夜の街を少年、月浪實つきなみみのるは歩いていた。
「僕の力は……僕は人間ではなくなってしまったのか……?」
彼は不安と迷いを抱えながらこれまでのことを思い返していた。
ーーー
それは實が交通事故に遭った時の話
あの時、實は死んだはずなのに、なぜか意識があった。そして椅子に座らされ、目の前には青髪の美少女がいた。
「貴方は誰ですか?」
實の質問に少女は答えた。
「私は女神です。 貴方は事故で死にました」
「そうか……僕は死んじまったのか」
「はい。貴方は家族の乗った車ごとトラックに追突されて死んでしまいました。貴方の家族も同じように……」
「じゃあ俺を生き返らせたのもアンタの仕業なのか!?」
「はい。貴方にお願いがあって生き返らせました」
「お願いですか?」
「はい。あなたには私たちが定めた人数を殺し転生させる使命を与えます」
女神の言葉を聞いた實は驚きながらも聞き返した。
「えっ!? 僕に人を殺せっていうんですか?」
「はい。その通りです」
女神は笑顔を浮かべながら肯定した。
それを見た實はため息をつくと女神に向かって言い放った。
「僕にはそんなことはできない。命は一つしかないんだ。だから誰かの命を犠牲にしてまで蘇ろうなんて絶対にしたくない!」
「あら、そうですか。でも、これは決定事項なので、貴方の意見を聞くつもりはありませんよ。では、さようなら」
「ちょっと待ってください!まだ話は終わってません」
女神は實の話を無視して消え去った。
そして目が覚めた實は病室を抜け出し、夜の街へと飛び出した。
ーーーー
そして現在に至る。
(どうしてこんなことになったんだ……僕はただ平穏な日々を過ごしたかっただけなのに)
實は自分のいま置かれている境遇について考えながら歩いていた。すると突然、路地裏から声が聞こえてきた。
声のする方へ向かうと、そこには男に押し倒されている少女が居た。男は興奮した様子で少女を押し倒した状態で服を脱がそうとしていた
それを見た實は激しい怒りを覚え、男に向かっていった。
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次に気づいた時には既に男が血まみれで倒れており、背中には剣が突き刺さっていた。
「ああぁ……」
實は自分がやったことを理解すると膝から崩れ落ちた。
(僕は人を殺してしまったのか?)
實が自分の手を眺めていると少女は立ち上がり近づいてきた。
「あなたも仲間なのね……」
「仲間……?どういうことだ?」
實が聞き返した瞬間、少女の姿はバレリーナや白鳥を混ぜ合わせたかのような異形に変化した。實はその姿に驚き距離を取ろうとした時ショーウィンドウのガラスに写っている自分の姿にも驚く。
そこに映っていたものは人間ではなく馬の頭を持った騎士のような姿をした自分だったからだ。
「なんだこれ……」
實は困惑しながら呟いた途端。バレリーナや白鳥を混ぜ合わせたかのような怪物は少女の姿に戻り、口を開く。
「これでわかったでしょ?」
「き、君は……?」
恐る恐る質問しながら實も元の姿に戻っていく。
「私の名前は鵠ゆめ。あなたと同じ転生者よ」
「転生者?」
聞きなれない単語に實は疑問符を浮かべる。
「死んだ後、力を与えられてこの世界に戻ってきた人間の事よ」
そういえばニュースや新聞で見たことがある。
確か、事故や事件で亡くなった人が怪物化して人を襲ってるとかなんとか……
實はそんなことを考えながら話を聞いていると、彼女は話を続けてきた。
「私たち転生者は女神によって生き返らされた代わりに人の命を奪って生きているの」
「人の命を奪う……?」
「そうよ……私たちは定めた人数を殺せば生き返ることができるの」
「そんなことできるわけないだろ! それに人を簡単に殺すことなんてできない!」
「そんなこと言っても、現に貴方は私の目の前で命を奪ったじゃない」
「それは……そうだけど……」
實は言葉を詰まらせる。
確かに彼女の言う通り、自分は人を殺した。それは自分の意思ではないにしても、誰かの命を奪ったのは事実だ。實は葛藤しながらも覚悟を決め、口を開く。
「なぜ、そんなに平然としていられるんだ?」
實の問いにゆめは答える
「私はもう慣れたから……あなたも早く誰かを殺した方がいい。でないと、いつかあなたも殺される」
ゆめは實に対して忠告すると、立ち去ろうとする。
「僕はこれ以上、君に罪を重ねて欲しくはない」
立ち去ろうとするゆめを静止しながら實は言う。
「あなたがどう言おうが関係ない。これは私の使命であり、使命を果たすことが私の生きる意味なの」
「それでも僕は君の使命を止める」
「どうしてそこまでして止める必要があるの? あなたには関係のないことでしょう」
「僕はただ平穏な日々を過ごしたかった。 でもそれが叶わなかった。 だから僕は僕の平穏を守るために戦いたい。僕はもう二度と誰かを犠牲にしてまで蘇りたくない」
「そう……なら、力づくでも止めてみなさい」
そう言いながらゆめは転生者としての姿を表し、實に向かっていく。
(戦いたくない)
實はその一心で、手を伸ばす。その瞬間ゆめは涙を目に浮かべ元の姿へと戻った。
「やっぱり……私には無理……」
「えっ……」
「今、一瞬お父さんの声が聞こえた。」
「お父さん?」
實が聞き返すとゆめはゆっくりと口を開き過去を語り出した。
ーーー
ゆめはもともとバレリーナになることが夢だった。
幼い頃からバレエ教室に通い、レッスンに励み、数々の大会で入賞していた。しかし、世界大会の前日、彼女がいつものように自主練習をしていた時、突然親友に突き飛ばされ、階段から転落し、バレリーナとしての夢を諦めなければいけなくなった。さらにおいうちをかけるように父親の会社が倒産し、借金まみれになった。その後、父親は多額の負債を抱えて自殺し、借金返済のため母親もヤミ金に手を出してしまい、ついには父親と同じ道を辿ることになった。そのツケとして彼女は売られそうになったとき、彼女はヤミ金業者から逃げようと飛び降りたことで死亡し、女神の力で転生者となった。
ーーー
ゆめの過去の話を聞いていた實は複雑な表情を浮かべるとゆめを抱きしめる。
「辛かったんだな……」
「同情しないで……」
「同情なんかじゃない……」
「嘘……」
「本当だよ……」
「じゃあ、なんでそんな悲しそうな顔をしているの?」
「僕も君と同じように大切な人を失ったから……」
「それって……」
「僕も家族を失った。」
實の言葉にゆめは驚く。
彼女の境遇を理解した實は自分の思いを口にした。
「だから誰かに大切な人を失ってほしくないし、ましてや、誰かの大切な人を奪うなんてこと、僕は絶対にさせたくない。」
實の言葉にゆめは涙を流した。そして、彼女の中に残っていた闇は消えていった。
「私……あなたと一緒に行く。 私一人だときっとまた迷ってしまうと思うから……」
「うん。 一緒に行こう」
實は夢の手を取ると、實とゆめは歩き出した。
久しぶりの投稿です。
この話は時系列で言うと4話の〈ビースト初戦〉から5話の〈初任務〉までの話で、もう一人の主人公〈月浪實〉の物語においてプロローグとなっていく話です。
これからも応援よろしくお願いします。
最終更新:2025年03月08日 14:31