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科学の欲求>神の命令

電灯も何もなく、ただひたすら闇だけが広がる大聖堂。
何階建てかもわからないほど広い聖堂の、小さな展示室の物品にもたれかかる男が一人。
窓辺の小さなステンドグラスの向こうから差し込む光を、ぼんやりと彼は見つめている。

「まったく……くだらないな」

端正な顔と、半端に伸びた髪を掻きあげ、白衣の男は呟いた。
彼の名は、ジェイル・スカリエッティ。
広域次元犯罪者というくくりに分類される純粋な科学者である。
あの巨大な生命体は『裁く』と言っていた。そのために、多くの次元宇宙や並行世界から集めたとも。
自分が裁かれる理由など、腐るほど思いつく。
まず、彼自身『人工的に創造し、一定方向へ興味を示すように作られた生命』だから。
そして、神の法に触れる禁忌、『人工の生命の誕生』を行っていたから。
そのための、人体実験などもろもろも含めて、裁かれる理由だろう。
別に彼自身としては、まったくそのことに罪悪を感じていない。
むしろ、それを弾圧し、時に利用しようとする存在を煩わしいと思っていた。
彼は、自分の欲望を自由に探求できればそれいいのだ。
それ以外はすべて面倒な煩いだ。

彼は、手の中にある紙束に侮蔑の視線を投げる。それは、彼に与えられた支給品の一つ。
それに書かれた文字は――『人工救世主(メシア)計画』。
何かと思いきまぐれに目を通し、あまりの馬鹿馬鹿しさに少なからず失笑してしまった。
『神が自分の作った楽園に救世主を降臨させてくれない』
『ならば人工的に救世主を作ればいい』
『5人の特定の役目を持った人工生命を創造し、役割を与え、こちらの思うように操作する』
『そして――救世主(メシア)を誕生させる』
『そして神、YHVHの降臨を促す』
戦闘機人の精製方法に関しては見るべきところがあったが、それだけだ。
そんなもの機械で十分だろう、と彼は考える。
たしかに、役割を――定めた性能を与え、その機能を効率よく発揮する姿は美しい。
しかし、それは戦闘機人のスペックに関してだ。
存在の在り方、考え方、まして誕生まで死亡まで、文字通り自由なく一挙一足まで
すべてを決めてそれ以外の一切を許さないなら、機械で十二分にことが足りるではないか。
なんのための生命か。
生命ならではの揺らぎというべき輝きがあるからこそ、生命は素体として素晴らしいのだ。
しかも、計画の顛末まで見れば案の定『神はそれでも降りてこなかった』だ。
そんな馬鹿馬鹿しい計画で何かなるはずがない。

首をかき、そこにあるという刻印にふれる。
鏡でもあればこの刻印の形状が見えるはずだが、残念ながら今この場にはない。
これで管理されている限り、自分たちに逃げ場などないということだ。
では、殺し合いに乗るか。これもまた非常に馬鹿馬鹿しいことだ。
名簿を見たところ、自分が知る名前は、高町なのはと、
無限図書の司書として名がそれなりに知れているユーノ・スクライア。
前者は自分の計画の妨害者として、後者は一応知識を探求するものとして名前程度は知っている。
ユーノ・スクライアがどの程度魔法戦において実力者かは知らないので、高町なのはで考えよう。
現実、いざ自分と高町なのはが正面からぶつかることがあれば、自分は一撃で倒されてしまうことは間違いない。
無論、AMF(アンチ・マギリング・フィールド)などを駆使し、事前に準備した上で闘えば話は別だが。
この少しの荷物を与えられ、一人きりの現状で、そんなことは到底不可能だ。
おそらく、自分は単独の戦闘力では最下層だと彼も自覚している。
乗っていては、どんな計略を練っても勝ち上がるのは難しいし、そもそもその計略を作れるほど手持ちもない。
だから――乗らない。
そもそも願いがあれば、自分で達成することに意味がある。勝ち残ることに意味はない。
最悪自分が死んだ、もしくは長期行方不明になった場合、ナンバーズの胎内の自分が役目を引き継ぐだろう。
日頃はよく笑っている彼も、こんなつまらない状況に放り込まれては笑えない。
ディバックから、Ω字型の赤い剣を取り出す。
一応、武器はあるが肉体労働全般で門外漢の自分では勝てるとは思えない。
黒い手袋型の自分用アームドデバイスも作り、起動、操作もできるが戦った経験など皆無。
いくら強い武器を持とうが、一切実戦経験がないのではまず無理なのは、彼でも分かる。
自分の生み出したナンバーズに、わざわざ経験のフィードバック機能をつけたのもそれを重々承知だからだ。
とは言え、初めて見る『永遠神剣』なる兵器。
とりあえず最低限使ってどのようなものか見てみたいとアームドデバイスを起動させる時のように魔力を込める。

「……! 意外と面白いものじゃないか」

一の魔力を送れば、十の魔力を返してくれるイメージ。
軽く、その場で跳んだり、体を動かしたりしてみる。今までなかったほど、体が軽い。
廊下をテストがわりにダッシュしてみる。自分の体で実践するなど、初めてだったがどれほど高性能なのかは分かる。
今自分が移動した距離を、自分の腕を基準に目測で図り、かかったと思われる時間で割る。
おおむね幅のある計算だが……単純な身体能力ではS+クラスの魔導師並みではないだろうか。
特別術式を必要とせず、魔力を流すだけで大幅に身体能力を強化し、
しかも説明書きによると簡単な詠唱で魔法……『神剣魔法』を発動可能らしい。
ナンバーズの手持ちの武器なども全部お手製で作るなど、
幅広くさまざまなものに研究意欲旺盛な彼が、これを見て喜ばないはずがなかった。
是非、持ち帰れればこれは研究したい。いや、この場でもそれを可能とする施設があれば……
そうも思うが、今は解析するための道具はない。


「残念だ……実に残念だ!」

少し芝居がかった動きで、頭を押さえる。だが、こればっかりはどうしようもない。
しかたないと割り切り――実際は未練があるが――やることもないため何気なしに大聖堂をまわる。

「ん……?」

ほんの少しだけ、地面が揺れた気がした。
何気ないつもりで、吹き抜けの下を見れば、なにか巨大なモノがドアを突き破って出て行く姿が。
あんな巨大な影はあの場になかったと彼は記憶している。
そして、彼は自分の記憶への自信から、それは間違いなかったとも断定。

「何か生き物の支給品……ということかね?
 あのサイズの質量を据え置きのものを使わず一瞬で転送できる……」

彼の、猫に似た金色の目がすっと細くなる。
そう言えば、自分があの広間にいた時といい、この会場に来た時といい、かなり大規模な空間操作を行っていた。
文字通り、並行世界や次元世界をまたいで喚び寄せているのだからなおさらだ。
それが、純粋に科学力からくるものなのか、『YHVH』の力に起因しているものなのかは知らないが。
なんでもいいと思ってはいるが、死んでもいいというわけではない。
計画上自分が必要になくなって破棄ならまだしも、偶然で命を落とすなどつまらないことは彼も御免こうむる。
聖堂の壊れた扉から、光が舞い込む。
外で何があったか知らないが、あんなものとぶつかる趣味は彼にない。
さっさと姿を廊下の奥に隠す。
資料室と書いてある扉の横壁に貼り付けてあったケース入りの大聖堂の地図を、剣を隙間に差し込んではがした。
人が聖堂正面玄関前にいることを前提に、相手が進む場所を計算する。
今、自分は三度階段を下りた。展示室は7F。自分のいた場所は、つまり4Fということになる。
地図で資料室を確認しても、やはり4Fだ。
しかし、随分と大がかりなことだ。上に7F。地図を見る限り地下もどうやらある。随分と広い。
地下の地図はないが、何箇所か設置してあるエレベーターから地下にいけるようだ。
上に関しては一階一階詳細に地図には書かれているのにも関わらず、
地下だけはそっけなく小さくエレベーターで行けることを示唆しているだけ。

――見てみたい。

無限の欲望の名を冠する通り、彼に強い欲望が頭をもたげた。
全てを晒すように刻まれた地図で、そこだけが異常だった。
一体地下には何があるのか。どんなものがあるのか。何故、そこにある何かを隠すのか。
いや、書いてある以上隠していないことはない。
しかし、書きたくないが、書かなければ仕方ないから書いたような……余計興味をそそるものがある。
設置してある場所を吟味し、正面玄関から進んだ場合、もっともかち合わないと思われる場所へ急ぐ。
基本、姿は隠していない。
なぜならここには、自分と、あれを転送した参加者と、転送しなければならない参加者がいる筈だ。
MAPは、5×5-1で24マス。名簿に書かれた名前は、50。一マスあたりは、平均すれば2と少し。
無論、時間経過とともに偏りは生まれるだろうが、今は始まったばかり。
殺し合いを効率よくしようとするなら、初期配置で極端に偏らせることは避けるだろう。
平均値である2と少しを超えた3に到達しているここにさらに参加者がいるとは考えにくい。
地下に行けば、いざ逃げ場はなくなるかもしれないが、このさいどうでもいい。
自分の身の安全より、自分の『知りたい』という欲求を満たすことのほうが彼にとっては大切だ。
考え通り、他の誰とも出会うことなくエレベーターまでたどり着いた彼は、
即座に並んだ数字の下にある「B」というボタンを押す。
意外と新しいのか、ほとんど揺れや異音を起こさず、エレベーターは下降していく。
キン、と小さく音を鳴らし、扉が開く。
そこにあるのは―――

「これは、またわかりやすいことだ」

清潔感があり、調和を示していた上階とはまったく違う異界の雰囲気がそこにあった。
ほこりっぽく、資材が無秩序に投げ出され、地面には赤黒い液体が飛び散っている。
オイルなどにも見えないこともないが、そう考えるのは日和っているだろう。
本当に、分かりやすい。
古今東西、どんな組織も、きれいな側面だけでは生きていけない。
どんなに美麗讃歌を謳おうと、必ず黒い側面は存在する。
それこそ、自分の知る管理局もそうだ。
確かに末端の職員は純粋に正義を信じているのかもしれない。」
だがそれを剥けば、最高評議会、引いてはそこから援助を受けていた自分のように黒い部分も存在するのだ。
もっとも、彼自身は管理局を利用しているだけで、管理局のためという意識など欠片もないが。
これだけしかないのかと若干落胆を覚えながらも地下を散策する。
今下手にエレベーターを使えば、先ほどの人間とはち合わせるかもしれない。
しばらくはここにいたほうがいいだろう。
何か少しでも面白いものはないかと周囲に気を配りながら歩く。
そして、彼は見つけた。


「邪教の館……?」

大聖堂の中、見られたくないと思われる場所にある、『邪教』の館と来たか。
これを見て入らない彼など、彼ではない。
自分の欲望を満たすことに一切の躊躇をせず、扉を開け放つ。

開けた瞬間、足もとを白いドライアイスに似た靄が這う。
しかし、そんなものはどうでもよかった。
退屈に濁り気味だった瞳は一瞬で晴れ、暗闇の中、好奇心から金色の瞳が爛々と光る。
彼の目の前にあるのは、明らかに自分のあずかり知らぬ技術で作られた装置。
踏み込む先、操作パネルの上に置かれた紙束を掴み、読みふける。

「ハハ……ハハハハハハ!!」

笑いが、漏れる。
ここにあるのは、自分と同じく生命の禁忌に踏み込んだ人間の狂気の産物だった。
データ化した悪魔と悪魔を合体して、さらに高位の悪魔を生成する。
悪魔と人間を組み合わせ、魔人とも呼べる存在を誕生させる。
悪魔と剣を融合させ、超強力な魔剣を生み出す。
――隠したくなるはずだ。
マニュアルを一通り読んだ彼は、
これはどんな物質で作られているのか、どうやって作られているのかを調べ始める。
是非とも、これは自分の手で再現してみたい。そして――

「いや、意外と悪くないのかもしれない。ここには面白いものが山ほどありそうじゃないか!」

命も何も知ったことではない、生粋の狂科学者の笑いが地下に響いていた。

【ジェイル・スカリエッティ@リリカルなのはシリーズ】
【状態】:健康、ハイテンション(いつもの状態とも言う)
【装備】:永遠神剣『誓い』
【道具】:支給品一式
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。というかどうでもいい。
1.邪教の館を調べつくす。
2.永遠神剣『誓い』を解析したい
【備考】
※『人工救世主(メシア)計画』計画書は、展示室に放置してあります。

【支給品紹介】
『人工救世主(メシア)計画』
真女神転生Ⅱの物語の中核となる、計画を記したもの。
内容は、おおむね本文中にある通り。技術書の側面が強い。

永遠神剣『誓い』
Ω字型をした深紅の永遠神剣。使える神剣魔法は、剣から放つ光で相手を焼き貫くというもの。
ちなみに、本来の使い手は秋月瞬で、瞬のCVは成田剣(つまり、スカリエッティと同じ)

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最終更新:2009年05月21日 21:41
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