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むちぱん。


今年の春に高校生になったばかりの桃香(モモカ)。
彼女は一つ…いや、二つの悩みを抱えていた。
それは――自分が人より大食いであること。そして、最近ソレによって肉付きが良くなってきてしまったこと……。
かといって、食べることが大好きで空腹が大嫌いな桃香に食べることを抑えるのは難しいことは自分が一番よく分かっている。
ただ、本人は気にしているがそれ程太っているわけではなく、張りのある健康的な美少女であることに変わりない。

そんな彼女に目をつけていた人物がいた。
その男はミツルという。三つ年上の…桃香の従兄妹だった。
桃香の食べっぷりは彼女が小さい頃からよく知っている。
それを見続けていた彼は、いつしか桃香自身にも…そして彼女の食べる姿にも好意を寄せていたのだ。
だが、彼の想いを若干天然な桃香が気付くこともなく…未だに『従兄妹のお兄ちゃん』であり、『仲の良い幼なじみ』だった。

桃香が高校生になり、その可愛さと魅力が高まって男子たちが目をつけ始めたことは、ミツルにとっては危機的状況だ。
天然な彼女のこと…『食べ物をくれる人=良い人』と思っている節がある。
それを利用されようものなら簡単に…自分以外の者に奪われるのも時間の問題だ!!

――ミツルは決心した。

桃香を仲の良い幼なじみではなく……自分の彼女にしよう、と。
そうと決まれば、作戦は簡単だ。
ミツルは得意の料理を桃香のために捧げればいい。
手料理以外にも飽食の日本で食べるものなんていくらでも手に入る。
桃香の大食い属性を知っているだけに、一番効果が期待できるし…何より、自分に桃香は警戒感もないしほぼ無防備だ。
もちろん、彼女を手に入れるための手段ではあるが、これを利用しない手はないはず。
言い方は悪いが、餌付け作戦決行するしかない。

大学生になったミツルは一人暮らしを始めていた。
そこに桃香もすでに何度か遊びにきている。
もちろん、桃香に変な意識はないので普通に遊びにきただけなのだが。
ミツルは作戦実行のため桃香を自宅に招待することにした。
もちろん、その時は手料理で迎えよう……胃袋を掴むのが一番だと何かで読んだ気もするし。
ミツルは料理本を見ながら作戦を考える…。
うちで手料理を振る舞うのも良いが、とりあえずは軽く街をデートしてみるのも悪くはない。二人きりでの外出は久しくしてないし。
何が一番自然で、より桃香の気をひけるか…ミツルの気持ちに気づいてもらえる???
――迷っている時間はない。
まずは会う約束をとりつけるところからだ。
ミツルはいつものようにごく普通にメールを送信したのだった。


 ◇ ◇ ◇


待ち合わせは桃香の学校の校門。
やがて、放課後の帰宅する生徒たちの中からキラキラした笑顔で桃香が手を振りながらミツルの元へ走ってきた。

「ごめんね、待った?」

桃香の申し訳なさそうな様子に、ミツルは笑顔で首を振り、

「大丈夫、行こうか」

「うん」

ミツルも一般的にはイケメン風に見えるし、桃香は普通に可愛い顔立ちで、色素が薄くお人形さんのよう……だが本人にはあまり自分の外見の良さに自覚がないようだった。
ミツルはカジュアルな私服、桃香は制服…セーラー服だが普通に考えて、彼氏彼女のカップルに見えるだろう。
ミツルはまず桃香を狙っている輩に自分の存在をアピールするためにも待ち合わせ場所を選んだのだ。
桃香はそんなこと気づくことも、考えることもなかったのだが。
とりあえずは作戦成功を確信して、ミツルは桃香を連れて街に出る。

ミツルは、はぐれないように…という名目の元、桃香の手をとり、そのまま手をつないで歩く。
桃香も何の疑いもない様子だ。
二人は桃香が以前行きたいと言った店に向かっていた。
こういう理由なら桃香を誘いやすかったというのもあるが、何よりミツルの作戦に有利だったからだ。
二人が訪れた店――そこは食べ放題メインのファミレスだった。
幼なじみでもあるミツルの前では何も気にすることなく桃香は食事を…大食いをするだろう。しかも場所は『食べ放題の店』なのだから、場所的にも自然な流れになるはずだ。
太ることを気にしてはいても食欲を抑えるのがどれほど難しいか知っている桃香を誘うのは若干大変だったが…“今日は解禁日でいいじゃない”“気にしてばっかりだとストレス溜まって逆効果”などのもっともらしい言葉を並べて桃香をその気にさせたのだった。

食欲解禁日と設定したからには、いつも我慢している…かどうかはともかく、しっかりガッツリたくさん食べたい――桃香は張り切っていた。
ミツルは一般的な胃袋の持ち主であるため頑張ったところで3人前くらいが良いところだろうが、本気を出した桃香はどのくらい食べるのだろう……?
ミツルも最近一緒に食事をすることが少なかったので興味があった。
記憶にある桃香の食事はだいたい普段から3人前位は軽く食べていたはず…今はどの位なのかは分からないが。
確か自宅のお茶碗も最後に見たときはすでに丼になっていたと思う……まぁ女子中高生が使う器ではない。
第一、桃香のような可愛らしい子が丼ご飯をお代わりしている様子なんて想像もしないだろう…。

ともかく、席に案内されると早速二人で料理を盛りに行く。
桃香は張り切っているだけに、各料理をこんもりと盛っている…が意外と器用なようで見た目的にはキレイに見える。ただし、山盛りの皿をテーブルに並べた様子は圧巻だった。見た感じ、軽く4人前はあるだろうか…一度目の盛りつけでこの張り切りぶりだ。

「……おい、本当に食べきれるのか?」

一応訊いてみたミツルに桃香は笑顔で、

「もちろん。それに、食べ放題でお残しはダメなんだよ?」

と得意げに答えられた。
この分ならまだ何度もおかわりしに行く気満々だろう。
まあ、本人が食べきれるというならそれでいい。
とりあえず、久しぶりに二人きりの食事なのだから楽しもう…ミツルはそう思って見守ることにした。

いただきますの直後から、料理を口いっぱいに味わいながら幸せそうな桃香。
一口の量が多いのですぐに山盛りだった料理が次々と消えていく…サラダもスープもステーキもパスタやピラフも。
普通に盛ってある料理をミツルが食べ終わる頃には、桃香の前にほとんど料理は残ってなかった。
そして再び二人で料理を取りに行く――。
桃香は先ほど食べた料理とは別の料理を選ぶようにして、また山盛りにした皿をテーブルに並べて席に着いた。

「……相変わらず、たくさん食うな…」

若干呆れるように呟いたミツルに、桃香はにこやかに食事を再開しつつ、

「だって、食べ放題なんだよ? せっかくなんだからたくさん食べたいでしょぅ?」

……確かに、間違ってはないのだが。
見た目的にも可愛い女子高生である桃香がこの量を食べるのは、普通驚くだろう。
心の準備があったミツルでさえ、目の前で実際に見て驚いているくらいなのだから。
そんなミツルに構うことなく、桃香は山盛りのカレーライスやハンバーグやフライなどをまた口いっぱいに頬張りつつ食事を楽しんでいる……。
その表情は幸せそのものだ。
――まったく、小さい体のどこに入るんだよ…。
ミツルがそう思うのは当然なのだが、実際に山盛りの料理たちは次々にテンポ良く桃香のおなかに収まっていくのだった。

食べ放題の時間制限は2時間。
それをフルに使って桃香は食べ放題を満喫するために、持ってきた料理を食べ終えて、当然のようにまたおかわりを取りに行く。
どうやら、3回目のおかわりは中華料理中心らしい。
ミツルにはもうついていけない量だが、桃香は相変わらず美味しそうに料理を口に運んでいる…。
ミツルの目算では、桃香はすでに9~10人前くらいは食べているはずだ。
さすがにテンポは落ち着いてきたようだが、食べる手は止まらない。
4回目のおかわりでここまでで気に入った料理を再び選んで、最後の5回目でデザート類に突入する。
デザートに至っては全種類制覇する……これも桃香にとっては当然なのだそうだ。

ぎりぎり120分をフルに使って食べ放題を楽しんだ桃香。
元を取るつもりがあるかどうかは別として、けして損はしていないだろう量を食べて店を出る。

「まさか、あんなに食べるとは思ってなかったよ…」

「え? まだ食べれるよ~」

桃香は大きく膨らんだおなかをさすりつつ笑顔で答えた。
元々の体型は標準的なのに、その腹部…胸の下からの膨らみは明らかにアンバランスで、制服でなければ妊婦さんにも見えるかもしれない。
その制服もかなりキツそうだが、なんとか収まっているようには見える。
当の本人は気にしている様子はないが。

「……なら、まだどっか行くか?」

「え! いいの?」

キラキラと期待を込められた瞳で見られては、頷くしかない。
そして、桃香の希望を訊いてみれば……

「いつも行くお店があるのっ」

というわけで、二人はその桃香行きつけの店へとやってきた。

「……で、これか」

「ここのお店、放課後によく来るんだ♪」

桃香は明るく言ったが…店は大盛りがデフォルトの有名店だった。
放課後によく来る、てことは本人にとっては夕食前のおやつ感覚なのかもしれない……。
通常料理からデザートまで、低価格で一般の倍以上の盛りで学生に優しい店…まさかそんなところに食べ放題後に来ることになるとは思っていなかったが、桃香が良いというのならミツルに文句はない。

「ご飯食べた後だから…やっぱりデザート的なものがいいかなぁ……」

そう言いながらも通常メニューとデザートメニューのページを行ったり来たりしている。
食べ放題でデザート全種類制覇したくせに…そう思ったが、

「…好きなの食べればいいんじゃないか?」

見かねて言葉をかけたミツル。
その言葉に、そうだよねという様子で通常メニューで手を止めてじっと選ぶ桃香。

……どうやら、素直にデザートのみという選択肢は消えたようだ。
桃香はメイン料理を選び、続けてデザートページを開き一通り見て注文する品を決定したようだった。
ミツルはとてもじゃないが料理を食べる余裕はない。
飲み物のみで十分なので、呼んだ店員に桃香の一通りの注文後、アイスコーヒーのみを注文したのだった。

「相変わらずミツルちゃんはあんまり食べないんだね?」

いや…俺は普通だと思ってるけどな……
桃香の感覚がおかしいだけだ、そう言いたかったが一応堪えた。
本日の桃香は食欲リミッターを解除されているので、おそらく普段抑えてきたであろう食欲が全開になっている。
見ている方が驚きと同時に胸焼けしそうな量を平気で平らげる様子は圧巻…というか、呆然としてしまうほどだった。
それでも桃香は平気そうに見える…表情的には。
ただ、その大量に食べたものが収まる先は桃香の胃であり、腹部なので…その部分はすでに驚くべき変化を見せていた。

そして、運ばれてきた料理……それはセットメニューらしく、和風ハンバーグに付け合わせ、ライス、スープとドリンク…なのだが、すべての大きさや盛りが通常の1.5~2倍に見えた。
ミツルが唖然とするのをお構いなしに、桃香はにこやかにいただきますをして食べ始めた――。

食べ放題でアレだけ食べたのに…桃香は変わらず美味しそうに食べている。
さすがに先程のようなペースではないが、確実に…しっかり味わっているのが分かる。
もう桃香が食欲大解放なのはいい、ミツルが気になるのは……桃香のおなかの方だった。
この店に入る前でさえ、あれだけ膨らんでいたのだ。
ここでまたこんなに食べて…詰め込んで平気でいられるのだろうか……?
だが、心配を通り越してどうなってしまうのかの興味の方が強くなっていた。

「桃、おなか大丈夫なのか…?」

「え? 大丈夫だよ? ……あ、でもスカートは…」

そう言って言葉を濁した桃香。
ミツルが覗き込むと、スカートのウエストは桃香のおなかの膨らみに完全に敗北し、ホックもファスナーも全開の状態になっていてとても閉まる状態ではない。
まぁ、先ほどの食べ放題の時点でホックは外していたようだが。
それに、セーラー服の裾もおなかを締め付けるようにぴっちりと張っているようで、そちらも脇のファスナーが今にもはちきれそうになっているようだった。

「でも大丈夫、まだ食べれるし。それに、セーター着ちゃえば分からないでしょ?」

……いや、分かるだろ。
そう言いたかったがミツルは言えなかった。


 ◇ ◇ ◇


結局、桃香は頼んだ定食をきれいに食べきって……今はデザートメニューとにらめっこしている――。
ただ、時折苦しそうにしているのが気にかかるが…デザートは別腹だからの一点張りだ。

セーラー服のファスナーの安否も気になるところだが、桃香はおなかの具合を確認しているのか…苦しさを紛らわせているのか、膨らんだ大きなおなかをさすりながらデザートを決めたようで、店員を呼ぶチャイムを押した。

「プリンパフェお願いしまぁす」

注文をして、メニューを片づけると残っているアイスティーを口にして一息つく。

「……大丈夫か?」

結構苦しそうに見えるんだけど?
という言葉を言わないまでも、視線は桃香のおなかに釘付けだ。

「ん? …大丈夫、大丈夫。これで終わりにするから」
そう言いながらおなかをさすり、その口元からは小さく「けふっ」と吐息が漏れる。
それでも、桃香は基本的に笑顔だ。
その笑顔の意味はミツルには理解しきれないが…。
もう満腹なのではないのか?
これで終わり…というより、もう無理なのでは??
そんなことを考えていた。

やがて、テーブルに運ばれてきたプリンパフェを見て、ミツルは唖然とした。
大きなプリンとアイスクリーム、生クリーム、果物とグラスの下にはコーンフレークで構成されたそれの大きさはやはり一般的なパフェの1.5倍はある。
これを食べるつもりなのか?
盛りの多さはこの店のこだわりなのだろうが、自分たちは…特に桃香はここに来る前に食べ放題を満喫してきたのに。
それでなくてもこの店の定食を完食した直後にこのパフェは結構キツそうだった。
それでも、パフェを目の前にキラキラした表情でスプーンを持つ桃香。

この量を食べ…いや、更に詰め込もうというのか?
すでに限界かと思われるその胃やおなかに??

……ミツルは心配というより、興味が出てきた。
これを完食した後、桃香は…そのおなかはどうなるんだ、と。
食欲リミッターを解除し、全開の状態で食べる桃香にどこか興奮を覚えていた……。
外見や性格が可愛いだけでなく、こんな特技を目の前で惜しみなく披露されて、今までも知っていたはずなのに更に桃香に興味と好意を抱いている自分に若干戸惑いつつも、桃香の食べっぷりを黙って見守ることにした。
桃香は嬉しそうにプリンをすくってその可愛らしい口に運んでいる。
それほど早いペースではないが、味わっているのはその幸せそうな表情からもよく分かった。
それを見る限りまだ余裕を感じさせるが、ミツルからは直接見えないが桃香の制服のすでに裾がめくれているのと同時にギチギチとファスナーが悲鳴を上げている。
さすがにキツかったのか、桃香は不意に手を止めて限界のファスナーを少し開けると……ジジジっと自然に開いていった。
少し楽になったようで桃香はラストスパートとばかりにパフェを堪能しつつ――完食した。

「はぁ~…美味しかった、ごちそうさまでしたっ」

と、満足そうな桃香。
その幸せな気分を満喫するように、大きく膨れ上がったおなかを両手でなでている…。
桃香のそのおなかをミツルはマジマジと見てみると、スカートのウエストは、当然のようにファスナーの限界まで開いているし、セーラー服のファスナーも中程まで開いてしまっている。裾も膨らみを隠しきれずに刷り上がり…白いおなかとおへそが見え隠れしていた。
もう食べ物が入るスペースがないほど丸々とパンパンに膨らんだおなかである。

「ん? そんなにじっと見ないでよっ」

ミツルの視線に気付いた桃香は急に我に返ったように恥ずかしがった。
そして持っていたセーターをもそもそと着込む。
――予想通り、セーターを上から着たところで隠れるような膨らみではない。
ただ、裾が長いので壊滅的なスカートウエストからファスナーの部分までは隠れているし、伸びるので締め付けるような心配はないか。

「…いいけど、動けるのか?」

「大丈夫だよ……もうちょっとすれば」

「……てことは今は無理なんだな」

若干呆れるように言ったミツルだが、幸いにも桃香の耳には届かなかったようで……桃香は苦しさを紛らわすように自分のおなかをさすっていた。
その様子を見ながら、

「いつもあんなに食べるのか?」

「え…そんなことないよ……?」

「なんだか嘘っぽいな。まぁ…あんなに毎回食べてたら食費はかかるし、そのスタイルでいられるわけがないか」

「そぅ…そうだよっ」

最近自分の体型を気にし始めていた桃香は動揺を隠すように答えた。
少なくても今日は食欲解禁日と決めたわけだし…と桃香は自分に言い聞かせる。

「…ダイエットばかり考えてたら逆効果、てミツルちゃんも言ってたし……」

そんな小さな呟きが聞こえてしまったが……敢えて何も言うまい。
いくら解禁日としても、ダイエットしてる人間が食べていい量をはるかに超えているし。
何より、そんな矛盾したところが可愛く思えたからだ。
ダイエットを気にしてるくせに、全力で食べてしまうようなところは桃香を昔から知っているだけに予想通りだった。
でも、そこが可愛い。
ミツルとしては満足のいくデートになった。

「――さて、そろそろ動けるか?」

「え…うん、大丈夫」

話を切り替えるためにも店を出よう、ミツルの出した最良の答えだ。
桃香も大丈夫そうなのでそのまま2人は店を出る。
それでも、歩ける…というより動ける、という状態の桃香を気遣いつつもどうも危なっかしい。

「…はぁ……ふぅ…けふっ…はぁ…」

大きなおなかを抱えるように歩く桃香。
さすがに食べすぎたのだろう。明らかにおなかが重そうだ。
まぁ……それも、ミツルにとっては好都合だ。

「桃、ここからなら俺の部屋近いし……少し休んでいくか?」

下心は隠していたが、桃香は何も疑う様子もなく素直に頷いた。
よっぽど、この状態がキツイのかもしれないが、本人の承諾は簡単に得られたので結果オーライ。
だが、このまま歩かせるのも気が引けて、タクシーで部屋に向うことにしたのだった。

◇ ◇ ◇

ミツルの部屋に着くと、桃香はソファーに座ったまま動けない様子だ。
移動中も苦しそうにそのおなかをさすっていたし……。
そんな桃香を気にしつつ、ミツルはお茶を煎れてテーブルへ置く。

「あ…ありがと」

ちゃんと座り直してお茶をすする桃香。
ふと、目に入ったのは部屋の隅に置かれたダンボール箱。
桃香の視線に気付いたミツルの脳裏に一つの考えが浮かんだ。

「…あぁ、アレ…実家から送られてきたんだよ」

「仕送り?」

「まぁね。どうもリンゴをたくさん買ったおすそ分けみたいだけど…大量に送られてきて困ってたんだ。今、剥いてくるよ」

そう言って桃香の答えを待たず、ミツルはダンボールから持てるだけリンゴを持って台所へ。
すばやく洗い、シャリシャリと皮を剥いて、大きな皿に大量のリンゴを盛ってくるとそのまま桃香の前に置いた。

「良かったら食べて」

「…え……あ…うん」

とてもリンゴが入るスペースなんて今の桃香のおなかにあるはずがない。
そんなことは分かっていて、ミツルは敢えてこれだけたくさんのリンゴを剥いてきたのだ。

「ほら、うさぎリンゴにしてみたよ」

「あ、ほんとだ!」

そんな小技も忘れない…日頃の料理の腕はダテではないのだ。
少なくとも5~6個は剥いたので、皿には山盛りのうさぎリンゴでいっぱいだった。
しかも、ミツル自身は一切れ二切れくらいしか食べる気は無い。
最初から桃香に食べさせる気だった。
目の前に出されれば桃香の食欲は刺激されることは学習済み。
セーターを着ているのでどんな状態かは詳しく分からないが、確実に桃香のおなかはパンパンの状態だろう。
そんなことはミツルだって分かっている。
だからこそ見たい…直に感じてみたい――そんな気持ちでいっぱいだった。

「あ、そうだ…アップルパイも焼いたんだった」

最初から桃香を部屋に連れてくるつもりで昨夜のうちに焼いたアップルパイもすばやく持ってくる。
サクサクとしたパイを6等分に目の前で切り分け、皿に取り分けると桃香の前へ置く。

「はい、どうぞ」

そう言ってミツルはにこやかに微笑んだ。
戸惑う桃香…だが、目の前に大量のリンゴと美味しそうなアップルパイを出されては……

「ん、じゃぁ…いただきます」

そう言って差し出されたフォークを受け取った。
若干不安そうに桃香は自分のおなかをさすりつつ、まずは可愛らしいうさぎリンゴを一口。
しゃくっと良い音を立てながら味わってからコクッと飲み込むと、

「…うん、甘くて美味しいねっ」

「そう、良かった」

嬉しそうな満面の笑顔に、ミツルも笑顔で答える。
あの状態からどこまで食べられるのかは分からないが、今目の前で嬉しそうに食べている様子からすると……まだ入りそうだ。
どちらにしても、セーターの下の腹部が気になるところではある。
すでにあれだけ張っていたんだ、時間だってそう経ってない。
さっきまで苦しそうにしていた……それなのに、

「ミツルちゃん、ごはんだけじゃなくてお菓子も作れるんだねっ」

と、笑顔だ。
やはり目の前に出されると弱いのだろうか…それとも、まだ限界ではなかっただけなのだろうか。
ミツルは驚きと興味を隠しつつ、黙って見守ることにした。
――が、二つほどうさぎリンゴとアップルパイを一皿食べ切って、三つ目のうさぎリンゴを一口かじった辺りから桃香の手が止まった?
そして、二口目はお茶で流し込むようにして飲み込み……一旦フォークを置いた。

「ふぅ…美味しいけど…けぷっ……やっぱりもうおなかいっぱいかも……っ」

それはそうだろう。
いや、それでも驚異的ではある。
だが……ミツルとしては少々物足りなかった。
苦しげに大きなおなかをさする桃香に、

「ん? でも、もう少し食べれるんじゃない?」

そう言って、桃香が置いたフォークをミツルは手に取り、桃香の口元に持っていく……

「はい、あーん?」

「え??」

予想外のミツルの行動に戸惑う桃香。
でも、口元に差し出されたリンゴを……しゃくっと一口、時間は少々かかったが問題なくコクッと飲み込んだ。

「ほら、まだ食べれるじゃない」

クスクスと笑うミツル。
桃香も自分で驚いている様子だったが、実際に飲み込めたので……まだ食べれたんだ、そんな気分になった。

「じゃぁ、もう一口な……はい、あーん」

「…ん」

ぱくん

大きめな一切れがこれで全て桃香の口に、そして胃袋に収まった。
飲み込んだ後、またお茶をすする……が、これが桃香の胃の隙間すべてを埋め尽くすことになる。
桃香がそれに気付いた時には少々遅かった。
桃香が感じたのは…急激に感じた満腹感と腹部への圧迫感だった――。

 ◇ ◇ ◇

たった一切れのリンゴにこんなにツライ思いもするとは……
と桃香は思ったが、ココまで食べてきたモノをよくよく考えれば当然の結果だ。
満腹…というには随分とツライ。
胃には食べたモノが微塵の隙間なく詰め込まれ、腹部全体が今にも破裂しそうなほどにパンパンに張り詰めている。
当然、すでにセーターで隠せるはずもない。

「はぁ…ふぅ…んっ…けぷ…」

肺が圧迫されているのか、息をするだけで精一杯だ。
元々普通に座れる状態ではなかったが、確実に今は無理だ。
後ろに手をついて、少しでも楽になるように…苦しげにそのおなかをさすっている。
その様子にミツルも満足そうな笑みを見せつつ、

「…満足した? おなかいっぱいになったか?」

「え…? う…うん…」

満腹というより、限界で…頷くのがやっとといった感じ。
それが余計にミツルを何かを刺激した。

「あぁ~あ、こんなに立派なおなかになっちゃって……」

そっと近づき……桃香のおなかに触れる。

「ちょ…っ!?」

桃香は当然焦るが特別嫌がる素振りもなく、避けられるような様子もない――ただ、動けないだけかもしれないが。
もちろん、ミツルはそのまま桃香のおなかの膨らみを確認するように撫でながら、

「今更恥ずかしいもないんじゃない?」

「……っ!!」

桃香の頬が真っ赤に染まる。
今更…意識したとも言えないまま、赤面するしかない。

「セーターもぴっちりしてるし、どうせ制服もキツいんだろ、脱いじゃってもかまわないよ?」

「や…やだよ…っ」

そんなこと出来るわけもない。
いくら従兄妹で幼なじみだといっても、ミツルは男で……その前で服を脱ぐなんて…さすがに抵抗がある。

「でも、苦しそうだし…そのままじゃキツいんじゃないか?」

ミツルの言葉は真実だ。
桃香自身は一刻も早く全部脱ぎ捨てて、このキツさから解放されたい――。
そっとミツルを見上げると、桃香に拒否権がないのが分かった。
桃香は覚悟を決めるように溜め息をつきつつ、まずセーターの裾をめくるように上げる。
続けて、セーラー服もめくろうとするが、脇のファスナーが全開になっているにも関わらず、おなかをキツく締め付けていてなかなか上がらない……。

「……手伝ってやろうか?」

片手では無理だと判断したミツルの申し出に……渋々小さく頷いた。
その様子に満足そうな笑みを小さく口元にうかべつつ、ミツルは桃香の食い込むような制服の裾を少しずつ上げていく。

「っく……ん……っ」

膨らみの頂点に差し掛かるあたりで、苦しさに表情を歪ませる桃香。
このままでは裾もおなかの膨らみが邪魔でうまく持ち上がらない。ミツルは一旦手を止め、

「桃、もう少しおなかへこませないと無理だぞ?」

その言葉に、桃香は顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうに、

「わ…わかってる……やってるもんっ」

これでへこませてると言われても説得力がないのだが。
それでも、改めておなかに力を入れるようにする……が、ごくわずかにひっこんだくらいで見た目ではそう大差ない。
ミツルは仕方なさそうに小さく溜め息をつきつつも、少しずつ食い込み気味の裾を上へ持ち上げていった。

やっとの思いで裾を胸の下あたりまで持ち上げると、桃香の白いおなかが丸出しになった。
あとはスカートを下げればいい。
少し下げればいいだけ、というか、すでにそうなっていたというべきか。
こちらはファスナーが全開になった時点でお尻で引っかかっているだけの状態だったのだが、それでも締め付ける様子なら、太股のあたりまで引き下ろせばいいだけのことだ。

というわけで、桃香のおなかは完全に無防備な状態で晒け出されてしまった――。

苦しさから完全に解放されたわけではないが、だいぶ楽にはなった。
……羞恥と引き替えに。

「……なぁ、桃は誰にでもこんな姿見せてるのか?」

桃香を見つめながら、ミツルは不意に問いかけた。

「え?」

「これだけ大食いして…こんなに大きく膨らんだおなかを……食べ過ぎて苦しそうにしてるその姿を…――誰にでも見せてるの?」

その質問は嫉妬が隠されているが、表情は意地悪なモノに見えた。

「そっ…そんなわけな……っ」

「じゃぁ、なんで俺の前では見せてくれたの?」

「そ…それは……っ」

頬を染め、言葉に詰まった桃香。
結果的に…でも、相手がミツルだから出来たことだと気づかされた。

「なぁ、俺…従兄妹とか幼なじみとか関係なく、前から桃香のこと好きだったんだ。もちろん、今も」

「え!?」

「桃のこんな姿を誰にも見せたくないくらいに、な」

「……ミツルちゃ…ん?」

思っても見なかったミツルの告白に驚く桃香。
だが、ミツルはそのまま…桃香のおなかを撫でながら言葉を続けた。

「俺は…桃のこのおなかを……他の男…誰にもふれさせたくない」

ふと、手を止めて桃香をじっと見つめる――。

「俺の彼女にしたい――だめか?」

その眼差しがあまりにも真剣で、

「……だ…だめじゃ…ない…よ」

桃香は軽く首を降ってから、改めてミツルを見つめ返すと、

「あ…私も……ミツルちゃんにしか…こんなところ見せてないもん…っ」

恥ずかしさに自分の顔が熱くなってるのが分かる。
だが、桃香の中ではもう答えは決まっていた。

「わ…私もミツルちゃんのこと……好き…っ」

絞り出すような小声ではあったが、その言葉(コタエ)にミツルは満足そうに…そしてホッとしたように微笑んだ。

「俺の彼女になったからには、いつでも好きなだけ食わせてやるから安心しろ?」

「……う…うん」

ミツルに微笑みながら頭を優しく撫でられ、桃香は若干の不安を感じつつも素直に頷く。
こうして、無事ミツルの望みどおりに交際がスタートしたのだった――。


>>To Be Continued ……?

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本文・皆桐上総/挿絵・クマネコさま
2012.2.15
最終更新:2012年02月15日 11:00
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