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おやどり気分。


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甘いクレープ三つを食べ終わったところで、日菜子ちゃんはアイスティーを飲みながら、

「優くん、今日はどこに行こっか?」

そう聞いてくる。
最近はデートの時、とりあえず何か食べてからその後を決めるのがお約束パターンになりつつあった。

今日は特に行き先を決めてなかった。
少し街を歩こうか、と僕たちは歩き出す。
確か、この先に大きい公園があったはずだ。
店を見ながら歩けば、そんなに距離がなくても楽しく時間を共有できそうだった。

「あ、あのお店新しいね」

そう言って日菜子ちゃんが指さした先は、いかにもアメリカンな感じのハンバーガーレストランだった。
よくあるチェーン店のようなジャンクなものではなく、ワンプレートに本格的なハンバーガーやサラダ、ポテトなどが乗っているようなメニューがメインの店。

「入ってみる?」

僕の言葉に日菜子ちゃんは笑顔で大きくうなずいた。

店に入ると昼時なこともあって混んではいたが、すぐに席に案内してもらえた。
テーブルに置いてあるメニューをみるとハンバーガーでもいろいろ種類がある。
どちらかというとビールなどが合うようなメニューが多いかもしれない。
だが、日菜子ちゃんはアルコールを飲まないし、僕も昼間から飲む趣味はなかった。
いや、まだ二人とも未成年だから、正確には飲めないのだが。

メニューをじぃぃいっと見ている日菜子ちゃんに、僕は再び、

「好きなもの頼んでいいよ?」

時間的にも調度いいし、僕もここで昼食をとることにした。
日菜子ちゃんにとっては先ほどのクレープなど昼食には関係ないだろうし、ここで昼食でいいだろう。
甘いモノを食べると塩辛いものがたべたくなる、と前にどこかで聞いたことがあるし。

僕ももう一つあったメニューを見て注文を考える……。
どのプレートも各ハンバーガーと付け合わせがメインだ。ハンバーガー自体アメリカナイズされた味付けと量だと推測される。
僕は無難にオーソドックスなハンバーガープレートとジンジャーエールを注文することにした。
そして、日菜子ちゃんはチーズハンバーガープレートとコーラを選んだ。

やがて僕たちの前に運ばれてきた料理に、僕はちょっと驚いた。

予想していたより、ボリュームがある。
バンズに挟まれた…いや、はみ出しているレタスと分厚いトマト、チーズに牛肉100%の大きなパティ。
直径も高さも明らかにビッグサイズだ。
ちなみにチーズバーガーの方はチーズが二枚挟まれていた。
そして、これでもかと盛られたフライドポテト。
ジンジャーエールもコーラも中ジョッキだった…。

それを見た日菜子ちゃんは嬉しそうな満面の笑顔で、

「すごいおいしそうっ、いただきまぁす!」

一応ナイフとフォークが用意されていたのでそれを使おうとしていたようだが…早々にあきらめて、添えてあったハンバーガー用の包み袋を使うことにしたようだ。
僕でさえ一口で食べるにはちょっと難しい高さ、厚みであるところを日菜子ちゃんは若干無理やり大きな口を開けてかぶりついた。
ほっぺに少しケチャップをつけつつ、口いっぱいに頬張る様子に僕も思わず笑顔になってしまう。

「おいしい?」

僕の問いに、もごもごしながらも日菜子ちゃんは幸せそうな笑顔でうなずいた。
そして、ごっくんと飲む込んでほっぺのケチャップと口元をおしぼりで拭き取ると、一瞬フォークに手を伸ばそうとしたが、そのまま手でフライドポテトを摘んでほくほくと食べる。
揚げたてで熱そうだが、やはり美味しそうな笑顔だ。

厚みのあるジューシーなパティがとても美味しいが、一つのプレートで結構ボリュームがあるので僕はそれで満足できた。
同じくらいに食べ終わった日菜子ちゃんはどうだろう……?
と思えば、日菜子ちゃんは再びメニューとにらめっこしていた。
……そして、

「ねぇ、このフライドチキン頼んでもいいかなぁ?」

……どうやら、これだけでは物足りなかったのかな?
もちろん、快く追加オーダーでフライドチキンを頼む。
そして、運ばれてきたフライドチキン…見た目は一つが少し大きめの唐揚げ…が山盛りに盛られたものだった。
僕も一つ食べたが、なかなかジューシーで食べごたえがある。
それを日菜子ちゃんはテンポ良く、マイペースに食べていく。

……本当に、あのクレープ三つの後、ボリューム満点のハンバーガープレートを食べたとは思えない食べっぷりだ。
僕より小さいその体のどこにそんなに入るんだろう、といつも思うのだが…収まるところは決まっている。

幸せ全開で食べている日菜子ちゃんの胸元…の下にちらっと視線を移すと、服であまり目立ってはいないが胃のあたりがふっくらとその存在を主張しはじめているようだった。
まぁ、当然なのだが。
…というか、そんな程度で済む量でもないとは思うが、まだまだ余裕そうな日菜子ちゃんを見れば不思議でもないか。

その証拠に山盛りだったチキンはキレイに皿から消え、日菜子ちゃんはにこやかに口元をお手拭きで拭いつつ、ごちそうさまをした。

「おいしかったね」

満面の笑みで言う日菜子ちゃん。
そういえば、いつも日菜子ちゃんは食事の時もその後も幸せそうな笑顔を見せてくれている。
僕もその笑顔を見て幸せを分けてもらっているのだ。
だが、いつもだったらデザートまでしっかり食べるはずなのにどうしたんだろう?
そんな僕の問いに、日菜子ちゃんは苦笑をうかべて、

「……ここのお店、デザート少ないから別のところで、ね?」

そうやや小声で答えた。
まぁ、それでも構わない。
本人が食べたいと思わないところを無理に勧める必要もないだろう。
別の店で好きなものを改めて食べれば良いだけの事だ。

だが……ふと、僕の中の何かが疼く。

どうやら今日の僕は、少し意地悪をしてみたくなっていた――。



最終更新:2011年09月20日 01:36