3 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/06(火) 18:49:45.07 ID:RMQzANea0 [1/3]
さやかちゃんがそのことを言いだしたのは、昨日のことでした。居間のテーブルに頬杖をついて思い悩んでいるふうなさやか
ちゃんを見かけたわたしは、さやかちゃんに声をかけました。
「どうしたの? さやかちゃん」
声をかけられて振り返ったさやかちゃんは、ちょっと照れくさそうに笑って言いました。
「いや、あたしさ、まど界来てからこうして専業主婦やってるわけだけど、せっかくだから昼間の暇な時間にお店でもできないかなって思って」
「えっ!?」
その言葉は、わたしにとって聞き捨てならないものでした。なぜなら、まど界一のイケメン美少女(※神様の感想です。個人差が
あります)のさやかちゃんがお店を始めたなんて聞いたら、まど界中の魔法少女や魔女がやってくるでしょう。そして、宇宙一
王子様の似合う女の子のさやかちゃんの目の眩むようなかっこよさ(※神様の感想です。個人差がry)に恋に落ちてしまう子が
続出してしまいます。そしてゆくゆくはさやかちゃんを囲んでさやかちゃんに恋した子たちによるハーレムが出来上がって、
わたしがさやかちゃんを一人占めできなくなってしまうに違いありません(※くどいようですが神様の感想ですry)。
「ここだったらたいていのお店とかは、まどかの力で簡単に実現できるじゃない? だから小さい時の将来の夢とか思い出して、
やってみたいお店とか考えてたんだけど、いざなんでもできるとなると迷っちゃって」
「そ、そう……」
「例えば、こんなの考えたんだけど……」
さやかちゃんが夢あふれる口調で次から次へとアイディアを出してきます。わたしはそれを一語一句聞き漏らさないように記憶に
とどめながら、善後策を考えていました。さやかちゃんはかなり乗り気になっているようで、お店はやめてと言っても聞き入れて
くれそうにありません。「さやかちゃんがモテモテになってわたしから離れていっちゃうのがいやなの」と正直に理由を言った
ところで、「あたしがモテモテに? ないない! そんな心配いらないよ! あたしそんな美少女とかじゃないし、まどかを
さびしがらせたりしないからさ」と一顧だにしてくれないでしょう。まったく、道を歩くだけで並み居る女の子を片っ端から
落としてしまう自分の魅力に露も気がつかないさやかちゃんの鈍感さにも困ったものです(※神様の感想ry)。
「こんなとこなんだけど、まどかは何がいいと思う?」
「うーん……ちょっと、考えさせてね。できるものとできないものがあるから」
「そうなの? まあ急ぐようなことじゃないし、あたしもゆっくり考えるとしますかね」
できないものがあるというのは嘘で、さやかちゃんのアイディアはどれも簡単に実現できるものでした。けれど、わたしには
一旦時間が必要でした。こうなったら、なるべくさやかちゃんに落ちる女の子が少なくなるようなお店をやってもらうしか
ありません。わたしは、どんなお店ならその危険が一番少ないか、相談しにいくことにしたのです。
翌日、お勤めを終えたわたしは家に帰る前に寄り道をして、その家のドアを叩きました。
「織莉子さん織莉子さんっ!」
幸い、織莉子さんはすぐに出てきてくれました。
「あら、お久しぶりです神様。今日はどうかなさったんですか?」
「あのね、さやかちゃんがかくかくしかじかで何かお店やりたいって言いだして……」
「はい」
「それで、わたし心配なんです! さやかちゃんがお店やること自体はいいんだけど、まど界でさやかちゃんがお店出したなんて
聞いたら、お客さんがいっぱい来ますよね? それで、その中にはさやかちゃんのこと好きになっちゃう子も絶対いて……」
「ああ、なるほど。さやかさんは歩くフラグ製造機ですものね」
「だから、そういう子が出ないようなお仕事を予知して教えてほしいんです! さやかちゃんがやりたいお仕事はだいたい聞いてきましたから!」
「ええ、いいですよ。とりあえず上がってくださいな」
4 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/06(火) 18:50:41.25 ID:RMQzANea0 [2/3]
織莉子さんの家のテーブルに向かい合って座りました。織莉子さんが早速聞いてきます。
「お店というと、例えばどんなものです?」
「一番やりたいのが喫茶店らしいんですけど……」
「なるほど。では、ちょっと待って下さいね」
織莉子さんは頭に指を当てて軽く目を閉じ、さやかちゃんが喫茶店を開いた場合の未来を予知してくれています。固唾を飲んで
それを見守っていたわたしに、織莉子さんが言いました。
「ああ、喫茶店はやめておいた方がいいですね。さやかさんとのおしゃべりが弾んで常連になったお客さんとの間にフラグが立ち
ます。さやかさんの料理上手な一面に惹かれてしまう子もいますね」
案の定です。毎日身をもってさやかちゃんのご飯のおいしさを体感しているわたしには、織莉子さんが予知した光景が目に見えるようです。
「喫茶店は絶対だめですね。じゃあ、本屋さんは?」
再び織莉子さんが目を閉じます。今度は時間がかからず予知できたようで、織莉子さんはすぐに言いました。
「あら、これもまずいですね。恋愛小説のおすすめの話からさやかさん自身にときめいてしまう子が現れます。音楽の教養が豊富な
意外性もポイントですね」
ああ、やっぱり。さやかちゃんの恋する乙女の顔に恋したわたしとしては、その気持ちが痛いほどよくわかります。それに、
上条君とバイオリンの話をするために色々勉強していたさやかちゃんなので、クラシックを語らせるとちょっとうるさいのです。
さやかちゃんはおバカさんなんかじゃありませんよ(※神様のry)。
「やっぱりですね。それもだめって言います。美容院は?」
わたしの問いに、織莉子さんは即答します。
「それも常連さんがさやかさんにカットしてもらうためだけに行列を作りますね。カットしてもらった後最高の笑顔で『うん、
可愛いよ!』と言われて落ちる子も続出します」
わたしは頭を抱えたくなりました。そんなことを言ったら結果は目に見えているのに、どうしてさやかちゃんにはそれがわからない
のでしょう。もう、さやかちゃんのバカ!(※さっきと言ってることが違いますが神ry)
「もう、さやかちゃんったら! この分だと、お花屋さんも……?」
「だめですね。お客が、作ってもらった花束をその場でさやかさんに渡そうとする子ばっかりになります」
「服屋さんは?」
「さやかさんに採寸されたくてお店に来る子が列をなしますけど」
「スポーツジムのインストラクターは!?」
「言わずもがなでしょう。皆が皆体操を手取り足取り教えてもらいたがったり、プールでのトレーニングに人が殺到したり……」
「保育園の保育士さんは!?」
「さやかさんが、光源氏みたいに年端もいかない魔法少女を自分好みに育て上げることに……」
「ペットショップはっ!?」
「『さやかさんを飼いたい』と言い出す子が……」
「看護師さんはっ!?」
「破廉恥すぎて私の口からはちょっと……」
*
「織莉子さん、今日もどうもありがとうございました」
「お役にたてたならば光栄ですわ。ごきげんよう」
結局、さやかちゃんに落とされてしまう女の子が出ないようなお店はありませんでした。わたしは、どうにかさやかちゃんを
説得してお店自体を取りやめてもらうことにし、家路につきました。
「織莉子」
「なあに? キリカ」
「予知したっていう未来、ほとんど口からでまかせだろう?」
「あら、ひどいわね。三割くらいは本当のことよ。あとは面白おかしく適当なことを言ってしまったけれど。だって、神様の反応が
いちいち可愛らしかったんですもの」
「織莉子の愛も、無限に有限だね……」
*
5 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/06(火) 18:51:03.29 ID:RMQzANea0 [3/3]
「ただいま!」
「おっ、お帰りまどか」
さやかちゃんにお店を出すことをやめてもらうという決意を秘めて自宅のドアを開けたわたしを、いつものようにさやかちゃんが
迎えてくれました。お帰りのキスをしようと近づいてくるさやかちゃんを押しとどめて、わたしは靴も脱がずに言いました。
「あのね、さやかちゃん。お店の件なんだけど……」
「ああ、それ? それは、もういいんだ。お店出すのはやめにしたよ」
さやかちゃんの言葉に、わたしは拍子抜けしました。
「それは嬉しいけど、どうしたの? あんなにやりたがってたのに……」
「いやー、そもそもさ、子供のころの気楽な『将来の夢』ってやつを叶えてみたかったからああいうこと言ったんだけど、よく
考えたら将来の夢って一つ叶ってるなーって気が付いて」
「それはなに?」
さやかちゃんは照れ臭そうにへへっと笑って言いました。
「それはね、『お嫁さん』! 素敵な旦那様と結婚してお嫁さんになって幸せな家庭を……とかベタなこと考えてたこともあってさ。
でも、それ今まどかと実現できてるじゃない。だから、別に他にお店やったりしなくても十分幸せで……まどか?」
わたしは、さやかちゃんの言葉に思わず涙していました。幸せで、胸の中がいっぱいでした。
「ありがとう、さやかちゃん……わたしも、とっても幸せだよ……」
さやかちゃんも、顔を赤くしています。お互い照れくさくて玄関で立ち尽くしていると、不意にさやかちゃんが言いました。
「そうだ。あたし、このシチュエーションで一回言ってみたかった言葉があるんだけど」
「なあに?」
「えーとね。『お帰りなさい、まどか。ごはんにする? お風呂にする? それとも……』」
「さやかちゃん!」
「もう、最後まで言わせてよ。じゃあ、召し上がれ」
わたしはさやかちゃんを美味しくいただいて、>>1乙。
最終更新:2012年03月12日 01:33