frame_decoration

不思議の森


<3>

リリはテーブルに並ぶ残りの料理を順々に胃袋に収めていく。
すでにどのくらいの量がリリの胃に詰め込まれただろうか……?
胃壁が張っていくのを感じはするが、まだ満腹というには足りないような気もする。
それに、目の前にはまだご馳走があるのに、ここで止めるのはもったいないし、多少の苦しさがあるのは締め付ける服と帯のせいだとリリは思っていた。

食事を続けつつ、時折片手で膨れていくおなかを確認するようにやさしくさする動作が増えてきた頃にはテーブルに並ぶメイン料理も少なくなっていた。
そしてまた食べ終えたお皿を横へ寄せ、手元のジュースを飲み干す。

「……けふっ…」

小さく一息つきつつもまた一口ぱくんとその口に放り込む。。
帯は先ほどルーゼが緩く簡単に結んでくれたこともあって、現時点では特に問題はなかったが胃…おなかの張りが少々キツい……ような気もする。
自分でも驚くほど膨らみを増してパンパンに張っているおなかを少し苦しそうにさする、その様子に気付いたルーゼは、

「リリちゃん、そろそろデザートでもどうだい?」

「え!? デザートっ?」

今まで感じていたキツさなんて一瞬で吹き飛んだ様子で、

「食べるっ!」

そのキラキラした笑顔の答えに、ルーゼは笑いを堪えつつも執事にデザートを持ってくるよう指示する。

とりあえず手元にある残った料理の皿を空にして、運ばれてくるデザートを待つリリ。
大丈夫、甘いものは別腹だから!
そう言わんばかりにおなかをさすりつつ、その膨らみを邪魔しないよう少し帯を下へずらして余裕をもたせておくことにした。

やがて、その目の前に執事はキレイに盛り付けられたケーキやアイスの盛り合わせをまず置くと、また次々にテーブルへデザートのホールケーキやキレイにカットされたフルーツたちを並べていく。

「わーっ! すごぉいっ」

リリは今までの食事がなかったかのような反応を見せた。
……そのおなかの膨らみは変わらないのだが。

「遠慮せずどうぞ」

ニコニコと微笑んでルーゼが勧めると、リリは大きくうなずいてさっそく目の前の盛り合わせからいただくことにした。

スイーツは見た目も香りも味も華やかで、リリの大好物だ。
それが今自分のために用意されている…こんなにも。苦しいなんて言ってる場合ではない。
少しでも多く味わいたい、美味しいものでおなかを満たしたい……そういうことらしい。

口の中に広がる甘さ、酸味、少しの苦味、冷たさやまろやかさにうっとりとした表情で食べていき、煎れてもらった高級そうな温かい紅茶を時折啜りつつ……まさに至福のひとときを味わう。

盛り合わせに始まり、カットされたフルーツを摘みつつ切り分けてもらったケーキを一口ずつ幸せいっぱいの表情で食べ進めていくリリ。
だが……そろそろその胃の限界が近づいていた。

甘いものは別腹……それにも限度がある。
ふと食べる手を止め、両手でそのおなかをやさしくさすりつつ…リリは考えた。

こんな機会はもうないかもしれない。
この際おなかいっぱい、出来るだけ…限界まで食べておこう!

それからはペースが確実に落ちたものの、残ったスイーツたちを次々にテンポ良く口へ運ぶ。
最初こそ感じていた心地よい満腹感はだんだん圧迫感に変わっていく……。

――…やがて、その手は止まった。

口の中のものをぐっと紅茶で流し込み、限界の胃袋へと押し込んだ。
服や帯からの外的圧迫と、さらに大きく膨らもうとする胃とそれを包むおなかからの内的圧迫感。
喉元まで詰め込まれた感覚に加え、実際もう一口も…水分さえも入る余地のない限界に達した胃袋は、おなか全体に広がる場所を求めている。
だが、すでに大きく膨らんでいるおなかもさらに大きさを増したいのに、服と帯に締め付けられていてうまくいかない。

ずっしりと感じるおなかの重みが大量の食べ物を食べた…いや、詰め込んだ証。
自分でも把握しきれない量が詰まっているおなかをさすりつつ、しばし深呼吸……。
満腹感を通り越したあまりの圧迫感に息をするのもつらそうに見える。

当然と言えば当然だが、服は大きく膨らんだおなかの部分を収めきれずに残念なかんじになっており、締めていた帯はとっくに本来の位置よりはるか下でその長さが届く太さの位置で何となく結んでいるだけだ。
そのおなかをかろうじて支えるように、ぴっちりと締め付けていた。
あまりの苦しさに普通に座っていることも出来ずに、なんとか楽な姿勢をとるしかない。

その様子に心配そうに…だが、微かな笑みをうかべてルーゼがリリに近付いた。

「動けるかい?」

「ん…っ…今は無……げふぅっ…理ぃ…」

大きなおなかをさすり、苦しそうに答えるリリ。

「くすっ……大丈夫かい?」

ルーゼの問いに小さくうなずくが、その口からは『けふっ』と再び小さくげっぷが漏れる…。
大丈夫ではないことは誰が見ても明らかだった。

「くすくす…客室はもう用意させてある。僕が連れて行ってあげるよ」

そういってルーゼはリリを抱き上げた。

「……っ!?」

いきなりのお姫様抱っこにリリは驚くが、これ以外の移動方法はない。

「大丈夫かい? すこし我慢していてね」

ルーゼはリリに笑顔で声をかけた。
ずっしりとした重みをその両手に感じつつも、ルーゼには問題ない。
むしろ、こうなることが分かっていて勧めていた節があるのだから――。


最終更新:2011年09月15日 11:47