24-251

251 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/24(土) 10:13:00.94 ID:1xSjxVTr0 [1/5]
「はぁぁぁっ!スクワルタ―――トーレッ!!」
敵陣に踏み込んだあたしは斬りと返しの刃を交えながら魔獣達を薙ぎ払う。
長剣の丈を活かした新技をそれなりに物にし、程なくして敵を殲滅し終える。
既に各々が今日の仕事を終えていて、他の4人はあたしを出迎えてくれた。
「おおー! さやかの奴随分手馴れたな」
「もう私達がが見ていなくても大丈夫じゃないかしら?」
魔法少女としての経験が一番浅いあたしは、ベテランの二人に指導されつつ魔獣退治を行っていたのだ。
最近はその二人からもお褒めの言葉を貰う事が増えていた。
「んじゃそろそろまどかと二人で組んでみなよ?」
あたしとまどかの仲を考えた杏子の心遣いだろう。先輩にご好意に甘えてあたしはまどかの元へ歩み寄った。
「へっへー! という訳でまどか、明日から一緒にやろうよ」
「えっ…? ……うん、いいよ!」
でもその時、まどかが承諾するのには一瞬の間があった。視線の先にはほむらの姿があったんだ。
「えへへ、たまにはさやかちゃんと一緒に組んで戦いたいな♪」
あたしの勘は悪意の無い優しさを直ぐに見抜く。"たまには"…か。そりゃそうだ。
「…ごめん杏子。あたしやっぱまだ自信が無いや…」
「は…?」
「美樹さん…?」
「もうちょっとマミさんと杏子にお世話になっていいかな」


[嘘]


いつも通りに始まる朝の通学路。あたしはクラスメイトのまどか、ほむらと共に登校する。
「それでね、マミさんのケーキまで杏子ちゃんが食べちゃってね~…」
「ふふっ、相変わらずねあの二人は」
楽しそうに雑談を繰り広げるまどかとほむら。いつの間にか二人との会話も少なくなって来た。
ワルプルギスの夜も乗り越えて二人が気築いた絆は誰にも断ち切れないものだ。
あたしは手を繋いで歩くまどかとほむらに少し距離を感じていた。
仁美も今頃恭介と二人でイチャつきながら同じ道を歩いているだろうか。

―昼休み―
「ほむらちゃ……さやかちゃ~ん!一緒にお弁当食べようよ!」
昼休みに突入した直後、一瞬あたしと目が合ったまどかは取り繕う様にあたしの名を呼んだ。
やれやれ、そこまで気遣わなくても良いのに…。こういうトコは昔と全然変わらない。
でもあたしの返答は既に決まっていた。
「…ごめんまどか、今日はあたし職員室に用事があるんだ。弁当無くて購買だし、遅くなりそうだから悪いけどほむらと二人で食べててくれるかな」
「う、うん…」
「さやか…?」
少し残念そうな顔のまどかと、怪訝な顔であたしを見詰めるほむら。
わざと弁当を作って来なかったのは、屋上でまどかとほむらが楽しそうにやっているのを見るのが辛いから。
ちなみに職員室に用事があるのは本当だったりするんだけど。

あたしにとってまどかは、今までの人生でお互いに支え、支えられて育って来た大切な存在。
でも魔法少女として日々戦う中で、あたしは自分に精一杯だった。
誰より未熟なまま他のみんなに迷惑を掛ける自分が許せなかったんだ。
そうしている間にまどかは一番のパートナーを見付けていた。まどかの為に誰よりも苦しんでみ悲しみ続けた人を。
…あたしは自分にとってまどかが一番じゃないと気がすまないのだろうか? 嫌な女だな…。

252 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/24(土) 10:14:12.78 ID:1xSjxVTr0 [2/5]
―放課後―
再び職員室で用を済ませて一人で帰路に就く。あたしは誰もいない公園のブランコで一人、夕日に影を揺らしていた。
そういえば小学校の頃はまどかとたまにこうしてたっけな。
今更遠くなった思い出に耽(ふけ)っていると、通りすがりの見知った顔が現れた。
「さやか…お前、こんなトコで一人で何やってんだよ…?」
あたしの表情は随分影を落としていたんだろう。杏子が心配そうに顔を覗き込む。
「昨日はせっかくまどかと組める様にしてやったのに断っちまうし…」
「鹿目さんと何かあったの…? 最近一人でいる事が多い気がして美樹さんらしくないわよ?」
あたしと同じく学校帰りのマミさんも気に掛けてくれている。
「まどかにはちゃんとパートナーが見つかったからいいんですよ」
「はぁ???」「えっ???」
見当違いの返答に二人は揃って頭にはてなマークを浮かべていた。まぁ暫くすれば内容を理解ってくれるだろうけど。
「マミさん。今日お家にお邪魔していいですか?」
何事も無かった様に振舞うのは、もう少しの間だけ、みんなにはこれ以上心配を掛けたくなかったからだ。
あたしはこうしてマミさんの自宅、正確にはマミさんと杏子の自宅へお邪魔する事になった。
この二人は過去にいろいろあったらしいけど、今ではちゃんと師弟関係も取り戻したみたいだ。

………………………………………♭♭♭………………………………………

―自宅―
色と温度の半分になったピアノの部屋。まどかが喜ぶからと続けていたあたしのピアノ。
譜面立てに楽譜は置かれているものの、音色は意識の赴くまま無造作に奏でられてゆく。
殆ど沈み掛けた夕陽の中、あたしは何となく苛立ちに身を任せ、楽譜を散らかしては揺れ疲れ微睡む。

数日前…

その日、学校から帰宅したあたしの前には珍しく両親は揃い踏みだった。
「―――引越し…!?」
「…ごめんねさやか…。いつも僕らばかりが迷惑掛けてしまって…」
「そんな事ないよ。お父さん達はいつも仕事頑張ってくれてるじゃん!」
「ありがとうねさやか。それで相談なんだけど、貴女をまどかちゃんの家にお世話になれる様お願いしようと思うのよ」
「…えっ………」
「ここは住み慣れた街だし友達と離れるのも淋しいでしょう? 貴女さえ良ければ、きっと知久さんもOKしてくれると思うし…」
あたしのお父さんとお母さんは多忙で家を留守にする事が多い。
それもあって、あたしは親交の深い鹿目家にしょっちゅうお世話になっていた。
鹿目家への居候という提案もあたしとまどかの仲を考えてくれての事だ。でも今は違う…。
「…あたし、付いて行くよ」
「…さやか…?」
「あたし、お父さんとお母さんの娘だよ! 音楽くらいしか取り得無いし、あんまし勉強できないけど…
 でも自慢の娘のつもりなんだ。だからちゃんと付いていくよ!」
「―――さやか…っ!」
目に涙を浮かべてあたしを抱きしめてくれるお父さんとお母さん。
でもごめんね。これは色褪せてゆく友情から逃れる為の口実でもあるんだよ。
まどかは変わってゆく。あたしも…いい加減変わらなきゃね。

引越し先は…新幹線を東京乗り継ぎで約5時間の街。県庁所在地だからそんなに田舎でもないらしい。
新しい街と学校があたしを待っている。もしかしたら新しい魔法少女仲間にも出会えるかもしれない。

………………………………………♭♭♭………………………………………

253 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/24(土) 10:15:09.57 ID:1xSjxVTr0 [3/5]
―数日後の朝―
「今日は皆さんに悲しいお知らせがあります。美樹さやかさんが、今日を最後にご両親のご都合により転校する事になりました」
明日から始まる春休みの気分に浮かれていたクラス中がどよめく。
そりゃそうだ。クラスメイトにすら誰にも教えてなかったんだから。

「さやかちゃん!どうして教えてくれなかったの…!?」
「だってさ…もし教えてたらあんた、毎日あたしに泣き付いて来てたでしょ」
「あうう…。わたし…そんな子供じゃないもん…」
まどかに教えなかった本当の理由は違う。あたしとの別れの為に、大切な人と引き離したくなかったんだ。
「ほむら。まどかをよろしくね。」
「な…何を…言ってるの…!? まどかは…貴女の…」
声を掛けたほむらは顔面蒼白だった。自分があたしとまどかの仲を引き裂いたとか思ってるんだろう。
でもそれは違うよ。まどかがほむらを望んだっていう結果なんだから。
「親友"だった"んだ。でもさ、まどかには最高の友達が居るじゃん?」
「………っ! だからって…」
まどか以上に今にも泣きそうなほむら。こんな顔のほむら、初めて見たな…。
「あー、そんな顔しないで。正直言うとね、ほむらには感謝してるんだよ。
 あたしが自分で精一杯な時にもまどかの支えになってくれてさ。だから…これからも支えてあげてよ」

終業式を終えると早くも報せが周ったらしく、校門を潜った所でマミさんが杏子と共に現れた。
「美樹さん…せめてお別れのパーティーをしたいんだけど…」
「そんな…いいですよ、今まで黙ってたあたしが悪いんですし。それに…気を使わせると逆に辛くなりますから…」
「お、おい…」
「杏子はさ…大切なパートナーとの絆を二度と手放しちゃ駄目だぞ? …ってあたしが言えた台詞じゃないか」

………………………………………♭♭♭………………………………………

孤独な魔獣退治。そういえば契約したばっかの頃はこうしてがむしゃらだったっけ。
傍に頼りない子が居てくれて、あたしが無茶をしようとする度に止めてくれてた。
今は一人でももう随分と手馴れているからその心配は無いだろうけど。
これがあたしにとってこの街で最後の魔獣退治だ。一人で戦うと集中力を研ぎ澄ませられる
投擲する細身の剣、息の根を止めるべ振り翳す大直剣。こうしていれば絶望なんて忘れられそうだ。
魔獣が落とす黒いキューブを拾い集めてソウルジェムを浄化する。
尤も限り無く無駄が少なく敵を片付けたから、そんなに酷い濁りでもなかったけどね。

「さやかちゃん! こんな所にいたんだ。魔獣退治なら声掛けてくれれば良かったのに。」
「いや~…たいした事ない相手だから、わざわざ呼び出すのも悪いと思って。」
そう言いつつあたしは大量のキューブを気付かれない様に懐へ隠す。
まどか達の足手纏いにならない様に自分を磨ていたうちに、いつの間にか洗練されてゆく自分だった。
「そんな事ないのになぁ…。わたし、さやかちゃんの親友だよ?」
「可愛い事言ってくれちゃって。まどかはあたしの嫁にしてやる~!」
「えへへー♪」
前みたいにじゃれ合ってみるけれどこれは嘘。例え二人が同性愛者でも、まどかは決してあたしの嫁にはならない。
今までと同じ様に冗談としてまどかが喜んでくれればそれでいいんだ。
「ねぇさやかちゃん。わたし…デートしたいな…。」
「おや~? 急にどうしちゃたかなー?」
「だって…。もう会えなくなるんでしょ…。さやかちゃんの為に…さやかちゃんの為なら…いいかなって…」
まどかがあたしに向けてくれようとしている最後の友情。
あたしの手を取ってくれるのはとても嬉しいんだけど、その手はやたらと冷たく感じられた…。

254 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/24(土) 10:16:10.50 ID:1xSjxVTr0 [4/5]
―喫茶店―
時刻は既に夕暮れ。テーブルの向こうのまどかはあたしに笑顔を向けてくれている。
長年の付き合いからの勘だろうか、何処か違和感が隠せていない。
「さやかちゃん、あーんして?」
「今日は随分と甘えっ子だなぁー。ほれ、あーん…」
いつものあたしだと悪戯心で自分で食べちゃったりするんだけど、こんな日くらいは素直にまどかの口へ運んであげる。
(パクッ)(モグモグ…)
「えへへ♪」
無理な笑顔の裏に一瞬見えた"ごめんなさい"の表情にも気付かぬ振りをした。
あたしは感覚遮断のスキルで悲しみという感情は上手く遮断出来ているみたいだ。

―夕暮れの帰り道―
お互い違う味を頼んだ二段のアイスを食べ合い味わいながら宛も無く歩く。
普通ならこんな事してたら動揺して落っことしそうなんだけど…
「これって、間接キスだよね?」
「あっははは!あたしとあんたの仲なんだから気にしないの」
「えへー、そうだよね」
上手に騙してね? 嘘を交わしながらまどかの視線があたしにそう訴える。
親友という間柄で会得したアイコンタクトの皮肉な使い方。
「ねぇさやかちゃん…覚えてる…? 出会った頃は、こんな夕焼け空をいつも一緒に見たよね」
「うん…忘れる訳…ないよ…」
これも嘘。あたしがまどかと見た夕焼けとは違う。二人の間に本来ある筈だったものが今は無いんだ。
それだけで…あたしには随分と世界が違って見えてしまう…。
「あたし達、もう戻れないのかな?」
「…っ…!………」
遂にあたしは現実を指摘した。親友だからこそ、ちゃんと言わなきゃ駄目だから。
「…っ…さやかちゃん…大好きだよ!」
苦し紛れにあたしに抱き付くまどか。顔は肩の横だから表情は確認出来ないけど、触れる肌の冷めた温もりで十分理解る。
「あんたがね、誰よりも友達思いで優しい子なのは良く知ってるよ。でも、もう無理はしなくていいから」
あたしを傷付けない様に一生懸命なまどか。今度はあたしがこの子の為に出来る事をしなきゃ。
「あんたはさ…本当に大切な人、見つけたんでしょ?」
「―――…ぇっ………」
「小さい頃からずっとあんたの事見てたからね。全部理解ってたんだ」
「………」
あたしに出来るのは、まどかに前を向いて歩ませてあげる事くらいだ。
「だから、あたし達サヨナラ」
「…っ…!」
まどかに抱き締められて、こんなにも肌寒く感じたのは初めてだ。
震える肩に手を置き制して、あたしはまどかとの距離を空ける。
「………。さやかちゃんは…親友だよね…」
「…そうだね。あたしの最高の……親友"だった"よ…」
過去形の証拠に、このデートであたしは一度もまどかの名を呼べていない。
崩れた笑顔のまどかが痛く胸に刺さる。これでいい…これでいいんだ…。
親友だったからこそ、一番大切な人と向かい合わなきゃ駄目なんだよ。
「…さやかちゃん…また小学生の頃みたいに…一緒に笑い会えるかな…」
「うん…。いつか…また会えるよ…」


255 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/24(土) 10:16:37.48 ID:1xSjxVTr0 [5/5]
そう言ってあたし達は手を振り合ったけど、もう会う事は無いだろう。
最後の嘘は優しい嘘。
もしも再会なんてしたら、それこそソウルジェムが真っ黒なりそうだから。
「えへへ…っ…」
必死なまどかの笑顔が伝える最後の"ごめんなさい"。まどかも優しい嘘であたしを送り出してくれる。
罪悪感と後悔で まどかも同じなんだろうな…。

―絶対、いつまでも友達だから―
果たせなかった約束を胸に抱いて、二人は歩き出した。

[嘘]
おしまい。

ごめんなさい…もうどうやっても明るいまどさやが書けなくて…誰か助けて…

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最終更新:2012年04月02日 07:38
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