梅雨の雨が窓を叩くある日、力人と雪音はとある中学校に現れたバルバロイを倒すため、港区の中学校に訪れていた。
校舎に入るなり、目の前の惨劇に絶句する二人。
床にはガラスの破片や椅子などの残骸があり、窓ガラスは全て割れていた。
また教室の中には血まみれで倒れている生徒たちの姿があった。
(まさか、これ全部……?)
想像を絶するような光景を前に言葉を失う二人だったが、すぐに気を取り直し、行動を開始する。
少し歩いた所で、二人の視界にある人物が入る。
それはこの学校の教師であった。彼は頭から血を流しており、朦朧としている。
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る雪音。しかし教師はゆっくりと口を開く。
「はや……く……にげ……て」
遠のく意識の中で逃げるように促すとピクリと動かなくなった。
「……死んでるよ」
冷静な口調で呟く力人。彼の言う通り、教師は既に息絶えていた。
その時、壁が突然爆発したかのように吹き飛び、そこから怪物が姿を現した。
「こいつが今回のバルバロイか……!」
RPGのオークや猪に似た姿をした今回のバルバロイは唸り声を上げながら二人に向かって突進してきた。
二人は左右に散開して回避すると、同時に戦闘態勢に入り、力人はスカイリッキーに、雪音はスノーハウンドにトランスチェンジする。
それを見たバルバロイは足を止めた。
次の瞬間、バルバロイは天井を突き破って空高く飛翔した。そして空中で静止したまま、巨大な腕を振り下ろす。
落下と同時に振り下ろされた拳により床が陥没した。凄まじい衝撃によって廊下の壁が崩れ落ちる。
「なんなんだよ……あれ……」
あまりの出来事に唖然とするスカイリッキー。バルバロイの攻撃を回避しつつ、隙を見て攻撃を試みるも全く歯が立たない。
「リッキー、このタイプって……」
「間違いない、転生者だ!」
転生者は死者がバルバロイになったもののことを指す。つまりこのバルバロイは元々人間だったのだ。
バルバロイは動きを止めることなく暴れまわり、逃げ遅れた生徒を次々と殺害していく。
「早くあの豚を殺せ!」
その刹那、後ろの方から罵声が聞こえてきた。振り返るとそこには見るからにガラの悪い男子生徒が三人いた。
「そのクソ喰い豚も殺せねーのに調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
リーダー格の少年がそう怒鳴った瞬間、バルバロイはそのリーダー格の少年を右手で掴み、床に叩きつける。
叩きつけられた男子生徒の頭はトマトのように潰れ、床が紅に染まった。
鉄の臭いと共に脳漿や血液が流れ出す。即死であることは明らかだった。
他の二人もその今までの威勢の良さは何処へ行ったのか、恐怖のあまり失禁し、腰を抜かしたまま後ずさるのみであった。
そんな彼らを見下ろしながらバルバロイは再び雄叫びを上げ、飛びかかる。
「雪音、見るな!」
スカイリッキーはスノーハウンドの目を伏せながら、バルバロイから離れる。
次の瞬間、耳に鈍く、生々しい音が響いた。
恐る恐る目を開くスカイリッキーの前に広がっていたのは先ほどまで自分達に罵声を浴びせていた少年たちの見るに耐えない姿であった。
三人とも全身は裂けて血塗れになり、頭部は半分以上無くなっていた。
血の海の中に横たわる三つの死体。
(これ以上、雪音にこんな光景を見せられねぇな)
むせかえるような鉄とアンモニア臭が立ちこめる中、スカイリッキーはスノーハウンドの視界を覆うように抱きしめ、耳打ちする。
「雪音、攻略ルートは見えた。だから安心して俺に任せろ!!」
これ以上雪音に、目の前の惨劇を見せるわけにはいかない。
スカイリッキーは自信満々な様子で言うと、スノーハウンドを校庭に待機するよう促し、単身でバルバロイに挑む。
バルバロイとの距離を詰め、間合いに入ると、勢いよく跳び上がり、天井を蹴り、加速する。
そのまま一気に接近すると、コントローラーからヘラクレスホーンを取り出し、バルバロイに車輪のように
回転しながら突撃した。
バルバロイは両手で受け止めるが、あまりの力の強さに押し負け、壁に叩きつけられる。
「これでゲームセットだ」
そう呟くと、スカイリッキーはコントローラーのコマンドを操作し、ヘラクレスホーンへエネルギーを送る。
ヘラクレスホーンの先端にはエネルギーが蓄積され、翡翠色に光輝いた。
「大竜巻斬:グラントルネード」
剣先を振ると同時に巻き起こる竜巻がバルバロイを包み込みながら切り刻んでいく。
「ブルァァァ!」
校舎の下へと落下していくバルバロイはまるで何かに恐れるように叫びながら地面に叩きつけられ、砂埃が舞い上がる。
「お゛で……ぢ……ん……な……ど……う じ……て……」
言い終える前に徐々に身体が灰となって崩れ落ちていくバルバロイをスカイリッキーとスノーハウンドは少し悲しい表情を浮かべながら変身を解除した。
ーーーーーーー
任務を終え、B学園高校へ事後報告を終えた力人と雪音は家路についていた。
その間も雪音の表情はいつもの天真爛漫な笑顔とは程遠く、沈んでいた。
そんな雪音の様子に気づいたのか力人は心配そうな口調で話しかける。
「雪音……大丈夫か?さっきからずっと黙りっぱなしだけど……」
すると雪音は力人の方を向きながら雪音は不意に口を開いた。
その声はとても弱々しく、今にも消え入りそうな声だった。
「ねぇリッキー……これで良かったのかな……?」
雪音の言葉に力人は何かを察しながらも汲み取るように答える。
「……ああ、あれでいいんだ。あいつらはもう助けることはできない。それにあのまま放っておいたら多くの罪のない人達が傷ついていたかもしれない。せめて楽に逝かせてやるのが俺たちの役目だ」
力人の言葉に納得したのか、雪音は静かに呟く。
「そうだよね……。ごめんねリッキー、変なこと聞いて」
「気にすんなって」
微笑みながら返す力人だが、その表情には少し陰りを見せていた。
ーーー後日、今回のバルバロイが中学校を襲った話は世間を騒がせた。
死傷者は出てしまったものの力人と雪音の尽力により最小限に抑えられた。
ネットでは二人の活躍を称える声が多数寄せられ、テレビでも取り上げられるほどだった。
しかしそれと同じように今回のバルバロイの境遇についても議論が巻き起こっていた。
今回の転生者は生前、苛めの被害者であった。同級生から〈豚〉と蔑まれ、理不尽な暴力に怯え、ただひたすら耐えることしかできなかった彼は、ある日、飛び降り自殺し、転生者と化し、復讐のためにこの学校の生徒を次々と襲ったのでは無いか、というものだ。
力人や雪音の活躍により犠牲者の数は抑えられたものの、やはり彼のやったことは許されることではない。
しかし、もし仮に彼がいじめられていなかったとしたら、この惨劇は起こらなかったのではないか。
テレビに映るコメンテーター達の無意味な見解に力人と雪音は複雑な気持ちを抱きながら見ていた。
ーーーー
一方、御中王我はとある民家を訪れていた。
玄関のチャイムを鳴らすと、少女がドアを開ける。
そこには高校生ぐらいだが髪はボサボサで目は虚ろで、怯えたように肩を震わせていた。
「今日は君を救いにきたんだ」
その言葉と共に王我は手にした注射器を取り出すと少女の首に突き刺し、液体を流し込んだ。
交互にやってくる鈍い痛みと鋭い痛みに彼女は悶える。
「戌上雪音、この名前知ってるね?」
王我がそう言うと、悶えながらも彼女は眼の奥にドス黒い殺意を宿し、睨む。
彼女の反応を見た王我は満足げに笑いながら語りかける。
「明日が楽しみだ」
微笑みながら呟くと、王我は踵を返し、その場を後にした。
ーーーー
翌日、梅雨時にしては珍しい青々とした快晴が広がる空の下で、力人と雪音はいつも通り登校していた。
すると二人は道端に人集りが出来ていることに気がつく。
「なんだ?こんな朝っぱらから……」
「どうしたんだろ?」
二人が疑問に思っていると、突然人混みの前方から叫び声が聞こえてきた。
「助けてぇ!!」
「大丈夫ですか!?」
声のする方へ駆け寄る二人だったが、目の前に現れた光景に絶句した。
そこには五体の蜘蛛のような姿をしたバルバロイがバスの乗客や逃げ惑う人々を無差別に襲っていたのだ。
「何だよこれ……」
力人が唖然としていると、雪音が力人の背後に隠れながら震えた声で呟く。
「蜘蛛……虫嫌い……怖いよリッキー……!!」
雪音の弱点である節足動物がモチーフになっているバルバロイを見て恐怖に怯えている様子だった。
「無理もないよな……あんなもん見たら誰だって嫌になるわな」
力人はそう呟くと、カセットをコントローラーを差し込み、スカイリッキーへとトランス・チェンジした。
「雪音は、安全なところに隠れててくれ!」
そう言い残すと、スカイリッキーはバルバロイの方へと駆け出す。
迫り来るスカイリッキーに気づいたバルバロイ達は標的を変え、一斉に飛びかかる。
しかし、スカイリッキーは車輪のように回転しながら両手で襲いかかるバルバロイ達に突撃していく。
「大車輪」
「「キシャアアァッ!!!」」
叫び声をあげながらスカイリッキーを潰そうとするバルバロイ達だが、大車輪の勢いに押し返され、逆に切り刻まれていく。
「あと2体……一気に決めるぜ」
とどめを刺そうとするスカイリッキーだったが、バルバロイの姿が一瞬にして消え去ったことに気づく。
「なっ……どこにいった……?」
辺りを見渡すが、何処にもいない。
何処へ行ったのかと思考を巡らせると突如、雪音の悲鳴が聞こえる。
慌てて振り返るとそこには倒し損ねた2体のバルバロイが雪音に飛びかかろうとしていた。
「雪音!危ない!!」
叫ぶスカイリッキーだが、雪音はいつものように立ち向かう様子は見せず、何かに怯えるように地面に座り込んでしまったままだった。
「あ……ああぁ……」
恐怖で動けなくなった雪音を嘲笑うかのごとく、バルバロイはゆっくりと近づいていく。
「クソ!!間に合ってくれ!!」
『cassette change:shooting trigger』
スカイリッキーはシューティング・トリガーのカセットを挿入し、シューティングトリガーへと姿を変えた。
「まだ練習途中だが、ぶっつけ本番でやるしかないか……」
高速でボタンを操作し、SRスナイパーライフルをコントローラーから取り出すとバルバロイに向けて引き金を引く。
「いけぇええええ!!!」
銃口から放たれた光の弾丸は一直線にバルバロイに向かって飛んで行き、バルバロイを一瞬で動かなくさせる。
その隙をついてスカイリッキーは、雪音の元へと向かい雪音を庇うように抱きしめる。
「もう大丈夫だ雪音」
しかし雪音の様子はどこかおかしい。まるで怯えた小動物かのようにガタガタと震えていたのだ。
それどころか身体も縮こまり、さらには呼吸も乱れて過呼吸を起こしていた。
「はあっはあっ……はあっ……」
「どうしたんだよ雪音!?」
尋常じゃない雪音の怯えように困惑する力人。
そんな力人の胸元で雪音は震えながら呟く。
「はぁっはぁっ……り、リッキー、う、後ろ……」
「は?何言ってんだ?」
そう言いながら振り返った瞬間、力人は驚愕した。
なぜなら先程倒したはずのバルバロイ達が復活していた。
(蘇生効果か……?こういうタイプの場合、大抵同時に倒さないといけないはずなんだがな……)
冷静に分析しつつも、スカイリッキーはすぐに行動を開始する。
「もう一度倒すしか無いみたいだな……!」
再び、コントローラーを操作してスカイリッキーはバルバロイに立ち向かった。
刹那、何者かがバルバロイ達を次々と倒していく。
現れたのは、ライダースーツを纏ったゲーマー。それは雨都創亮だった。
「マッハさん、どうしてここに?」
「遅れてすまない。今から援護に入る」
そう言うと彼はコントローラーを操作し、滑走しながらバルバロイ達に次々と攻撃を加えていく。
そして数分後、バルバロイ達は全滅した。
すると、雪音が安堵したのか力人に抱きつく。
スカイリッキーはそれを優しく受け止め、頭を撫でた。
「これで、今回のバルバロイは全部倒したか?」
「いや、確か5体だったはず……ということはまさか……!」
力人は最悪の事態を想像して青ざめる。
しかし、予想に反してバルバロイが復活する様子は見られなかった。
雪音もそれに気づいたのか、不思議そうな表情を浮かべた。
その直後、スカイリッキーは何かに気づいたような素振りを見せる。
「どうしたのリッキー?」
「いや、なんか変な感じがしてな……」
不安そうに尋ねる雪音に、スカイリッキーは答える。
「まあ、気のせいだと思うけど」
そう言いながら、雪音を安心させようと頭を撫でるスカイリッキーだったが、突如として凄まじい轟音が鳴り響く。
慌てて、音の鳴る方を見るとそこにはスカイリッキーとマッハが倒し損ねたバルバロイが立っていた。
そのバルバロイが手をかざすと、倒れていたスパイダーバルバロイが立ち上がり、バルバロイの元に集まる。
「こいつがスパイダーバルバロイのボスっていうわけか」
マッハの言葉にをスカイリッキーは肯定する。
「そういうことだろうな。だったら……」
そう言ってスカイリッキーは取り出したヘラクレスホーンでスパイダーバルバロイに攻撃を仕掛ける。
素早い身のこなしで攻撃を繰り出すスカイリッキーだったが、突如、身体の動きが鈍くなる。
ふと足元を見ればそこには白い糸のようなものが無数に絡み付いている。
スカイリッキーは即座に自分の身体に絡まっているものを切り裂き、体勢を立て直す。
その隙にスパイダーバルバロイ達は、雪音を取り囲んでいた。
「しまった……!雪音!!」
「大丈夫だ、力人くん。彼女ならきっと勝てるよ」
「そんなこと言ってる場合か!!」
落ち着いた言葉を返すマッハに対して、スカイリッキーに焦りながらも苛立ちを含んだ口調で言い返す。
そして、次の瞬間。
雪音を取り囲んでいたスパイダーバルバロイたちは次々と人間の姿へと戻っていく。
それを見たスカイリッキーは驚愕した。
なぜならば、目の前で起きているのは紛れもなくスパイダーバルバロイではなく人間の少女達で、しかもその中心にいたのは見知った顔だったからだ。
「お前は……!生嶋」
スカイリッキーの声に反応して、リーダー格の少女、生嶋秀美はゆっくりと振り返る。
その目はまるで深淵のように暗く底なしの沼のようにドス黒く濁っていた。
「これ以上雪音に近づけさせるものか……!」
ヘラクレスホーンを手にスカイリッキーは秀美に向かって駆け出す。
しかし、スパイダーバルバロイのリーダー格である生嶋秀美……もとい、バルバロイ化した秀美は雪音の前で口を開いた。
「アンタのせいで私は全てを失った……!全部、全部……全部……アンタが悪いのよ……!」
秀美の怨嗟の言葉に、雪音は怯えた表情を見せる。
そんな雪音を庇うようにスカイリッキーは立ち塞がった。
「それ以上、雪音に近づくんじゃねえ!!」
力強く握った拳で秀美を殴りつけ、怯んだところに蹴りを入れる。
「覚えてなさい!この怨みは必ず返してやるんだから!」
捨て台詞を残して、バルバロイ達はその場を後にした。
「逃がすか……!」
追いかけようとするスカイリッキーだったが、背後から聞こえる荒く激しい息遣いに気付き足を止める。
後ろを振り返ると、そこには雪音が座り込んでいた。
「大丈夫か!?」
心配そうな表情を浮かべながら、スカイリッキーへの変身を解除し力人は雪音の肩に手を置いた。
「はあっはあっ……リッキー……」
手が震え、呼吸が乱れながらも雪音は何かを言おうとする。
「雪音!!少し落ち着こう!」
力人は雪音を宥めるため、一旦、安全な場所まで連れて行くことにした。
近くの公園のベンチに座らせ、雪音が落ち着きを取り戻すまでの間、力人は彼女の手を握る。
「マッハさん、今日は学校を休むって連絡しておいてくれませんか?」
力人は創亮に頼み事をした後、雪音の方へ向き直る。
先ほどまでと比べると過呼吸は少し治まったようだが、まだ顔色は悪く、辛そうな様子だった。
「大丈夫か?」
力人は雪音の隣に腰掛けながら尋ねる。
「うん……」
力人に気遣われ、雪音は申し訳なさそうに俯いた。
「無理すんなよ、ほら水」
力人からペットボトルの水を受け取り、雪音は少しずつ口に含む。
しかしその次の瞬間、雪音の中で何かが込み上げてきた。
慌てて手で口元を抑えるが、嗚咽と共に嘔吐してしまう。
「お゛え゛っ……!!」
地面に零れ落ちる水が混ざった胃液が今の彼女が置かれた状況の深刻さを物語っていた。
「雪音さん!?」
驚いて思わず声を上げる創亮だったが、すぐに我に返り雪音の元へ駆け寄る。
その間も力人は雪音の背中を優しくさすり続けていた。
「はあ……はあ……リッキー、ありがと。もう大丈夫だから」
そう言いながらも雪音の様子は明らかに無理をしているようだった。
今にでも倒れてしまいそうな雪音をこのままというわけにはいかない。
そう考えた力人は決心を固めたように雪音を雪音を背負い、立ち上がる。
「俺は雪音をおぶって先に帰るから、マッハさん後はお願いする。それと、後で雪音の家に来てくれ、話したいことがあるからさ」
創亮に後を任せると、力人は雪音をおぶって自宅へと歩き出した。
「雪音、ゆっくり休んでいいからな」
「……うん」
その言葉を聞いて安心したのか、雪音は力人の首の後ろに回した腕の力を強め、ゆっくりと心を微睡みに委ねていった。
[次回予告]
雪音と因縁のある少女、生嶋によって雪音はフラッシュバックを起こし倒れてしまう。
そして語られる雪音の過去……
窮地に立たされる力人達の前に現れたたのは希望の使者か、絶望の死者か……
次回[GETOVER THE PAST]
最終更新:2025年03月08日 14:48