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ひなどり気分。


<エピローグ>

私は重たいおなかを抱えるようにヨロヨロしながらも、急いで玄関へ。
ドアを開けると、優くんが大きな箱が入った袋と大きいペットボトルが2本ほど入った袋を持って立っていた。
そして、外がもう暗くなり始めていたことに同時に気づいた……もうそんな時間だったのか。

「大丈夫? 日菜子ちゃん」

若干息の荒い私に、心配そうに言う優くん。
慌てて急いだのもあるが、その以前に食べ過ぎが原因なのだが、私は努めて明るく笑顔で答えた。

「うん、大丈夫だよ」

その答えを聞いて安心したように微笑んだ優くんの視線がふと下に移って……

「……もしかして、あのワンピースが原因だった?」

「え!?」

どうやら優くんは、今日買ったワンピースのせいで私があんまり食べれなかったのかと思ったようだ。
間違いではないけど……私は慌ててそれを否定した。
すると、優くんは口元にちょっと意地悪そうな笑みをうかべながら、

「…でもやっぱりあれだけじゃ食べたりなかったみたいだね?」

「!!」

その視線の先は私のおなかだ。
……別れた時よりかなり大きく膨らんでいることは一目瞭然。
あの後に私が何か大食いしたという証拠に他ならない。

「そ…それは……ッ」

「まぁ、いいよ。元気だったみたいで安心したよ」

私は立ってるのもちょっと辛かったけど、優くんの優しい笑顔に癒されつつそのまま立ち話をしていたのだが、話の成り行きで両親不在であることもあって優くんを自分の部屋に通すことになってしまった――。
ドアを開ける直前、私は暴飲暴食後の片づけをしていないことを思い出した…が、もう遅かった。

「……ふぅん…」

先に部屋へ一歩踏み込み、その様子を一目見た優くんの笑顔がまた意地悪そうなものに変わった気がした……。
もう私は何も言い訳できない。というか、言葉を見つけるのに必死になっていた。
それでもとりあえず、部屋に入って優くんに席をすすめてから簡単に食べた後のゴミたちをささっと片づける……と、そのゴミを見て、

「これ、日菜子ちゃんの…このおなかにみんな入っちゃったんだ?」

優くんは私を引き寄せて、ツンとおなかをつついた。

「僕…これ持ってきたんだけど」

そう言って、優くんは持ってきた袋を開けて中のモノをテーブルの上に置いた。
お茶とスポーツ飲料の2Lペットボトルを1本ずつと、ケーキの箱…中身はホールのチョコレートケーキだった――。

「こんなにおなかが膨らんでるし…もう入らないかなぁ……?」

「……っ」

私のおなかを撫でながら優くんは私をじっと見つめてきた。
……もしかして、食べろってこと??
え…無理無理無理…絶対無理だよ……ッ
食直後の苦しさは少し落ち着いてきてはいるけど、今私のおなかにはホールケーキも飲み物も入る余地なんてない。
固まったままでいた私に、

「せめて、味見しない?」

そう言って、優くんはにっこり微笑んでケーキといっしょに入れてきたらしいプラスチックの大きいフォークを私に差し出した。

「え……っと…」

正直食べれるかというよりは、この胃に詰め込めるのかという問題なのだが……私が困っていると、

「じゃぁ、僕が食べさせてあげるね」

フォークでそのままホールケーキを大きく一口分取って、私の口元へ…。

「はい、あ~ん」

「ん……」

ぱくん

「…どう? 美味しい?」

一口にしては多くてもごもごしてしまったが、元々大好きなチョコレートケーキだ……美味しい。
私は素直に頷いてから、苦しいながらもこくんと飲み込んだ。
それを見て、優くんは笑顔のまま次の一口分を取って私の口元へ……私が口を開けるのを待っている。

「はい♪」

断れない雰囲気でもあったけど、それ以前に私はうっかり条件反射的に口を開けてしまった。
そこへ再びチョコレートケーキが放り込まれ、一口目同様にもごもごしてはいたのだが……さすがに厳しい。
その一口分を飲み込むのにかなり時間がかかった。

「…ゆ…優くん…もぅむ…ぅぷ…無理だよぅ……」

先ほどは水分すら飲み込めないほどだった胃に、無理矢理にでもケーキ二口詰め込めたことに我ながら驚いたが、もう限界――。
これ以上は胃が…おなかが張り裂けるような気がした。
優くんも私の様子を見て三口目は諦めてくれたみたい……?

「わかった、じゃあ後で食べてね」

そう言って残りのケーキを箱にしまうと、

「ねぇ、日菜子ちゃん…そのおなか、触ってもいい?」

さっきも触ってたのに…改めて言われたその提案に私はほっぺが一気に熱くなった。

「そっと触るから……ね?」

お願いされ、私は仕方なく…小さく頷いた。
元より、普通に座ってもいられなかったんだけど、優くんに促されるように後に両手をついて体重を支えて大きなおなかを優くんに向ける――。

「…この前のおなかもすごかったけど、今はもっと大きく膨らんでて今にも破裂しそうだね」

その手で私のおなかを優しく撫でながら、顔を見て言う優くん…。
じっと見ないで…恥ずかしいよう……っ

「日菜子ちゃん…可愛いよ」

そう言って優くんはスッとそのままワンピースの裾へ手を……?

「え!? ちょ…っ…ちょっと待……」

焦る私に構わず、優くんはワンピースの裾を引き上げて…私のおなかを晒し、

「ほら、見てごらん?」

優くんは私に見えるように捲くった裾を押さえて、そのままもう片方の手で優しく触れる。

「くすっ…やっぱり随分張ってる……立派なおなかだね。結構食べた…いや、詰め込んだみたいだし?」

私の大きく丸いパンパンに張っているおなかを撫でながら、優くんは意地悪な微笑みを見せた。
その言葉は事実なんだけど、おなかを優くんに見せることも…それに触られることも、限界の満腹感を上回る恥ずかしさに思わず涙目になっちゃう私。

「白くてすべすべで…ふわっとしてたおなかが、こんなになっちゃうんだね」

そう言って優くんは私のおなか…硬く膨らんだ頂点あたりにチュッと軽くキスをすると、続けて私のほっぺにキスをし……

「この前よりちょっとふっくらしたかな、っと思ったけど…気のせいじゃないよね。たくさん食べるのクセになっちゃったんでしょ?」

「……ッ!!」

それ…って、私が太ったの気づかれてたってこと!?
本日一番ショ…ショックな言葉……に、私は固まった。
そんな私に、

「可愛いことには変わりないし、安心してね。たくさん食べても、それで太っても大丈夫。 僕、日菜子ちゃんの食べっぷりも大好きなんだ。それに……少し丸いくらいが好みだしね」

そう言って優くんはにっこりと微笑んだのだった…――。



最終更新:2011年10月16日 23:14