阪神淡路大震災

「どいつにします？」
入念にターゲットを選んでいるテレビクルー達。
「あいつにするぞ」と声を挙げ、薄汚いホームレスに近付く。

「ねえねえ、おっちゃん」
「ふが？」面倒臭そうに答えるホームレス。
「日給5万円の仕事、しない？」

仕事内容を聞くまでもなく、ホームレスには断る理由がなかった。

数時間後。身形を整えたホームレス。
カメラ越しに何も知らない人が見たら、間違いなくホームレスとは思わないだろう。

「じゃあ、打ち合わせ通りにお願いします」
(……コクリ)静かに首を縦に振るホームレス。

「えぇっ、こちらっ……17年前の阪神淡路大震災で家族を亡くしてしまった佐藤さんです」
ホームレスにカメラを向けるカメラマン。
「ぐすん、あの時の大震災はっ……本当に酷いものでっ……。みんな、みんな死んでしまいましたっ……」
打ち合わせの台本通り読み上げ、大袈裟に泣き真似をするホームレス。

ちなみにこのホームレスの家族は全員ピンピン生きている。

「いやー、いい絵が取れましたね」

ただ見てるだけの無関係な視聴者たちにとっては、映し出されてる、被災者『かも知れない』人物が『家族を亡くしていたら』感動するので、
これで視聴率を取れテレビ局はウハウハ。
家族が死んだ『らしい』人の不幸が見れて視聴者は楽しめる。
正に一石二鳥である。いや、ホームレスを金銭的に救済出来たので、三鳥か。

その時だった。

「うっ！？　なんだっ……！？　この揺れはっっ……！？」

その直後大震災が起こり、テレビクルーはガレキの下敷きになり、全員死んだ。

「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ヤラセホームレスも、死んだ。

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