828 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/28(水) 22:22:35.89 ID:7L4MfdXx0 [3/8]
ありがとう、たぶん3.4レスで終わる
まどか「状況説明だよ!!帰省の前に部屋片付けるよ!!」
「~♪~♪」
部屋に掃除機をかけながら鼻歌を歌う。
後期試験や飲み会が終わり、バイトの都合がついた3月初旬。
半年振りに帰省することにした。
「かわしたやーっくそくっ♪わっすれないっよー♪」
帰っても特に何があるというわけでもないけど、なんだか楽しい気分になる。
元はしんみりとした曲だったけれど、気にしない。
「よっし!!おわり!!」
掃除機を片付けてから、そう宣言する。
こまめに掃除や模様替えをしていたこともあって、さほど時間はかからなかった。
「んー、別に着飾る必要も予定もないけど……」
誰に言うでもなく、そんなことをつぶやいてアクセサリーボックスを開ける。
リボンや髪飾り、あとはブローチなどがちょっとだけ入った小さな箱。
小学生のころからの愛用品だったりする。
「うん、いつ出会いがあるかわかんないし!着けて帰るのと、もう1種類ずつくらい持って帰ろう!」
誰にでもなく、あえて言うなら自分にそう宣言してから、お気に入りのものを1つずつ吟味していく。
大体こういう準備は無駄になる。
大体というか、現状10割で無駄になっている。
それでも女の子には戦いに備えなければならないときがある。
備えたところで結局なにもできずに終わるんだろうけど。
「……あ」
髪飾りやブローチを外に出したせいでアクセサリーボックスの底が見えた。
そこにあったのは布に包まれた小さななにかがあった。
「…………もう、見つけちゃいけないのになぁ」
そう言って私は布を広げる。
そこにあったのは銀色の指輪。
高価なものじゃなく、お祭りの出店で売っている安物。
だけどソレは私にとって大事な宝物だった。
「……どうして……女の子なのかなぁ……」
指輪を左手の薬指にはめる。
当時はぶかぶかだったけれど、今ぴったりはまる。
「……さやかちゃん」
831 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/28(水) 22:23:21.76 ID:7L4MfdXx0 [4/8]
この指輪をくれた、正確にはこの指輪の片割れの持ち主の名前をつぶやく。
見滝原に来て最初の友達。
10数年来の幼馴染。
何でも話し合える親友。
そして、初恋の人。
「さやかちゃん以上のいい人なんて、いるのかなぁ」
直前まで自分がしていたことがバカらしくなる。
どんなイケメンがいても、
どんなお金持ちがいても、
どんな優しい人がいても、
私の理想には届かない。
「…………ばかみたいだね、私」
そう言って指輪を外す。
これを指につけているわけにはいかない。
私にとってはかけがえのない宝物でも、さやかちゃんにとってもそうとは限らない。
「でも……」
アクセサリーボックスの中から1本の紐を取り出して、指輪に通す。
その紐を結んで、簡単なネックレスの出来上がり。
「……これでいいんだよね」
思いを伝えたところで伝わらない。
伝わってはいけない。
私の思いはそういうもの。
だから、思っているだけいい。
832 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/28(水) 22:24:26.65 ID:7L4MfdXx0 [5/8]
「っょし!いこ!!」
選んだアクセサリーを簡単につけて、立ち上がる。
グチグチなやんでいたってしょうがない。
さっきまで考えていたことはいったん心の奥にしまって、部屋を出た。
「お、まどか。準備できたー?」
「ごめん、さやかちゃん!またせちゃったね」
「いいっていいって。急ぐ理由もないからね」
「さやかちゃん、荷物それだけ?」
「うんー、下着とパジャマと着替え1着ずつ。ほかは実家にあるし」
鞄をひとつだけ持ったさやかちゃんはそういいながら、
玄関でスニーカーの紐を調整していた。
ジーンズに長袖シャツにジャージの上を羽織っただけ。
どうみても男の子です、ありがとうございました。
「あ!」
「え?なに?どうしたの?」
「まどか、それまだ持っててくれたんだー」
そう言ってさやかちゃんが指差したのは私の胸元。
さっき作った超簡単なネックレス……の先の指輪。
「いやー、私だけかと思ったよ。小4か小5のときのだったし」
「……!」
833 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/28(水) 22:25:33.32 ID:7L4MfdXx0 [6/8]
「中学校くらいはまでは指にはまったんだけどねー。今じゃ小指がやっとだよ」
そう言ってさやかちゃんは免許証ケースのストラップについている、私とおそろいの指輪を見せてくれた。
覚えていてくれた。
持ってていてくれた。
それだけでうれしくて泣きそうになるけど、それをこらえて言葉をつなぐ。
親友として。
「や、やだなぁ、さやかちゃん。私の宝物の1つなんだから、なくしたりするわけないじゃない!」
「おー!さすがだね!さっぱりまどかはわたしの嫁になるのだー」
「わ!も、もう……さやか……ちゃん」
私の頭を胸元に抱え込んで、撫でてくれる。
鼓動が高鳴って、顔が真っ赤になるけど、とても落ち着く。
このまま全部のガマンをやめて、さやかちゃんに伝えたくなる。
だけど、それもガマンする。
それは、それだけはやっちゃいけない。
それをやるには私にはまだ勇気と覚悟が足りないから。
「もう、さやかちゃん!ほむらちゃんも待ってるんだから!」
「おっと、そうだった!そんじゃ、私のドライビングテクニックを見せてあげますか!」
「ふふ、安全運転でね!」
そう、いまはこれでいい。
私とさやかちゃんとほむらちゃんの3人の同棲生活。
この心地よさを私のワガママなんかで壊しちゃいけないから。
今はまだ。
最終更新:2012年04月02日 07:54