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黒に縁がありすぎて

「なるほど。システム自体はシンプルだな」
スカリエッティは、休まずに機械を調べていた。
調べる機材もない中、彼の持つ膨大な知識を集結し、合体装置を調べていく。

「僅かな時間で、完全な生命の融合を可能にする……面白い」
妖精、魔獣、人間、鬼などの異なる情報を持つ生命を分解し再構築する。
それを一瞬で行うシステムを備えているのが、この合体装置なのだ。

「だが、そうなると誕生した生命の意識はどうなる?
強化の度にリセットするようでは面倒だ。記憶のバックアップを取っておけば済む話だが……」
そもそも、単純な分解と再構築では異なる種族……神と呼ばれる種が生まれるのは何故か。

「神や悪魔……結局のところ、分類してしまえば魔法プログラムの一種ということか?」
闇の書の防衛プログラム、ヴォルケンリッターというものがある。
現在は管理局が保有しているその戦力は、魔法プログラムの塊だ。
スカリエッティは、神や魔王などという存在も、桁違いではあるが同じ存在だと推察する。
何らかのエネルギーの集合体に過ぎないソレは、配列の組み合わせ次第で神や妖精や魔王になるのだろうと。

「DNA配列と変わらないな。もっとも、遥かに複雑であるようだが……ああ、残念だ!」
未知の錬金術、魔法、そしてバイオテクノロジーが使われているのは明白だった。
それの詳しい中身まで調べる施設も道具も無いことに、再び落胆する。

「マニュアルにある合体事故……大規模の合体ほど事故の可能性が高い、か。
時空震さえ起きかねないデータ量同士の融合……起きないはずがない」
だが、このような生命の融合を果たせるならば、その程度のリスクは仕方の無いことだ。

「まずは実験してみるとしよう。合体後も、それ以前の人格を保てるか確認したい」
機材が無い以上、実際に動かしてみる必要がある。
今ここにあるのは自分の体と永遠神剣のみ。

「仕方ない。一度上に戻ってみるか」
先ほど起きた戦闘も終結しているだろう。
運がよければ実験材料の一つでも転がっているかもしれない。
思い立つとスカリエッティはエレベーターへの道を戻っていった。
煌びやかな大聖堂を歩く男女。
男が一歩歩けば女性は一歩前に出る。止まればけして近づかない。
まったく距離は離れもせず近づきもせずに、どれほど経っただろうか。
大聖堂の二階で、アリスはゆっくり言葉を紡いだ。

「……ねぇ」
「なんだ……おっと」
アリスが投げた何かを、玄乃丈が受け取る。
先ほどのカードではなく、普段から見慣れたものだった。

「探偵さん、そういう嗜好品はお好きかしら?」
「タバコか……気が効くな」
箱から一本タバコを取り出そうとして、玄乃丈の動きが止まる。

「ど、どうしたのよ?」
「……世の中には毒入りタバコというものがあってな」
その言葉に、アリスは鼻で笑う。

「タバコなんてそもそもが毒入りじゃない」
「たしかに。疑って済まなかった」
火をつけ、タバコを吸う玄乃丈にアリスは冷たい視線を向ける。
吸う前に、吸い口や匂いなどを確かめていたのをしっかりと見ていたのだ。

「ふぅ……悪かったな、美味いタバコだよ」
「そう、良かったわ」
ニコリと笑うアリス。
その笑顔を見て、玄乃丈の背筋に寒いものが走る。
「(まさか、遅効性の毒か? 調べが甘かったのか……)」

「ふふふっ……人の支給品に手をつけたんだから、それなりの物を貰いましょうか」
その言葉に、玄乃丈タバコを落としかける。
「なに?」
「私は投げただけであげるなんて言ってないわ。さっきのカードと同じで見てもらおうと思っただけよ」
アリスの狙いに気がつき、帽子を深く被り、首を振る。

「こんな罠に嵌めるような手を取らなくても、素直に言えばいいだろう」
「無償の善意を信じるほど、あなたを信頼してないの。真っ当な取引ならともかくね」
「これが真っ当か? まぁいい」
渡されたタバコのように、玄乃丈は自分のディパックを投げて渡す。
その行為に、今度はアリスが驚く。

「……あなた正気? このまま持ち逃げしたっていいのよ?」
「そのつもりなら、初めから俺を吹っ飛ばして奪っただろう?」
玄乃丈の言葉に、アリスは複雑な表情を浮かべる。
すぐにディパックに目を向け、中を探し出した。

「探偵さん、もしかして支給品……確認してない?」
「初めに名簿を見ていたら、お前さんを見かけたんでね。
何か、気にいる物でも入っていたか?」
「ええ、それなりに素敵な物があったわよ?」
そういうとアリスは、ディパックの中から何かを引き出す。

「お、おい……なんだそいつは?」
玄乃丈は出てきたものに目を見開く。
明らかにバッグの容量を超える、黒い影……人の姿だった。

「面白いわね……これって、外の世界のコンピュータとも違うようだけど……」
動かない人物をぺたぺたと触っていたアリスは、ブツブツと独り言を呟いている。
その様子を不審に思った玄乃丈はアリスの元に歩を進める。

「ッ!?」
その直後、仮面の人物が目を見開いた。
すくっと立ち上がた長身の男は、アリスのことを見据え動かない。
「貴様、何者だ。まさか支給品なのか?」
玄乃丈の質問に、男は答えずに視線だけを向ける。

「キル。荷物を返してあげなさい」
アリスの言葉に、男は玄乃丈の荷物を彼に向かって放る。
受け取った玄乃丈は、その光景に疑問を増すばかりだ。

「お前さん、これはどういうことだ?」
「どういうことも何も、私が操っているんだから何もおかしいことは無いわ」
「操っている、だと? それは式神か何かか?」
玄乃丈の呟きに答えず、アリスは一歩、二歩と距離を開く。

「探偵さんは、まだここの探索を?」
「もちろんそのつもりだ」
「なら、二手に別れましょう。この広さだもの、その方は速いわ」
何階まであるかもわからない大聖堂。
一々探していては時間がいくらあっても足りないことは、玄乃丈も承知していた。

「だが、どこに誰がいるかわからない。女性一人ってのは危険だぞ?」
「一人じゃないわ、彼がいるもの」
アリスを庇うように、玄乃丈とアリスの間に立ち塞がる男。

「あまり良い男の趣味とは思えんな」
「言いたいことはわかるけど、似たような黒ずくめが言う台詞じゃないわね」
玄乃丈は自分の格好をさっと見て、不愉快そうにため息をつく。

「一緒にするな。……お前さんの実力なら大丈夫だろうが、無茶はするなよ」
「ふふっ、こちらの台詞よ。とりあえず、あの神が言っていた放送後に落ち合いましょう」
「わかった。場所は大聖堂の入り口でいいだろう……ああ、そうだ」
思い出したように、玄乃丈は名簿を取り出し何箇所に書き込みを入れる。

「俺の知り合いだ。出会った時のために特徴を……」
「必要ないわ。襲ってきたらぶっ飛ばすだけよ……まっ、そういうことなら」
アリスは自分の名簿にもいくつか印をつけ、玄乃丈に見せる。
「彼女たちが私の知り合い。襲ってきたらぶっ飛ばしていいわ」
お互いに、印の名前を記憶する。
名簿をしまうと、すぐ近くに見える階段へと歩みだす。

「それじゃあ、何時間か後に無事会おう。アリス・マーガトロイド」
「……ええ。また会いましょう、日向玄乃丈」
お互いに、名簿を見て得た答えを口にする。
お互いが知り合いとして丸をつけた名前に囲まれた、丸の無い名前。
名乗らずとも、名簿の順だけでその名を知ったのだった。

玄乃丈は三階への階段を登っていく。
それを見送ると、アリスも吹き抜けと隣接する廊下を歩く。

「なるほど、ね……さてと、この趣味の悪い子を慣らしながら散策しましょうか」
アリスは、魔力を紡ぐと目の前の男に見えない糸を繋ぐ。
魔力に縁のある物が注意してみれば、僅かな魔力の線を見ることが出来るだろう。
この男。キルバーンと呼ばれる人形を動かす魔法糸の存在を。

「キルの調子は上々ね。私の作る人形よりも精巧、というよりこれは……」
違和感無くキルバーンの手足を繰り出し空を切らせる。
アリスは、その仮面の脇のボタンを押す。
カラン、と音を立て仮面が床に落ちた。

「やっぱり、コンピュータという式神と似てるわ。河童が作る機械みたいなものかしら?」
玄乃丈が最後まで人形だと気がつかないほど精巧な作り。
魔力で作動するためアリスにも動かせるが、同じものは作れないだろう。

「でも、変なくぼみね。何か入ってたのかしら」
キルバーンの顔面の中央に、何かはめ込むようなくぼみがあった。
アリスは知らない。
そこにあったのは、語るにも恐ろしい死の爆弾だったということを。
「まずはこの部屋から見てみましょうか」
キルバーンの仮面を嵌めなおしたアリスは、変わった扉の前に立つ。

「取っ手がないわね。奥からしか入れない仕組みなのかしら」
中央の線しかない扉を見つめ、ふと妙なスイッチに気がつく。
二つあるスイッチの片方を押してみると、しばらくして駆動音のような音が近づいてくる。

「なに……きゃっ!?」
突然、目の前の扉が開く。
誰か出てきたのかと距離を取るが、そこには人の姿など無かった。

「そうか、今のボタンで開くのね」
理解したアリスは、箱のような部屋の中に入る。
……途中、キルバーンが扉に挟まれた。

「何もないわね……物置、かしら」
ドアが閉まり、アリスは似たようなスイッチに目を向ける。
数字のボタンと、閉、開のボタン。
「開」ボタンを押そうとしたとき、がくんと箱が動き出した。

「な、なに!?」
「開」ボタンを押しても反応が無いことに、アリスは愕然とする。
「落ちている……まさか、外の空間に捨てられるの?」
焦るアリスだったが、思いのほか早く箱は減速を始めた。

「まさか、これは……移動装置?」
ボタンを再び見て冷静に考えれば、わかることだった。
「そうか、昇降機ね……でも、ボタンを押してないのに動いたということは……」
箱……エレベーターは完全に止まり、ドアが開く。

「おや、先客がいたか」
「やっぱり、ね……」
箱の外と中。
地下でエレベーターの到着を待っていたスカリエッティとアリスは、遭遇した。
「なるほど、君は魔法で人形を操る人形遣いというわけか。
いや、中々に素晴らしい。原始的な魔法のみでここまで人形を動かすとは。
君が直接操れば、更に細かい動作まで可能だったのだろう?」
「ええ、お望みならお見せしましょうか? この戒めを解いてくださればすぐにでも」
身動きの取れないアリスは、僅かに顔を歪ませながら言う。

結果だけを告げれば、一方的な展開だった。
アリスの体は、即座にスカリエッティの赤い拘束によって絡めとられた。
エレベーターという狭い箱の中では、回避することなど不可能だった。
それでもアリスは抵抗する術をまだ持っていた。
あらかじめ送っていた魔力でキルバーンを動かし、スカリエッティを襲わせる。

しかし、手足の自由が利かないアリスは直接操作ができない。
単調なキルバーンの攻撃は、永遠神剣によって強化されたスカリエッティの敵ではない。
剣を避けたところを、魔力弾で狙い撃ちにされるキルバーン。
外傷こそ少ないが、完全に魔力は切れ、人形に戻ってしまった。

「興味深いが、遠慮しておこう。今は他の研究で忙しいのでね」
アリスの懐から、五枚のカードを抜き取る。

「ほう! 妙な魔力の反応があると思えば……先ほど怪物はこれか!」
愉悦に顔を歪めるスカリエッティを余所に、アリスは戒めを解こうと魔力を練る。
「無駄だよ無駄。永遠神剣の力と私の魔力を混ぜた拘束魔術だ。
順序良く解くには時間がかかるし、力ずくで解けるほどパワー馬鹿でもないだろう?」
実際動けないアリスは歯噛みするしかない。
ずるずると引きずられ、アリスは合体装置の中に置かれる。

「なにをするつもり!」
「なに、このジェイル・スカリエッティの研究をわざわざ見に来てくれたお礼だ
実験に、参加してみてはどうかな?」
カードを投げると、巨大な幻獣の姿が現れる。

「その機械の上で待機しろ。命令あるまでけして動くな」
スカリエッティは目を狂ったように見開きながらアリスと反対側の機械に幻獣を配置する。
「ふはははは! では見せてもらおうか、生命誕生の瞬間を!」
コンソールを操作し、機会を作動させる。

「生命誕生って……ふ、ふざけないで! いや、こっのぉ……!」
想像以上に絶望的な事態になることを悟ったアリスは、魔力を力任せに放出する。
だが、先に言われたとおり戒めは解けない。
転がり、機械から抜け出ようとしても既に遅かった。
機械は淡い緑色のガラスに囲まれ、外から出ることはできなくなっていた。
機械は異音を徐々に大きくし、作動のときは近づく。

「嘘でしょ……こんなことなら、離れるんじゃ……」
アリスの呟きも、機械の音に掻き消え―――

ビー! ビー! ビー!

それ以上の警告音が鳴り響いた。
「……え?」
「うん?」
スカリエッティはコンソールを見つめ、不愉快そうな表情を浮かべる。

「エラー……?」
画面には大きく「Error」の文字と、異常個所を赤く示していた。
異常を感知しているのは、アリスのいるマシン。

「妙だな。どんな生き物も合体可能のはずだが」
更にエラー箇所を調べるため、コンソールを凄まじい勢いで切り替えていく。
「……これは」
たどり着いた画面には、契約書のような画像に書かれている文字。

『゛裁き゛を受けし者、転生することあたわず。
刻まれし呪印、その逃避を許すことなし』
さるさん食らった
「……つまらないマネをしてくれる。だが、理由は分かった」
アリスは芋虫のように這い、壁の消えた機械から離れていた。
その様子を一瞥することもなく、スカリエッティはアリスのいた機械にカードを投げる。

新たに現れた幻獣に待機の命令を出すと、スカリエッティは歩き出す。
「なっ、なによ!」
コンソールの方角ではなく、アリスの元に。

「そろそろ拘束を解いてしまいそうだからね。第二の戒めを付けておこう」
その手には、奇妙なデザインのベルトが握られていた。
それを持ったまま、スカリエッティはアリスの腰を掴む。

「きゃあ! 馬鹿、ふざけないで、何のつもりよ!」
抵抗むなしく、アリスの腰に奇妙なベルトは巻きつけられた。
そのまま、スカリエッティは軽やかな足取りでコンソールの前に立つ。

「では今度こそ!」
先ほどと同様に、機械は動き出す。
二体の幻獣の入った装置は壁に遮られる。

「おおっ!」
先ほどと、機械の動きは違いを見せた。
溶液が幻獣の入った容器に満たされていったのだ。
ほどなくして、最初から待機していた幻獣の体が細かい泡になって消えていく。

完全に消えた直後、もう片方の幻獣の姿も同様に泡に変化していった。
それを、アリスは自身がなっていたかもしれない恐怖に青ざめて見つめ。
それを、スカリエッティは瞳孔が開いているのではと見まがう狂気の瞳で見つめた。
淡く光る中央の魔方陣。
一際大きく輝いた後、小規模のエネルギーの膜が出現し、一筋の雷がそれを貫いた。

「おお……素晴らしい!」
そこには、幻獣とはまったくことなる生き物が存在していた。
赤いヒトガタの胴体から、足の変わりに生える無数の触手。
手に当たる部分からも、タコのように触手が伸びていた。
「ははははは!! 素晴らしいじゃあないか! こうも簡単に生命を誕生できるとは!
これを私の研究と組み合わせれば、面白いことになりそうだ!」
狂人の愉悦の声が室内に響く。

「ははははは……だが」
いつまでも続くかに思われた愉悦の声は、あっさりと終わった。
誕生してからピクリとも動こうとしない悪魔に近づくスカリエッティ。

「ふふふっ、良かったわね。お望みのお人形ができたみたいじゃない」
アリスの皮肉交じりの言葉に、何の感情も見せずに答える。
「さすが専門家、よくわかっている。……本当につまらないマネをしてくれる」
目の前の悪魔を見つめても、それは何の反応も示さない。
「飛び跳ねろ」とスカリエッティが呟くと、悪魔は狂ったようにジャンプを繰り返す。

「元々そういうのを生み出す機械……じゃないのかしらね」
「おそらく違う。この機械は本来契約した悪魔を合体させ強化させるものだそうだ。
これを見てみろ。元となったカードの悪魔よりも意思が薄い。命令がなければ動くことすらできない」

幻獣の時の動きを、アリスは良く知っている。
カードから呼び出した怪物は、命令なくとも召還者以外の敵を攻撃する凶暴性があった。
だが、この悪魔はそんな原始的な感情さえ持っているようには思えない。
まるで、魔力が切れたアリスの人形のように。

「反抗を防ぐためかは知らないが……これはもう生き物ですらない。
使役者の道具になるようにプログラミングされている」
スカリエッティから漏れるのは落胆。
主催者の介入によって、少ない研究テーマまで潰されてしまったのだから。

「落ち込んでいるところ悪いけど、そろそろこっちを向いてみない?」
テンションの落ちたスカリエッティが振り向くと、そこにはアリスがいた。
赤い戒めなど影も無く、キルバーンを正面に従わせている人形遣いの姿があった。
「殺されたくないなら言いなさい。このベルトは何!」
アリスは自身に巻かれたダサいベルトを指差す。

「何って、君の支給品だよ。見ていないのかい?」
「……そういえば」
玄乃丈に渡すタバコを見つけたとき、こんなベルトがあったかもと思い出す。

「外れないだろう? そういう呪いの品だからね、それは」
「一体、どんな呪いだっていうの!」
怒気を含んだ声にも、スカリエッティは何の感情も示さない。

「教える義理は無い。すぐに死ぬようなものでは無いとだけ言っておこう」
「すぐに呪いを解いて!」
切羽詰った声に、ようやくスカリエッティは薄く笑う。

「……条件がある。この悪魔を入れる容器を持ってくるんだ」
「容器?」
「どうやら、悪魔はデータ化して携帯用コンピューターに入れて持ち運ぶようだ。
それを持ってきたならば、呪いは解いてあげよう」
淡々とした説明に、アリスの怒りは増すばかりだ。

「死なない程度に拷問されても同じことが言える?」
「言えるね。正直私の命はどうでもいい。この技術を元の世界に伝えられれば死んでも構わない」
何の迷いも無く、スカリエッティは言い切った。
自分が死んでも、ナンバーズから生まれた新たな自分が技術を引き継いでくれればいい。
最悪、それすら叶わなくとも外の世界に技術を漏らせば、あのプレセア・テスタロッサのように引き継いでくれる者が現れるだろう。

「あなた、本当に人間?」
「さぁ、どうする? 君が私を殺してもメリットはない。
それとも、君はこの殺し合いに乗っているのかね?」
「……乗ってないわ。けど、殺人は良くないこと、なんて道徳があるわけでもないのよ」
幻想郷において、命のやりとりなど日常茶飯事だった。
スペルカードルールが制定されても、事故死は稀にあった。

「ならば尚の事、私は殺さないほうがいい。この呪印……解く気が出てきたところなのでね」
「どういうつもり?」
アリスの疑問に、スカリエッティは答える。

「なに、簡単なことだ。この技術を持ち帰る方法は三つ。
一、私が八人殺害、もしくは優勝して技術を手に入れる。
二、誰かに技術を託し、脱出後に技術を伝えてもらう。
三、この箱庭を壊して脱出し、技術を手に入れる。
一は、優勝が転がりこんでくるなら受け取るが、自分から攻めるなんて持っての他だ。
二は、託せる人物はいない。あまりに不確実だ。
ならば消去法として、三しか残らないということだ」

ろくな動機ではないとアリスは思う。
しかし、この男の頭脳は僅かに触れただけのアリスにも高いことが理解できた。
脱出確率は上がる。様々な危険要素と引き換えに、だが。

「……この呪いを解いてもらわないといけない。ここで争う気は無いわ」
感情を飲み込み答えるアリスに、ご満悦といった表情で狂人は答える。
「寛大な処置に感謝しよう。そうだ、これを見て欲しいんだが」
「何よ……って、これ首の呪印じゃない」
メモ用紙に書かれた手書きの模様は、自分にもある呪印だった。
裏にはモルモットAの呪印、と大きく書かれている。

「よく見てくれ。それは君の呪印を描いたものだが、私のものと同じかね?」
スカリエッティは、首の呪印を見せ付ける。
不機嫌そうにちらちら見比べるアリス。
その顔が、徐々に真剣味を帯びていく。

「少し違うわね。写しは確か?」
「多少歪んではいるだろうが、模様に間違いは無い」
「……ちょっと待って」
自身のディパックからメモ用紙を取り出し、さらさらと描きこむアリス。
それを、スカリエッティに向かって投げ渡した。
「ほう、確かに。男女の差か、種族の差かもしれないな」
しばらく見比べていたスカリエッティは、メモ用紙を懐に閉まう。
そして、アリスを見もせずに機械を弄りだした。

「ちょっと、もう明きたって言うの?」
「流石にこれだけではね。君が他の参加者の呪印を写してくれば早く解けるかもしれない。
参加者を生きたまま連れてきたら、なお早まる。
ああ! どうせ呪いにかかって長くないなら君自身が……」
「失礼するわ!」
自分の呪印が書いた紙を床に叩きつけ、廊下に向かってアリスは歩き出す。

「この場所のことは話さぬように。話せば、わかっているだろう?
さて……どの段階で感情が消滅するのか、そこが解れば対応もできるのだが……」
「……狂人め」
ここにいても時間の無駄だとアリスは廊下に消える。

いくら問い詰めても、呪いの詳細は語らないだろう。
自力で呪いを解きたいところだが、どんな呪いか判らねば解きようもない。
まだ、発動すれば砂と化すことがわかっている首の呪印の方が安全に解けかねない。
ならば、呪いが効力を見せる前に悪魔を入れる機械を探すべきだと考えたのだ。
ついでに、呪印の写しも集めながら。

名も知らぬ狂人の実験室を抜けたアリスはエレベーターの前に立つ。
「玄乃丈や魔理沙なんてマシよね。心の芯まで『真っ黒』な人間よりは」
愚痴に似た独り言を呟き、アリスはキルバーン共々エレベーターの中に消えていった。

その頃、ようやくスカリエッティは消えたアリスについて思考した。
「私らしくもない。少し優しすぎたかもしれんな」
実際、呪印を解除にスカリエッティは興味を持ち始めていた。
装置を持ち帰ることも理由の一つだが、それ以上に大きな欲望があったのだ。
参加者の呪印を解除して、今度こそ悪魔合体させる。
それも、感情の削除という細工を解除した上で。

だから、本来ならアリスを半殺しにしてでも捕まえて実験材料にするべきではあった。
永遠神剣に加え、合体させた悪魔にサポートさせればたやすいこと。
「だが、彼女の魔術は興味深い。元の世界に無事帰れたら援助してやっても良いくらいだ」
科学を知らず、魔術のみで完璧な生命を生み出そうとしている彼女。
事実、あの人形を動かす魔力を見てもガジェットの域には達している。
彼女に技術を授ければ、案外すんなりとたどり着いてしまうのではないだろうか。

「……その前に死んでしまうか。あのインチキ呪いを信じているようだからな」
あのベルトは、確かに呪われている。
外れない、ということに関しては呪印に次ぐ力を持っているがそれだけ。
特にデメリットがあるわけではない。
それを、遅効性の呪いだと信じたアリスはスカリエッティに従ったのだ。
呪いを解く術など、当然スカリエッティは知らない。

「そういえば……彼女の呪印を書いた紙はどこにやった?」
そう言いつつ、地面に叩きつけたことを思い出したスカリエッティは、落ちた紙を見つける。

「うん?」
拾い上げた紙の異変に、スカリエッティは気がつき笑う。
「クッ、ハハハハハハ! 面白い、アリス・マーガトロイド。
お得意の道具で、次に出会う時まで生き残ってみせるといい」
「モルモットA」の文字上から書かれたアリスの名を見て、笑うスカリエッティ。
まだまだ、この地下に狂人の声は絶えることはない。

【D−? 大聖堂・地下/一日目・黎明】
【アリス・マーガトロイド@東方Project】
【状態】:健康、呪われている、魔力消費(小)
【装備】:キルバーン@ダイの大冒険、へんなベルト@ダイの大冒険
【道具】:支給品一式
【思考】
基本:異変の黒幕を倒して脱出
1.呪いを解きたいのでスカリエッティの言うことを聞く。
2.悪魔を入れるコンピューターを探す。
3.参加者の呪印をメモ用紙に書く。
4.放送後に日向玄乃丈と合流する。
5.邪教の館でのことは誰にも話さない。
【備考】
※へんなベルトの呪いを深刻に捉えています。
※キルバーンの体内に黒の核晶はありませんでした。
※玄乃丈の知り合いの名前を知りました。
※スカリエッティは一度名乗っていますが、パニック中だったため忘れています。
きっかけがあれば思い出すかもしれません。


【ジェイル・スカリエッティ@リリカルなのはシリーズ】
【状態】:健康、ハイテンション(いつもの状態とも言う)
【装備】:永遠神剣『誓い』 、妖獣スキュラ
【道具】:支給品一式、カード(幻獣)×3、呪印の模写(アリス)(スカリエッティ)
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。というかどうでもいい。
1.邪教の館を調べ、制限を解いて実験したい。
2.永遠神剣『誓い』を解析したい
3.呪印の解析はアリスが帰ってきたら?
【備考】
※『人工救世主(メシア)計画』計画書は、展示室に放置してあります。
※悪魔合体によって生まれる悪魔は、COMPの悪魔同様心がありません。
※呪印の影響で参加者は悪魔合体不可能です。
※妖獣スキュラは合体させた主から一定距離以上離れません。離れすぎると死にます。



「なんだ、ここは?」
アリスが酷い目にあっていた頃、玄乃丈は三階のとある部屋にいた。
それなりに広い部屋に、銅像が五体。
正確には、顔の判別も出来ない銅像と、それを四方から囲む四体の銅像。
四体の銅像も、一つを除いて判別が出来ないほど壊れている。

「『神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾』……ね」
唯一壊れていない青年の銅像の台座に刻まれた文章を読み上げる。
光太郎と同じか少し若いくらいの人物だろうか。
玄乃丈はしばらく銅像を見た後、中央の銅像の前に立つ。

「なに?」
両手を前に突き出した銅像の台座にある文章を見て、玄乃丈はタバコを落とす。
「『始祖の名を称えよ』……?」
どういう意味かと台座を見ると、指を引っ掛けるような窪んだ部分を見つける。

「ふむ、なるほどな」
玄乃丈はそこに指をかけ引っ張る。
すると、玄乃丈が思ったとおり台座はカパッと開いた。

そして裏から出てきたのはキーボードと液晶画面。
ここに入力しろということらしい。
『YHVH』と入力し、決定キーを押す。
途端、小さくエラー音が響くと同時に、入力した文字が消えた。

「違うか。下手に触らんほうがいいな」
正しく入力すれば何が起こるのか気にはなる。
しかし、答えを知らない以上保留するしかなかった。

「こいつなら知っているかもしれんな」
青年の銅像を見る。
神の左手ガンダールヴ。
居るかも定かではない青年だけが、唯一の手がかりだった。
この場所を記憶に留め、玄乃丈は探索を続行する。
「何か、妙な胸騒ぎがするな。……無事でいろよ」
呟き、探偵は二本目のタバコに火をつけた。

【D−? 大聖堂・三階/一日目・黎明】
【日向玄乃丈@式神の城】
【状態】:健康 、喫煙中
【装備】:なし
【道具】:支給品一式、タバコ(18/20)、不明支給品0〜2
【思考】
基本:主催を倒す
1.聖堂の中を探索する
2.ガンダールヴの青年を探し、始祖の名前を聞く。
3.アリスと放送後に合流する。
【備考】
※最終話以後、エピローグ以前からの参戦です
※キルバーンを式神の類だと思っています。
※大聖堂三階のある部屋に、始祖と使い魔の銅像があります。
始祖ブリミルの名前を入力すると何かが起きるようです。


◆支給品解説

【キルバーン@ダイの大冒険】
正確には、キルバーンと思われていた機械人形。
仮面を取ると剥き出しの機械が見える。
本来はここに黒の核晶があるが没収済み。同様に死神の笛などの武器も没収されている。
全身マグマの血液が流れているため、ヒャドなどの魔法は無効。
更に、この血が剣に付着すればどんな名剣でも切れ味を落とす。
マグマの血を利用して体を犠牲に大火球を生み出すバーニングクリメイション。
扇状の頭飾りに仕込んだ不可視の13本の刃、ファントムレイザーが使えるかは不明。

【へんなベルト@ダイの大冒険】
マトリフがポップに装備させたベルト。
中央に金のマトリフが描かれていてダサイ。
呪われているが、外せない以外に悪影響は無い。

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最終更新:2009年06月11日 23:27
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