21-14

14 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/02/11(土) 01:00:28.41 ID:xtsz/WpF0 [2/6]
ちょっとフライングですがバレンタインのお話です。
たぶん当日に来れないのでうpれるうちに。

http://ux.getuploader.com/madoka_magica/download/318/act4.txt
間違えてパス設定してしまいましたが特にR18とかではないです。
パスは[melty]。
こんなですがバレンタインネタの参考になるようであれば幸いです。


「今月はバレンタインか…。あたし今まで何やってたんだろ…。
 なんか痛い思い出だよなぁ…。」

カレンダーを捲りながら美樹さやかは一人呟いていた。
この時期になるとさやかは毎年のように上条恭介への贈り物を考えていた筈だ。
だが今年のバレンタイン、彼には既に志筑仁美という彼女がいる。

「(本命のつもりで毎年買って渡してたけど…今年はもう必要無いんだよね…。)」

なかなか自分の気持ちを言い出せず、周囲のイベントに任せて伝えようとした恋も今では夢の後。
さやかはいい加減自分の未練を拭い去る為、思い出の品を処分しようと古い引き出しを開けていた。
普段あまり開ける事の無かったそこからは幼少の頃から恭介から貰った物が幾つも見当たる。
全て闇に葬ってしまえばこの重い気持ちも少しは楽になるだろうか?
そんな事を考えていた矢先、さやかは自分の記憶に覚えの無い古い包みを発見したのだった。

「(何だろ、これ…?)」

フォトフレーム程の大きさの青いリボンで包装された箱。
プレゼントの様な上品な仕立てであっただろうそれは、時間の経過により見る影も無く薄汚れていた。
窓を開けて埃を払い除け、とりあえず包みを開放する。

「(随分古いのだなぁ…。)…これって…チョコ!?」

中から現れたのは古びたハート型のチョコレートと一枚の手描きの紙切れだった。
ピンク色の蛍光ペンで[さやかちゃんだいすき]とだけ書かれたそれは紛れもなく親友鹿目まどかの字である。
市販の物であろうこのチョコレートは、箱に印刷された製造年月日を見ると四年も前のものだった。

「―――!! ………あの子…」

今まで自分が歩んできた世界をひっくり返された、そんな感覚がさやかを襲う。
まどかと出会ったのは小学五年生の時。
転んで泣き出した彼女を助けて、仲良くなって、いじめっ子から守ったあの頃。
このチョコはその年の冬のものだろう。
青い包装はさやかへのイメージ、ピンクの文字はまどか自分の言葉…というのは少々勘繰り過ぎか。

「(なんで…文句の一つも言わないのよ…。
 ずっと傍に居てくれたのに、あたし…見向きもしないで…最低だよ…。)」

彼女の無邪気な笑顔が思い浮かび、さやかは酷く自己嫌悪した。
親友の想いを四年間も置き去りにし、別の想い人の為の買い物に度々付き合わせた…
そんな自分の無神経さが許せないのだ。
それでもいつも健気に自分を慕い、後を付いて来てくれたまどか。
彼女の気持ちを握り締めたままさやかは立ち上がっていた。
さやかの胸の中にも、放り出そうとしていた大切な感情が再び蘇りつつあったのだから。

………………………………♭♭♭………………………………


[4年越しのバレンタイン]


「今度は上手く固まるかなー?」
「おっ、いい感じじゃないか。これなら大丈夫だろうね。」

鹿目まどかは父と共に手作りバレンタインチョコレートの制作に挑戦中。
お菓子作りの経験がほぼ無いまどかは、湯煎に失敗したり焦げたり割れたりといろいろ大変だったが、
父の手解きでチョコは無事完成に辿り着きそうだった。

「チョコが固まったら上げる人の名前をチョコに書こうか。」
「えぇっ!? チョコに、直接書いちゃうの…?」
「せっかくの手作りなんだから自分の気持ちを込めないとね。
 どんな形に完成させるかはまどかの自由なんだよ。」
「じゃぁわたし、もっといろいろ可愛く飾ってみたいんだけど駄目かな?」
「全然いいと思うよ。それじゃ色付きのチョコペンと飾れそうなお菓子を使おうか。」

初めてまどかがバレンタインに関心を持ったのは小学五年生の冬。
両親に頼んでデパートで購入したごく普通の有り触れたものだったが、想いは幼いながら精一杯込めたつもりだ。
だがその時の相手であるさやかには既に恋する人がいた為に手渡す事は叶わなかった。

今もまどかのさやかへの想いは変わっていない。むしろ友好を重ねた事で逆に強くなっていると言える。
加えてさやかは現在恋に破れた身であり、まどかにとっては絶好の機会でもあった。
四年振りにバレンタインで気持ちを伝えようと父に手解きを頼み、チョコ作りの格闘が始まったのだった。

チョコが固まる前に周囲に小さめのクッキー等のお菓子を填め込み、カラーシュガーを鏤(ちりば)めた。
固まったらピンク、ホワイト、イエローのチョコペンでハートマークを螺旋状に描いてゆく。
そしてチュコレートの中央にはやはり大きくピンクで書いた[さやかちゃん大好き]の文字があった。
土台がブラウンのミルクチョコレートとは思えない程華やかな仕上がりは、まどかの純粋な女の子らしさを象徴しているようだ。

「まどか、終わってもいきなり冷蔵庫に入れたりしちゃ駄目だよ。」
「わわわっ!? は~い!」

暫くこの場を離れていた知久が戻って来た為、まどかは慌ててチョコレートを物陰に隠す。
女の子にとって目当ての相手の名前を親に見られるのは気が引けるというものだろう。
完成した自慢の品を手渡す為、まどかはラッピング用の買い物に出掛ける事にした。

………………………………♭♭♭………………………………

「~~~♪」

買い物袋片手に鼻歌交じりの帰り道。その途中で道路の反対側に見慣れた人影を見つけた。
人影がさやかだと理解るとすぐにでも声を掛けたかったが、まどかにはそれが出来なかった。
さやかの側には佐倉杏子の姿があったからだ。
物憂げな表情のさやかと、彼女の肩に手を置いて何か語り掛けている杏子。

「(あれ…さやかちゃんと…杏子ちゃん…?)」

距離が離れているので会話は聞こえないが、それでもつい気になって物陰から見詰めずにはいられなかった。
車を避けて道路を渡れば会話は聞こえるだろうが、内容を聴くのが怖くてそれも出来ない。
四年前と同じ事になるんじゃないだろうか…そんな不安がまどかの脳裏を過ぎっていた。

「(何だか仲良しさんに見えるのは…気の所為…だよね…。)」

まどかは二人の姿が見えなくなるまで建物の影で見守る事しか出来なかった。
だからと言ってこのまま引き摺ってばかりもいられない。
何せ勝負は既に二日後にまで迫っているのだから。
頭をぶんぶんと振り思考を切り替えながらまどかは帰宅した。

お菓子作りは不慣れなまどかだが、ラッピング等の飾り付けは結構得意だったりする。
パステルブルーのチェックの包装紙に、やや濃い青のレースのブルーのリボンを結んで完成。
同系色ながらも色の強弱が効果的な仕上がりだ。
手渡す準備まで完了したそれを眺めているだけで嬉しさが込み上げ、先程までの不安は吹き飛んでしまう。
さやかがどんな顔で受け取ってくれるのだろうか、どんな言葉で照れてくれるのだろうか。
そんな四年振りのバレンタインへの期待を夢見ながらまどかは眠りに就いた。

………………………………♭♭♭………………………………

―バレンタイン当日―

朝の通学路。まどかはいつも通りにさやかに会おうと早めに家を出た。
先に待ち伏せしていればすれ違う事も無いだろうから。
住宅街を出る角を曲がりいつも出会う場所で相手を待つ。

だがまどかの思惑は外れ、そこに既にさやかの姿を見つけてしまった。
昨日一緒に歩いていた佐倉杏子と共に。

「はい、これバレンタインね。」
「おう!サンキュー!」

「―――!!」

ごく当たり前の様にチョコを手渡すさやか。
昨日脳裏を過ぎった最悪の可能性…無常にも現実はまどかの希望を粉々に打ち砕くものだった。
さやかの求める相手は自分ではなかった…ただそれだけが目の前にある光景。
傷心のまどかは思わず壁を背にして十字路の影に隠れていた。胸に自分の想いを抱いたままで。

「(嘘…だよね…。さやかちゃんが…杏子ちゃんにチョコ渡してる…。
 こんなの…こんなのあんまりだよ…。)」

このままここにいたら居た堪れない気持ちで泣き出してしまうだろう。
まどかは二人に気付かれる前に、ろくに前も見ないで何処(いずこ)へと走り去っていた。

………………………………♭♭♭………………………………

「ほい、ほむら。バレンタインチョコね。」
「………?!!!(さやかが私にバレンタインチョコを…!?)
 こ、これは一体どういう風の吹き回しかしら…!?」

いつも通り通学途中にすれ違った時の事だった。
ほむらにとってあの美樹さやかが自分にバレンタインチョコを渡すなど前代未聞の緊急事態である。
嘗て何度も仲違いし敵視されたであろう相手が、自分に愛の証を受け取って欲しいと笑顔を向けて来たのだから。

「何だかんだであんたにはいろいろ世話になったからね。」
「なっ…わ…私は別に…!(う…嘘でしょ…? さやかが…私に…!??)」

ほむらは顔が急激に熱くなってゆくのを自分でも感じていた。
元々内気な上に病院暮らしが長かった為、まともにバレンタインを経験した事などない。
加えて初めて渡された相手が自分より背の高いさやかだからだろうか?
周囲の女性よりやや男性的な雰囲気を持ち併わせる彼女だからだろうか?

「(どうして…どうしてさやかがこんなにカッコ良く見えるの!?
 私…胸がドキドキしてる…!こんなの絶対おかしいわ!)」

頭を抱えぶんぶんと振りながら苦悩するほむら。
脳内は色々と大変な事になっている様だ。
だが面倒見の良いさやかは、目の前で取り乱す彼女を気遣わずにはいられない。

「ごめん…そういやほむらって甘いの苦手だっけ…?」
「えっ!? う、ううん! 全然そんな事ないわよ!」

さやかに悲し気な表情を向けられ、それすらも儚く可憐に感じてしまう。
沸騰しそうになっていたほむらは慌てて何とか取り繕うとしていた。

~~~~~~~~~以下、ほむら妄想~~~~~~~~~

「私…こんな形でしか気持ち、伝えられないんだ。
 ほむら…これ、受け取ってくれるかい?」

いつもより凛とした視線が私を見下ろしている。
浮かび上がる笑顔は紛れもなく私だけに向けられたものだ。

「駄目よさやか…私にはまどかが…」
「ほむらは、苦い恋は嫌いかい?」
「えっ…?」

いつの間にかさやかとの距離がぐっと近付き、
吸い込まれる様な淡いブルーの瞳が私を捉えて離さない。
初めて正面から至近距離で見詰められて私は彼女に魅入っていた。
今まで気付かなかったけど…さやかってこんなに睫毛長かったのね…。

「恋は甘さだけじゃない。苦味だって必要だと思わない?」
「う、うん…そうね…。苦い恋も…嫌いじゃないわ。」

口で苦味だとは言うものの、さやかが語るその真意は真逆。
甘く蕩けるような言葉に私は逃げ場を失い、次第に彼女の虜になってゆく…。

~~~~~~~~~妄想終了~~~~~~~~~

「さやか…その…あ、ありがと…。」

妄想が醒め切る前にほむらはチョコをそそくさと受け取っていた。
耳まで真っ赤になってしまった顔を受け取った包みで隠しながら、小さな声でお礼を呟く。
自分だけに向けられた笑顔がとても愛くて嬉しくて手放したくない気持ちで一杯だ。

「(だって…だって…! バレンタインチョコなんて貰ったの生まれて初めてなんだもの!
 ごめんなさいまどか。私…私…!)」

心の中の謝罪はまどかを友達として一途に愛せなかった事へのものだろう。
俯きながらニヤける顔を必死に隠すほむら。
頭からはぷしゅ~と音を立てて煙が出ている。だが………

「マミさん、これバレンタインチョコです。」
「」(ピシッ)

ほむらは思わず石の様に固まってしまった。

「あら、ありがとう美樹さん。あれから結局全員分作っちゃったの?」
「いやぁ~、チョコ作りに慣れてきたらハマっちゃいまして。
 一人でも思ったより上手く出来たんで、みんなにも手作りですよ。」
「へぇー、アタシらの義理チョコまで手作りなのか。
 有り難いけど何か返さねぇと申し訳ない気がするな…。」

後から現れたマミにも似た感じの包みを普通に手渡す姿を見て、
ほむらはあっさりと現実に引き戻されてしまった。
よく見ると杏子も既にさやかから貰ったと思われる包みを手に持っていた。

「(ぎ…義理チョコ…だったのね…。)」(ホムガーン!!)

杏子達の会話を聴く限り、この場の三人に手渡されたのはあくまで義理だったらしい。
ほむらは落胆を隠せず肩をがっくりと落としていた。

「プププ…ほむらの奴、今一瞬トキメいてたよな?」
「うぅぅぅっ…さぁ~やぁ~かぁ~っ! よくも乙女の純情を弄んだわねー!」
「へっ!? あのー…何の話っすか…???」

先程とは別の意味で顔を真っ赤にして猛抗議するほむら。
事情を知らずに一方的に本命だと思い込んだ、もしくは心の何処かでそう願っていたのか。
一瞬でも心奪われた自分が恥ずかしくてさやかをポカポカと叩いていた。

「なぁ、それより肝心のまどかはどうした?
 いつもこの辺りで待ち合わせるんだろ?」
「おっかしーなー…そろそろ来る頃なんだけど…。」
「ねぇ美樹さん。私さっき逆方向に走って行った鹿目さんを見た気がするんだけど…。」
「ええっ!??」
「…じゃぁ手分けしてまどかを探すしかないな。」

………………………………♭♭♭………………………………

「(嘘だよ…こんなのってないよ…。さやかちゃん…さやかちゃん…。)」

通学路などとうに外れている事にも気付かずまどかはひた走っていた。
目の前に接近していた相手にも気付かず、"ドン"という音と共に衝撃が奔り、身体はあらぬ方向へと傾いてしまう。

「痛っ!!」
「すみません!!」

曲がり角ですれ違った自転車と軽く衝突してしまったらしい。
轢かれた訳ではないので大きな怪我はなかったが、まどかが両手に抱きかかえていたものが見当たらない。

まどか「あ、あれっ…チョコは…!? あった!」

ラッピングした箱は道路脇に投げ出されており、まどかは慌ててそれを拾い上げる。
だが激突した衝撃で箱は拉(ひしゃ)げて開いてしまい、壊れた部分からは箱の中に割れたチョコが覗いていた。

「(嘘…! チョコが…割れちゃってる…!!)」

痛々しく二つに割れた[さやかちゃん大好き]の文字。
それはチョコ自体が割れた事よりも、ラッピングした箱が壊れた事よりもまどかにとって大きなショックだった。
恰(あたか)も自分の伝えたかった想いがそうなってしまった様で、思わずその場にへたり込んでしまう。

「………ぅぅ……ぅぅぅっ…わぁぁぁぁん…!!」

まどかは人目も憚らず泣き喚き出してしまった。
同時に脳裏に未だ忘れられない悲しい記憶が思い浮かぶ。

………………………………♭♭♭………………………………

―四年前、美樹さやか宅―

「(さやかちゃんにチョコ渡さなきゃ…)」(ゴソゴソ)
「恭介!バレンタインチョコあげる!」
「ありがとうさやか!」
「(がーん!)」
「ん? まどか何持ってるの?」
「な、何でもないよぉ…」(ササッ)

まどかは持っていた包みを慌てて後ろ手に隠していた。
気付かれるのが怖くて、慌てて近くにあった引き出しに隠した臆病な自分。
あの日渡せなかった勇気の無い幼い頃の自分は今も同じで………

………………………


………………


………


………………………………♭♭♭………………………………

「やっと渡せると思ったのに…せっかく上手く作れたのに…ぐすっ…ひっく…」

四年経った今でも同じように逃げ出し、挙句の果てに割れてしまった片想いの恋。
まどかは座り込んだまま嗚咽を堪える事も出来ず泣きじゃくっていた。

そんな彼女に手が差し伸べられる。見滝原に転校して来た四年前と同じように。
見上げるとそこには見慣れた大好きな人の優しい笑顔があった。

「………ぁ…」
「来るの遅いから心配したよ。何泣いてんの?」

彷徨っているうちにいつの間にか元来た通学路の近くに戻っていたらしい。
だがまどかは差し伸べられた手を取る事が出来ず、自力で立ち上がると再び逆方向に駆け出そうとした。

「…っ!!」

想いの込めた末路である、手元の無残な姿を見られるのが嫌だった。
腕の中にそれを隠したまま、涙を振り切ってまどかは逃げ出した。

「ちょ、ちょっと何処行くのよ!? 渡すものあるんだけど…」
「えっ…!?」

渡すものがある、そう聞いてまどかは立ち止まり振り返った。
追い付いたさやかは四年前に恭介に手渡した時と同じ顔で、
ラッピングされたパステルピンクの箱をまどかに手渡していたのだ。

「はい、まどかの分ね。
 あっ…言っとくけどこれ本命だからそこんとこ宜しく!」
「ふええっ!?」

慣性のまま受け取っておきながらも目を丸くするまどか。
同時に"本命"という言葉の意味に、まどかの驚きは幸福感へと変わってゆく。
ラッピングされた箱は先程杏子に渡したものより一回り大きく包みも長方形の箱だ。
照れ隠しで頭を掻きながら、さやかは赤面した不器用な笑顔をまどかに向けていた。

「ん? ところでまどか、あんたその手に持ってるのは…?」
「あっ…! その…さっき転んで…壊れちゃって…。」

さやかは未だまどかの手の中にある潰れた箱を見て尋ねる。
しょんぼりしながらも観念した様子で、まどかはその箱をおずおずと差し出した。
半開きの箱を開けると、中から現れたのはデコレーションが施された板状のハート型チョコレートだった。

割れながらもチョコにはっきりと見える[さやかちゃん大好き]の文字を見てさやかは安堵する。
まどかの気持ちが四年前と同じだと知ったのだから。
せっかく箱を開けたので、さやかは割れた一欠片を手に取り早速口に運んだ。

「おいしいよ。よく出来てるじゃん。」
「ほ、ホント…!?」

壊れたチョコも割れた文字も関係なかった。
さやかに受け取って喜んで貰えたのが嬉しくてたまらず笑顔が零れる。
どうやらチョコは割れてもまどかの恋までは割れていなかったらしい。

「あ!二人ともいたわ! まどか!さやか!」

同じくまどかを探していた他の三人も無事合流していた。
まどかが見渡すと、杏子、マミ、ほむらの手には同じ大きさで色違いの包みがある。
今までの経緯で考えると恐らくさやかに渡されたものなのだろう。

「おっ? その面だとまどかにも無事渡せたみたいだな。」
「美樹さん、そのチョコは…鹿目さんからよね?」

さやかの手の中には壊れた箱と割れたチョコレートがある。
杏子とマミは何故か事の成り行きを前もって知っていたかの様に二人の顔を見ていた。

「はい、まどかからもちゃんと貰えましたよ。」
「わたしが転んで割っちゃったんですけど…。」
「何か書いてあるわね………[さやかちゃん大好き]…。」
「わわわっ!読んじゃやだー!」

割れたチョコを見て文字を恨めしそうに読み上げたのはほむらだ。
まどかは真っ赤になって隠そうとするが既に手遅れである。
告白(?)のメッセージはしっかりと全員の視界に納まっていた。

「わ…わたしもさやかちゃんの開けてみてもいい?」
「いいよ。実はさ…」

………………………………♭♭♭………………………………

―数日前/巴マミ宅―

「………………。」

大きな鍋の中では容器二つが同時に湯煎に掛けられていた。
マミの指導の下、温度計を頻(しき)りに確認しながら調理しているのはさやかだ。
後方では杏子が椅子の背もたれに顎を乗せたまま興味深気に静かに見詰めている。

「先にミルクの方を上げましょう。
 慌てないで。イチゴは少し沸点が高いから終わってからで大丈夫よ。」

さやかはマミの指示通りに一つ一つ慎重に工程を進めてゆく。
それぞれ湯煎を終えたホワイトチョコとイチゴチョコを、一つの型の中へ左右から同じ量だけ流し込む。

「いい感じね。それじゃ真ん中を少し匙で混ぜましょう。本当に少しだけよ?」

匙で中央付近を軽くかき混ぜただけでは白とピンクの二色は完全に混ざりきらない。
しかしこれがマミの狙いであった。

「そうそう…上手く混ざったわね。ここまで温度も完璧だし、あとはこのまま固まるのを待ちましょう。」
「うおっしゃぁ~!! やっとここまで来たー!!」
「なぁマミ。ツートンカラーになっちまったけどこのままでいいのか?」
「敢えてそうしたのよ。完全に混ぜちゃったら二色使った意味が無いでしょ?」

ピンクとホワイトはっきりとそれぞれの色を残したままで溶け合っている。
軽く混ぜた事によって境目は見事なマーブル模様を生み出していた。

「いや~、しっかしこんな綺麗なのをあたしが作れるなんて思いませんでしたよ。」
「タイトルは[Melty Hearts~溶け合う二人の愛~]よ。」
「…何だよそりゃ…。」
「白い方が美樹さんでピンクの方が鹿目さんってイメージなんだけどどうかしら?」
「ちょっ!作らせ終えてから恥ずかしい事言わないでくださいよ!!」
「へへへ、いいじゃんか。いつかはこの模様みたいになるんだろ~?」
「ぅぅー…。」

にやにやと悪戯っぽく笑う杏子に脇腹を小突かれ赤面するさやか。
マミは自分の命名した名前に恥じる様子もなく二人を微笑ましく眺めていた。

「美樹さん。貴女がこうして私にお願いしてきた理由(わけ)、自分でも気付いてるんでしょ?」
「あたしはただ…まどかの気持ちに応えてあげたくて…。」
「違うだろ。女同士だからとか、良い加減そういう言い訳は捨てなよ。
 惚れたんだろ? アンタをずっと大切に想ってくれてた奴にさ。」
「…うん、そうだね…。あたしきっと…好きなんだ…傍に居たいんだ。
 女同士とか…そんなのは関係ない。
 ただ…気付いたのが遅過ぎるのかもしれないけど…。」

………………………………♭♭♭………………………………

箱から現れたのは綺麗に角に丸みを帯びたハートの型抜きチョコレートだった。
ホワイトとピンクの境界線は中央で抱き合う様に螺旋を描きながら重なり合っている。
その上に改めて中央に白文字で浮き彫りのようにMADOKAと書かれていた。

「わぁ…ハートの中で白とピンクが混ざってる…!綺麗…。」
「そりゃもうマミさん直伝の技だからねー。」
「最初はチョコ固めるまですらも酷かったけど上達するもんだよな。
 アタシも毒見のし甲斐があったってもんだ。」
「毒見言うなー!」
「美樹さんは元々自分でお料理してたから飲み込みが早いんだもの。
 つい色々教えたくなっちゃうわ。」
「えっ?えっ???」

話の経緯と場の状況が飲み込めないまどかは、マミと杏子に対し繰り返し視線を向けていた。

「美樹さんはね、鹿目さんにあげるチョコを作りたいって言って私に頼んで来たのよ。」
「んでマミの家で美味そうな匂いがしたから邪魔させて貰ったんだ。
 まぁアタシは食ってただけだけど。」
「でも失敗したのを殆ど処理してくれて助かったけどね。」
「普通こういうのを練習しながらだと、大概は産廃の処分に困るのよね~。」

和気藹々と説明するさやか、マミ、杏子の三人。
マミはワザとらしく頬に手を当ててアンニュイな表情でおどけていた。
要するにマミがさやかに教え、杏子は失敗作を食べていたという訳だ。

「なぁ聴いてくれよまどか。さやかの奴心配性でさー…」

………………………………♭♭♭………………………………

マミ宅からの帰り道、さやかはバレンタイン直前にも関わらず不安そうな顔だった。

「まどか…怒ってたらどうしよう…。
 四年間も超鈍感だったんだよね…また振られたらやだな…。」
「だ~い丈夫だっての! 今更怖気付いてどうすんだよ。
 今までずっと親友でいてくたんだろ? そんな奴が怒ってる訳ないよ。」
「…そうかな…?」

物憂げなさやかの肩に手を置いて励ます杏子。
杏子の言葉を受けてさやかは少し元気を取り戻したようだ。

………………………………♭♭♭………………………………

「つーかアンタら普通に両想いじゃん? 心配して損したよ。」

ケタケタと笑う杏子を見て、まどかは勘違いで嫉妬していた自分が恥ずかしくなった。
寧(むし)ろさやかを後押ししてくれた彼女に対して申し訳ない気持ちで一杯だ。

「(杏子ちゃん…あれはさやかちゃんを応援してくれてたんだね…。)」
「ごめんまどか、ずっと気が付かなくて…。
 この前うちで随分古いのを見つけたよ。」

さやかはポケットから数日前に見つけた古いチョコに入っていた紙切れを取り出す。
[さやかちゃんだいすき]と書かれた文字はまどかの身にとても覚えのあるものだった。

「さやかちゃん…! そ、それ…!?」

まさか今更そんな物を持ち出されるとは思いもせずまどかは慌てふためく。
忘れもしない四年前の片思いの言葉。
季節に埋もれ埃に塗(まみ)れたは言葉は今、願い通りさやかの手に渡っていたのだ。

「あの時は…その…上条くんがいたから…やっぱり渡さない方がいいかなって思って…。
 見つかるのやだったから…すぐ近くにあった引き出しに隠しちゃって…。」

まどかは両人差し指の先をつんつんと合わせながら、恥ずかしそうに上目遣いでさやかを見上げている。

「そうだったんだ…。でもさ、今はこうして…お互いに気持ちごと交換出来たんだよね。」
「えっ…? あっ…それって…!?」
「随分遅くなってごめんね。
 今更親友に対して言うのもなんかあれだけど…
 これからは…"恋人同士よろしくお願いします"って事でいいかな?」
「…ぐすっ…。さやかちゃぁ~ん!!」

まどかは嬉し涙と共にさやかに抱き付いていた。
そんな一途なまどかを抱き返しよしよしと頭を撫でてあげるさやか。

「(それにしても鹿目さんらしいわね。
 伝えたい言葉は小さい頃と全然変わってないなんて。)」
「(いいんじゃんか、幼馴染らしくてさ。)」

(にしし)(ふふっ)
二人を見ながら杏子とマミは作戦大成功とばかりに顔を見合わせるのだった。

「…ところでまどか…。私に…義理チョコは…?」
「えっ…?」

ここまでずっと黙り込んでいたほむらが漸く口を開いた。
ニコニコ顔で自分を指差しながら私、私、私、とアピールを続けている。

「………。…えっと……あの………ご、ごめんほむらちゃん!」
「」(ホムガガーン!!)

両手を合わせてごめんなさいのポーズを取るまどか。
どうやら手作りチョコと格闘していたまどかの頭の中は、さやかの分だけで手一杯だったようだ。

「暁美さん的には…せめて義理くらいは欲しかったところね…。」
「いいわよいいわよ!さやかに貰ったから淋しくなんてないんだからぁぁぁぁ!!」

目に涙を浮かべて胸元のチョコをひしひしと抱きしめるほむら。
目当ての人とは違うものの、生まれて初めて貰ったバレンタインチョコは満更でもないようだ。

「おいおい…あんまりやってると溶けるぞ。」
「暁美さん、今日は放課後三人でお茶会をしましょうか。」

………………………………♭♭♭………………………………

まどかとさやかを残してマミはほむらを宥めながら一足先に学校へ、
杏子はバイトの為に隣町へと戻って行った。
ここからは想いが通じ合った二人だけの世界だ。

「さやかちゃん、さっきのチョコホントに大丈夫だった?」
「甘くてテンパリングもばっちしみたいだよ。ほら、まどかも食べてみなよ。」
「うん。…えっ? さやかちゃん何して…んむっ!?」

だがまどかに手渡すのではなく、さやかは自ら口に含んだ欠片を口移しでまどかに食べさせた。

「…甘い…」
「でしょ?」
「…さやかちゃんの味がする…。」
「そっちかい! もう、作ったのまどかでしょー。」

"さやかちゃんの味"いう自分の台詞に後で恥ずかしくなってしまうまどか。
一方さやかもツッコミで紛らわせたつもりだが、結局は二人共真っ赤だった。

「それじゃ、さやかちゃんのも食べてみるね。」
「あ…うん。」

そう言ってまどかは、やや厚みのある二色のチョコを小さな口でかじると口一杯に甘みが広がる。
まどかの嬉しそうな顔を見れば言うまでもなく一目瞭然だった。

「ミルク味とイチゴ味だぁ…美味しい…!」
「よかった、まどかの口に合ったみたいで。」
「ピンクがわたしで、白がさやかちゃんだったら嬉しいなって…。」
「ぶふぉっ…! マミさんにも同じ事言われたよ。」
「えへへへ…。」
「んじゃ、ちょっと駆け足で学校行こうか。続きは放課後ゆっくり食べよ?」

二人は指を絡めたまま、所謂恋人繋ぎで学校へ向かう事にした。
今日は知り合いに遭遇しようとも茶化されよう共この指を解きはしないだろう。

………………………………♭♭♭………………………………

朝の教室の一角では数人の女生徒がヒソヒソと内緒話に興じていた。

「(ねぇ…あんなにニコニコしてる暁美さん始めて見たよ。)」
「(さっきからプレゼントっぽいのを見詰めて笑ったり悩んだりしてるよね。)」

彼女達が呟く視線の先は、まどか達より一足先に教室に着いたほむらだった。
今までのクールな暁美ほむらからは想像し難い仕草である。

「ふふっ…♪(さやか…)―――はっ!!」(ブンブンブン!)

さやかに貰った義理チョコと眺めて嬉しそうな顔をしたかと思えば、
慌ててそれを降り払う様に頭を振り自分自身と葛藤している。

「(駄目よ駄目よ私! まどかの恋路を邪魔してどうするの!)
 (でも…嬉しい…)…えへ…―――ってほむぅぅぅっ!!」(ブンブンブン!!)

幸せと苦悩と繰り返すほむらは周囲の注目にも気付いていない。
初めてのバレンタインは彼女にとって魔法より大きなものだったらしい。

………………………………♭♭♭………………………………

「ヒュー、美樹と鹿目は相変わらずラブラブだなー。」

暫くしてまどかとさやかも教室に到着した。
指を絡ませたまま教室に入って来た二人を見て、早速男子生徒の中沢がちょっかいを掛けて来る。
今まであれば悪ふざけの混じったやり取りが行われる所だが今日は違う。

「そうよ。あたし達はチョコの交換までした恋人同士なんだから。」
「!!?? 何……だと……?」

怒りも怯みもせず得意気にどや顔を返すさやか。
逆に中沢はショックで口をあんぐりと開けたまま微動だにしなくなった。
さやかは荷物を席に置き、まどかに視線を戻すと耳元に顔を寄せて囁く。

「(まどか。今まで冷やかして来た男子共に見せ付けちゃおうぜ?)」

返答を待つより先に右手は腰に回され、左手は躊躇なくまどかの顎を持ち上げる。
射抜くような眼で捕らえられたまどかは抵抗出来ない。
いや、正確にはするつもりも無いのだが…。

「さ、ささささやかちゃん…!?///」

視線を合わせられ、誘われるまままどかはゆっくりと吸い込まれてゆく。
触れるべき場所を定めれば、後は目を閉じて温もりが触れるのを待つだけだ。

「うぉぉぉぉ!?///」
「きゃぁぁぁ~っ!!///」

二人が重なると同時に教室全体に男女問わず歓声が広がった。

「キマシタワー!禁断の恋ですわー!」
「リアルで百合が拝めるなんて俺幸せだ!レズ☆ハッピー!」
「畜生ぉ~! よりによって女同士で本命渡しやがってー!」
「いいなぁー…私も女の子でいいから恋人欲しいよー。」
「ううっ…俺、鹿目さんのファンだったのに…。」
「…ぅぇぇぇん…美樹さん…応援してるわ…幸せになってね…くすん…」

顔を赤らめて両手で頬を抑える者、興奮の余り見入る者、嫉妬する者と反応は様々だ。
目を閉じて幸せそうに互いの体温に身を委ね合う二人。
完全に吹っ切れたさやかの前に最早敵はいないらしい。

「まどか、今まで待たせた分はちゃんと幸せにするからね。」
「うん!さやかちゃん…大好き!」

四年越しのバレンタインは願い叶った幸せな日。
これからも甘い日々は続きそうだ。

[4年越しのバレンタイン]

おしまい。

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最終更新:2012年02月28日 00:48
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