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ひなどり気分。


<3>

結局、すぐにウエストのあたりが気になり始めた。
もちろん、満腹になるどころか食欲のエンジンがかかってきた状態なのに、だ…。
さりげなく確認するようにおなかに手をやる。
……やっぱり、ワンピースのリボンがキツく締め付けるように、おなかのあたりがぴっちりとしてて苦しい。
目の前の料理はもうほとんど残ってないけど、食べたいと思っていたものはまだまだたくさんある…。

「日菜子ちゃん、そのワンピースのリボン調節できるんだよね? キツくない? 大丈夫?」

「え……っ」

優くんから悪気のない(?)言葉で心配され、ほっぺが熱くなるくらい恥ずかしくなった。
優くんの視線の先は……私のおなかだ。
改めて自分で見てみたが、確かにキツそうに見える。
リボンが何とかしてウエストやラインを保とうとしていて、デザインだけでなく本来のコルセットとしての役目を果たそうと必死なかんじだった。
これでは優くんに心配されてもおかしくはないかもしれない。

そのまま優くんに促されて、リボンの堅く結ばれた結び目を何とかほどいた瞬間、しゅるるっと格子に編まれたリボンが緩んで……私の感じていたキツさは急に楽になった。

「…ふぅ……」

ホッとしたかんじで一息ついた後、ちゃんとリボンを結ぶ。
明らかにさっきより蝶々結びのできる長さが結構短くなってるけど、結ばないわけにもいかない。
少し楽になったことで、どりあえず優くんが持ってきてくれた分は食べきることができた。

やっぱり美味しいモノは美味しいし、実際にまだ食べられるのだから出来ればもっと堪能したい……。
特に今までダイエットとかあんまり考えたことがなかったので、理性で食欲を抑えるってことがこんなにツラいとは思ってなかった。

「何か持ってこようか? それじゃ、足りないでしょ」

優くんは私が食べ終わるのと同時にまた席を立とうとするのをやわらかく断る。
確かに足りないけど…改めて言われちゃうと恥ずかしくなって顔が赤くなるのを隠すように、私は自分でデザートを取りに行くことにした。

どうせならもっと料理を楽しみたいが、我慢しないとね。
優くんが持ってきてくれるのは嬉しいけど、絶対またたくさん持ってきてくれることになるし…そうしたら私はそれをすべて食べるだろう。
正確には食べずにいられないし、食べたくなると思った。
途中に見える魅惑的な料理をあまり意識しないようにデザートエリアへ急ぐ……。
でもそこは料理エリアとは違う魅惑…ではなく誘惑が待っていた。

キラキラと輝くようなスイーツたちが目の前に広がっている――色鮮やかで、甘い匂いがエリアに漂っていた。
それでなくともデザートは別腹というか、満腹にもなっていないわけだから困る……。
本当は全種類制覇したいのに、この中から少しだけ選ぶのは難しい。

私は大好きなチョコレート系のスイーツを3つ、フルーツ系やチーズ系、タルト系を2つくらいずつ選んで、ついでにプリンやムース、ティラミス…それからアイスクリームをゲットしてフルーツを見に行く。
こういうところのスイーツは通常サイズより小さめで種類を多く食べれるようになっていて助かる……。
季節関係なく豊富な種類があってどれにするか迷うが…メロンとスイカとオレンジとパインとライチを少しずつ取って、席に戻ることにした。

席に戻ると、優くんが新たに料理を持ってきていて私を待っていた。

「よかったら、これも食べて良いよ」

そう言ってにっこり微笑んだ。
テーブルには、私がデザートエリアに夢中になっている間に持ってきてくれた料理が並んでいる……。
エビ蒸し餃子や小籠包、肉シュウマイ、肉まんに桃饅、ゴマ団子が入っている飲茶蒸籠を各1蒸籠ずつ。そしてカリカリの春巻き、サンドイッチやピザ、パエリアに…何故か天むす?の各料理を一皿ずつ。
あと、ちゃんと私の分の飲み物まで持ってきてくれていた。温かい紅茶とアイスジャスミンティーとコーラ…。

ま…まぁ、まだ食べてない料理だし、デザート食べるつもりだったけど…せっかく持ってきてくれたし……このくらいなら食べてもいいかな…?
すでに私の感覚はおかしくなってたんだと後から思うが…その時の私は完全に食欲に負けていた。

持ってきてくれた飲茶をジャスミンティーといっしょに美味しくいただく。あぁ…幸せかも。
――最初の決意は、もう頭から完全に消えていた。
キツくなりつつあるリボンを出来るだけ緩めて、空になったお皿を重ねていく――。
優くんが持ってきてくれた料理を食べ終えて、自分が持ってきたフルーツとスイーツも最後まで美味しく食べた。
もうワンピースのリボンは苦しいだけなので解いて取ってしまっていたのだが、全て食べ終えた時には服の上からも分かるくらい私のおなかはこの前みたいにパンパンに膨らんでいる。それに気付いた時にはもう遅かった……。
優くんにもばっちり見られてるし、結局食べ過ぎちゃったわけで…急に恥ずかしくなった。

「まだもう少し時間残ってるよ? デザート持ってこようか?」

「もういい…ッ、大丈夫」

「え? もういいの!??」

優くんは拍子抜けしたみたいに聞いてきたけど、私は出来るだけ笑顔でごちそうさまをした。
結局、優くんは最初に盛り付けた分とあとフルーツとかを食べただけだったみたい…。
本当に私を喜ばせるため、私に食べさせるためにココへ来た、ということなのかもしれない。
とっても嬉しいけど……なんだかすごく恥ずかしい結果になっちゃった。
優くんはもっと私に食べて欲しかったみたいだけど、私はもう食べれない。
おなかがいっぱいで、ということではなく…恥ずかしくて。
何より、おなかのあたりがぽっこりと膨らんでいるのを見られたくないし、服がキツいんだもの。

もうココにいても私には悲しいだけだし、私は優くんを急かすようにお店を出ることにした――。



最終更新:2011年10月14日 22:35