■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■
らせん階段。
巨大な、巨大な、らせん階段。
中央の支柱をくりぬく資材用エレベーターは、
生物が載ることを許さぬ構造となっていた。
殺菌と粉塵除去…
低温と低酸素…
その『実験室』の、主のもとにたどり着くには、
この階段を、降りていくしかない。
中澤裕子は、いつもそうしていた。
それが、この女に会うための、儀式か何かであるように…
やー中澤さん、おひさしぶりです…
「最近、定例に出てこんな…」
いろいろいそがしくて…
「それがこれ、か」
ええ、まあ…
「セルシウスを動かしたんは、お前やな」
ふふっ…
「勝手は困る…『あれ』の確実な回収…それが至上命題や。
お前の横やりのせいで、余計な犠牲が増えた。
…この責任、どう取るつもりや。」
責任?もちろん…私の責任は、いつでも、いくらでも、とりますが…
もし、矢口さんや保田さんのことをおっしゃっているのなら…
それは自業自得というものです…
「…なんやと」
何も知らずに首を突っ込むのが悪い…
『横やり』というのであれば、そもそも私の実験の邪魔をしてきたのは、
矢口さんですからね…中澤さんもおっしゃったはず…
…すべて、私に一任する、と…
「来たるべき時のため、『あれ』を完全に組織の制御下に置く…
その為の権限は与えた。
だが、それだけや。
その為のあの子らであり…そのための実験だけや…
『あれ』の制御どころか、回収すらできん状態で、
勝手にあの子らを殺すことまで許可した覚えはない」
ご期待通り、『あの人』には鎖をつけてあげたじゃないですか…
私は私の責任は果たしていると考えますが?
「その鎖が制御できとらんというのでは、元も子もない。
あの子らは生き残ったが…『あれ』の回収は失敗…
それで責任を果たしとると?」
…何をおっしゃるかと思えば…『あの人』の回収など…
もう、どうでもよいではないですか…
「なに?」
あの子たちにも『夢』は必要でしょう、と、言う事です…
「何が言いたい?何を言っとる?」
障害が大きければ大きいほど、『夢』への渇望は強固なものに…
もはや、あの子たちは、どんな犠牲を払っても、その『夢』を諦められない…
引き返せない…
あんなに失ったんですもの…あんなに失って、ここで諦められるわけがない…
たとえ、この先もっと…何倍も何倍も…失うとしても…
…『夢』とは、そういう『呪い』ですよ…
あの子たちの『夢』にとって、『A』の覚醒は、夢のとん挫を意味することになる…
…ふふふ…もう、放っておいても勝手に、あの子たちは、
こちらの意図したとおりに動いてくれます…
「ばかな…お前は、あの子らを捨てた…
セルシウスまで使って…お前は失敗した!
これでどうやって『あれ』を使うんや?
もう…時間は残されておらんのやぞ!」
先日、あの子たちから連絡が来ました、と、言ったらどうです?…
「なん、やと?」
取引したい、だそうです…ふふふ…
ふふふふふ…
…良い子たちでしょう?
ふふふ…なんてすばらしい!
特にあの子!
私も!惚れ惚れするほどの!
完璧な!合理主義!
あんなにだましても!友人を二人殺しても!
地下深くに捨て去っても!それでもちゃあんと!戻ってくるんです!
しっぽをふって!
ははは!傑作!はらわたが煮えくり返っていることでしょうに!
今すぐ私を!八つ裂きにしたいでしょうに!
それなのに!微笑みすら浮かべて!
命の恩人で!全ての元凶で!
友のかたきで!裏切り者の!
この私!
この私に!まだ!利用価値があると!
ふふふ…ふふふふふふ…
私は取引に応じましたよ…
あの子たちの要求を す べ て 、飲みました…
だぁって…それは!私自身、一度『やってみたかった』ことだったんですもの!
あははは!
いやもう本当に!
思わず!この手で抱きしめたくなります!
『直接会えないのが!本当に残念!』
中澤さん!私たちは何も失いませんよ!すべてが私の!思い通りだ!
あはははは!あははははは!あはははははは!
投稿日:2015/02/14(土) 02:57:01.92 0
最終更新:2015年02月18日 13:00