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うちの座敷わらし


<エピローグ>

高貴が台所から戻ると……茉莉華が苦しそうに横になっていた。

「おーい…大丈夫かぁ?」

声をかけるのは優しさ…といっていいかは微妙なところだが、

「う……ん…」

と弱々しく答えた。
正直、どう見ても大丈夫そうではないのだが。
さすがにやりすぎただろうか……と若干反省しつつ、とりあえずは茉莉華に枕代わりのクッションを渡す。

改めて見ると……茉莉華のおなかはビックリするほど立派だった。
よほど苦しかったのか、ワンピースの裾をめくるようにしておなかをさすっている茉莉華。

「……パンツ丸見えなんだけど?」

一応指摘はしたが、高貴としては丸見えの白いパンツより、その白いおなかの方がはるかに気になった。
茉莉華の小さな体には不釣り合いな大きなおなかは、今にも破裂しそうなほどの膨らみで……

「…まったく……」

高貴はそう呟きつつ、苦しそうな茉莉華のおなかを優しくいつものようにさすってやる――。
手や指先から伝わるのは全体的に硬く張りつめ、温かく感じる茉莉華のおなか。
苦しげに息をするたびに上下するが、あきらかに限界まで膨張した胃に圧迫されているようで呼吸は浅い。

「ふぅ…んぷっ……はぁ…っ」

言葉が出ないほど…見るからに食べ過ぎで苦しそうにしている茉莉華が……高貴には何だか可愛く見えて仕方がなかった。
これはしばらくこのまま動けないだろう。
下手に動かすのもまずそうだ。

「とりあえず…おなかいっぱいになったか?」

高貴の言葉に茉莉華は乱れる呼吸の中、小さく頷くのを確認して、

「だな、さすがにもう食べれないだろ…?」

その溜め息混じりの言葉には何か反論をしたそうだったが……事実、食べるどころか何かを飲み込むことも出来ないのは本人が一番実感している。

「うん…もぅ…く…くるしぃ…よぅ…おなか…はれつしちゃ…う…っ」

この苦しさをツラそうにやっとの思いで訴えると、高貴はやれやれといった様子で優しく茉莉華のおなか全体を撫でさすってやる。
……今までで一番の膨らみかもしれない。
茉莉華との生活の中で、何度となく茉莉華の満腹のおなかをさすってはきたが…こんなに大きく、硬く張り詰めたおなかは初めてだろう。
正直、ここまでとは思ってなかった。
この中にぎっしりと食べたモノが隙間無く詰め込まれているのが指先からも伝わってくる。
茉莉華の訴えどおり、今にも破裂してもおかしくなさそうなほどだ。
本人にとっては満腹の幸福感より、苦しさの方が強いだろう……。
これで少しは加減して食べるということを学んで欲しいところだ。

「だから、食べ過ぎるとこうなるんだよ…茉莉華?」

一応、釘を刺すように言う。

「……ちょ…ちょっとしたら平気だもん…っ」

精一杯の返事を返し、茉莉華は再び苦しそうな表情に戻る。
その強がりというか、食い意地の強さというか、いつもどおりというか……
そんな茉莉華に怒るでも呆れるでもなく、ただただ可愛いと思ってしまう。

「…ほんと、とんでもない座敷わらし……てか、フクの神だなぁ」

「???」

高貴の言葉の意味を分かりかねる様子の茉莉華に、にっこりと微笑み返す。
こんな日常は今までになく、楽しい…幸せなひととき。
妖怪だろうが、座敷わらしだろうが……高貴にとっては福か腹か…はともかく、フクの神なのだ。

座敷わらしの居る家は裕福になり、繁栄を約束される。

確かに、そうなのかもしれない。
少なくとも…ただただ平凡な日常が、この少女によって一変した。
経済的にというより、心の面では確実に……高貴にとって幸せな毎日がやってきたのだから。
それはとっても小さな幸せかもしれないが、とってもとっても幸せ――。


最終更新:2011年12月30日 20:56