■ クリングステルスストリング -田中れいな- ■
疾走する田中の足に、何かが触れた。
油断。
田中自身は、そう思うのだろう。
油断した。
きっと、そう判断する。
また、油断しとった!
しかし、警戒などできようものか?
『無い』はずのものを。
そこには何も『無かった』のだから。
足が、地面から離れる。
空中で、もがく。
転倒。
身動きが、取れない。
硬く、細く、それでいて弾力のある、何か。
一本ではない。
それは次々と田中に絡みつき…
「げっ!なん?」
これは俗にテグスと呼ばれる物だ。
ナイロン製、その太さも1mm以上はあるか。
大型の魚を釣り上げても、びくともしないその糸が、
山道の両脇、木と木の間、何条も張り渡されていた。
全力疾走していたとはいえ、そして、すでに日の暮れかける山道とはいえ、
こんな太い糸を田中が見逃すだろうか。
「って!なんこれ?くっつきよう!きもい!」
手に、足に、次々と糸が絡み、張り付いてくる。
糸の感触は、さらりとしたものだ。
接着剤のようなものが塗布されているわけではない。
にもかかわらず、まるで、磁石に吸い寄せられるかのごとく、
田中にへばりつき、はがせない。
もがけばもがくほど、新たに糸に触れる面積が増え、ますます糸に絡まっていく。
「くっそ!とれん!この!」
思い切り暴れる。
ガキさんとこまであとちょっと!あとほんのちょっとなのに!
「あははーひっかかったー」
ほんの一秒前まで、そこには誰もいなかった。
「ウッホウッホ!」
その声は、田中の真正面から聞こえた。
油断。
きっと田中は、そう判断するのだろう。
油断した。
きっと、そう判断する。
妨害者は、
「まだほかにもおったんか!」
一人とは限らない。
『馬』にはまだ、仲間がいたのだ。
投稿日:2014/12/11(木) 19:06:51.70 0
最終更新:2014年12月12日 04:31