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オープニング――神の声

「む……」

小さな呻きとともに一等陸士であるゴトウは身を起こした。いつの間に気を失っていたか、まったく身に覚えがない。
東京へICBMの落下を企むトールマンたちメシア教徒の横暴を防ぐため、クーデターを起こし演説したところで記憶が途切れている。
軍人として即座にゴトウは身を起こし周囲を警戒する。周りにいるのは、老人、青年、少女など多種多様。
周囲の暗さもあってか、顔は判別できなかった。
何事があっても対処できるようにと腰の愛刀「コテツ」に手をかけ――られない。
常に放さず持っていた筈の己の武器がない。
胸のポケットを押さえても、自衛官として持っていた銃器もなかった。
今の自分は、丸腰ということだ。だた一つ、己の身の中に眠る力を除いて。


「どういうことだ……?」

油断なく、軍人として冷静にゴトウは周囲を検分する。
リノリウムに似た材質の床。四方を見るが、暗く奥行きはよく分からない。
奥や横の他の人々も行く当てなく歩いている様子を見ると、扉はないように思える。
自分が起きたのは比較的遅かったのだろう。現状を打開するために他者に話しかけていいものか眉をひそめた時――


目を焼き尽くすほどの輝きが点から降り注いだ。
何が起こったかと目をくらませながらも手をかざし、その隙間から輝く何かを見ようとする。
だが、その輝きは一瞬で収まり、そこには



『我 が 名 を 称 え よ …………』


そこには


『我 が 栄 光 に 満 ち た …………』


そこには


『並 ぶ 者 無 き 我 が 名 を 称 え よ …………』


そこには――――――『神』がいた。


ゴトウは、悪魔と呼ばれた古き神々は知っている。が、それとはまるで違った。
神としか名状しようのない、途方もない何かがその輝きとともにある。
生まれて初めて見る存在のはずだというのに、酷く既視感を覚えていた。
その姿は見えないというのに、絶対に『そこ』に在ると認識させる。
魂に冷水をあびせかけたかのように、体が凍りつき動くことを許さない。
異言を許さぬ、絶対者がそこにあった。



『我が名は……………    Y   H   V   H     』



ヤーヴェともエホヴァとも、ヤハウェとも聞こえる言葉でありながら、その言葉の指す意味は一つしかない。




多元なる宇宙を統べる創造神――万物の父。



「私が詳細を語ろう」

光の下、黒点が生まれた。
その黒点はどんどん広がり、一体の罪人であり龍であり蛇であり審判者である姿を取る。
腕は6本。金色の瞳が3つ。全身に生え尖る鱗。長く伸びた尾。漆黒の体。大地を踏みしめる巨大な脚。小山の如き巨体。
またの名を聖書の獣、神の御許に向かう価値がある魂かを判別する審判者、そして時にはセトの犬。

「我が名はサタン………
 数多の並行世界、次元世界よりここに集ってもらったお前たちには……
 『裁き』のため最後の一人になるまで殺し合ってもらう」

殺し合え。絶対に、本来なら拒否するはずの命令だった。
どんな相手であろうと、だからそうかと受け入れられないはずの言葉。
だというのに、口を開くことができない。全身に走る悪寒がそれを許さない。

「不完全な世界、不完全な生命。それを『裁く』ことは私の役目。今回の儀礼は私が執り行う」

サタンは、静かに、そして荘厳に告げる。
ルールはない。あらゆる力を振り絞り殺し合えと。そのために『世界』を用意したとも。
禁止エリアというものの説明。
6時間ごとに行われる放送。
武器は没収し、様々なものを加えた上で再分配する。
首につけられた呪印は、規則を破れば体を土くれに返す。
大陸から落ち異次元に落下した場合、3度までは無作為に跳躍させるが4度目で『死』を与える。
説明後、用意した『世界』に適当に飛ばす。
三人を殺せば望んだものの傷を完全に癒し、
五人を殺せば望んだものの傷を完全に癒すとともに強力な武具を渡し、
八人を殺せば望んだものの傷を完全に癒すとともに元の世界に帰還させる。
『世界』の最後の一人となれば、傷を癒しどんな願いも叶えた上で元いた世界に帰還させる。
今から行われる殺し合いのルールをただ、淡々と説明するサタン。

ゴトウも、ただ聞いていただけではない。
殺し合いだと? ふざけるな。私は、護国のための兵士。引いては、国の民を守る規範となるべき立場。
その自分が、殺し合えなど決して飲めるものではない。そのために憂国の士として、自分は立ち上がったのだ!

必死に自分に対して暗示をかける。
逆らえ、逆らえ、逆らえと念じ続け、体が動いたのはすべての説明が終わった時だった。

「ふざけるな!」

ただ、その一言を発するのがやっとだった。膝が震え、全身から脂汗が流れ続けている。
下半身に力を込める。ほんの僅かでも力を抜けば、そのまま倒れて二度と起き上がれないと本能的にゴトウは察した。
周囲の目がゴトウに集まるのを感じた。
だが、そんな中サタンは興味を一切持たぬ瞳を僅かに向けただけだった。

「ちょうどいい。呪印の力の発動を見せよう」

そう、告げただけだった。静かに、サタンの6本の腕の一つがゴトウを指さす。

それだけだった。たったそれだけの小さな動きを原因として、ゴトウの足が土となりぼろぼろと崩れていく。

「ぬううううおおおおおおおっ!?」

それでも、ゴトウは、一歩を踏み出してみせた。ゴトウ、その驚嘆すべき精神力の発露。
せめて無理でも、一矢は報いてみせる。日本の軍人としてその一念で、手を突き出す。

「魔破……斬魔ァっ!」

ゴトウの習得した、最大の魔法――高位衝撃魔法。
ゴトウの突き出した腕から放たれた大量の衝撃波、真空波がサタンへ殺到する。
乳白色に淀んだ風が、サタンを包む。しかし、サタンからすれば、それはそよ風にもならない。
風の中サタンは平然と別の腕をゴトウに向ける。

「『神の裁き』」

ゴトウが意識を保っていたのは、ここまでだった。だから、この後はゴトウは知らない。


ゴトウのいた場所を中心に、数十mにわたり十字に床が消滅したことは。




【バトル・ロワイアル スタート】

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最終更新:2009年05月21日 20:33
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