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徒花の心意気

 かつて、戦争があった。
 たった一つの万能の願望器を求めて、7人の魔術師と7騎の英霊が覇を競った戦争があった。
 けれど、その戦争は誰の願いも叶えず、誰の祈りも届かず、物語はZEROへと至った。
 これから見えるものは、その最中に在った、1人の騎士の姿。


「あ……」
 双眸から溢れ出るのは、血涙。
 唐突で、あまりにも理不尽な、不可解極まりない決着。
 この戦争の開幕を告げたに等しい初戦にて、彼は気高き騎士の王と刃を交え、乱入者によって阻まれたその決着を後に果たすことを約束した。
 その何よりも尊い約束は、外道の魔術師とサーヴァントの討伐を終えた今、果たされる――はず、だった。
 なのに。今、己の心の臓を貫いているのは騎士王の剣ではなく――己が紅の魔槍であり、それを実行したのは己が肉体に他ならなかった。
 しかし、こんなことを彼は一瞬たりとも望んでなどいなかった。考えてもいなかった。なのに、それをしてしまったのは、疑いようも無く……主従の証、令呪による強権の発動に相違なかった。
 己が槍に貫かれたまま、血涙を流しながら、彼は背後を振り返る。
 そこにいるのは、かつて一度だけ目にした騎士王のマスターと、自らのマスターだった。彼らは固唾を呑んで、けれども、この状況に一切驚愕することなく、事の次第を見届けている。
 ここに至り、彼は全てを理解した。
「貴様らは……そんなにも……」
 マスターは我が身の保身の為に、自分を売ったのだ。自分を自害させれば命だけは助けてやると、あの黒い男――騎士王のマスターに唆されたのだろう。
 ならば、先程までの一騎討ちも……時間稼ぎでしか、なかったというのか!?
「そんなにも勝ちたいか!? そうまでして聖杯が欲しいか!? この俺が……たったひとつ懐いた祈りさえ、踏み躙って……貴様らはッ、何一つ恥じることも無いのか!?」
 神話の時代より“輝く貌”と称された美貌は憎悪と怨恨に歪み、血涙に汚れたその面立ちは悪鬼と見紛うばかりの形相となっていた。
 それほどに、彼は憎んでいた。怒っていた。恨んでいた。……哀しんでいた。
 生前の焼き直し――或いは、それよりもなお酷い――とも言えるこの状況に、彼は激情に身を委ねて、全てをぶちまけた。
 この世のすべてに向けて、叫び散らした。
「赦さん……断じて貴様らを赦さんッ! 名利に憑かれ、騎士の誇りを貶めた亡者ども……その夢を我が血で穢すがいい! 聖杯に呪いあれ! その願望に災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せ!」
 この怨嗟の叫びが後に結実するとも知らず、彼――ディルムッド・オディナは現世から消滅した……はず、だった。




「殺し合い……か」
 つい先刻まで居た場所で行われた、神を騙る者達からの説明を思い出しつつ、彼――ディルムッド・オディナは呟いた。
 あの時は自分が再び現界していること、しかもどうやら受肉までしているらしいことに驚き、自分の身体を確認している内に……何もできず、勇敢な者を見殺しにしてしまった。
 勇敢にも殺し合いという外道の所業を開いた者達に挑み、その命を散らした勇者に黙祷を捧げ、ディルムッドは先ず己の指針を考えた。
 ――否、これは考えるまでも無いことだ。
「このような騎士道に反する外道の所業に加担するなど、断じてありえん」
 そう。彼は騎士道を重んじる、騎士の鑑とも言える漢。……加えて、今の彼には外道の所業や非道の行いに対する激しい憎悪と憤怒があった。
 思い出すのは、意識の途切れる前の、セイバー達からの仕打ち。
 勝利のためには騎士道も誇りも擲った奴らと同じに堕することなど、ディルムッドにはありえない。
 そこで、決意も新たに己が宝具たる『破魔の紅薔薇』を取り出そうとして、気付く。
『破魔の紅薔薇』が、無い。ヤツラに簒奪されたのか。
「……まさか、今一度の生を与えた代償、などとぬかすのではあるまいな」
 ギリ、と怒りも露に歯を鳴らす。どうやら、不本意ながら頼れる物はヤツラから与えられたデイパックの中身しか無いようだ。
 そのことを不快に思いながらも、背に腹は変えられぬと荷物を漁る。
 そうして出てきた支給品は2つ。
 1つは鞘に収められた剣だ。第四次聖杯戦争にランサーとして呼ばれこそしたが、ディルムッドは剣の扱いにも優れた騎士だ。この剣がディルムッドの技量に応えられるだけの業物であれば、心強い戦力となるだろう。
 そして、もう1つの支給品の説明文に、ディルムッドは素早く目を走らせる。そしてその使用方法や用途を理解すると、暫しの黙考の後、ディルムッドはそれを――拡声器を手に取った。

「聞け! この邪悪なる戦いを仕組んだ者達よ! そして、この非道の行いに加担せんとする外道どもよ! 俺はこの場において、貴様らへの徹底抗戦と、我が誇りと騎士道に懸けて貴様らを討ち取ることを宣言する!!
 これに異を唱え、このディルムッドを討たんと望む者はいつでも向かって来るがいい! 俺は逃げも隠れもしなければ、罠も謀略も用意しない! 真正面から、正々堂々と相手をしてやろう!!」

 これは、激情に流されての浅はかな行動では断じてありえない。
 ディルムッドには英雄としての、フィオナ騎士団最強の騎士としての自負がある。恐らくは自分が、この殺し合いの舞台に於いても屈指の実力者であると考えていた。
 そして、信じている。自分と同じくこの殺し合いに否を唱える、フィオナ騎士団の朋友達のような勇者の存在を。
 同時に、確信している。己の邪悪な欲望を満たす為に、他者の命を躊躇い無く奪う外道の存在を。そうでなければ、あの忌々しい呪印があるとはいえ、これだけの自由意志を与えた上で「殺し合え」などと言うまい。恐らくは、相当数の外道がいるはずだ。
 故に、ディルムッドは声高らかに宣言したのだ。
 まだ見ぬ勇者達の為に、彼らの負担を少しでも減らす為に、この近辺にいるかもしれない外道を自分が引き受ける。
 好戦的な輩ならば、すぐにでもこの声に引かれて来よう。姦計を張り巡らせる輩は……それこそ、望むところだ。どのような謀略を張り巡らせようと、叩き潰してみせよう。
 仮に外道が1人もいなかったその時は、この声が殺し合いを否定する者達への励みになることを祈るまで。
 宣言を終えると、ディルムッドはもう1つの支給品である剣を鞘から抜き放った。磨き抜かれた刀身は、一目で業物と分かるほどの代物だった。
 ベガルタとモラルタという双剣の使い手でもあるディルムッドには、槍と同じく剣も馴染みの深い武器だ。手にする剣がこれほどの業物があれば、そうそう遅れを取る事はあるまい。

 早速素振りでもしようかと思った、その時、異変が起きた。
「おでれーた。いきなりあんなことを言ってのけるたぁ、お前さん、なかなかどうして男前じゃねーか」
「……む?」
 どこからか聞こえてきた声に眉を顰める。
 まさか、近くに誰かいるのか?
 辺りを覗うが、人の気配は無い。
 もしや、アサシンと同等かそれ以上の気配遮断スキルの持ち主か?
「お~い。こっちだよ、こっち」
「……………………………………まさか、この剣、か?」
 その声の主が手にした剣――デルフリンガーだと理解することに、ディルムッドは暫しの時を必要とした。


【A-2 1日目 深夜】
【ランサー(ディルムッド・オディナ)@Fateシリーズ】
【状態】:健康、外道への怒り
【装備】:デルフリンガー@ゼロの使い魔 
【道具】:基本支給品、拡声器@現実
【思考・状況】
基本行動方針:騎士の誇りに懸けて、この殺し合いを打倒する。
1:取り敢えずデルフリンガーと話してみる。
2:暫くこの場に留まり、拡声器によって誘き寄せられてきた外道を倒す。
3:拡声器によって近付いて来た者が殺し合いに乗っていない場合は適宜対応。
4:破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を取り戻す。
【備考】
※原作死亡後からの参戦です。
※地図と名簿があることに気付いていません。
※拡声器により、隣接するエリアにまでディルムッドの声が響いています。
※『必滅の黄薔薇』は存在しないと考えています。

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最終更新:2009年05月21日 20:39
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