予告通り3時間が経過した後、通路に戻ったとき、サキュバスが最初に感じたのは後悔だった。
フワリと、音もなく背中の翼を羽ばたかせ、大理石の床に着地する。長い金髪の髪を優雅に流す。
途端、生臭いような、嫌らしいような、形容し難い臭いがサキュバスの鼻腔に広がった。
あまりの臭いに眉を顰め、思わず鼻を手で塞ぐ。
こういう臭いはサキュバスである以上慣れているが、それをもってしても濃厚すぎる臭いだったからだ。
せめて、場所を選べば良かった。
サキュバスは本気でそう思った。
チラリと視線を、目的の人物達に向ける。
「うう……うう……うう……うう……」
「…ああ…ああ…」
「……っ、……っ、…」
そこには、マリー、マーティ、ロベルダ、晴美の4人が、淫らな姿で倒れていた。
マリーは目を瞑り、じっとマーティの愛撫を受け続けていた。
マーティは、目を瞑ったまま仰向けになっているマリーの身体に圧し掛かかり、一方的なセックスを行っていた。
汗で濡れた身体をマリーに擦り付け、お互いの身体から流れ出た体液が、大理石の床を汚していく。
マーティの身体がゆっくり上下する度に、二人の結合部からは、濁った精液と愛液が下品な音を立てて飛散する。
ロベルダは蛙のようにひっくり返ったまま、焦点の合ってない瞳を宙に向け、苦痛とも、快感とも取れない不思議な表情を浮かべていた。
それでもマーティの快感が伝わっているのか、時折思い出したように、膣口から愛液を噴出していた。
晴美はマーティやロベルダよりも酷かった。
尻だけを高く上げた雌犬の体勢は崩れていなかったが、その身体は死んだかのように、ピクリとも動いてはいなかった。
半分白めになっている目からは涙が。開いた口からは涎を垂れ流し、ダラリと出された舌が、冷たい床を這っていた。
「うう、うう、うう、うう」
少しずつ、マーティの連動が早くなっていく。処女のようにぎこちない腰の動きになっていたが、それでも快感を得ているようだ。
マーティに呼応するように、ロベルダと晴美も、合わせるように僅かに身体を痙攣させる。
マリーを除いた3人の目の下には、うっすらと隈が出来ていて、疲労の陰が色濃く出始めていた。
かれこれ三時間、ずっと腰を振り続けたのだろう。傍目にも疲れきっているようだった。
「うう、うう、うう、うう」
マーティの口から何滴の涎が垂れ、マリーの胸を汚していく。既に口を閉じる体力も残っていない。
白く泡立った愛液と、マリーの精液が混ざり合い、独特の臭気を放っていた。
どんどんマーティの腰の動きが早くなっていく。それに比例してロベルダと晴美の痙攣も早くなっていく。
そして、3人の快感が限界を迎えたとき。
「う……ああ…」
「あああ………」
「~~っ!」
3人は同時に絶頂を迎えた。
マーティは背筋を震わせ、ロベルダは僅かに腰が持ち上がり、晴美は一度だけ強く痙攣した。
その後、消え入るような快楽のため息を零し、通路に静寂が戻った。
サキュバスは意地の悪い笑みを浮かべた。パサパサっと背中の翼を羽ばたき、臭いを飛ばす。
「ふふふ、思っていた以上に、美味しそうなものになっているようね」
一歩、また一歩、仰向けになっているマリーの元に近づく。
裸足の足に、愛液が付着しても気にしない。だって、サキュバスだもの。皮膚の上からでも吸収できる。
再びセックスを行おうとしているマーティを尻目に、膝を付いて、死んだように仰向けになっているマリーの横顔に、顔を近づける。
少々、青白くなってしまったが、それでも美しさは健在だった。
まるで白雪姫。悪い魔女によって眠ってしまった哀れな娘。けれども、どちらかといえば、茨の城に眠っているお姫様の方が近いかもしれない。
もっとも、そのお姫様を封じているのは茨ではなく、女の柔肉なのだけど。
サキュバスは漏れ出る笑みを隠せなかった。
二人に近づいたことで、さらに強く臭って来た性臭に、胸が高鳴った。
視線を横に向けると、二人の結合部の間に見え隠れする、マリーの陰茎。それは、まだ硬く硬度を保ち、マーティの中を削っていた。
サキュバスは驚いた。冗談のつもりで生きていたら、と言ったが、本気で生きているとは思わなかったからだ。
「もしかして、まだ生きているの?」
見え隠れする結合部に手を差し込む。掌に、陰茎内部にある、血管の力強い脈動を感じ取れた。
結合部から手を外すと、掌には大量の愛液と精液がコーティングされていた。
指と指を合わせると、粘着性のある二人の液体が糸を引いた。
「はぁ…美味しそう」
鼻先を近づけ、ゆっくりと臭いを嗅ぐ。鼻腔を伝わり、気道を伝わり、肺に入っていく。
全身に染み渡るように、数秒呼吸を止めた後、ゆっくりと吐き出す。
ウットリと、頬が緩んだ。
見た目は、まだ初潮も迎えていないであろう少女。その少女が、淫液の臭いを嗅いで胸を高鳴らせている。
しかも、来ている服は凹凸のない身体にフィットしたボンテージ。あまりにインモラルな光景だ。
少女の正体がサキュバスだと、納得できる魔性の色気があった。
「はぁぁ~、なんて濃厚な臭い。鼻が曲がりそうで、堪らないわ」
今度は舌を伸ばし、口を大きく広げて、人差し指と中指を一気に頬張る。
「んぐ、んじゅる、じゅる、んんん」
食べ残しがないよう、丹念に指をしゃぶった後、残った指も頬張っていく。しっかり指と指の間も舌で舐めるのを忘れない。
数十秒も経つと、サキュバスの手は涎でベトベトになっていた。
はあ、なんて美味しいのだろう。
お腹の奥が熱く燃え始めていくのを実感しながら、サキュバスは再び二人の結合部に視線を向けた。
「ふふふふ、それじゃあ、ご賞味しようかしら」
翼を前方に伸ばし、マーティの身体を突く。
退け、という合図だ。
まずはこの胸デカ女の中に溜まった精液を啜ろうか?
それとも、この男の陰茎を女で、口で、味わってから?
いやいや、ここは贅沢に両方をブレンドして楽しもうか?
ニマニマと締まりのない笑顔で、次から次へと溢れてくる唾液を、一息に飲み込む。
決めた、先に男の方を味わった後、デザートの女を啜り、最後にブレンドを楽しもう。
素敵な献立が決まったところで、再びマーティに顔を向ける。
途端、垂れ下がっていた目尻が釣り上がった。
「うう……うう……うう……」
なぜならば、マーティはサキュバスの命令に従うことなく、腰の運動を続けていたのだ。
「……そこの胸デカ女」
自然と低くなる声。見た目10歳そこらの少女が放ったとは思えないくらいの殺気が込められていた。
けれども、マーティは構うことなく腰を振り続ける。
「そ、こ、の、胸デカ女!」
さっきより強く翼で突く。
すると、マーティはのろのろと腕を上げ、鬱陶しそうに翼を払った。その拍子に、マーティの豊か過ぎる二つの乳房が、ふよよん、と揺れた。
その瞬間、サキュバスの中で、何かが切れた。
「さっさとそこを退けー!」
翼を強く羽ばたかせ、マーティに飛び掛る。マーティは状況に気づいていないのか、振り上げていた腕を下ろす。
その瞬間、悲劇が起こった。
サキュバスは考えていなかった。振り上げた腕は、いつまでも振り上げたままではないことを。
マーティも考えていなかった。というより、考える体力もないし、理性もなかった。ただ振り上げた腕を下ろしただけ。
それが偶然にも振り下ろす形になり、サキュバスの米神を寸分の狂いもなく打ち抜いたのは、不運としか言いようがなかった。
「おごぉ!」
少女とは思えない下品な悲鳴を上げたサキュバスは、その場に崩れ落ちた。
これまた偶然にもカウンターという形になったため、サキュバスは米神を押さえたまま、床を右に左にのた打ち回った。
そして、サキュバスの不幸はさらに続いた。
突然ダメージを受けたサキュバスは、混乱のあまり、3人に掛けていた(魅了の魔術)チャームを解いてしまったのだ。
術の効果で保っていた意識が限界を迎えてしまい、一瞬で気絶した。
マーティも意識を失うと同時に眠ってしまい、ゆっくりマリーの胸に体重を預けた。
その瞬間、死んだように目を瞑っていたマリーの両目蓋が開かれた。
僕は胸の上で寝息を立てているマーティを起こさないように、優しく横に寝かせる。
マーティの膣口から硬くなっていた陰茎が抜け落ち、奥から大量の精液と愛液が噴出した。
最後に、寝ているマーティの額に軽いキスをして、立ち上がる。
サキュバスに気づかれないよう、できる限り静かに深呼吸する。右手に握った宝石から、魔力を吸収する。
マーティにドレスを破られたとき、宝石を取り出しておいて良かった。
もし、この宝石を取り出しておかなかったら、マーティに精気を吸い尽くされていただろうから。
視界の端に、ロベルダと晴美が見えたが、今は駆け寄る訳にはいかない。
サキュバスに注意を向けると、サキュバスはまだ痛みが酷いのか、蹲っていた。
一歩、サキュバスへ足を進める。
途端、サキュバスの身体が静止した。
構わず、さらに一歩進む。
同時に、背中の翼を左右に大きく広げたサキュバスは、素早く立ち上がる。
構わず、さらに一歩進む。
サキュバスは両手を妖しく広げ、僕を誘っているかのように翼を揺らし、軽く舌を出して唇を舐める。
構わず、さらに一歩。
サキュバスも一歩進む。
そして、二人は鼻先が触れ合うくらい、近づいた。
僕は射抜くように。サキュバスは目を細めて。互いの視線が交差する。
張り詰めていく空気の中、最初に口を開いたのはサキュバスだった。
口元を吊り上げ、挑発の眼差しを向けてきた。
「右手の玩具が、私に通用すると思っているのかしら?」
「思っていないさ。それに、魔力は吸収したから、もうこれは石でしかない」
右手を開き、宝石を捨てる。乾いた音を立てて、宝石は大理石の床に転がった。
「あら勿体ない。石といっても、宝石であることに変わりないのに」
「宝石なんて、売っても大した値にはならないよ」
魔力を集中させる。すると、大気中から青い粒子が集まりだし、僕の身体を覆っていく。
僅かに、サキュバスの眉が動いた。
「……どうりでチャームが聞かないはずだわ。まさか、アンフェリー・ドレスだったとはね」
「驚いた?」
身体を覆う青い粒子が、次々に形を変えていく。ある部分はフリルのように、ある部分はふんわりと膨らみ、ある部分は細く、ある部分は太くなっていく。
皮肉を込めて言ったつもりだが、サキュバスは可笑しそうに口元を押さえた。どうやら相手の方が上手みたいだ。
「ええ、驚いたわ。あらゆる魔術対性を持つ防具の中でも、最高レベルの……至宝クラスの防具ですもの。少し、厄介ね」
20秒も経った頃には、大量の青い粒子たちは全て形を変えた。
これでもかとフリルの付いた、金が掛かっていそうな服に……元のドレスに戻っていた。
魔力を操作し、身体能力を強化していく。体中の筋肉と骨が軋み、傍目にも分かるくらい筋肉が隆起し、硬化していく。
「少しだけ?」
ちょっと意地悪な気持ちを込めて、言った。
重心を下げ、獣のように身体を低くする。
「少しだけ」
それに答えたサキュバスも、意地悪な気持ちが込められていた。
両手と翼を大きく広げ、僕を迎え入れるように四肢を伸ばす。サキュバスの身体を包んでいるボンテージが、それに合わせて軋む。
手足の爪が伸び、肉を切り裂けるよう効率的な形を取る。
「それでは」
片や、絵本から抜け出てきたようなお姫様。
「それじゃあ」
片や、ボンテージ姿の、インモラルな美少女。
「「いざ、尋常に……」」
瞬間、二人は閃光になった。
「「勝負!」」
動いたのは同時だった。
サキュバスの大気すら切り裂く鋭い爪の斬撃が、僕の右肩口を貫くと同時に、マリーの放った弾丸の拳が、サキュバスの頬を打ち抜いた。
凄まじい衝撃が腕を伝わり、サキュバスの顔を一撃で砕いたのを実感した。
美しい少女の顔は無残に潰れ、整った歯が頬肉を突き破り、体外に出てしまっているのが見えた。
その後すぐ、裂傷した傷口から血が噴出し、サキュバスの上半身と僕の拳を、赤く染めた。
「ぐぅ!」
切り裂かれた肩口からの激痛を、歯を食いしばって耐える。
遅れて、サキュバスの身体が僕の拳から静かに離れ、緩やかに崩れ落ちていく。
妙なあっけなさを感じながらも、僕は用心深くサキュバスを見つめる。
その瞬間、サキュバスとマリーの視線が再び交差した。
内圧によって押し出された眼球がはっきり僕の方向に動き。
サキュバスの口元が楽しそうに歪んだ。
刹那、僕は本能的にバックステップを行い、サキュバスから距離を取った。そして、それは正解だった。
地面に倒れようとしていたサキュバスは、片手でそれを防ぐと同時に、目にも留まらないスピードで背中の翼が丸まり、2本の剣を形作る。
支えていた片手を前に振り払い、反動を利用して翼の剣を滅茶苦茶に振り回してきたのだ。
距離を取ったおかげで直撃することはなかったが、繰り出された斬撃の衝撃波が、僕の頬に一筋の傷を与えた。
この間、瞬きよりも速い一瞬の攻防だった。
そして、戦いはさらに激しさを増していく。
背中の翼が生み出した書撃破を利用し、さらに僕から距離を取るサキュバス。転がるように僕へ向かい合うと、素早く両手を広げた。
砕かれた顔の肉が盛り上がり、凄まじいスピードで傷が修復されていくと同時に、サキュバスの魔力が増大する。
「闇よ、我を脅かす敵に破壊の癒しを!」
サキュバスは大きく背を逸らし、背中に回した両手に魔力が集まっていく。
もう、顔の傷は完全に修復されていた。
このままでは不味い。僕は両手を前に突き出し、魔力を集中させる。
「風よ、汝の力を持って、蔓延る闇を払え!」
魔術の呪文が完成し、魔術が発動したのはサキュバスの方が速かった。
「破壊の息吹!」
その言葉と共に、サキュバスは勢いよく両手を前に突き出した。
両手に込められた魔力が一瞬、凝縮し、指向性を持って僕へ向かう。
多大な魔力が衝撃波となって大気を震わし、床を切り刻んで、破壊の風となって僕へ襲い掛かった。
遅れて、僕の魔術が完成した。
「エアロ・ファクター!」
大量の空気を圧縮し、空気の大玉を作り出して打ち出す魔術。
消費魔力も少なく、使い勝手のいい魔術ではあるが、加減が難しく、魔力操作を間違うと、途端に威力が弱くなる欠点がある。
所々魔力操作を失敗しても、気にしている暇はない。今は、サキュバスの攻撃を相殺するのが先だ。
二人の放った魔術が激突し、狭い通路に爆音と、衝撃波が四散した。
反動で、マーティ、ロベルダ、晴美の3人が通路脇に転がっていったが、むしろ好都合だ。
チラリと、確認の意味を込めて、3人の方に視線を向ける。全員怪我をしている様子は無かった。
それがいけなかった。
「その気になった女から余所見するなんて、お仕置きだわ」
気づいたときには遅かった。
10m近くあった距離を一瞬で詰めたサキュバスが、眼前に迫っていたのだ。
ニヤリと、サキュバスは凶悪な笑みを浮かべていた。
背筋に怖気が立った。
見た目が10歳かそこらにしか見えないが、それでも、それだからこその恐ろしさが垣間見えた。
慌てて臨戦態勢を取るが、あまりに遅すぎた。
「はあ!」
下から上へ、跳ね上がるような右手のアッパーブロー。指を揃え、必殺の貫手が腹部へと放たれた。
避けるのは無理だ!
そう判断した僕は、魔力を腹部に集中し、一瞬だけ強度を鋼鉄のレベルまで引き上げた……ところで、サキュバスの拳が腹に突き刺さった。
「ごほぉ!」
サキュバスの指が皮膚を裂き、筋肉を突き破り、血管を巻き込み、内臓に到達する。
だが、そこまでだった。
サキュバスの笑みが、驚愕に変わる。
「――!? あ、あんた!」
慌てて引き抜こうとする腕を、左手で無理やり捕まえる。
口の中に血の味が広がる。腹から伝わる激痛を必死の思いで堪え、掴んだ手に力を込める。
サキュバスの細い腕は、枯れ枝のように、あっさり折れ曲がった。
「ぐぁぁあ!」
驚愕の表情が、苦痛の表情へ変わる。だが、放すつもりはない。
右腕に魔力を込め、振りかぶる。右腕の筋肉が隆起し、生々しい音を立てる。負傷した右肩の傷口から、血液が噴出した。
「く、くそ!」
サキュバスは慌てて掴まれた腕を切り落とそうと、背中の翼を変化させる。
「遅い!」
だが、今度はサキュバスが遅かった。
胸と陰部を隠すだけの卑猥なボンテージ姿。まるで狙ってくださいと言わんばかりの、むき出しの腹部に腕を突き刺した。
柔らかくてスベスベしたお腹を突き破り、熱い血液が流れる内臓も突き破り、背骨をへし折り、背中の皮膚を貫き、貫通する。
「ぐぅ、ご、ごぼぉ」
サキュバスの口から、大量の血液が吐き出される。半分がサキュバスの身体を、半分が僕の身体を汚し、床に垂れていく。
このまま内部から魔術で破壊しようと、魔力を集中するが、さすがに相手はサキュバス。そう上手くはいかない。
サキュバスは構うことなく翼で掴まれた自分の腕を切り落とし、拘束を解いたのだ。
間髪を入れず、腹部に突き刺さった僕の腕に全体重を預け、背筋を逸らし、両足を曲げて僕の胸に乗せる。
「う――!」
僕を蹴っ飛ばし、反動を利用して、腹部から腕を抜いて脱出した。
そのままクルリと一回転して、翼の先端を油断無く僕へ向ける。流れるような迎撃体勢だった。
僕は構わず、ドレスの中から小型のダガーナイフを二丁取り出し、構える。
両足に魔力を込めて、一気に加速。サキュバスを追撃する。
風穴が開いた腹部から大量の血液を流しながらも、サキュバスは最初のときと変わらない凄まじいスピードの斬撃を繰り出してきた。
右から来るのを、左手のナイフで防ぐ。
左から心臓を狙ってくるのを、右手のナイフでいなしながら、さらに加速する。
なぎ払うような一撃を上へ逸らし、足元を掬うような攻撃を、ジャンプして避ける。
そこを狙ってくる二つの翼を、僕自身を軸として回転する形で防ぎ、サキュバスの懐に潜り込む。
驚愕に焦りが加わった表情を浮かべたサキュバスが慌てて残った腕を振るったが、意味はなかった。
右手のナイフがサキュバスの喉を貫き。
「ぐぇ!」
左手のナイフがサキュバスの心臓を貫いた。
「おごぉ!」
最後に蹴りを加え、サキュバスから距離を取った。
喉から、胸から、腹部から、大量の血液が噴出していく。サキュバスは覚束ない足取りで、その場を、数回足踏みを繰り返した後。
「~~~~!!」
最後に僕を一際強く睨み付け、崩れ落ちた。
時間にすれば、一分にも満たないかもしれない攻防。
だが、その密度はあまりに濃く、深いものであった。
僕はサキュバスの元に近寄り、死んでいることを確認してから、通路脇に横たわっている3人へと振り返った。
このとき、僕は安心していた。
後は3人をゆっくり治療し、傷口を魔力で修復してダンジョンを脱出するだけだと思っていた。
完全な油断だった。
「………って、汝を死の頂へと運ぶ」
背中に突然走った悪寒と共に、微かに聞こえた魔術詠唱。
信じられない思いで、背後へ振り向くと。
「死滅の息吹」
お尻のあたりまである長い金髪を優雅に流したサキュバスの唇が、僕の唇と繋がった。
その顔は、身体は、さっきの戦闘が夢だったかのように、傷一つなかった。
なぜ!?
急速に薄れていく意識。どんどん強くなっていく孤独感。
緩やかにサキュバスの顔が離れ、視界が広がる。すると、眼前のサキュバスの奥で、さっきまで戦っていたサキュバスが、さっきと同じように倒れていた。
これは、まさか。
サキュバスが行ったカラクリを理解すると同時に、即死魔術が、僕の命を消し去った。
マリーの身体は重力に従い、硬い大理石の床に倒れた。
その一部始終を、サキュバスは溢れ出る歓喜の思いで見つめた。
「あはははは、ば~か! 騙されてやんの」
翼でマリーの死体を突きながら、サキュバスはケラケラと、少女のように笑った。
それが人を殺したことによるものであることが、このサキュバスの残忍性を見せていた。
ひとしきり笑うと、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「まさか戦っている私が偽者だとは、夢にも思わなかったでしょうね」
背後に振り返り、地面に沈んでいる死体に目を細める。
「ドッペル・シャドー……偽者だとはいえ、私を殺すとは……こいつ、本当に強いやつだったのね」
振り向き、床に転がっているマリーを足で突く。マリーの汗が裸足の裏に伝わる。
ドッペル・シャドー……術者の偽者を作り出し、操る、土系統最高の魔術。
この魔術は、魔力と土を原料に、人そのものを作り出し、擬態させることができる。
多大な魔力消費と、繊細な魔力操作を必要とし、これを使えるものは、土系統魔術を極めたといってもいい魔術だ。
「それに、死滅の息吹も使っちゃったし、魔力も底を尽いちゃったわ……ああ、殺す前に、精を奪って置けばよかった」
でも、まあいっか。
横に視線を向けると、そこには3人の女性が通路の脇で寝ていた。全員汗で濡れていて、全員淫液で汚れていた。
3人分も食べれば、お釣りがくるしね。おまけに、こいつの3時間分の精液も入っているから、一石二鳥だわ。
サキュバスの脳裏に、大量の妄想虫が羽ばたく。
まずは、金髪のやつから指で舐め取って……その後、黒髪のやつを直接舐め取って
……最後に胸デカ女の中に溜め込まれた精液と愛液のブレンドを飲み干そう、うん、そうしよう。
だらしなく緩む頬を引き締め、ともすればスキップを奏でそうな両足を抑え、妄想から現実に帰ったサキュバスが、3人に向かって踵を翻し。
「本当、騙されてくれちゃって……」
た、ところで硬直した。
なぜならば、自分が使える魔術の中でも最強の威力を誇る、即死系魔術を使って殺した男が、3人をかばう様に立ちはだかっていたからだ。
瞬間、サキュバスの脳裏に、様々な仮説が生まれた。
1、 これは嬉しさのあまり見た幻覚だ。
2、 実はやつは双子で、実力もない弟か兄が虚勢を張っている。
3、 目の前のやつは本物で、実は今殺した奴が偽者である。
不思議と流れる大量の汗を片手で拭い、目の前の男……マリーを見つめた。
マリーは、ニッコリと笑顔を……サキュバスにとっては、悪魔の笑みを浮かべて、答えを言った。
「まさか、戦っている僕がドッペル・シャドーだったなんて、夢にも思っていなかったでしょ」
3! 3! 3! サキュバスの脳裏に、最悪の答えが点滅した。
ゆっくり、マリーがサキュバスへ向かって一歩踏み出す。
反対に、サキュバスは一歩下がる。
一歩進む。一歩下がる。一歩進む。一歩下がる。
「見たところ、魔力も底を尽いたみたいだし、絶体絶命ってやつじゃない?」
マリーの身体から魔力が漲る。いつもの自分なら欠伸で返事するが、魔力が切れた今、目の前のマリーが何倍にも恐ろしく思えた。
一歩進む。一歩下がる。一歩進む。一歩下が……れない。
気づくと、サキュバスは通路の壁に追い込まれていた。そして、眼前にマリーの顔が迫っていた。
マリーの方が頭一つ分大きいため、大人が子供を見下ろしているような光景になる。自然と、マリーの迫力も増す。
「わ、私を殺すってわけ?」
自然と声が震えるのを自覚しつつも、懸命にマリーを睨んだ……ところで、自身の特性を思い出した。
そうだ、私はサキュバスだ。サキュバスは何度死んでも甦る、不死の一族だ。
それを思い出すと、不思議と緊張が和らいでいく。
すっかり落ち着いたサキュバスは、挑発的に鼻で笑ってやった。
だが、マリーはそ知らぬ顔で受け流した。
「殺したって、すぐに甦るでしょ。知っているよ、君達サキュバスは普通に殺しても、時間が経てば甦る、不死の一族だよね」
……あれ?
サキュバスの脳裏に、一抹の不安が過ぎった。
「けれども、そんな君達にも弱点があることも知っているよ。
確か、君達一族は生まれてから死ぬまで、一度もオーガズムを味わうことなく生涯を終えるはずだよね?」
「そ、それが何?」
せっかく引いた汗が、再び出てくる。
「変な話だ。セックスという形で食事する君たちが、生きながらえるためのセックスでオーガズムを迎えない。
より多くの生命エネルギーを取り入れる点においては、断然オーガズムがあるほうが、得物の興奮を誘える。
なのに、君達はそうしない」
不味い、不味い、不味すぎる。まさか、こいつ知っているのか!?
嫌なくらい高鳴る心臓の鼓動を感じながらも、黙ってマリーの言葉を待つ。
マリーは微笑み、サキュバスの疑問に答えた。
「答えは簡単さ。魔術を使って、食事の不便を代償に、不死になったのだろう?
おそらく快感を妨害する魔術で、それは一度でもオーガズムを迎えてしまうと解けてしまうものじゃないかい?
つまり、一度でもオーガズムを迎えてしまえば、こっちのものということだ」
サキュバスは絶望した。まさか、サキュバスしか知らない一族の秘密を、目の前の男が知っているとは思わなかったからだ。
落ち着け、落ち着くのだ。ここはCoolに、Coolになるのだ。
突如、サキュバスの脳裏に、3つの天啓が閃いた。
1、 とっても強いサキュバスである自分が、突然素晴らしい作戦を思いつき、この状況を脱出する。
2、 仲間のサキュバスが助けに来てくれて、間一髪、自分は助かる。
3、 誰も助けに来ないし、作戦も思いつかない。現実は非。
やさしく伸ばされたマリーの手が、ボンテージの隙間に潜り込み、陰部を直接撫で回す。
「ふぁぁん」
途端、口から出たのは快楽のため息だった。
サキュバスの身体は、どんな刺激にも快感を覚えるようになっているので、濡れてもいないデリケートな部分を刺激しても、快感を覚えるのだ。
事実、サキュバスの身体は急速に燃え上がり始め、膣から愛液が分泌され、性交の準備を迅速に進めている。
「自分が行ったことを、自分で体験できるなんて素晴らしい経験だね」
ニッコリ、マリーは微笑み、ドレスを脱ぎ捨てる。だが、サキュバスは見逃さなかった。
マリーの額に、でっかいバッテンが出来ていることに。
サキュバスの脳裏に、3、という数字が力強く点滅した。
サキュバスが着ていたボンテージを脱がし、生まれたままの姿にしたのは40分前。
サキュバスの小さな口に、大人のキスをすること10分。
お漏らししたようになっていた陰部に、熱烈な愛撫をすること30分。
合計40分。僕はかれこれ、30分以上サキュバスの陰部を舐め続けていた。
最初は蚊の鳴くような喘ぎ声しか出さなかったが、今では一舐めすると、敏感に反応を返してくれるようになった。
「あん……ん、もう、もう、うう、止めて、止めてよ……」
見た目10歳程度の美少女が、舌による愛撫を止めるよう懇願する。
舌が敏感な部分を這う度に、汗で濡れた彼女の身体がヘビのように蠢く。釣り上がっていた目尻は垂れ下がり、情欲に蕩けていた。
だが、内容とは裏腹に、彼女の両足は僕の頭をしっかりと抱きとめ、離れないように押さえている。
始めは僕の頭を跳ね除けようとしていた両手も、今では優しく頭を撫でてくれていた。
当初の彼女の様子から考えると、想像もできない姿だ。まだ一時間も経っていないが、妙に懐かしい思いがあった。
そのとき分かったことなのだが、脱がしてみて初めて分かったことがある。
サキュバスの身体は、普通の子供とは違い、各関節、皮膚、内臓が柔軟で柔らかいのだ。
大人の女性だけが持つ柔らかさを、そのまま持っているかのような、スベスベな肉付き。
子供特有の硬い四肢がなく、胸なんてツルペッタンもいいところなのに、どこか柔らかいと思えてしまう何かがあった。
裸の彼女を見て、僕は改めて彼女がサキュバスであることを実感した。
なので、感謝の意味も込めて、サキュバスの陰部を丹念に舐める。
スジと言っていい縦一本の線に、沿うように舌を這わせ、時には広げて、淫唇を隅々まで愛撫する。
かと、思えば、陰部全体を労わるように舌を這わせたり、不意をついてはアナルに下を差し込んだりする。
見た目相応の小さな膣口に舌をねじ込むことも忘れない。
「ひぃぃ、ひぃぃ、ナタリアのお腹を舐めないで~」
だが断る。
同時に膣奥から漏れ出てくるナタリアの愛液を、一滴残らず啜る。
……ああ、ナタリアというのか、この子。
案外可愛い名前じゃないか。そんなことを考えながら、僕はナタリアの淫核を一際強く吸った。
ナタリアは甲高い嬌声を上げた。けれども、オーガズムを迎えたわけではないようだった。
サキュバスの膣口を見て、最初は思わず止めようと思った。
指一本入れるのも困難に思えたが、これが意外や意外。
サキュバスとしての肉体がそうなっているのか、ナタリア自身の素質がそうなのか、すんなり指は根元まで入った。
そして、サキュバスというものを始めて肌で理解した。
指を入れた途端、膣壁が指を優しく包み込み、複雑に蠢き、脈動し、僕の指を熱烈に歓迎したのだ。
それが不規則に精を強請る様は、まさにサキュバス。
しかも、ときおり爪が何か狭いものにしゃぶられるような感触も伝わってくる。恐らく、子宮口だろう。
もしかすると、サキュバスにとって子宮すらも快感を生み出す部位なのかもしれない。
並みの男性なら、入れた瞬間射精してもおかしくない。下手したら、遅漏と呼ばれる人も、サキュバスの前では早漏に成り果ててしまうだろう。
「これがサキュバスの中……確かに、精を吸い尽くすわけだ」
呟いた言葉に、返事が返ってくることは無かった。
「…あ……あ……ああ……あ…あ……ああ」
(こいつ……執拗過ぎる……犬みたいに舐め続けられて、アソコが壊れちゃったわ……もう十分でしょ?
早く硬くなったそれを私の中にぶち込みなさい。そうなれば、後はこっちのもの)
ナタリアは息も絶え絶えに、ただただ指の感触を味わい、僕からもたらされる快感を感受していた。
舐め続けること一時間。さすがのサキュバスも、一時間以上の執拗な愛撫を受けたことはなかったのだろう。
涙で潤んだ目、口端から涎が垂れ続け、体中から汗が噴出している。呆けたようにアヘ顔を見せていた。
けれども、まだ前儀は始まったばかり。サララも大体これくらいしてからするのだが、サキュバスであるナタリアならまだまだ大丈夫だと思われる。
「それじゃあ、これから一時間くらいGスポットやら何やらを擦り続けるから、いっぱい感じてくださいね」
「――!? ま、あひぃ……まっりぇ!?」
(ちょ、ちょっと待て、まだ入れないの? うあ、そこを擦るな……このままじゃ、本当にイカされちゃうわ、どうしよう……そうだ)
途端、ナタリアの目に正気が戻った。だが、恥骨の裏、膣壁のザラザラした部分を擦ると、また意識を飛ばした。
けれども、すぐに意識を取り戻し、僕へ抗議の眼差しを向けた。
「いい、いい、ち、違う、そうじゃ、こんなの、変ら、こんなの知らない、気持ち、良すぎて、良すぎぃぃ!」
(ほれほれ、女からこんなこと言われたら、堪らないでしょう?)
懸命に話そうとしている途中だけど、かまわず硬く勃起した淫核を摘むと、ナタリアは、はしたなく歯を食いしばった。
「言葉責め? いや、言葉受け? 言葉でも興奮を誘うとは、さすがサキュバス……恐れ入る」
「違うよ、本当に違うの、こんなの、私、知らない、知らないよ、本当だよ、信じて、もう止めて、他のこと、いっぱい奉仕するから、だから」
(見透かされている!? くそ、魔力さえあれば、こんなやつ……あ、ちょっと待て、それは止めろ、顔を近づけるな、それは弱いんだか)
五月蝿いので、キスで黙らせてやる。
キスしてから舌を噛まれないか不安を覚えてけど、舌を絡ませると目が蕩けたので、安心した。
ということなので、愛撫を再開した。呻いて抗議されては堪らないので、一時間くらい舌を絡ませ続けよう。
自分でも執拗に感じるくらい膣を愛撫すること1時間。
途中、バリエーションにと、アナルを愛撫すること1時間。
ついでだからと、交互に抜き差しすること30分。同時に抜き差しすること30分。計、3時間以上攻め続けた。
果たして、彼女に挿入したとしても、サキュバスである彼女にオーガズムを
与えることができるのだろうかという、不安もあったが、そろそろ僕の我慢も限界に達していた。
もう抵抗の素振りすら見せないナタリアの股を開き、身体を押し込める。所謂正常位というやつだ。
硬く勃起した陰茎を入り口に擦りつけ、ナタリアの愛液を塗す。
僕が出したカウパーと、彼女の愛液が混ざり合うのが、どこか官能的で、いやらしかった。
「……………………」
(やばい、やばすぎる、分からないけど、後数分も愛撫されたらイク。なんか大きな波が来る。抵抗しなきゃいけないけど、身体が痺れて力が入らない)
焦点の合ってない瞳を宙に向けているナタリアを無視し、そのままゆっくり彼女の中に収めていく。
膣口自体が小さいので、少し抵抗を覚えたが、無理やり亀頭を押し込む。
「…ぁぁ、あああ、ああああ!」
(お、大きい……亀頭が入ったのだわ……やだ、背筋に怖気がぞわぞわと……頭の中にどんどん快感が……)
亀頭が完全に入ると、膣壁の隙間から中に充満していた愛液が滲み出てきた。ありがたい、これを潤滑油にして、最後まで入れよう。
僕と彼女の恥骨がゆっくり近づいていく。
「ああ、おおお、おおおおお!」
(これ、これは……駄目、これは駄目、亀頭のかさが、私の中を削って……駄目、本当に駄目!
本当にイカされちゃう! こうなったら、私も締めて、先に射精させて、精気を奪わなきゃ。
そうすれば、魔力も回復するわ。多分、5回も奪えばこいつも種切れだし、体力も落ちるから、そのときがチャンスだわ!)
「う、う、くぅ、締まる」
同時に、不安は的中した。彼女の中には亀頭しか入っていないのに、まるで数人の女性が同時に愛撫してくるような、異質な快感が伝わってきたのだ。
手で、舌で、胸で、足で、口で、膣で、感触がガラリと変わり、不規則に伝わってくる快感は凄まじいものだった。
「さて、魔方陣に戻るための魔力と体力を考えて、精気に回せる魔力はこれくらいか……あ、モンスターのことも考えると、もっと少なめにしないと」
コツンと、亀頭の先端がナタリアの子宮口を押した。まだ半分も入っていないが、彼女のサイズを考えたら十分すぎるだろう。
「ああ――、奥ぅ、奥が!」
(んああ、子宮口……腰が痺れる……けど、チャンスだわ。あまり体力に回せないのなら、まだ私にも勝機がある!)
でも、構わず一気に体重を掛ける。子宮口を突き破り、子宮内の壁を押し上げた。亀頭の先端に、硬い感触が伝わってきた。恐らく、子宮の壁だろう。
「――!? ぁああ、があああ!?」
(んひぃぃぃぃぃぃぃぃ……し、子宮が……亀頭が……お腹を……)
視線を下げると、ナタリアの下腹部が膨らんでいた。もしかしてと思い、ナタリアの顔を見ると、凄惨なものになっていた。
瞳は完全に白目を向き、口から涎を、舌をダラリと垂らし、体中から球のような汗が噴出していた。
背中の翼も、今や小さくなり、ナタリアの背中に隠れて見えなくなっていた。
快感を覚えているのか、それとも苦痛を感じているのか、判断に迷う。ちょっと後悔の念が湧いたが、こうなったらこのまま突き進むしかない。
「とりあえず、魔力を変換してできるのが、108回くらいか…」
僕の波動液は108まで出せるぞ。それで打ち止めだ。はてさて、この回数で、彼女をイカせられることが出来るのやら……。
背筋に悪寒を覚えるくらいの快感に耐えながらも、彼女の中を蹂躙することにし、腰の前後運動を開始した。
亀頭が抜ける寸前まで腰を引き、内臓を押し上げるくらい一気に子宮へ叩き込む。もう破れかぶれだ。
「あああ! あああ! あ――! ああん!」
一突きする毎に首を左右に捻り、必死に快感を逃そうとしているナタリア。多分、これも演技なのだろう。さすがサキュバス、恐ろしい子。
(108だと!? そんなの反則……ああ、駄目! 腰を動かすの、駄目! 感じすぎるぅ!)
ナタリアの膣壁が伸縮を繰り返し始めた。引き抜くときは名残惜しいかのように吸引し、入れるときは優しく包み込んでくる。
絶頂の兆しを見せ始めているが、油断はいけない。もしかしたら、絶頂を偽装しているのかもしれないからだ。
(ヤリ殺される! ハメ殺され、あ、あああ、やだ、駄目、駄目だ、もう、もう、もう、イク、イク、イク、
やだ、イキたくない、イキたくな、駄目! イク! イッちゃう! もうイク! もう、い……くぅぅぅ!!)
不意に、ギュウッと、ナタリアの中が締まった。
腰が持ち上がり、僕を乗せたままブリッジする。顎を逸らし、白い喉を眼前に晒し、ナタリアは深く絶頂……の素振りを見せた。
「イク、イク! イクううう――!!」
あまりの締め付けと気持ちよさに、僕も耐え切れずナタリアの子宮の中で、射精した。
ナタリアの中に射精する度に、ナタリアは痙攣した。
(熱、熱い、子宮が焼け、あああ、駄目、子宮が震える! 気持ちいいよぅ!)
その姿は、どう見てもオーガズムを迎えている女性だった。
なんて恐ろしい。思わずオーガズムを迎えていると思ってしまった。
ゴクリと、唾を飲み込み、前後運動を再開する。今度は、上下の運動も混ぜて。
残り107発。これで、ナタリアをイカせなくては!
ナタリアの中に射精すること、37回目。
時間にして、7時間強。休むことなく腰を振り続けていた。
途中、晴美達にも加勢してもらおうと考えたが、術の影響からか、全く起きる気配を見せなかった。
後、半日……下手すれば、明日まで眠り続けるかもしれない。
仕方なく、僕は孤独に腰を振り続けていた。
視線を下げると、ナタリアが仰向けで、大の字になっていた。
「あー、あー、あー、あー、あー」
(いひぃぃ、いひぃぃ、突いて、もっと突いて! ちんこ気持ちいい、ちんこ凄い、ちんこ、ちんこちんこ、ちんこ!)
突く度に、あー、あー、と嬌声を上げる姿は、僕への挑発にしか思えない。
しかも、僕とナタリアの間には、おびただしい量の愛液と、ナタリアの尿が散乱し、床を派手に汚していた。
10回を超えた辺りで、ナタリアが漏らしたものだ。まるで、お前のものでは無理だと言わんばかりに……。
そのときの屈辱を思い出し、ナタリアの中をかき回すように腰を捻る。少しでもバリエーションを入れて、感じさせなくては。
「あー、ああん! あん! イイ! いいよぅ!」
(お腹グリグリされている! お腹気持ちいい、ちんこ気持ちいい! もっと、もっとしてぇ! もっと滅茶苦茶にしてぇ!)
ナタリアは再び痙攣を起こし、絶頂の素振りを見せた。
くそ、ナタリアは遊んでいる! この状況を楽しんでいる!
胸の奥が張り裂けそうなくらい、屈辱と憤りを感じる。だが、今の僕にはそれを晴らすテクニックも、モノもない。
せめて、少しでも抵抗を。そう思った僕は、体位を変え、後ろから彼女を攻めることにした。
ナタリアの中に射精すること、92回目。
もうそろそろ、限界に近い。後、16回で僕も打ち止めだ。
犬のように高くお尻を上げたナタリアの腰を掴み、さらに力強く腰を叩きつける。
ナタリアはもう相手をするのも飽きたのか、床に舌を這わし、濁った瞳でどこかを見つめていた。
焦りを感じながらも、休まずナタリアを攻め続ける。
「ああん、ああん、凄い、凄いよぅ、ああん、凄いよぅ」
(イクぅ! また、また……イッちゃったよぅ! おちんぽ様気持ちいい! おちんぽ様! おちんぽ様! もっと突いてくださいませ、ご主人様~!)
まるで出来の悪いAVのような嬌声を上げるナタリア。
ちくしょう、このままでは駄目だ。残り16回では、あまりに無理がありすぎる。
考えろ、考えるんだ。逆転のチャンスはまだある。野球だって、9回3アウトを取るまで結果は分からないって、達也も言っていたんだ!
そして、僕の脳裏に天啓が閃いた。
そうだ、こうなったら、油断を突いて脱出しよう。
決まれば善は急げ。腰の動きを止め、少しの間息を整える。
心臓が痛いくらい鼓動し、体中が酸素を求めて抗議していた。本当なら和平交渉したいところだが、今は出来そうにない。
視線を下げると、ナタリアが僕を見上げていた。
彼女も呼吸を整えていたが、僕と違ってどこか余裕があるように思える。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
(え、どうしておちんぽ様止めちゃうの? もしかして、私に飽きてしまったのですか!? 許してください、ご主人様!
雌豚でしかない私が、ご主人様の、おちんぽで喘いでいるばっかりに、ご主人様を失望させてしまいました。
精一杯締めますので、どうか捨てないでください!)
途端、彼女の膣圧が増し、精液を搾ろうと複雑に蠕動する。
床に顔を付けている姿だからか、ナタリアの視線がこう、物語っているように思えた。
これでお仕舞い? よく頑張った方ね、と。
僕はそれを見なかったことにした。ナタリアの身体を仰向けにして、正常位の体勢になる。
すると、ナタリアが腕を伸ばし、僕の身体を優しく抱きしめた。両足も腰を押させつけるように組み合わせている。
頭一つ小さい彼女にこうまで余裕があるとは。屈辱を覚えながらも、今度はゆっくり彼女の中を擦るようにした。
粘液の海が、とても気持ちいい。何回射精しても、気持ちよさは全く変わらない……それどころか、増しているようにも思えた。
「んん~、んん~、いいよ、凄く気持ちいい」
(ゆっくりされるのも、気持ちいい。おちんぽ様が私の中を擦っていって……おちんぽ様美味しい。もう、ご主人様から離れられないよぅ)
頭を優しく撫でるナタリアの腕に焦りを感じながらも、僕はナタリアの中を蹂躙し続けた。
脱出できるタイミングは一瞬。それを見逃さなければ、逃げられる!
ナタリアの中に射精すること、101回目。
どこぞの、犬の大家族と同じ回数になってしまったが、気にしない。
もう、イカせるのを諦めた僕は、彼女を跪かせた状態で、フェラをしてもらうことにした。
硬く反り返った陰茎を、膝立ちになったナタリアが舐めしゃぶる姿は、ロリコンなら思わず射精してしまうくらいの色気があった。
何せ、ナタリアの見た目は美少女。下手すると美幼女だ。お尻も胸もツルペッタンだし、腰だって細くなっていない。
背中の翼がパタパタと僕を扇ぐ。傍目にも、ナタリアのフェラは情熱的だった。
陰茎全体に情熱的なキスをしたかと思えば、小鳥のようなキスをしたり、次には喉奥まで咥えていたりする。
舌で玉袋まで丁寧に舐められ、時には裏スジをやんわり舐める。サキュバスならではの技術だった。
「ん、ん、ん、じゅるる、じゅるじゅる、ちゅぱ、ちゅ、ちゅ、あむ」
(美味しい、美味しいよぅ。ご主人様の、おちんぽ汁、最高だよぅ臭くって、濃くって、粘々してて、こんな美味しいの、初めて)
「くぅ、だ、出すよ、ちゃんと受け止めて、飲んじゃ駄目だよ。僕が許すまで、口の中に止めておいて」
「ん! んん! わひゃひふぁひふぁ! じゅるるる、ずずず」
(ふぇぇ、おちんぽ様から精液が出てくるよぅ! 待っていて、ご主人様、気持ちよく出させてあげますから)
僕の言葉に、さらに激しくなるフェラチオ。どんどん強くなってくる射精感に逆らうことはせず、ナタリアの口に思いっきり射精した。
「だ、出すから、受け止めて!」
「じゅるる! ずずず! じゅるるるるるるるる!!」
(来て! 来て! いっぱい出してください!)
睾丸が持ち上がり、大量の精液が陰茎の中に入っていく。そして、凄まじい勢いでナタリアの中に排出された。
1回。
「んんん!」
(来た! 精液来た!)
2回。
「ん……」
(ふぁぁぁ、美味しい~~)
3回、4回。
「………」
(早く飲みたい、ネトネトの精液~)
5回、6回、7回、8回。
「…………ん」
(頭がクラクラしてきた……ご主人様の精液って、本当、麻薬みたい)
9回、10回、11回、12回……射精が終わった。
ゆっくり、ナタリアの頭が離れる。シャフトが見え、亀頭が見え、ナタリアの唇と鈴口の間に白い橋が出来て、途切れた。
目で、合図を送ると、ナタリアは潤んだ瞳を細めた。中の精液が零れないようにしているのか、少し唇を内側に曲げて、口を大きく開けた。
ナタリアの小さな口の中、その全てが真っ白に汚れていた。白い歯も、可愛らしい舌も、真っ赤な口腔も、僕が出した精液で満たされていた。
「……飲んでいいよ」
まるで子供のように瞳を輝かせたナタリアは、僕に見せ付けるように、咀嚼し、ゆっくりと飲み干した。
喉を通っていく精液を見せようというのか、顎を上げ、指で指し示した。
瞬間、僕は考えるよりも早く、音もなく晴美達へ飛んだ。
素早く3人を抱き寄せ、魔力操作を開始する。タイミングは合っている、後は運任せだ。
「彼の地へと誘う、放浪の夢」
ナタリアの方を見ると、キョトンと呆けていた。だが、すぐに僕が何をしようとしているのかを悟ると、物凄い形相で僕へ向かってきた。
だが、もう遅い。僕の魔術は完成した。
「テレポート!」
その言葉と共に、僕の視界は暗転した。
気づいたときには部屋の中に居た。
テレポート……指定した人や物を、別の場所に転送する魔術。
距離と人数(あるいは物の数や大きさ)によって魔力消費が左右されるこの魔術を使用したおかげで、完全に魔力が尽きてしまった。
慣れたテーブルと椅子に、見慣れたソファー。そして、パジャマを着ていたサララが、目を丸くして僕を見つめていた。
構わず、振り返ると、そこには裸の晴美、ロベルダ、マーティが寝息を立てて横たわっていた。その側には、彼女達の衣服や武具が転がっていた。
「……お、お帰りなさいませ」
どうしたらいいのか分からない。そんなサララの内心が、声からも分かった。
心から安心した僕は、サララへと振り向く。
「ただいま……何か、変わったことはなかった?」
パチパチ、とサララは瞬きを数回繰り返し、答えた。
「たったいま、皆様が現れたことが、なにより変わったことです」
「ははは、それもそうか……サララ、お風呂沸いているかい? 後、3人の寝床を用意できる?」
「は、はい、分かりました。お風呂の方は私が入ったばかりなので、用意できております。
後で寝間着の用意をしておきますので、お入りください。毛布を取ってきますので、3人をソファーに運んでくれないでしょうか?」
「ソファー? 分かった。ソファーに運んだら、僕はお風呂に入るから」
「畏まりました。飲み物もご用意しておきますので、ごゆっくり」
そう言い、深々と一礼すると、サララは足早にリビングを出て行った。
一つ、ため息を吐き、立ち上がって3人を運ぶ。
その際、豊か過ぎる乳房とか、弾力あるお尻だとかが掌に収まったが、さすがに性欲は湧かなかった。
ものの数十秒で3人をソファーに運ぶ。ふと、時計に目をやると、時計は23時を回っていた。
丸一日以上、連続セックスをしていたのか。疲れるわけだ。
軽く首を傾げると、鎖骨の辺りから乾いた音が鳴った……ところで、自分が裸でいることを思い出した。
「……アンフェリー・ドレス、あの部屋に置いてきちゃった」
苦笑し、お風呂場へ向かった。
灰色の世界というのは、どういったものなのだろうか。どのような形でその世界に行き、どのような形で抜け出すことが出来るのだろうか。
去ってしまった主人を求め、ダンジョンを彷徨い続ける。
「……ご主人様……ナタリア、良い子にしているから…」
何年も前、ご主人様とは比べ物にならないくらい脆弱な探求者が持っていた本に、そんな言葉が書かれていたのを、思い出す。
人間やモンスターから精を奪う意外することがない私は、その本を暇つぶし代わりに、何度も読んだことを覚えている。
他にも様々なことが書いてあったが、忘れた。所詮、暇つぶしでしかない本の内容を、いつまでも覚えている必要はない。
「ご主人様……どこに居るの……もう、人は襲わないよ……悪いことしないよ……」
でも、どうしてか、その文章だけは忘れることはなかった。
今でも、ふとした瞬間、あの文の続きを思い出す。
灰色の世界というのは、どういったものなのだろうか。どのような形でその世界に行き、どのような形で抜け出すことが出来るのだろうか。
ある人は言った。その世界に行くためには、愛する人を失うのが一番の近道だ、と。
ある人は言った。その世界に行くためには、信じていた人に裏切られるのが一番だ、と。
ある人は言った。その世界から抜け出すためには、また、新しく愛する人を見つけるのが一番だ、と。
ある人は言った。その世界から抜け出すためには、裏切られたということを、受け入れることだ、と。
だが、きっと灰色の世界というのは、そういったものではないのだと思う。
愛する人を失ったのなら、失った人を思って悲しめばいい。
信じていた人に裏切られたら、憎めばいい。
新しい愛を手に入れれば癒され、裏切られたことを受け入れれば、抜け出す手段を手に入れることができる。
だが、愛する人が、信じたい人が、命を捧げようと思った人が、中世を尽くしたいと思った人が、自らの主人が、
自分の不手際から去ってしまった場合はどうだろうか?
自分の不手際によって去ってしまった想い人を、どうやって受け入れ、忘れることができるのだろうか?
忘れられるわけがない。
自分自身を憎んで痛めつければ、それが原因でさらに離れていくかもしれない。かといって命を絶てば、永遠に再開することもできなくなる。
自分から去っていった想い人を憎む。そんな考えなんて、思いつかない。
唯一、その世界から抜け出すためには、想い人から許しを得て、寵愛を受けて、初めて脱出することができるものなのだろうと、私は考えている。
「なぜならば、そんな私も、灰色の世界を旅する一人なのだから」
何気なく、口から出た仕舞いの言葉が、自分の現状をそのままに表している。
ナタリアは、皮肉げに笑った。
フワリと、身体を覆う沢山のフリルが、悲しげに揺れた。
最終更新:2021年07月15日 01:37