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おやどり気分。


<プロローグ>

僕の名前は優司(ユウジ)。職業は大学生だ。
そして、僕の彼女は日菜子(ヒナコ)ちゃん。
同じ高校で知り合って、卒業をきっかけにつき合い始めた。
正式につき合い初めてまだ数週間だけど、僕にとってはかわいくて仕方がなくて……ついつい甘やかしてしまうんだ。
そう、今日のデートでも――

「優くんっ、あそこにあったクレープ屋さん行こ?」

待ち合わせて早々の申し出。
どうやら、ここへ来る途中に発見したらしい。
頭一つ分ほどの身長差もあるが……そんな瞳でお願い光線をキラキラ放ってくるのは反則、というより犯罪級だと思う。

日菜子ちゃんは、小柄で程良い丸みのある顔と体に、ほんわかとした可愛い顔立ちで本当に僕好みだ。
服装もその優しい雰囲気どおり、ふわふわした私服が良く似合っている。
それに加えて、時々見せる打算計算抜きの仕草は……正直、困ってしまうほどだった。
もちろん、今回のお願いだって断る理由もないので言われるままにそのクレープ屋に向かう。

小さなその店はテイクアウト専門で、よく見かけるような店構え。
ただ、そのクレープの種類は多彩だった。
店の前にあるメニューをじいぃぃぃっと見つめる日菜子ちゃん。
……どれにするか迷ってるのかな?

「迷ってるの全部買ってもいいよ?」

あまりにも真剣に選んでいる様子についついまた甘い言葉をかけてしまう。
別にどっちか二つとかなら、食べきれない分を自分が受け持てば問題ないし。
そんな僕を日菜子ちゃんはぱぁっと笑顔で見上げて、

「ホント!? じゃぁ、チョコバナナカスタードとストロベリーチョコとアップルシナモンカスタードねっ」

……二つじゃなくて三つだった。
まぁ、別にいいけどね。
幸い僕は金銭面での苦労も不自由もないが、一応バイトもしているので余裕がある。
デートの時くらい彼女のために使ってもいいじゃないか。

手渡されたクレープ三つと、アイスティーとアイスコーヒーを持って、店の前にあるベンチへ。

「どうぞ、日菜子ちゃん」

僕は自分のアイスコーヒーを取ってから日菜子ちゃんにクレープとアイスティーを差し出した。
日菜子ちゃんはまずストロベリーから食べることにしたようで、ぱくんと一口。
その瞬間から日菜子ちゃんの幸せいっぱいの笑顔タイムだ。

その表情を見れば美味しいのがよく分かる。
それを微笑ましく見守っていた僕に、ふと気づいたようで、

「…あ……優くんも食べる?」

そう言って食べかけのクレープを差し出すが、

「いや、大丈夫。日菜子ちゃんが食べたかったクレープだし、気にしないで食べて?」

「……そう?」

一瞬申し訳なさそうな表情をしたが、再度僕の顔…笑顔を見て、安心したように食べ始めた。

クレープは生クリームやらカスタードやらチョコやらフルーツやら…いろいろな物をあの薄い生地でくるくる巻いてあって、大きなアイスのコーンのような円錐形。
生地を食べるというより、その中身を楽しむモノなのか…は僕にはよく分からないが、甘いということだけは確実に分かる。
大きさ…高さ?は見た目20センチちょっとだろうか?
僕も甘いモノが苦手なわけではないが、さすがに三つは無理だと思う。
でも美味しそうに食べている日菜子ちゃんを見ていると、そんな感覚も分からなくなってくるんだけど。

それでも、三つともキレイに日菜子ちゃんはペロッと食べてしまった。
まぁ、嬉しそうだったからそれでいい。

とにかく、日菜子ちゃんは普段も可愛いのだが、食べてる時の笑顔は極上だった。
幸せそうなその顔を見たくて、欲しがるだけ食べたいだけ与えてあげたくなるんだ。
それがお互いの幸せなのだと思っている。
それに、日菜子ちゃんは食べっぷりもいい。
食べさせ甲斐があると、僕も嬉しい。

今日のデートもきっといつものように、みごとな食べっぷりをみせてくれるのだろう――…


最終更新:2011年09月28日 23:08