージがあるけどなぁ…。」
「甘いわね杏子。何故まどかがブルーの指輪なのか私はよく理解るわ。」
「え???」
「ふふふ、そういう事ね…。若いっていいわね、羨ましいわ♪」
「巴さんも一つしか違わないでしょ。」
「え…!? 何だよ、理解んないのアタシだけかー!」
まどかは指輪を填めた左手を大事そうに嬉しそうに抱きしめた。
「えへへ…♪ さやかちゃん、ずっと一緒だよ。」
魔獣退治に赴く四人の後ろには、いつも青髪の天使が見守っている。
その左薬指に煌めくピンクの指輪と共に。
[Ever Clear Blue]
おしまい。
最終更新:2012年01月02日 20:59