372 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/02/14(火) 23:32:23.51 ID:bQxOVgM50 [1/2]
2月14日、バレンタインデー。年に一度の大切な人にチョコをあげる日です。
去年までは、さやかちゃんに誘われて二人で作ったチョコを、パパとたっくんに渡していました。さやかちゃんは、幼馴染の上条くんに渡していたみたいです。
ほっぺに生クリームをつけたさやかちゃんはとても楽しそうで、見ているわたしまで嬉しい気持ちになってしまうのです。
そんな一時が遠いむかしのことに思えるほど、わたしたちを取り巻く環境は変わってしまいました。
さやかちゃんとわたしがキュゥべえと契約して魔法少女になったこと。
元の身体は抜け殻で、わたしたちがソウルジェムにされてしまったこと。
仁美ちゃんが上条くんに告白して、二人は付き合うことになったこと。
たくさんのできごとが重なって思い詰めているさやかちゃんに、なにかしてあげたくて、今年はひとりでチョコレートを作ることにしたのでした。
雨上がりの帰り道、わたしはさやかちゃんの隣を歩いていました。カバンの中には教科書とノート、それにチョコレートの包みが揺れています。
渡すタイミングを見計らっていると、公園の前を通りかかったところで、さやかちゃんの足が止まりました。
呆然と立ち尽くしているその視線の先には、ベンチで寄り添う男の子と女の子の姿。男の子は上条くんで、女の子は仁美ちゃんでした。
「上条くん、これは私の気持ちです。受け取っていただけませんか」
「ありがとう、志筑さん」
その光景を見ただけで、さやかちゃんが今どんな顔をしているのか、わかってしまいました。
声をかけようにも、さやかちゃんの気持ちを考えると胸が詰まり、うまく言葉が紡げません。
逡巡しているわたしの頭に、さやかちゃんからのテレパシーが流れてきました。
「ごめん、まどか。急用おもいだしちゃってさ、あたし先に帰るね」
「さやかちゃん、待って!」
友達がつらい思いをしているのに力になれない、手を伸ばし追いかけることしかできないわたしがそこにいました。
373 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/02/14(火) 23:32:54.16 ID:bQxOVgM50 [2/2]
さやかちゃんはずっと黙ったまま、どこへ向かうともなく、さまよい歩いているようでした。
いつもは、わたしの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるのですが、今はついていくのがやっとでした。
さやかちゃんの目に、わたしは映っていないのです。そのことがとても悲しくて、半ば駆け足でさやかちゃんの背中に追い縋ろうとしたそのときでした。
「あっ!」
足元のでこぼこに気づいたときにはもう遅く、わたしは前のめりに転んでしまったのです。
靴下は破れ、擦りむいた膝からは血が滲み、辺りには投げ出されたカバンの中身が散乱し、チョコレートの包みは水たまりの中に落ちていました。
「まどか?!」
やっと、さやかちゃんが振り向いてくれました。いろんなことがあって、すっかり疲れてしまったわたしは、駆け寄ってきたさやかちゃんに身をあずけることにしました。
さやかちゃんがわたしの膝に手をかざすと、青白くやわらかな光が立ち上り、たちまちに傷は癒えてしまいました。
「ごめん、あたしが振り回したから……ごめんね、まどか」
「いいの……それより、前にもこんなことあったね」
ぽろぽろと涙がこぼれて、さやかちゃんの胸にうずくまったわたしは、せきを切ったように泣いてしまいました。
「これチョコレートだよね……あたしのせいで渡せなくなっちゃって……」
「ううん。ちょっぴり汚れちゃったけど、いま渡せたよ」
そうです。わたしの作ったチョコレートは、さやかちゃんの手の中に。
さやかちゃんも気づいてくれたみたいで、照れくさそうに頭をかきながら、わたしの大好きな笑顔を浮かべてくれました。
「そっか……ありがとね、まどか。ホワイトデー期待しててよ」
「うん、楽しみにしてるね」
一緒にチョコを作れなくても、さやかちゃんと交換し合えるなら、それはとっても嬉しいなって、そんな風に思ってしまうのでした。
最終更新:2012年02月28日 00:59