おやどり気分。
<2>
僕たちは店を出て、再び街を歩きながら公園に向かっていた。
街を歩いている時、食べ物系の店を日菜子ちゃんが密かに目で追うのを僕は良く知っている。
食事を済ませた後だし、食べ物系の店は敢えて意識しない僕が選ぶより、あくまでも本人の希望にあわせようと思っていた。
……僕はもう食べる気はないが。
「日菜子ちゃん、デザートは何がいい?」
僕が日菜子ちゃんの希望を聞くと、日菜子ちゃんは迷うことなく即答で、
「パフェとかがいいかなっ」
と笑顔で僕を見上げた。
……ならば、この食いしん坊万歳な日菜子ちゃんにぴったりな店にしよう。
僕は日菜子ちゃんの希望どおりの店を携帯で調べ、連れていくことにした。
僕が日菜子ちゃんを連れていった店は口コミで話題のフルーツパーラー。
ここはフルーツをメインに何でもボリュームのあるスイーツを提供してくれる店で、値段が高い分、味は抜群らしい。
店の前に飾ってあるディスプレイを見れば、その情報が嘘ではないと分かった。
味はまだ分からないが、どのメニューのスイーツもそのボリュームはかなりのものだ。
ケーキにしても通常サイズより一切れが大きいし、パフェの高さも30センチは軽くある……。
その大きさにちょっとびっくりしていた僕だったが、日菜子ちゃんはキラキラした瞳でそれをみつめていた。
話題の店ということで混んでいるようだったが、待つ間ディスプレイを見ていたら数分もしないうちに席に案内された。
席について、早速メニューを日菜子ちゃんに手渡す。
「さぁ、どうぞ」
笑顔で好きなモノを頼むように勧めた。
そして、食べたいメニューを好きなだけ頼んでいいと付け加える。
そんな僕の言葉を聞いた日菜子ちゃんが選んだモノは……
フルーツパフェ、プリンアラモード、チョコレートケーキにチーズケーキ
あのディスプレイのサイズを見た上でこれだけ頼むとは……さすがだ。
しかも、あくまで食後のデザートを食べにきたはずなのだが……?
ちょっと心配になってくる量であることには違いない。
だが、当の本人は食べる気満々だ。
見たところ胃のあたりの膨らみは確認できるが、まだ日菜子ちゃんは平気そうだし事実まだ余裕なのだろう。
その希望のまま注文し、ホットの紅茶とコーヒーを頼んで運ばれてくるのを待つことにした。
商品のサイズを心得ている店員さんはもちろん、本当に僕が全部注文したことに日菜子ちゃんも少し驚いていたようだ。
……さすがにこの量は止められると思ったのかな?
もちろん、止める気はなかったから注文したのだが。
――……何故って?
言葉は悪いが、日菜子ちゃんは食い意地がはっている。
そして、その食欲と同じように食べる量も常人を越えている、いわゆる、大食いな女の子だ。
付き合う前から知っていたことだし、デートを重ねるたびに僕はソレを温かく見守ってきたわけだが……
ふと、思ったんだ。
――…思う存分、限界まで食べさせてみたい
僕は一度も日菜子ちゃんが限界まで食べたところってのを見たことがなかった。
言い換えれば、満足そうな様子は見るが、苦しそうな様子を見たことがない。
いつもおなかを空かせているような日菜子ちゃんに、純粋におなかいっぱい食べさせてあげたいという気持ちは以前からあった。
もちろん、日菜子ちゃんを敢えて苦しがらせたいわけではない。
大好きな日菜子ちゃんに、美味しいものをたくさん食べてもらいたい。
本当にそれだけの気持ちだったかは、自分でもまだよく分からなかった。
……少なくとも今の僕には。
そんなことを考えているうちに、テーブルに注文した品々が運ばれてきた。
日菜子ちゃんは嬉しそうに瞳を輝かせながら、行儀良くいただきますをして食べ始める。
まずはフルーツパフェから。
高さがある長いグラスにはフルーツ、生クリーム、スポンジ、アイスクリームが盛りだくさんだ。
それを崩さないように上手に食べていく。
もちろん、その表情は極上笑顔だ。
半分くらいの高さだけでも結構量があると思うのだが、日菜子ちゃんは笑顔のまま食べ終えた。
僕もコーヒーを飲みつつ、笑顔で見守る。
日菜子ちゃんは温かい紅茶で一息つくと、
「んー…次はぁ……」
と、チーズケーキを自分の前へ置いた。
ちらっと日菜子ちゃんのおなかを見ると、先程より確実に膨らんでいて服の上からでも分かるくらいだった。
それでも本人はあまり気にしていない様子で、あっという間に濃厚なチーズケーキを幸せそうな笑顔のまま完食した……のだが、
「…ふぅ……」
小さく息を吐いて、おなかのあたりを気にし始めた。
さすがにとりあえずは満腹になっただろうか?
日菜子ちゃんはその膨らんだおなかをそっとさすり……その可愛らしい口からは『けふっ』と小さく息が漏れた。
恥ずかしそうに口元を慌てて隠すようにする日菜子ちゃん。
ここは気付かなかったふりをしておくのが最良の対応だ。
僕が気付かなかったと思ったのか、気を取り直して日菜子ちゃんはプリンアラモードを食べることにしたようだ。
……てことは、満腹になった、ということではないのか。
なんだかちょっと残念な気持ちにもなったが、まぁいい。
日菜子ちゃんはペースを落とすことなく、大きなプリンとアイスクリームと生クリームとフルーツ…その盛りだくさんなプリンアラモードを食べていく。
美味しそうに食べる様子は何も変わっていない。
感想を聞いても『美味しいよ』と笑顔で返ってくるし。
それでも今までと違うのは、途中で紅茶を口にする回数が増えたくらいだろうか?
なんだかちょっと心配になってきたが、その心配は無駄だったことがすぐ分かった。
日菜子ちゃんはボリューム満点のプリンアラモードもキレイに完食して、最後にとっておいたチョコレートケーキを本日一番の笑顔で食べている……。
これだけ大量の甘いモノ連続でも最後のチョコレートケーキを味わっている様子に、僕は感心どころか尊敬すらしてしまっていた。
名残惜しそうにチョコレートケーキを完食し、ほっこりと紅茶を飲んでいる日菜子ちゃん。
さて……この後どうしようか。
日菜子ちゃんは満足そうに見えるが、限界どころか本当に満腹になったのかも分からない。
確かに目に見えて、日菜子ちゃんのおなかの膨らみが増しているのは分かるけど……。
ちょっと僕は考えてみた。
そして、日菜子ちゃんが紅茶を飲み終わったタイミングで、
「じゃぁ、行こうか」
と、店を出る。
僕の考えたデートプランはここからだ――。
最終更新:2011年09月28日 23:10