「ぬっ――――貴様、よもやそこま、ガ――――!!!???」
サタンからの誘いをにべもなく断り、それどころか逆に抹殺宣言をした英雄王。
しかし、YHVHから放たれた極光により、英雄王は童子の姿へと変えられ、殺し合いを行う世界へと送られてしまった。
その顛末を見て、ゲラゲラと笑う者がいた。
「あ~っはっはっはっはっ!! さ、さっすが王様! 油断と慢心が留まるところを知らないぜ!」
腹を抱えて、目の端に涙を浮かべながら大笑いする青年。その容貌は特殊で、褐色の肌の全身に余すことなく刻まれた刺青と、赤い腰布が目を引く。
彼はサーヴァントとしての名をアヴェンジャーと言った。彼もまた英雄王と同じく、他の者が消えていった中で取り残されていたのだ。
その理由も、凡その予想はできていた。何しろ、英雄王とサタンの問答を彼も聞いていたのだから。
「……そろそろ、その耳障りな笑いを収めたらどうだ? アヴェンジャー――否、“この世全ての悪”よ」
「へいへい、すいませんねぇ」
ヘコヘコとおどけるような動作をしながら、アヴェンジャーはサタンからの求めに応じて笑うのをやめた。そして、サタンの背後のYHVHを、改めて見る。
やはり、どうにもいけすかない。
「で? 唯一神様と魔王様が、こんな俺ごときに何か御用ですか?」
字面こそは丁寧だが、アヴェンジャーは挑発的な口調で2柱の神と魔王に問うた。
しかし、口調程度は気にすることにも値せぬ些末な事柄なのか、2柱には微塵も変化は見られない。
「汝には、我らの代行者となって貰いたい。あの裁きの世界において、殺戮者として汝より適した者はおらぬからな」
つまり、英雄王と同じでスカウトということだ。
違いがあるとすれば、事前に英雄王のスカウトの場面を見せている分、2柱がアヴェンジャーに向ける期待は英雄王よりもあるのだろう。
それはそうだろう、とアヴェンジャーは独りごちた。
何故ならアヴェンジャー――アンリ・マユは『人間を殺す』ことに特化した存在。『人間を殺す』能力に関して言えば、アヴェンジャーは最強の英雄王でさえも上回るのだ。
――そう、あくまで“人間を”だ。
「ふぅん、なるほどね。けど、明らかに人間じゃないやつもいたぜ? いくら俺が“殺す”ことに特化していると言っても、それは人間に対してだけだ。魔族とか神霊とか英霊とか、俺が勝てそうに無いやつらがかなり多くいたよな?」
物怖じもせず、アヴェンジャーは率直な疑問をぶつける。
この場に集められた者達の中で、アヴェンジャーが戦って勝てそうな者は……正直、人間以外は誰もいなかったと思う。いたとしても、それこそ1人いるかどうか。
だからこそ、解せない。人間以外に対しては“絶対殺害権”の行使ができない自分が、どうしてYHVHやサタンの鬼札【ジョーカー】に選ばれたのか。
「然り。故に、汝こそが適している」
「へぇ?」
これは驚いた。つまりこのサタン様は、人間以外に対しては弱者の俺だからこそ鬼札に相応しいと仰っている。さっぱり意味が分からない。
だが、分かる必要も無い。此度のアヴェンジャーは如何なる存在であるのか、ということに考えが至れば、それは瞭然としている。
「……ま、いいさ。答えは最初から決まっている。なんて言ったって、俺は『願いを叶えるもの』だからな」
存在しないはずの第八のクラス、アヴェンジャー。その座に納まったモノの真名は『この世全ての悪――アンリ・マユ――』。
しかし、重要なのはそこではない。このアヴェンジャーは『聖杯の中身』という“無”が、とある人間の青年を殻として被りサーヴァントとして具現した異例中の異例の存在。
つまり、アヴェンジャーの本質は『願いを叶えるもの』である。
願われて、その願いを叶えることは、彼にとっては当然のことなのだ。
「では――」
「ああ」
故に、アヴェンジャーは悪魔の王からの誘いを――
「――――――お断りだ」
――迷うことなく拒絶した。
「なに……?」
これは意外だったのか、サタンも僅かに眉を潜めたような気配を窺わせる。
「悪いけど、俺は今、マスターの願いを叶えている真っ最中でね。俺が叶える願いは一つだけ。2つ以上は容量オーバー、ってことさ」
アヴェンジャーは簡単に、平素と変わらぬ態度で拒絶の解説をする。
実を言えば目の前の2柱が気に入らないので気が乗らない、というのもある。だが、今語ったことは一片の嘘偽りの無い真実である。
だから、ここでこの話は終わりだ。
神様が旋毛を曲げて何をしでかすかは分からないが、あの英雄王様でさえお慈悲を貰ったのだ。いきなり殺されるようなことはあるまい。
「なるほど、な。……ならば、汝の主が死した後にはどうか?」
しかし、意外なことにサタンからのスカウトはまだ続いた。
「へぇ、そこまで俺にぞっこんかい? 魔王様と神様が」
嘲笑を浮かべながらも、アヴェンジャーは怪訝に思う。
アンリ・マユとは拝火教の悪神の名である。YHVHからすればそれは邪教の神であり、全人類に慈愛を与える神にとっては不倶戴天とも言える存在なのだ。
だというのに、ここまで熱心にスカウトを続けるのは……何故だ?
「汝は全にして一、一にして全なる悪。汝の悪性を以って、彼の者らの善性を証明せよ」
悪意による善意の証明。
我こそはこの世の全ての悪、この世に唯一の悪。
故に世界に我のみ悪しき。世界の悪しさの全て我なり。
汝ら、我の存在を以って、己が善性の証明とせよ。
言われるまでもない、アンリ・マユの本質。
どうやらそれこそが、神様の望みらしい。
「はっ! 自分で『裁き』とか言っておいて、よく言うぜ」
呆れたように口にして……直後、アヴェンジャーの思考に雷光の如き何かが迸り、閃きを生んだ。
「……あんたら、まさか」
アンリ・マユの放たれる裁きとは……“裁き”と銘打たれた殺し合いの本質とは、もしや――――。
「返答は如何に。アンリ・マユよ」
アヴェンジャーからの問いには一切答えず、サタンは重ねて問いかけてくる。
それに対して、アヴェンジャーは沈黙を返す。
そうして、どれだけの時が経っただろうか。
一瞬だったかもしれないし、何十分も過ぎたのかもしれない。
気が付くとアヴェンジャーは、サタンとYHVHの眼前から消え、“裁き”の行われる世界へと送られていたのだ。
「さぁて、と。荷物を検めるとしますかね」
先程までの問答の幕切れが強制退場、ということに納得がいかず暫し不貞腐れていたアヴェンジャーだが、そんなことを長々と気にしているわけにはいかない。
これまた何時の間にか足元にあった荷物を拾い、その場に胡坐を掻いて荷を検めた。
そこで、腰布に何かが挟まっていることに気付いた。
「ん? 手紙?」
いつの間に忍ばせていたのかは、面倒なので考えるのをやめた。
『汝の持ちし特権、人間の絶対殺害権を抑制する。制約ある限り、人間に対しての必殺はありえぬと知れ』
「……なるほど。身内でなければ依古贔屓はしませんか」
文面を読み終わるや否や、軽口を叩きつつ舌を打つ。
特権の抑制は痛手だ。英霊として最弱中の最弱のアヴェンジャーとしては、せめて人間に対してだけでも絶対的なアドバンテージを保持しておきたかった。だが、それが抑制されているとなると、話は大きく変わってくる。
特権がどの程度抑制されているかも、機を見て調べなければならない。正直、面倒くさい。オマケに左歯噛咬【タルウィ】と右歯噛咬【ザリチェ】までない。うぜぇ。
己が宝具たる『偽り写し示す万象』は問題なく使えるようだが、元々これの使いどころは微妙だから、あんまり嬉しくない。
早速の難問に頭を抱えながらも、アヴェンジャーは荷物を調べていく。
地図、名簿、コンパス、食料、ランタン、そして支給品――武器などの特殊なアイテムだ。これを見た時、アヴェンジャーの顔が忌々しげに顰められた。
アヴェンジャーに与えられた支給品は3つ。その内の2つを両手に握り、溜息を吐いた。
「ちっ。神様ってのは相当に嫌味らしいね。よりにもよってこの双剣を渡しますか」
その双剣は、陰陽の夫婦剣。真名を干将・莫耶。
古の中国の名工が鍛えた宝具の域にまで到達した稀代の名剣であり――『衛宮士郎』にとって最優の剣でもある。
「どー考えても陰湿な嫌がらせだよな、これ」
そうでなければ、皮肉のつもりだろうか。
ともかく、武器があるのでそこはよしとしよう。これで出てきたのがフライパンやスパナ、鍋の蓋だったら流石に文句の一つも言っただろうが。
続いて、名簿に目を通す。御丁寧に出身世界毎に分けられている上に、サーヴァントは真名まで書かれている。
「あ~、やっぱマスターもいますか。……ぷっ、子ギルかよ! いや~、あいつらもいい仕事するじゃねぇか!!…………で、キャスターとランサーか。って、何でランサーが2人もいるんだよ。しかもどっちに遭遇してもマスターの貞操の危機じゃねぇか」
ランサーが2人いることに関しては、そういうこともあるのだろうと流しておいた。
マスターであるバゼットに関しては、あまり心配していない。
バゼットはアヴェンジャーよりも強いどころか、サーヴァントとも拮抗するほどの戦闘能力を有している。
恐らく、人外のものが犇くこの殺し合いでも、あの人間凶器がそう簡単に死ぬようなことは無いだろう。
そこまで考えを巡らせたところで、無意識に視線を外していた名前に目を向ける。
その名前を目にした瞬間、アヴェンジャーは驚愕のあまり思考の殆どを埋め尽くされてしまった。
「…………衛宮士郎、だと?」
ありえない。
アヴェンジャーと衛宮士郎が同時に存在することなど、絶対にありえないことなのだ。
例えるなら、多重人格がそれぞれ別々の人間として同時に同じ場所に存在すること以上の異常事態だ。
思考を重ね、アヴェンジャーは思い出した。サタンが口にしたある言葉を。
並行世界。ヤツは、確かにそう言っていた。
「なるほど、ね。これも数多の並行世界の可能性の一つってところか?」
恐らく、並行世界から『アヴェンジャーと何の接点も無い衛宮士郎』を連れて来たのだろう。それならば合点も行く……が、そうなると、それはそれで興味が湧いてくる。
自分と対面した時、衛宮士郎はどのような顔をするのだろうか。
「――よし。取り敢えずは人探しとしますか」
最優先はマスターであるバゼット・フラガ・マクレミッツとの合流。次に衛宮士郎だ。子ギルガメッシュ君は是非とも一目見てみたい。他はどうでもいい。
行動の指針を決めると、干将・莫耶を腰に差して立ち上がった。
すると、それに呼応するかのように、突然、異変が生じた。
「きゃああああああああああ!?」
「ん?」
突如として背後から聞こえてきた絹を裂くような悲鳴に、アヴェンジャーは思わず振り返る。
するとそこには、白いドレスを着た女性が、急斜面の上から転がり落ちてきていた。
アヴェンジャーに向かって、一直線に、勢い良く。
アンリエッタ・ド・トリステインは途方に暮れていた。
最愛の人、ウェールズ・デューダーと約束を結んだランドグリアン湖の畔で永遠の別れを告げ、彼を亡き者とし国を奪った叛徒達との戦に、国家を総動員して備えていた……はずなのに。
眠りから覚めたら、神を自称するもの達から殺し合えと言われ、あれよと言う間にこのような山の中に放り出されてしまった。
「落ち着いて……落ち着くのよ、アンリエッタ」
自分にそのように言い聞かせ、深呼吸をする。
まずは何時の間にか持たされていた荷物を、自分の手で検める。
何時もの癖で侍従を呼ぼうとしてしまった辺り、アンリエッタの混乱はまだまだ大きいようだ。
食料と地図を確かめ、次に名簿を手に取った時、アンリエッタの表情が一変する。
「ルイズ……! ああ、私のお友達、ルイズ! まさか、あなたまで……!」
この殺し合いの舞台に呼び寄せられたという、唯一無二の親友であるルイズの名を見つけた時、アンリエッタは大仰な言い回しと動作で大いに嘆いた。
よく見れば、ルイズの使い魔であるサイト、ルイズの学友のタバサ、グラモン元帥の子息であるギューシュ・ド・グラモンまでいる。
そこで、ふと、アンリエッタは神を名乗るものが告げた言葉を思い出す。
三人を殺せば望んだものの傷を完全に癒し、
五人を殺せば望んだものの傷を完全に癒すとともに強力な武具を渡し、
八人を殺せば望んだものの傷を完全に癒すとともに元の世界に帰還させること。
『世界』の最後の一人となれば、傷を癒しどんな願いも叶えた上で元いた世界に帰還させること。
8人を殺すか、最後の1人まで生き残れば、生きて帰ることができる。
だが、その為に、自分が生きて帰るために彼らを見捨てるのか? 自分の手で殺すのか? 親友であるルイズを、サイトを、その友人達を。
答えは――否、だ。
そんなこと、彼らを犠牲にしててまで意地汚く生きることなど、自分には選べない。
それに、ギーシュ以外の3人にはウェールズの件で暴走を止めてもらった恩義がある。そんな彼らに杖を向けるなど以ての外だ。
「そして……もしも、あの神を名乗るもの達が本当に神だったとしても、私はこの裁きだけは絶対に認めません」
罪深いのは、恋の盲目により国を捨て、友をも殺して、そして亡き最愛の人の真実の想いをも踏み躙ろうとしてしまった、愚かなる自分だけのはずだ。
そんな自分を引き止めてくれたルイズやサイト、タバサをも巻き込んだ殺し合いが、始祖ブリミルと同じく崇められる神による裁きなどであるはずがない。
だから、アンリエッタはこの殺し合いを否定する。
「とにかく、早くルイズ達に会わないと」
思い立ち、荷物を持って歩き出して……その一歩目で、早速彼女は躓いた。
「え?」
アンリエッタ・ド・トリステインは王女である。
今まで野山を出歩いたことは一度もなく、何処に行くにも護衛や侍従がいた。
彼女はそれを幾度も鬱陶しく思っていた。だが、アンリエッタは無意識に彼らを頼っていたのも事実。
例えば、侍従の一人もいれば王女が危険な場所に近付くことが無いように細心の注意を払うだろう。近付いてしまっても、過失の無いように行動することだろう。
……まぁ、要するに、だ。
初めて一人で出歩く夜の闇の中、アンリエッタが平地と思って踏み出した先は、急斜面だったのだ。
普通の人間ならそうだと気付いていたが、アンリエッタには気付けなかったのだ。
「きゃああああああああああ!?」
空を切った足はバランスを欠き、アンリエッタは悲鳴を上げながら斜面を転がり落ちた。
「あべしっ!?」
途中、斜面の下にいた誰かと衝突して何とか停止した。
そのことを把握するのに1分近くを費やしつつも、アンリエッタは無事に止まることができて安堵した。
「……お~い。さっさとどいてくれねぇか?」
すると、下から声が聞こえて来た。
怪訝に思って、下の方を見遣ると……如何にも平民らしい身形の青年が、アンリエッタの下敷きになっていた。
「ああ、申し訳ありません。少々お待ちなさい、すぐにどきますから」
アンリエッタはやや慌てながらも、王族としての立ち居振る舞いを忘れず、極力優雅に振る舞った。
それを見た平民らしき青年――アヴェンジャーは、今更そんな風に振る舞っても手遅れだけどな、などと考えていた。
やれやれ、いきなりこんなトラブルに見舞われるなんて、ツイてないな。
そのように考えつつも、アヴェンジャーはつい先刻まで自分を尻に敷いていた少女を見る。
挙動も体付きも、明らかに一般人――というか、格好からしてお嬢様のそれだ。恐らく、基本的な身体能力でさえアヴェンジャーに及ばないだろう。
それはそれで、ある意味では好都合。鴨が葱を背負って来たとも言える。
どうやら目の前の女は殺し合いには乗り気では無い様子。武器も持たずに、腰に双剣を差しているアヴェンジャーと暢気に対面できているのが良い証拠だ。いや、或いは太平楽な頭の作りのお嬢様、というだけかもしれないが。
腰に差した干将・莫耶の柄に手を触れつつ、アヴェンジャーは思案する。
さぁて、この女でどの程度まで特権が抑制されているのか試すのもアリだが……どうする。
力を試すとは、即ち戦うということ。アヴェンジャー――アンリ・マユが人間と戦うということは、即ち殺すということだ。
目の前の女を殺すか、殺さないか。
「私はアンリエッタ・ド・トリステイン。トリステイン王国の王族に名を連ねる者です。平民の方、貴方は?」
本当に暢気なことで、このアンリエッタと言う少女は自己紹介までしてきた。しかもお嬢様どころか、お姫様と来たものだ。
苦笑を浮かべつつ、アヴェンジャーはアンリエッタを見る。単なるお人好しなのか、只の考え無しのバカなのかは、やはり見ただけでは分からない。
だが、今重要なのはそんなことでは無い。
アンリエッタの言葉に、アヴェンジャーが返すものは――――。
【D-Ⅲ山 1日目 深夜】
【アヴェンジャー@Fateシリーズ】
【状態】:健康
【装備】:干将・莫耶@Fateシリーズ
【道具】:基本支給品一式、不明支給品1(確認済み)
【思考・状況】
基本:バゼットの願いを叶える。
0:目の前の女(アンリエッタ)を――――
1:バゼットと合流する。
2:衛宮士郎に会ってみたい。
3:子ギルガメッシュを見てみたい。
【備考】
※『人間の絶対殺害権』が抑制されています。どの程度の制限かは次以降の書き手氏にお任せします。
【アンリエッタ・ド・トリステイン@ゼロの使い魔】
【状態】:疲労(小)、着衣に汚れ
【装備】:無し
【道具】:基本支給品一式、不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:殺し合いはしない。
1:目の前の青年(アヴェンジャー)と話す。
2:ルイズ、才人、タバサ、ギーシュと合流。
【備考】
※アルビオンとの戦争の開戦前からの参戦です。
最終更新:2009年05月21日 21:53