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不思議の森



<4>


用意してあった客室…その部屋はちょっとしたホテルのスィートルームのような立派な部屋だった。
ルーゼは恥ずかしそうにするリリを抱えたまま、そこにある大きなベッドにそのままリリをやさしく下ろす。

「あ…ありがとう……」

ベッドで仰向けのまま、顔を横へ向けリリはお礼を言う。

「いや、こちらこそ…楽しかったよ」

くすくすと笑うルーゼに、リリは恥ずかしさでかぁっとその頬を染めた。

「…おなかは大丈夫かい?」

やさしいルーゼの問いかけに、一瞬戸惑ったような表情を見せたが、

「…あ…あの……横向けになるの…手伝ってくれる?」

恥ずかしそうにリリは小声でルーゼに頼む。

「あぁ、そんなに大きなおなかで仰向けは苦しいよね」

改めて言われると恥ずかしさが増すのだが、苦しさを少しでも和らげるためにも早く横向きになりたかった。
上等なフカフカのベッド……リリはこんなベッドで寝たことはない。
出来ればこんな状態ではなく、ゆったりくつろぎたかったが……。

なんとかルーゼの手を借りて、左を下にするように横向きになる。
ルーゼは笑顔のまま、リリの背中に大きなフカフカ枕をクッション代わりに添えてくれた。

「これで大丈夫かい?」

「うん…ありがとう」

お礼を言って、改めて大きく一息を吐き出してその張り詰めたおなかを少し苦しそうにさする。

「その帯…苦しそうだね、外してあげるよ」

「え……っ」

確かに苦しい。ルーゼが部屋を出てから…そう思ってはいたが、実際自分で出来るかはあやしかった。

ルーゼは手際よく、リリのおなかをなんとか結んでいた帯を解くと…しゅるるっと引き抜く。
そして、締め付けていた幅の広い方の帯も徐々に緩めながら外してくれた。

二つの帯で締め付けられていたおなかは、ようやく広がる余地を見つけさらに膨らみをぐっと増したようだ。
さすがに服自体を脱がすようなことはしなかったので最低限の締め付けを残し、ピチッとおなか全体が丸く…だが硬く張り詰めているのが見て取れた。
膨らみの大きさから言って、臨月の妊婦といっても通用するかもしれない。
リリ自身の元からある脂肪も手伝ってより大きく見える。

「…これはすごいね……」

ルーゼがリリのおなかにやさしく手を当てると、一瞬リリはビクッとしたものの、息をすることすらつらい状態で拒否できるはずがなかった。
それを確認して、ルーゼは笑みをうかべると、そのままやさしくリリのおなかを撫でる。
明らかに限界まで張り詰めた様子でその存在感をアピールされ、ルーゼの笑顔に若干の苦笑が混じる。
あんなに…当然キロ単位の、あれだけの量がココに隙間無く詰め込まれている――それの事実が指先の感触からも伝わってくるように思えた。

「おなかはいっぱいになったかな?」

分かっているのに…意地悪そうに訊ねるルーゼに、リリはこくんとうなずいた。

「うん……もう食べられない…っ」

その言葉に満足そうに微笑んだルーゼ。
おそらく、食べられないのではなく入らないの間違いだとは思ったが追求する気は無い。
見た通りの事実なのだから。
当初の目的はきちんと果たせたようだし、こんな面白…いや可愛らしい姿まで見られたのだからこちらも大満足というものだ。

「……胃薬とかいるかい?」

一応、と訊ねてみるがリリはフルフルと首を振り、

「うぅん、大丈夫…」

少しでも楽になるのなら飲みたいが、残念ながらリリの胃袋にそんな余地はすでにない。
そんなことルーゼはお見通しではあったのだが。

「とりあえず、少し休むといい。この部屋は自由に使っていいからね」

そう言うと、ルーゼは優しくリリのおなか、続いて頭を撫でてから部屋を出て行った。

パタンと閉まるドアの音とともに、薄暗い照明の中で一人になったリリ――。

とりあえず、この締め付けからは解放されたい!

帯は外してもらったが、まだ服がしっかりと締め付けているのだ。
……着替えを頼めばよかったのかもしれないが、これ以上ルーゼに恥ずかしい姿を晒すのもお願いするのも気が引けた。
それに今のリリは一人で立ち上がることはもちろん、体を起こすことも無理そうだったから。

とにかく、おなかさえ楽になれば良いのだ。
何とか自分でもぞもぞと服の布を、そのおなかが顕わになる位置まで引っ張り上げた。

ようやく本来の膨らみを許されたおなかは、先程よりまた少し大きさを増しただろうか……?
それでも、少しだけ楽なったようで、リリは大きく一息ついて、そのおなかを満足そうにさする。
ズシッとくる重みと膨らみの限界や、キツさと苦しさを感じつつも大満足なのだから結果オーライだ。
念願の『おなかいっぱい美味しいものを食べる』は叶ったのだから。

さすがにおなか丸出しのまま寝るわけにもいかないので、薄い掛け布団を引っ張り上げて目を閉じる。
その上からしばらくおなかをさすっていればだんだんと眠くなってくるというもの。
満腹感…多少の圧迫感を感じつつも、おなかいっぱい詰め込んだたくさんのご馳走を思い出しながら……幸せな眠りの世界へ。

満足感と幸福感に満ちた寝顔でスヤスヤと眠るリリ。
規則的で安らかな寝息に、

「……ん…っ…げふうぅッ……」

そんな吐息が時折混じっていたことはここだけの話にしておこう――。


最終更新:2011年09月15日 11:46