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うちの座敷わらし


<プロローグ>

座敷わらしの居る家は裕福になり、繁栄を約束される。

確かに、そうなのかもしれない。
元々実家が裕福であり、一人暮らしをしていても大学生の高貴(コウキ)には親からの仕送りは十分ある。
だが最近その金額が増えたのは、この…目の前の少女のおかげなのだろうか……?

「こーきっ、おかえりなさぁい!」

その少女の名は茉莉華(マツリカ)といった。
金色に近いクリクリした髪に、宝石のような青色のぱっちりした瞳に整った顔立ち。色白の肌に子供らしい体を若葉色のワンピースが包んでいる。
見た目には10歳前後の外人の女の子みたいだが――茉莉華はれっきとした妖(アヤカシ)なのだという。つまり、人間ではないらしい。

「……ただいま」

高貴の帰宅を心待ちにしていた茉莉華は満面の笑顔で玄関までトテトテ出迎える。
……いつものことだ。
甘えん坊というか甘え上手というか…けして悪い気はしない。
たとえ、その目的の半分が持って帰ってくるお土産だとしても。

「ほら、今日のリクエストはケーキだったよね?」

「ありがとうっ!!」

高貴が見せた大きなケーキの箱に茉莉華は大喜びでお礼を言う。
嬉しそうな茉莉華の頭を撫で、高貴は夕飯の支度のためにキッチンへ向かう。
その後ろを茉莉華はいつものようにトテトテとついてくる。

「今日は何作ってくれるの?」

「ん~…今日はオムライス…だけど、何ですでにそんなにおなかが膨れてるの?」

「あ……えっと…」

高貴の指摘に、茉莉華は自分のおなかを小さい手で隠そうと……したところで隠れるわけもない。

「家にある食料のストックがすぐ無くなるよ? せめて、ちょっとは加減してくれないかな…?」

「うぅ~~…だってぇ…」

「まぁ、いいよ。また買い足しておけばいいだけの話だしね」

そう、元から茉莉華のためにおやつを買い置きしてあるのだから問題はない。
それでも、夕飯前に一目でその膨らみが分かるくらいのおなかを見ると、からかいたくなるだけだ。
どうせ、これから作る夕飯も買ってきたケーキも問題なく平らげることになるんだし。
いつものように茉莉華をからかいながらも、高貴は手際よく料理を作っていく。
元々手先が器用だったことに加えて、食べさせ甲斐のある子がいれば自然と上手くなるものだ。

高貴が茉莉華と出会ったのは3ヶ月ほど前のこと。
妙な天然石屋で店主から紹介されたのだ。
店主いわく、茉莉華が高貴を気に入ったから、という理由で引き取ることになった。
もちろん断ったが、茉莉華が言って聞かず、高貴にくっついて離れなかったため…仕方が無くだが。
店主の説明では、茉莉華が高貴に危害を加えることはない、一緒に住むことで高貴には富と幸せが約束される…ということらしい。
まぁ、いってみれば『ざしきわらし』のような存在だという。とりあえず、人間ではないということは確かだ。

「…詳しいことは本人に聞いてって言ってたけど……」

高貴から小さくため息がもれる。
本人…茉莉華に聞いても非科学的で非常識な存在に、納得できる話を期待する方が難しい。
一応、疑問に思ったら聞いて確認してみることもあるが……ほとんどは“そういうもんなんだ”と無理矢理納得するしかなくなる。
相手は人間ではない。妖…時には妖怪と言われるような存在なのだから仕方がないのだ――。
それに、

「こーき! 早くごはんっごはんっ」

「はいはい…」

茉莉華に急かされつつ、高貴は考えるのを中断して料理に専念する。
いつもおなかを空かせていて、食欲に頭の中を占領されているような子に何を聞いても無駄…というもの。
ごはんを用意し、いっしょに食事をして、甘えてくる茉莉華に応える…それがここ3ヶ月、学校以外での高貴の生活だった。
不思議と悪い気はしない。むしろ可愛いと思っている。

「ていうか、茉莉華…ご飯食べれるの?」

「大丈夫だよっ、おやつとご飯は別だもん!」

「そう…まぁ、いいけどね」

本人の言ったとおり、高貴が用意した夕食を普通に…いや、それ以上に食べている。
小さい体のどこに…というか、すでにぷっくりと膨らんでいたおなかへ更に詰め込むような感じで心配になるのだが、今に始まったことではない。
もちろんおなかをこわすなんてこともないので問題はないか……。

大きなオムライスをパクパク美味しそうに食べている姿は微笑ましい。見てるこっちが幸せになる表情だ。
食べることが好きなんだな、と一目で分かる。
目の前で美味しそうにたくさん食べる子がいれば、作り甲斐があるというもの――
毎回料理を用意するのも、いっしょに食事するのも高貴にとっては楽しみになっていた。


最終更新:2011年12月10日 21:30