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729 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/02(金) 21:16:04.87 ID:fQDiz0jH0
 目の前に広がる巨大な渦は、いともたやすく都市を消し去ろうとしていた。
風の咆哮が大気を戦慄かせ、荒れ狂う竜巻が大地を引き剥がし、摂理を無視した力が虚空へと吸い上げる。
色鮮やかなリボンが、赤いフレームの眼鏡が、花を模した髪留めが、宝石を秘めたペンダントが、螺旋の奔流に流れ消えていく。
ただ一つの例外を残して、世界を等しく無へと還すその様はブラックホールそのもの。
 死闘の果てに、最悪の魔女を打ち破ったあたしたちに待っていたのは、絶望という結末だった。

「まどか」

 救済の魔女"Kriemhild Gretchen"。それは、かつてあたしの友達だった。そして、たぶん今も。

 その魔女は、暗がりの舞台で女優を照らすように、あたしの居る場所だけを残して何もかもを飲み込もうとしていた。
あんたって子は、ほんとわかりやすいんだから。
 大きく息を吐き、残り少ない魔力を足元に集め、魔方陣を展開する。余力はないが、飛び跳ねるくらいなら何とかなりそうだった。
ワルプルギスの夜との戦いで負った脇腹の傷口が開き、何かがズルリと滑り落ちていく感触があったが、気には留めなかった。
この先に未来はないから。皮一枚で繋がっていた左手を切り離し、はためくマントを翻して地を蹴り上げる。
どこか遠くで、時を刻む針の音が聴こえた気がした。

 あたしの家族も、マミさんも、杏子も、ほむらも、仁美も、恭介も、誰もいなくなった見滝原の空を駆ける。
魔法陣を展開させては蹴り上げを繰り返し高度を上げていくと、やがて魔女の本体と思しき部位に辿り着いた。
 刹那、四方から無数の枝が飛来し、黒と白のストライプを描きながら、幾重にも重なる分厚い柵を織りなし行く手を阻んだ。
今さらこんなことで怯んだりはしない。右手から錬成した剣を一息に振り抜き叩き斬る。
手ごたえはなく、弾かれた刀身は無残にもバラバラに崩れ落ち―――ずに、蛇のしなやかさで壁に張り付くと、剣先から順に爆散していく。
立ち込める煙の隙間から、衝撃に耐えかねて瓦解していく繭が見えたとき、全身の力が抜けてトリガーから指が離れた。

 そこには、親友の意思など欠片たりとも感じさせない純然たる魔女にして、この星を食らい尽くす敵が在った。
それ以上のものを望んでなかったわけじゃないけど、どうしようもないって気はしてたから、力なく魔女に笑いかける。

「あたし才能ないからさ、うまくやれないかもしれないけど、最後までつきあうよ」

魔力を失った身体は崩れ落ち、姿形を維持できずに朽ち果て、飛沫を経て、青く輝く粒子となり、あたしは。

「ねえ、まどか」

奇跡も魔法も使い果たした、漆黒のソウルジェムを解き放った。

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最終更新:2012年03月12日 01:04
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