探求者が集い、潜る前の腹ごしらえ、出てきた後の宴会、探求者御用達の大型食堂『大食漢』。
そこを利用する客のほとんどが現役の探求者で、落ち着いて飯が食べれないとも言われている。
 食堂の料理は全体的に良心的で、メニューも豊富、ボリューム大、とくれば、ダンジョンに潜り、
一日の大半をモンスターとの死闘と、アイテム採取に費やした探求者達にとっては、味よりも量、
質よりも量なのである。

 そのため、朝飯時、日が暮れた夕暮れ時などは、まさに戦場さながらの喧騒に包まれ、
しばしば乱闘騒ぎも起きるため、巷では『荒くれ者の食堂』とも呼ばれ、近寄りがたくなってしまっている。
 客層も殆どが男性。女性の探求者は向かいにある、大型食堂『へブランチ』で食事を取るため、
ますます、男所帯になってしまい、連日連夜騒がしく、苦情も多いのだという。

「なに食べようかな、今日のお勧めは明太子パスタか」

 しかし、その食堂に場違いの少女(中身は男)、いや、美少女が食事を取ろうとしていた。
 その少女を見たものは、例外なく驚き、次に夢でも見ているのか? と我が目を疑うだろう。
 少女はそれほどに美しかった。背丈は小さく150cm前後で、髪は腰を覆い隠すほど長く、
月の光を凝縮したかのような光沢ある銀髪。前髪は中心から横に綺麗に分けられ、開かれた額を
細い眉毛が飾るように生え、その下には勝気な印象を与えるアーモンド形の吊り目。
一本ずつ丁寧に細工されたような睫毛に、すっ、と小さくも高い鼻、薔薇を思わせるような唇が
付けられ、さらに病的にも、生命力溢れるようにも見える雪のような肌が、幻想的な美しさを
少女に与えている。少女が身に纏っているドレスはフリルが多く付けられていると同時に、
細かく刺繍が施され、小さな宝石も装飾されている。小さな背丈と相まって、何処かの国のお姫様、
と言われても、この少女なら誰もが納得するだろう。

「でも、さっぱりした物も食べたい」

美少女、マリー・アレクサンドリア(中身は男)は、あまりの美しさに周囲に近づく人はいなく、
周りの客達は遠目から、こっそりと覗き、耳を寄せ合い、噂されているとも知らず、目の前のメニューと
格闘していた。

 お腹が空いた、自分でいうのもなんだが、空腹に関しては我慢が苦手だ。
 ちょっとやそっと怪我するとしても、ご飯を抜くのは辛いものがある。
 ダンジョンに頻繁に潜り、アイテム採取を続けていたおかげで、当面は何不自由なく暮らすだけの資金を
手に入れることが出来た。その資金を使い、家や、家の家具、日常品を買い漁ろうと思ったが、幾分小心者の自分
としては、無駄遣いはしたくない。といより、恐れ多くてできない。

 ・・・・・・しかしその反面、困った事態になってしまっている。使い道がないのと、最近やけに噂されることだ。
 お酒もほとんど飲まないし、ギャンブルもしない。女に金を使うことも無いから、溜まる一方だ。
 メニューを見つつもちら、ちら、と視線を横に向ければ、あら不思議。横で食事をとっていた野郎が顔を赤らめ、
そっぽ向いてしまう。・・・・・・うげ、もしかして女に見られているのか?
 だが、ダンジョンにある高性能のアイテムは殆どが女性物、なぜか深部にある武器、防具、アクセサリーなどは、
美しい装飾されたものが多い。(だれが装飾したのかは不明)
 殆どは小さな箱だったり、大きな箱に安置されてあったり、特殊な仕掛けになっていて、そのフロアのモンスターを
一定数倒さないと開かなかったり。なので、ある一定以上のレベルを越える探求者は皆、ダンジョンで手に入れた
アイテムを装備しているため、その結果、女性物の衣服やアクセサリーを見に纏ったりする。(ダンジョンでは
比較的多く手に入るアイテムが鉱石なのだ。鉱石を持ち帰り、加工して装備品を作るが、ダンジョンで採取される
武器、防具、アクセサリーの方が遥かに軽く、丈夫で、高性能の物が多い。)

 僕がここで食事を取っている上、女性物の衣服を身に纏っている以上、まず僕が一流の探求者として見られるのは
間違いない。
 しかし、ぼくの思いとは裏腹に、目を合わせるだけで赤くなり、顔を逸らすものが続出する始末。
 あまりジロジロ見られるのも嫌だ。さっさとご飯を食べて、家に帰ろう。

 その後、結局頼むことにした明太子パスタだが、僕自身失念していたことがある。
 前と比べて体全体が一回り以上小さくなり、一度に食べられる量が激減していること。
 口も小さくなってしまったため、チマチマと食べるのに時間が掛かってしまったこと。
 そして、その姿がまるで、リスがクルミを頬張る姿に似ていて、微笑ましい姿だということに。

 僕は最後まで気づくことはなく、意気揚々と店を後にした。

 ダンジョン管理センター、通称『センター』に到着した頃には、日も高くなっていた。
 『センター』というのは、政府がダンジョンを監視、及び管理下に置く為に建築された、いわば複合ビルの
ようなものだ。中には医療施設から、娯楽施設、宿泊施設、ショッピングモール、などの店舗があり、
生活に必要な物や、ダンジョン探索に必要なものがすべて手に入る。
 そのため、ここらの店では貴重な回復薬も売られていて、探求者の間では重宝されている。
 一般的に、体力を回復するポーションと、魔力を回復するエーテルが代表。
 体力回復薬の内、ポーションが一番安価で効力が薄く、ミドルポーション、ハイポーションと
なるにつれ、値段と効力が比例して高くなる。同じく、ミドルエーテル、ハイエーテルとなる。
 ミドルと名の付く薬は、一本で半月食べていけるくらい高い。ハイにもなると、3ヶ月は食べていける程に。
 ときたま、完全再生薬『エリクサー』がダンジョンで採取され、販売されることもあるが、最低でも半年は売れない。
死人すら生き返らせる力があるといわれ、これを越える回復薬は存在しないらしい。しかし、その力と引き換えに、
豪邸を一軒買えるくらい高いのが難点。

「今日は何回から行こうかな・・・ん?」

 ダンジョン攻略のために必要なのが魔方陣。実は、この魔方陣にのり、自分が降りたい階を念じるだけで
移動できてしまうから驚きだ。しかし、これにも欠点があり、自分が降りたことのある階までしか降りれない。
 しかも、戻るときは行くときに残った魔法陣の上に立てば戻れるが、上に立たなくてはいけないから、道に迷い、
魔方陣の場所が分からなくなると大変なことになる。

 僕は踵を翻し、魔方陣まで歩き出した時、あるモノが目に入った。
 かなり遠くの方・・・壁際に座り込んだ黒い物体・・・否、人が座り込んでいた。
 嫌なものを見てしまった。暗雲たる思いに駆られながら、僕は見なかった事にして、魔方陣を目指した。


 ……探求大都市『東京』では、ダンジョンに潜ったまま帰らぬ人となり、その家族の子供が、路頭に迷っている姿は、
ちらほらとだが見かけることができる。中には、別の理由という人もいるのだが・・・・・・。
 そうした子供達を救済するため、政府はいくつもの孤児施設を建設した。しかし、そうした国の孤児施設は、ほとんどは
善良な施設だが、一部の施設はヤクザやギャングと繋がっていて、女の子は越え太ったおじさんの性処理奴隷になるか、
 娼婦館に売られるかのどちらか。男の子は麻薬の売人か、傭兵として、売られるかの運命を辿る。(中には養子にとられ、幸せに暮らすもの
もいるが、ほんの一握りにすぎない)
 いくら今の自分が力を手に入れ金に余裕があるといっても、いちいち気にしていたら、此処ではやっていけない。
子供達も必死で、中には襲い掛かってくるやつもいるからだ。
 僕は最後まで振り返ることはしなかった。

 今になって思うが、どうせなら度胸の付くアイテムは無かったのだろうか。いくらスローモーションに見え、モンスターの
動きが分かったとしても、怖い。グロテスクな外見が迫ってくるのが怖い。何か粘着性のありそうな粘液が不快感を増大させる。
おまけに暗いから、いつ幽霊がでてくるのかドキドキものだ。
 なみだ目になりながらも無事にダンジョンから生きて変えることができ、思った以上に採取してきたアイテムが高値で売買された
ので、今まで貯めた資金も合わせるとエリクサーが一本買えそうだ。(買わないがな、自分でもあれは高すぎると思うが)

「でも、こんなにあっても使い道がまるで思いつかないのは……なんだかな」

 こんなに金があっても使い道がない。酒も煙草もギャンブルもしないから、溜まる一方だ。報酬を数えつつ、いっそ全部募金してやろうか?
など考え、即座に却下する僕。
 財布の中を確認しながら歩いていたのがいけなかった。肩に軽い鈍痛が。

「痛えな、ぶっ殺すぞ!」

 明らかにヤンキーがいいそうなセリフを決めた、茶髪ピアス肌黒、着崩した短剣とジーパン。
全身から胡散臭さを放出させている人にぶつかったみたいです。痛えな、これマジで折れてるぜ~、
とか言いながらその折れた腕を掴んでいる男。男の連れらしき二人の人物は、マジで慰謝料だな、
とか、ヤバクね?とか、騒ぎ出し始める。
 正直いって関わりたくないが、原因はこちらの不注意なので、非はこっちにある・・・はず。

「ごめんなさい、怪我はございませんか?」
「ああ? 痛え、痛え、これは君が看病してくれなきゃ治らないや」
「・・・は? あの、ちょっとぶつかっただけでしょう?」
「あ、俺良い病院知っているから案内するよ。こいつの看病してくれなきゃ」

 突然、連れの一人が腕を掴んだ。その顔はいやらしく僕の身体に視線を向ける。
 他の二人も同様に、ニヤニヤ笑いながら静観している。もう、ぶつかった男は腕を押さえていない。
 僕はあまりにも古典的なやり方に、開いた口が塞がらなかった。いくらなんでも、これは無いと思う。頭の悪さが窺える。
僕の見た目が女性にしか見えないせいか、男達はまったく気後れした様子も無い。
 頭にきた。僕は、掴まれていない方の拳で、掴んでいる腕を叩き折った。本気で殴ると下手をすれば、
腕が粉砕してしまうので、そこらへんは加減する。
 指に鈍い感触と、コキっと、軽い音がした。そのときには腕はもう外れていた。
 最初、男は何をされたのか分からない顔をしていたが、時間が経つにつれ、顔が青く、脂汗を
掻き始め、膝をついて蹲ってしまった。それを見た連れのもう一人は憤慨し短剣を抜こうとしたが、

「ま、まて! こ、こいつ、銀髪のマリーじゃないのか!?」
「マリー!? 女の格好をした、銀髪のマリーか!?」
「ま、まち、まちが、うわーー!!」

 蹲っていた男も見捨てて、何処かへ逃げさり、へたりこんでいた男も、ふらつきながらも、後を追った。
 知らない間に有名人になっていたみたいだ。(あまり良い意味ではないかもしれん)
 マリーは、今の僕の名前だから、おまけに銀髪ってそう居るものじゃないし。名前を聞いただけで逃げ出すとか、
なんだか自分の噂を聞くのが怖くなってきた。

「おい、マリーだってよ・・・」
「・・・あれが噂のマリーか」
「聞いた話より、すいぶんと綺麗じゃないか」
「あれでも、エンジェルより腕が立つって話だぜ」

 ちょっと待て、エンジェルより強いとか、誰がいった! ていうより誰が流したんだ?辺りは喧騒に包まれ、
僕を見つめる視線が増える。いけない、騒がしくなってきた。これ以上目立ちたくないし、帰ろう。
 ……本当に誰が流したんだよ。泣くぞ、泣いちゃうぞ。


家まで後もう少しという所で、邪魔がはいった。(邪魔というのも酷い話だが)

「・・・・・・(クイックイ)」

 白いワンピースに身を包んだ女の子が、僕の裾を掴み、じっと僕を見つめている。
 孤児か、娼婦のどちらか分からなかっが、背丈は僕と同じくらいだ。。
 髪はぼさぼさで、肩の肩甲骨のあたりで切り揃えてある。身体つきもスレンダーで、
全体的に幼く、薄汚れた印象が感じ取れ、表情が無かった。

「・・・・・・(グイッグイ)」
「あ、あのさ、何か用があるの?」
「・・・・・・こっち(グイグイ)」
「ちょっと、無視ですか? 僕の話はガン無視ですか?」

 貴方は誰? 僕に何か? 何所に連れて行くの? と、何を聞いても答えず、
半ば引きずるように僕を引っ張っていく。この子は人の話を聞く気があるのかな?
 ・・・・・・あったら立ち止まってるだろうな。それにしても、何所に行くの?
 そのまま移動すること数分。少女の足が止まり、古ぼけた建物についた。少女は僕の裾を掴んだまま、
建物を回り込み、裏口らしきドアまで引っ張った。さすがに抵抗したが、思いのほか力強く、女の子相手に
本気で抵抗するのも気が引けた。
 結局、中に通され、大きな部屋を通って階段を上がり、ちいさなヌイグルミが飾ってある一室に連れ込まれた。
 先程通った大きな部屋は広間か? それにしても誰もいなかったが、留守なのだろう。でなければ、大騒ぎ
とまではいかなくても、騒動は起きるだろうと思うし。
 少女は小さく、待ってて、と言い残し、部屋を出て行った。あれ、置いてけぼり?
 部屋を見渡すと、ベットと枕元に置いてあるヌイグルミ、小さな照明しかない。黙って帰ろうかな、
と思っていたとき、階段の向こうから大きな声が聞こえてきた。

『ちょっと、サララ! どうしたのよ?』
『客をとってきた? 今更一人二人客とっても意味ないって』

 客? もしかして、ここって娼婦館か何かですか?

『そうそう、借金がどれだけあるか、わかっているの』
『え? 虜にしてお金出させる? 無茶言わないでよ』
『そりゃあ、私達だってここが無くなるの嫌だけどさ』
『仕方ないよ。フリーになって稼ぐしかないって』

 もしかしてもしかしなくとも、僕は客ですか? しかも、あの女の子の?
 階段を駆け上がる音、それが止むと共に、けたたましくドアが開かれた。

「・・・・・・お待たせしました、マリー様」

 着替えたのか、めかしこんだのか、薄汚れたワンピースが綺麗なワンピースになっていた。
色は先程と同じ白色。着替える意味があったのだろうか? (無表情は変化なし)
 それよりも、すみません、ちょっといいですか?

「・・・・・・何か?」

 貴方のお名前と、ここが何所なのかを教えてくれませんか?

「・・・・・・私の名前、サララ。・・・・・・ここは娼婦館です」

 あなたは娼婦なの? 目的は客をとるため? どうして僕の名前を?

「これでも娼婦です。強引に連れてきました。貴方が男の人達と揉めているのを聞いて」

 さっき、借金がどうのこうのって聞いたんだけど?

「・・・・・・借金はあります、それで貴方にお願いがある」

 真剣な目がこちらを見つめた・・・・・・何だか可愛く見えるが、空気を読む。どうして僕なんだ?

「あなたがダンジョンから出てきて、換金しているのを見たからです。それに、銀髪のマリーの名は、
私でも知っているくらいのビックネームです。きっとお金持っていると思って・・・」

 普段、僕はどんな目で見られているのか本気で知りたくなってきた。ビッグネームとか始めて言われたよ。
有名になってしまったな、という感慨深さよりも、面倒な事にならなきゃいいな~とか考えてしまう自分に涙が出そうだ。
 というか、ビックネームとかどんなのよ、いったい。怪物マリー? 切り裂きマリー? くそみそマリー? 変なのは嫌だ。

「胸だってないし、お尻だって大きくない。特にコレといって性技があるわけでもないし、美人でもありません。
こんな私ですけど・・・私の一生……貴方が買ってくれませんか?貴方の奴隷になりますし、なんでもします」

 その言葉とともに、スルっとワンピースが落ちた。と同時に僕は息を呑んでしまった。
 サララの身体は肋骨が浮いていて、スレンダーな印象を覚えたが、よく見るとシミ一つなく綺麗な肌。
 今まで気づかなかったが、綺麗に整えられている髪が薄い胸に掛かり、瑞々しいエロさがにじみ出ている。
 さらには今をもってしても変わりない、無表情が異様な妖しさを見せていた。

「・・・やっぱり、魅力ないですか? 胸があったほうが良いですか?」

 うっすらと悲しそうな雰囲気を醸し出した。いいも何も事情を知りたい。説明願えるかな?

 サララは少し悩んでいたようだが、僕が黙っていると、観念したのか、立ち話もなんですので、
ということで、ベットに並んで座り込んだ。しばらく無音の時が流れ、ポツリポツリと零し始めた。
 サララは小さい頃に両親が亡くなり、親戚の家に引き取られたこと。最初の内は、家の主人も奥様も優しく、
幸せに過ごしていたこと。しかしある日、真夜中に突然、主人が部屋に入ってきて、犯されてしまったこと。
 それからは、毎晩のように夜の相手をさせられ、それが奥様に見つかり、家を追い出されたこと。
 毎晩夜の路地裏に立ち、身体を売って生活していたこと。だが、ある日酷い男の客に捕まり、監禁され、
男が苛立つ度に暴力を振るわれたこと。その後、隙をついて逃げ出し、今の娼婦館に転がりこんで、
面倒をみてもらっていること。無愛想な性格のせいで満足に客もとれず、申し訳ない日々を送っていたが、
ここの住人は誰もそのことを言わず、本当の妹のように扱ってくれているということ。

 すべてを言い終えたサララは僕を見つめ、私を一生分買ってください。と再度問いかけてきた。
僕はとてつもないくらいの怒りと、やるせなさと、言葉では形容できない思いが胸の内を渦巻いていた。
 そして僕の心は決まった。たとえそれが偽善でも、欲望のためと言われても、かまわない。

「サララちゃん……」
「・・・・・・はい」

 断られると思っているのか、小さく肩を震わせ、俯き、それでも僕に身体を押し付けてきている。

お世辞にも魅力的な身体とはいえない。それでも、今の僕にできることがある。

「サララちゃん、貴方の一生……貴方の全てを買い取ろうと思います」
「すみません、やっぱり駄目で・・・・・・え?」

 承諾してくれると思っていなかったらしく、ほぼ同時に断りを入れてきた。
目を見開き、顔に驚愕を張り付かせ、いまいち内容を理解してないみたいだ。
 しかし、時間が経つとともに理解の色が深まり、満面の笑みが広がっていった。

「あの、ほ、本当ですか?・・・・・・高いですよ?」
「分かってる、借金分でしょう? いくら払えばいい?」
「・・・・・・あの・・・・・・1億2000万セクタ」

 思わず噴出しそうになった。1億2000万セクタだって? いくらなんでも高すぎだろ。
一般家庭の収入が、年30万セクタ。ゆうに人生4回は遊んで過ごせる金額だ。
 文字通り大富豪と呼ばれる人達でなければ、まず払えない。それが分かっているらしく、
サララは笑みを無くし、俯いてしまった。

「・・・・・・ねえ? いったいそれだけの大金をだれから借りたの?」

 よくよく考えたら、それほどの大金を貸し続ける程の人物はそういない。余程悪どい事を
しているか、それとも億万長者かのどちらか、あるいは両方か。

「ダムストリ・ローマンです。・・・あの人、太っているし、臭いし、気持ち悪いから嫌いです」

 ローマンだって? あの法スレスレの手段で取り立て、法外な金利で財産を奪う、ローマンか。
噂では女癖が悪く、常に金にものをいわせ、女を侍らしていると聞くが・・・・・・。
 娼婦館を借金のかたに、そこに住んでいる娼婦達を、自分の女にするつもりか。
 頭の中で、断るか承諾するかの二択が浮かぶ。かつての僕なら絶対に断っていただろう。
一人ダンジョンに潜り、その日その日を生きている僕には叶えることの出来ない願い。
 しかし、幸か不幸か、モンスターの呪いを受け、今までの自分を捨てざるをえなかった。
そして今、かつての僕には到底叶えられない少女の願いを叶えることが出来る。

 ・・・・・・なんだ。答えは既に決まっているじゃないか。悩む必要は無かったんだ。

 僕はもう決めた。僕の貯金全額と、ダンジョンに潜り、アイテムを売り払えば何とかなる。
いざとなれば借金すればいい。今の僕ならばすぐ返済できるんだ。(そう、そうなんだよ)
 身体中が高揚していくのが分かる。性的な意味ではなく、もっと熱い何かがこみ上げてくる。
体中の血が沸騰しそうな、それでいて細胞の一つ一つから力がみなぎってくる。

「待ってて、今すぐ払えるわけではないけど、機嫌はいつまで?」
「え、あ、明日の夕方・・・・・・取立ての人が来るまでだけど」

 僕は懐から時計を取り出す。現在時刻は23時51分。明日の夕方までが勝負!
今度は逆に、僕がサララに待っててと言い残し、部屋を飛び出した。

 心の冷静な部分が、明日学校休み決定だな、と告げていた。


 ローマン邸
 彼をよく知る人物は口を揃えてこういうだろう。ここの主人は人の皮を被った外道だと。

 煌びやかな部屋、家具のいたる所に金などの装飾が施され、入る者を圧倒させる。中央に大きく
置かれたテーブルには、数々の料理が乗せられ、照明によって、輝いてみえる。

 テーブル横のソファーに男がいた。男の背が小さいのか、ソファーが大きいのか、後ろからでは
ソファーに隠れているように感じる。しかし、回り込んだ時は、その印象がガラリと変わる。
 男は太っていた。大きなソファーにどっしりと身体を乗せ、お世辞にも健康的とはいえない。
両隣座っている美女が、箸で料理を口元まで持っていき、食べさせている。男の頬はにやけ、
しまりの無い顔を晒していた。

「ねえ、ローマン様? 今日は機嫌が良いみたいだけど」
「そうそう、何かありましたの?」

 男、ローマンの機嫌が何時にもまして良いので、二人は不思議に思い、料理に伸ばしていた箸を休めた
ノーマンの身体に柔らかく抱きつき、乳房を擦り付け、甘い声で尋ねた。
 尋ねられたローマンも、特に隠す必要もないのか、押し付けられた乳房の感触に下品な笑い声を上げ、あっさりと白状した。

「なに、前から金を貸している奴の返済期日が明日までなんだよ。返せなかったら身体で払ってもらう
だけなんだが、その前に楽しもうと思っているのさ」

 ローマンの顔がますます卑しい笑みを作る。その様子からみても、楽しむの言葉には深い意味があるようだ。

「一目見たときから俺の女にしようと思っていたんだ。散々お預けされたんだ、強情な女ほど燃えるもんだ」

 娼婦館の当主、マリアとの一夜を思い出し、思わず股間を煮えたぎらせた。今思い出しても興奮してくる。
 ずっしりとした乳房、細くくびれた腰、むしゃぶりつきたくなるお尻、聖母のようにも淫魔のようにも映る美しさ。
ヴァギナの包み込むような締め付けは、文字通り心を癒され、吸い尽くすような口淫を想像するだけで、
果ててしまいそうだ。そうだ、あの女のアナルも俺専用に変えてやるのもいい。

 それに魅力的な女は他にもいる。長く赤い髪がトレードマークの、シャラ・ミースの搾り取るようなアナルの締め付け
を味わいうのもいい。実質ナンバー2の人気を誇る、藤堂沙耶(とうどう さや)に身体中を洗われるのも、いや、
娼婦館の女全員で乱交するのもいいかもしれん。
 想像しただけで、全身の血液が沸騰したような錯覚を受ける。せっかく今まで待ったんだ。
あいつらが泣いて嫌がっても中に出してやる。それで子供ができたらおろせばいい。せいぜい死ぬまで
楽しんでやるぜ。そうだ、子供ができたら吐き出すまで俺の精液を飲ませるのもいいな。

 この日、夜遅くまで開かれた饗宴が終わりを迎えたのは朝日が昇ってからだった。
 その宴会の中で終始、ローマンの顔からは、笑みが消えることはなかった。


 耳を塞ぎたくなる奇声。僕の頭を噛み砕こうと迫るモンスターの群れ。小さな恐竜のような
外見をした、リザードマンと呼ばれるモンスターだ。
 全身を緑色の強固な鱗が覆い、ナイフのように鋭い牙と爪で、集団で襲い掛かってくる
強敵のモンスターだ。地下80階以降に出現し、階層が下がると共に、凶暴性が増す。
 いつもなら隠れてやり過ごすのだが、今は時間がない。一刻も早く資金を調達せねば!
 手前のリザードマンの顎を素手で引き裂く。(僕の力に武器が耐えられないので、素手のほうが
威力もあるし、破壊力もある)噴出した血液が、僕の身体を赤色に染めるが、止まらない。
 素早く爪で切りかかろうとした、横手のリザードマンの懐に入り込み、一撃で仕留める。そのまま
息絶えたリザードマンの身体を持ち上げ、振り回す。振り回したリザードマンの体が、他の2~3体を
巻き込み、辺りに血飛沫が飛び散った。眼前のリザードマンは葬り去ったが、後から後からウヨウヨ
湧いてくる。目指すアイテムはこの向こう、急がなければ。

 勢いよく吐かれた炎が、ぼくの身体を舐め上げる。人間サイズのオーブントースターに押し込められた時の
気持ちとは、こういうものだろうか?。人間サイズなんて売ってないだろうけど。
 辺り一面、水溜りのように灼熱の液体が広がっている。(モンスターなのだろうか?)
ダンジョンのモンスターの種類は天文学的数字ともいわれている。戦闘を避け、先を急ごうとした、
 瞬間、足に焼け付くような激痛が走り、倒れこんでしまった。痛みに歯を食いしばりつつも、視線を落とした。
 足には赤いゲル状の水溜りがへばりついていた。しまった! やはりモンスターか!
 足のブーツが焦げ臭い。足先が直接ゲルに触れている感触を伝えている。もうブーツは使い物にならない。
無理やりブーツを脱ぎ捨て、火傷の痛みに耐えながら走った。まだ僕は走ることができる!

 どう考えても割に合わない取引だと思っている。一人の人間を買うといっても高すぎる値段。
 しかも特別秀でたところが有るようにも見えない。僕が億万長者だとしても、まず買わないだろう。
 少し、本当に少しの間、彼女と話をしただけ。それだけなのに、僕は今、走っている。世間から見ても
同情される半生を送ってきた彼女が、それでも受けた優しさに報いるため、自分を捨てようとしている。

 そんな彼女が……とても輝いて見えた。

 今まで色んな人を見てきた。高々十数年しか生きていない自分が、彼女と同じ境遇に立たされた時、
僕は絶対に逃げ出すだろう。受けた恩を返すこともなく。
 彼女の願いを叶えたい! 僕には叶えることができる。僕にはそれだけの力があるんだ!!
 近くで叫び声が聞こえる。初めはモンスターの雄叫びかと思ったが、違う。僕が叫んでいるんだ。
 自分でも持て余す衝動を叫びに変えて、吐き出そうとしているんだ。夕方まで、残り13時間!


 道行く人々が振り返り、マリーを凝視する。その顔には例外なく驚愕が映っていた。
 無理は無い。人々が溢れかえる道路を、血で真っ赤に汚れ、所々破れて、今にも脱げそうな
ドレスを身にまとっている姿は異様な雰囲気を醸し出している。その顔には長時間に及ぶ死闘の疲労が
色濃く浮かんでいる。耳に飾られた装飾が施された宝石のイヤリングが、場違いな光をきらめかせた。
 破れたドレスの隙間から見える地肌からは、血が流れ落ち、益々ドレスを赤く染める。
痛々しい火傷によって両足には血が滲み、地を踏みしめるたびに赤い跡を残していく。

 その背にはマリーの背丈には大きめのトランクが背負わされている。
 人々の合間を目にも留まらぬスピードで駆け抜け、少女の待つ娼婦館へと急ぐ。
夕日の中を滑るその姿は、まるで赤い閃光が走ったようにも、陽炎が走ったようにも見えた。
 それでもマリーの両足は止まらず前を向いていた、刻々と迫るタイムリミットに間に合わせるために。

 娼婦館に着いた頃には、時計の短針が5を回り、太陽が空を赤く染め上げていた。荒く激しく高鳴る鼓動を
静めるため、館の表玄関の開いている片方のドアにもたれかかった。
 絶え間なく酸素を取り入れ続ける肺、身体が悲鳴を上げているのを自覚し、座り込んだ。
表には馬車などもなく、静かだ。一億以上の大金を貸した人物だから、徒歩で来ることはないだろう。
まだ取立の人は来ていない、ここで少し休憩してから。それからでも遅くない。

 そういえば、一日徹夜か、とくだらない事が頭に浮かんだ。気の緩んだ頭に色々な考えが浮かんでは消える。
 突如、中から悲鳴が上がった。嬌声でもなく、思わず竦んでしまう女性の怒声。どうやら休む時間すら
与えられないらしい。ちょっと取り立ての人を憎く感じた。

 愚痴を言ってもしかたない。金さえ払えば取り立ての奴らは何も言えないだろうし。
立ち上がろうとした瞬間、立ちくらみが起こり、ドアに手を突いて倒れるのを堪えた。
一日休みなし、食事なしでモンスターと死闘を繰り広げた肉体は限界を迎えている。
 僕は震える足腰と、痛みを訴え続ける肉体の叫びを無視し、悲鳴の元へと急いだ。
玄関を入ってすぐ右手に階段があり、通路を進むと広間を出るときに見たドアがあった。
中からは男の怒声(取立ての人か)と、女性の叫び声が聞こえる。サララとは違う声だ。

『約束の借金、さっさと払わんかい!』
『だから払えるわけないでしょう!』
『それじゃあ仕方ない。この土地の権利書と館で払ってもらうしかないな』
『ちょっと! 期日はまだ先だったわよ!』
『だったら、払えるんか! 期日まで待って払うことできるんか?』
『く・・・下種野郎』
『もう、いいわ・・・・・・諦めましょう』
『マリア姉さん! どうして!?』
『仕方ないわ、借金があるのは事実ですもの・・・・・・目的は、私達でもあるんでしょう?』
『分かっているじゃねーか。今日から可愛がってやるぜ』

 複数の男達の卑しい笑い声と、女性達の声に悔しさが滲んでいるのが分かった。
おそらく、これから男達でお楽しみタイムに移行しようと思っているのか、笑い声がなかなか収まらない。

 きっと夢にも思わないだろう。借金全額分の金を携えた男がドアの向こうにいることを。

 漏れ出る笑みもそのままに、僕は勢いよくドアを開け放った。

「誰だ貴様は! どこから入った!」

 目の前にいる太った男・・・・・・おそらくこいつがローマンだろう。
 名前くらいは聞いたことがあったが、こんなに近くで顔を合わせるのは初めてだ。
太った蛙を彷彿させる。脂ぎった額には汗が滲み、僕が女性だったらどんなに金を積まれても、
抱かれようとは思わなかっただろうな。というか、こんな人に借金を作ったのはある意味不運だ。
 お世辞にも善良、には見えない。よく逮捕されないものだ。

「ちょ、ちょっと! どうしたのよ、怪我してるじゃない!」

 遠目からでもスタイルの良さが窺える、鮮やかな金髪女性が長い髪を振り乱して駆け寄ってきた。
横には白いワンピースを身に纏った少女、サララが驚きに目を見開き、僕の元へ来てくれた。

「どうして・・・・・・来ないと思っていたのに」

 それは酷いなあ。貴方を買うために僕は生と死の世界をループすることになったんだ。
どうせなら、本当に来てくれたのね! ありがとう! ってキスしてくれたほうが嬉しいんだけどね。
 僕は背中に担いでいたトランクを床に下ろした。ろくに確かめもせず無理やり留めたせいだろうか、
留め金が少し変形してしまっていたが、特に支障なく開くことができるみたいだ。他の娼婦の人達も、
僕の周りに集まりだし、口々に僕を心配する言葉を漏らす。

「な、お、お、おおおまえ~!」

 突如、ローマンの横に立っていた取り巻きの一人らしき男が悲鳴を上げた。
 広間にいた人達は全員、突然叫び声を上げた男を凝視した。その視線の中には、ローマンも含まれている。
 ・・・・・・あれ? この人、どこかでみたような・・・・・・。

「ぎ、銀髪のマリーだ! 俺の腕を、腕を・・・・・・」

 傍目からみても分かるくらい顔色が青くなっていく。(腕? 腕ってたしか)
 茶髪ピアス肌黒、着崩した短剣とジーパン、昨日とまったく変わらない服装・・・・・・思い出した。
昨日絡んできたやつらだ。頭にきて一人の腕を叩き折ったんだっけ? もう会うこともないだろうと、
思っていたから、こんな形で会えるとは思わなかった。こいつら、ローマンの手下だったのか。

「おい、お前ら、このガキを叩き出せ!」

 男達にとっての上司、ローマンの命令がかかっているのに、その場から一歩も動かない。男達は
例外なく身体を震わせ、ローマンと僕を交互にみて、そしてまた身体を震わせる。時間にして数分しか
会っていないが、腕を一瞬で折られたんだ。その恐怖は身体に染み付いてる。
 だから動かない、動けない。僕に戦いを挑むことと、ローマンに逆らうことと比べたとき、僕のほうに天秤が傾いた、それだけだ。

「ねえ、ローマン、話があるんだけれど」
「なんだと! 俺は話すことは何もない、でていけ!」

鼻息荒く罵り、口を開くことに唾が飛ぶ。うわ、汚い!

「借金の分、1億2000万セクタ、僕が肩代わりするよ。別に文句はないでしょう?
ちゃんと借金は全額払うんだし、悪い話じゃない。それでいいでしょう?」

 僕は地面に下ろしたトランクを持ち上げ、中をよくみえるように開いた。
 トランクから零れ落ちる札束と、固定された札束。零れ落ちた札束が床におち、重い音をたてた。

 目が覚めたらベットに寝かされていた。いや、この言葉だけを聞いたら、何を当たり前のことを、
と口を揃えるに違いない。だがそれは、寝る前に自らをベットに横たわらせたということが前提だ。
 しかし僕の場合は違う。なんせ直前の記憶がローマンに金を渡した後、すぐ途切れているからだ。
もしかしたらアルツハイマーにでもなってしまったんだろうか? だとしたら、今すぐにでも病院に
向かったほうがいい。というより、この年でアルツハイマーは嫌だ。

 起き上がろうとしたが、右腕に鉛が被さったように動かない。何故?
 顔を横に向けると、サララの可愛らしい顔が至近距離で映った。・・・・・・あれ?
 なにやら嫌な汗が流れてくるのが分かる。首だけを曲げ、身体を見ると、僕の身体分のシーツの膨らみと、
もう一人分、横に盛り上がっていた。・・・・・・そういうことね、添い寝ね、そうね。
 もう一度サララの顔を覗き込んだ。涙を流したのだろうか? 目の端が薄く濡れている……まさか、獣になった僕が彼女を
襲ったんじゃないだろうな。だったら本気で自殺を考えるぞ、僕。

「・・・・・・・・・おはようございます」

 いきなり音も無く開いた瞼。それ以上に開かれた僕の瞼。抑揚もなく挨拶を告げたサララ。
驚きに声もでない僕。悲鳴を上げなかった自分を褒め称えたい。
 部屋は薄暗く、ベット脇のランプがほんのりと、サララの横顔を照らしている。その脇には
ヌイグルミが鎮座され、そこで僕はここがサララの部屋であることに思い至った。
 そんな僕の気も知らず、薄く紅潮した頬と柔らかく弧を描いた唇、潤んだ瞳が少しずつ近づいてくる。

「お、おはよう・・・・・・ところムグ」

 僕と彼女の距離が0になった。分かりやすくいうと、キスをされた。
 最初に感じたのは、湿った感触。そして唇の温かさと柔らかさ。文字通り目と鼻の先にある瞳が、
ますます潤いを増し、サララの鼻息も荒くなっていく。突然のことに腰を引こうと思ったが、それよりも早く
腰に手を回されると、唇が離れ、思わず溜息を吐いた僕の身体を回り込むように、身体の上に乗られた。

 触れている部分が薄く湿った感触を伝え、僕と彼女が裸であることが嫌でも分かった。サララの身体に
よってシーツがはだけ、包帯が巻かれた僕の胸と、傷跡が刻まれたサララの裸身が僕の目に飛び込んできた。
 乳房の先端は桃色に妖しく勃起し、これからの行為に胸をときめかせているのが窺えた。

「ちょ、ちょっとサララ、何をしているの!?」

 僕の言葉を聞いていないのか、はたまた無視しているのか、それは分からない。
サララはさらに笑みを深くさせ、僕の胸に巻かれている包帯の線に沿うように、優しく指先を這わせていく。
ちょうど僕の股間の上に腰を下ろした形になったことにより、直接サララの性器と僕の性器が触れ合う。
 サララの女の部分は熱く熱を持ち、僕の陰茎どころか、股周辺を愛液で濡らしていく。思いがけない刺激に、
陰茎が少しずつ熱を持ち始め、その硬度を増していく。硬くなるにつれ、より強く女の部分に擦り付けられ、
快感が体中に広がっていった。感触で分かるのか、サララは熱い溜息をつき、腰をグラインドさせ始めた。
擦り合う部分から、ニチャ、ネチャ、といやらしい音が響く。


 「大丈夫、貴方は動かなくていいから・・・・・・全部私が気持ちよくするから」

 聞きたいことは色々あったが、何か言葉を出す前に、唇で塞がれてしまった。少し開いた歯の間から、
するりと舌が入り込んできた。驚き、舌を引っ込めようとしたが、素早く舌を絡まされ、サララの口に
引きずり込まれてしまった。巧みに口内にある僕の舌に纏わりつくように踊り、隙間から溢れた涎が、
二人の口周辺を汚し、顎を伝っていった。サララが満足し、口を離したときには、二人の口元は涎で
ベトベトになっていた。既に僕の陰茎周辺は、お漏らしをしたみたいに濡れていた。

「全部、全部あげます。私の胸も、唇も、アソコも、お尻も、愛情も、全部あげます」

 言葉と共に硬くなった陰茎を支え、サララの中に沈められていく。サララの中は熱く濡れていて、絶え間
なく快感を送ってくる。指3本分を残し、亀頭の先端がサララの最奥に到達したことを伝えてきた。
 淫らに腰をくねらせ、断続的に膣が締まる。僅かに痙攣する姿が、受けている快感の強さを物語っている。

「あは・・・大きい。気持ちいい、マリー様の、おちんちん、気持ちいい!」

 僕の胸に抱きついて身体を固定させると、ゆっくりと腰を前後に揺さぶり始めた。部屋にはサララと僕の荒い息と、
結合部からぐち、ぐち、と淫らな水音が響き渡る。ゆっくりと前後にグラインドしていた腰は、少しずつ動きを早め、
時に上下に、時に左右に、時には円を描くようにくねらせる。その度に僕は息を呑み、サララは嬌声をあげ、
部屋には女の匂いが充満しだした。膣内の亀頭が、サララの子宮を押し上げると、一際大きく嬌声を上げた。

「ごめ、ごめんなさい・・・私、私もう、もう、んん!」

 抱きつかれたまま唇を塞がれた。舌を絡ませあい、涎を互いに飲ませあい、啜る音が響く。サララの腰が跳ね、
膣道から陰茎が繰り返し姿を現し、また美味しそうにくわえこむ。
 僕の恥骨と、サララの恥骨がぶつかり、ぺちょ、ぺちょ、と恥ずかしい音を立てて愛液を飛ばしている。
少しずつ下腹部に熱が溜まり、放出の準備を着々と整え始めている中、サララの膣が不規則に痙攣を始めた。

「んん・・・ちゅぷ、ぷはぁ、ああ、あ、来る、何か来る、凄いの来る! 熱い、熱いのがぁ! お腹熱い!
 ああああ! イク! イク! イクイクイクイクイク! もうイクゥゥゥ!!」

 背を反り上げ、頭を振って快感を逃そうとするが、サララの動きは止まらず、なおも激しく揺さぶる。
顔の火照りは身体全体にまで広がり、身体を跳ね上げる度、ささやかな乳房が揺れ、流れる汗が飛び散る。
 不規則だった膣の痙攣が、休むことなく痙攣を続け、少女の肉体が絶頂を迎えようとしていた。
涎を垂らし、口を開けてだらしなく舌を突き出したサララの瞳は霞み、快楽で染まられていた。

「く、ごめん、サララ! 僕・・・出る!」
「出して! いっぱい出してください! 私も、私も! あ、あああああ!! イクゥゥゥゥ!!」

 目を見開き、舌をつきだして、大きく背を反り返した。同時にサララの膣が急激に伸縮を繰り返し、射精させようとする。
僕は快感に流されるまま、胎内の奥不覚に解き放った。サララは指が白くなるほどシーツを握り締めた
 数秒、数十秒、音がなくなり、部屋に静寂が戻った。そして、サララの目に焦点が合わさってくると、ゆっくりと倒れこんできた。

「あは、はは、はあはあはあ、す、凄かったです・・・・・・お腹にマリー様の精液が入ってきます・・・
 凄い・・・・・・いっぱい出てる、射精されてる・・・素敵です・・・」

 幸いにも、サララは軽かったみたいで、包帯の上に乗られても、痛くもなんともなかった。
 しかし、自分が何所に乗っているのに気づき、あわてて起き上がった・・・・・・僕のを胎内に挿したまま。
 陰茎がサララの敏感なところを突き、甘い声をあげた。快感のあまり流れた涙もそのままに、再び動き始めた。

「あ、んん! どうでしたか? 私の、で、満足して、いただけましたか?」
「うん・・・・・・凄く気持ちよかった」
「よかっ、たあ・・・はあ、全部入、りきらな、かった、から、気持ちよく、なかったの、かな? と心、配しました」

 陰茎が膣に入りきらないので、少し身動ぎすると、自然と子宮を強く突き上げる形になってしまう。
亀頭とサララの子宮が深くキスを繰り返している。それが堪らないのか、言葉も途切れ途切れだ。
僕の陰茎を伝って垂れた愛液によって、シーツが使い物にならないくらい汚れてしまった。
 射精後の虚脱感を味わいつつも、サララの淫らなダンスを見物する。すると、サララは顔を赤らめ、じっと見つめてきた。

「初めてなんですよ・・・・・・こんなに感じたの」
「そう、僕もそんなに経験ないから、そう言われると嬉しいな」
「・・・・・・私、今日始めて、絶頂を体感しました。それに初めてなんです。こんなに誰かを好きになったのも」

そういうと、薄く生え揃った恥毛を擦り付けるようにグラインドし、動きを加速していった。

「ああん、また、イキそうです・・・・・・切欠がお金でも、貴方は私を……皆を救ってくれました」

 刺激によって硬くなった僕の陰茎が、再びサララの子宮を小突きあげると、小さく快感の溜息を零した。

「どう思っていてもかまいません。貧相で物足りないと思いますけど、私の身体を好きに使ってもかまいません」

 再びサララの呼吸が荒くなり、新たに愛液を分泌し始めた膣中が、陰茎をねっとりと包み込む。潤んだ瞳から
涙がこぼれ、胸の包帯を濡らしていく。それでも動きを止めず、射精をねだる。

「気の向いた時に来てくれるだけでもいいんです。前戯だってしてくれなくていい!」

 陰茎が深く押し込まれたときは、まるで迎え入れるように柔らかく包み込む。抜かれるときは別れを惜しむように
強く締め付けられる。膣が、子宮が、胎内が新たな精液を求め、陰茎をしごき上げる。

「愛してくれ、だなんていいません・・・・・・でも、今は、今だけは・・・」

 熱を溜め始めた二つの袋が、射精の兆しを見せる。陰茎の脈動すら快感に直結し、四肢を震えわせる。
体中から汗を噴出して、更に激しく腰を振りたくる。しかし、それよりも早くサララは限界を迎えた。

「だめ、だめ、まだ、いっちゃ、だめ、また、イキそう、気持ちいい、マリー様のいい! ああああ! だめ!
 イク! すぐイク! んん、もう、ああ、あ、あ、イク! イクゥゥゥゥ!!!」

 陰茎を受け入れている膣の隙間から、愛液が噴出す。眉を顰め、口を大きく開き、快楽の嬌声をあげた。
ゆっくりと僕の胸に倒れこんだサララの頭を撫でた。まだ息が荒いが、頬を擦り付けてきた。

「はあはあ、ふうふう・・・・・・まだ射精してませんね。すぐに気持ちよくしますから」

 のろのろと億劫そうに動き出した。すでに体力が尽きたのか、連続した性交に身体が持たないのが分かった。
 涙をこぼし、力なく陰部を擦り付ける。亀頭の先端を愛撫するように子宮口が押し付けられる。
僕はサララの背中に腕を回し、力強く抱きしめた。胸の怪我を気にして、力をいれて体重をかけないように
していたのが分かった。抱きしめたことによって背筋が伸び、丁度僕と顔を向かい合わせるような形になった。


 サララの身体は汗ばみ、熱い息を吐き、すべてが暖かかった。サララの小さな乳房が僕の胸を押しつぶし、
包帯ごしでも、先端の感触を知ることができた。サララも僕の後ろ首に手を回し、首もとに鼻をよせてきた。

「はあはあ、ふう~、ふう~、マリーさん・・・・・・好きです・・・愛してます・・・」

 抱きしめられていても、サララは腰の動きを止めない。ゆるやかに腰をくねらせ、快感を与えられる。
じわじわと射精感がこみ上げてきた。僕の胸に暗い欲望が湧き上がってきた。射精するだけじゃ物足りない。
 身も心も、本当に離れられないくらいの快楽を覚えさせたい。不思議とそれが素晴らしい考えに思えてきた。
抱きついているサララの腰を押さえ、動けないように固定した。そして、ゆっくりと陰茎を子宮に押し込む。

はあ・・・はあ・・・え、あ、あ、だ、だめ、痛、痛い、止めて、苦しいです」

 僕から離れようとするが、力が入らない身体は、のたのたと蛙のように身体をばたつかせた。
けれども、すぐに大人しくなり、自分は奴隷ですから好きに使ってください、と言葉をこぼして身体を預けてきた。
 僕は小さく呪文を唱え、魔術を行使する。室内に囁くような歌声が響く。魔術を使用するにあたって、呪文を
唱えなくてはいけない。魔力が低く、操作が下手な人は、棒読みで、長ったらしくなるが、魔力が多い人だと、
歌を歌っているように聞こえ、操作に長けていれば、短くなる。

「はう、はあ、あ? あれ? 痛くない? あれ? んひぃ! あはぁ、これ、これぇぇぇ!」

 唱えた魔術は、体内適応力強化の魔術と、悦楽の魔術。サララも異変に気づいたが、手遅れだ。

「あ、あ、はひ、奥、奥に入ってくる、子宮押してる、中に入ってる! んふぅぅぅぅ」

 ミリミリ、と擬音がつけばこんな音がしそうな気がする。ジワジワと陰茎が胎内に隠れていくにしたがって、
再びサララは暴れだす。四肢をのたうちまわせ、本来快感を受けることのない部分に、強い快感を得始めたため、
自分でもどうしていいかわからないみたいだ。陰茎が子宮口を押し通り、子宮内を横断し、そしてついに、
陰茎がついにすべて収まり、亀頭が子宮を押し上げた。

「きひ、ああ! 大きい、いっぱいになってる・・・あ! 動くの駄目!」

 胸の傷のこともあるので、腰を揺さぶるように、ピストンさせる。サララは喉を震わせ、歓喜の声をあげた。
白さを取り戻し始めていた肌は、瞬く間に赤く染まりだし、熱を持ち始めた。

「いい、あ、あああ、奥、いい~! 凄いの、凄いの来る、来る、くううううう!」

 静寂な室内に、サララの絶頂を迎える嬌声が反響した。隣の部屋に聞こえてしまったいるだろう、でも今は気にしない。
腰を抑えられているせいで、手足をばたつかせることしかできず、快楽を逃すことができない。
 抱きついたことで、乳房と乳首が包帯に擦れて、痺れるような快感を生み出し、恥部の淫核が潰れる度に、
四肢を硬直させた。ただ喘ぐことしかできず、快感は体内を渦巻き、さらなる絶頂へと強制される。

「イク、イクウウウ!! ~~、奥!! 奥いいの! 子宮に入ってる! 潰してる! すぐいっちゃう!
 だめ、こんなの気持ちよすぎるううう!! ああああ! またイク、イク、イク!!!」

 子宮内に入った陰茎が、子宮口を擦りたて、亀頭が子宮を深く突き上げる。大きく反ったカリが、子宮内や、
膣道を、こそぎとるように引かれ、強烈なオーガズムを与えた。

「ああ~~!! いった、いっちゃった! 私いっちゃった! ~~~~うう!! もうダメ! 動くのダメ!
 もうイキたくない! いかせ、――!! イキました! 私いったから!!」

 絶え間ない刺激のおかげで、射精を堪えきれなくなってきた。今まで以上に身体を擦り付ける。

「はあ、はあ、出すよ、出しちゃうね、子宮にいっぱい出すからね」
「出して! 出してください! 気持ちいい! あそこも! 胸も! 子宮も! 全部イク! いっちゃう!」

 陰茎を抜ける寸前まで引き抜き、叩きつけるように陰茎を突き刺した。今まで以上にサララの身体が揺すられた。
乳首が包帯に擦られ、サララの硬く立ち上がった淫核が自らの自重によって、引きずられた。

「あああああ!!! ああああああああああああ!!!」

 目を見開き、涙をこぼして、涎を垂れ流し、白く濁った愛液を噴出して、絶頂を迎えた。背筋を反り返し、
汗によって濡れた乳房と赤く立ち上がった乳首が、眼前に晒される。
 僕は、堪えることはせず、サララの中に射精した。勢いよく出した精液が、サララの子宮に溜まり、汚していく。
 サララは最後に大きく痙攣すると、糸が切れた人形のように、胸に倒れこみ、動かなくなった。
 心配になって顔色を覗くと、白目をむいて涎を垂れ流し、死んだように失神していた。それでも、
最後の一滴まで搾り取ろうと、胎内が柔らかく陰茎をしごき上げる。
 僕は襲ってくる睡魔に身をゆだね、サララを抱きしめたまま、眠りについた。


 僕が着ていた服はモンスターとの戦いで破れてしまい、着れなくなってしまい、困っていたところ、
娼婦館の主、マリア・エレジアさんが、昔使っていた衣服を譲ってくれた。
 普段は女性物の衣服を身に纏っているが、女装癖があるわけではない。ダンジョンで手に入る服は
女性物が多く、身に付けるだけで、毒や冷気、炎の中でも平気になる衣服もある。
 ぶっちゃけその付属効果目的で着ていただけなのだ。僕の女装の訳を聞いて、男性者を探してくれたが、
借金のために、普段使わないものはすべて売り払ったとのことで、余分な服は一枚もないという。
 いつまでも腰にシーツを巻いただけの姿では不味い。仕方なく、マリアさんのお下がりを着ることになった。

 この時、シーツがずれ落ちて、僕のマイサンがコンニチハするハプニングが起きてしまった。
 運の悪いことに、場所が広間で、時間は昼を過ぎてしまっている。娼婦館の女性のだいたいは広間に集まっていた。
幸いなのが、さすがに見慣れてるみたいで、あまり騒がなかったのが嬉しい。(僕のマイサンを見た後、顔を赤らめて
見つめてくる人多数。何故か喉を鳴らした人多数。舌なめずりする人多数。身の危険を感じました)

 僕とサララ、二人分の体液で使い物にならなくなってしまったシーツは、捨てることになってしまった。
何だか申し訳ない。そう思って弁償しようとしたのだが、娼婦館の女性達全員に止められてしまった。
 それならばと、包帯や薬、サララとの一夜の代金だけは払おうと、耳につけたイヤリングを渡そうとするが、
さらに強く止められた。言い分は、借金を返済してくれたうえに、さらにお金を頂くのは申し訳ないとのこと。

 そして、さらに事態は急変する。自宅に帰り、ソファーに寝転んでいる僕を、膝枕しているサララの存在。
金は無いが、冷蔵庫には食料が残っているので、サララに何か料理を作ってもらおうと、家に来るように頼んだ。
そしたら何故か、顔を赤らめて頷いた。
 他の娼婦の人やマリアさんは、にやにや意地の悪い笑みを浮かべていた。
 そして今、サララの作った料理を食べ、横になっている僕を膝枕しているサララ。赤らんだ頬と、潤んだ瞳が僕を
見下ろし、優しく頭を撫でている。・・・・・・眠くなってきた・・・意識が暗闇に閉ざされた。


「おはようございます、朝ですよ」

 下半身に痺れるような快感がはしり、それが頂点に達した瞬間、目が覚めた。サララが運んでくれたのか、
ベットで横になっていた。礼をいっとこう。立ち上がろうとしたが、腰が重くて動かない。

 視線を向けると腰の辺りの布団が不自然に盛り上がっていた。おまけに陰茎が、強く吸われてる感覚がある。
 布団をめくると、予想通りサララが朝の生理現象に、愛撫をしていた。口の端から精液が滲み、口元は涎で、
べとべとになっていて、妖しい色気を振りまいている。おそらく僕が今しがた出した、精液を飲み干して
いるのだろう。喉を大きく鳴らすと、にこやかに朝の挨拶を述べた。
 朝からするのもどうかと思ったが、衝動に任せてサララを押し倒した。サララは嫌がることなく、背中に手を
回し、ショーツに包まれた恥部を、陰茎に擦り付けてきた。

「マリー様、いっぱいいっぱい、サララを可愛がってくださいね」
「……あのさ、様をつけるの、止めてくれない? 背中がくすぐったいような、変な気分だよ」
「だめです。マリー様は、マリー様です。そんな意地悪言うマリー様はこうです」
「あ、ちょっと、乳首舐めないでよ。くすぐったいな~、もう」

 これから楽しくなりそうだ。そう考えていた自分を罵倒してやりたい。この日、ポストに入っていた手紙が、
僕の一日を憂鬱な日へと変える手紙だったのだから。

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最終更新:2013年05月16日 13:19