月明かりに照らされた大通りから一本外れた小道に影が三つ
二つの陰、小柄な女性とそれよりも少し背の高いショートカットの少女
そして、その小柄の女性の左手を常に握ってぶらぶらとあたかも行進するかのように歩く少女
「それで、あゆみんなんて言ったと思います~?『まあちゃんは、子供だから』
3つしか違わないのに、そんなこと言われたくないです」
「アハハ、石田らしいっちゃね」
「・・・」
楽しそうな二人をみて、工藤はなぜだか苛立たしを感じた
(なにさ、まあちゃん、田中さんが来ると、田中さん、田中さんってなってさ
はるだって、色々田中さんにせっかくだから訊きたいことあるっていうのにさ)
「・・・・あ!!」
突然、佐藤の足がピタッと止まり、真面目な顔で田中の真正面に立った
「タナサタン!!」
「まあちゃん、どうしたの?もしかして敵襲?」
千里眼で周囲を見渡しながら、身構える工藤
「まさ、おなかすいた」
膝から崩れ落ちる工藤と腹を抱えて笑い出す田中
「アハハハ・・・ほんと、佐藤は天然っちゃね。でもそうやね、もうこんな時間やん」
携帯に映し出された電子時計の光で顔が照らされる
「れーなもちょっと食べようかな、工藤もおなかすいとう?」
「え、そ、そうですね、はるも少しおなかすいてます」
本当は空腹なのだが、自分はそうでもないと取り繕う工藤
「それなら、コンビニ行こっか」
「ヤッホータイ」
「なんかいな、それ」
「イシシシシ」
コンビニでおでんを買った三人は偶然見つけた公園と名の付いた広場のベンチに横になって座った
当然のように田中が真ん中である
プラスティックのふたを開けた途端に広がる白い湯気とこぼれる白い息
「おいしそーまさ、がんも食べる」
「こら、佐藤、れーなが食べたいって思ったけん、買ったと!!」
「え~じゃあ、たなさたんとわけわけする~」
「もうしかたなかとね」
割りばしでいびつに二つにわけようとしたが、ふと田中は考え直し、みっつにわけた
「ほら、工藤も食べると」
「え・・・」
「イシシ、美味しいよ~きっと」
ゆっくりと口元に運んで、かじりつく、甘みが広がる
一口一口でオーバーリアクションをする佐藤、それをみて笑う田中、適当に相槌をうつ工藤
「これも食べてください」と食べかけのおでんを田中に差しだし、田中は「ほんとやね」と優しく答える
工藤が「はるにもちょうだい」というと佐藤は「はい、DOどぅにゆでタマゴ」と食べたくないものを差し出す
「なんで、はるにはまあちゃんのおすすめくれないの!」
「だって、まさとたなさたんで食べたんだもん」
「答えになってない」
「ほらほら二人とも、まだおでんはあるっちゃ。仲良く食べるとよ」
まるで仲の良い姉妹のように寒空の下、暖かな夜食は進む
しかし、当然というか、必然というか、佐藤は事件を起こす
「あああああ」
おでんの汁をこぼしてしまったのだ
「何してんのまあちゃん」
「うう、ぬるくて気持ち悪いよ」
「ほら、佐藤、ハンカチ貸してあげるなら、洗っておいで」
ハンカチの臭いをクンクンと嗅ぎながら、は~い、と言って佐藤は立ち上がり、消えた
どこに向かったのかはわからないのだが、跳んだのだ
「まったく、佐藤はちょっとお手洗いに行くだけでいいのに、わざわざ力、使わんくてもええやろ
工藤もそう思うっちゃろ?」
しらたきを口に運びながら、田中があきれながら工藤に問いかける
「は、はい、はるもそう思います
まあちゃんはいいヤツだけど、なんていうんでしょうか、ものすごく気分屋ですからね」
「アハハ、そうっちゃね。でも、それが佐藤らしさやん」
「・・・でも、それでいいんですかね?
まあちゃんは本当にムラがあるんですし、何を考えているのかわからないときがはるにもあるんです
友達として一緒に遊ぶには楽しいんですけど」
「それでもええっちゃろ?仲間であるまえに友達っちゃろ?」
今度は昆布を食べ始める
「でもリゾナンターです!!まあちゃんが何をかんがえているのかわからないと困る時もあるんです
このまえもまあちゃんが道重さんの作戦を無視して一人で勝手に行動して・・・
結果的には作戦は成功しましたよ。でも、まあちゃん、怪我して帰ってきて、なんといったと思います
『みにしげさ~ん、まさ、すっごいがんばったからほめてください』、ですよ
協調性に欠けているんですよ」
「ふ~ん」
「あれだけ自由にやっているのに、道重さんは怒りもしないで『うん、よく頑張ったね』って笑顔で傷を治したんですよ!!
そうかと思えば、全く動こうともしないときもあって、この前全員集合なのに来なかったんです
どうして来なかったの?って聞いたら、『まさ、忙しかった』の一点張りですよ
理由きいてもぜんっぜん教えてくれないんです
あ、ごめんなさい、田中さんにまあちゃんへの愚痴を聞かせてしまって」
何かを考えるように田中は宙を見つめ、そしてぷっと吹き出し笑い始めた
突然笑い出した田中を見て、工藤は茫然としてしまう
「アハハハハハ・・・」
「な、なんで笑っているんですか!」
「いや~工藤、可愛いなって思って、それに佐藤のこと大好きっちゃね」
「! な、何言ってるんですか!!」
もう暗くなっているので田中には見えなかったが工藤は耳まで真っ赤だった
ただ、「工藤、真っ赤になっとるやろ」と笑いながら言った
「そ、そんなことないですよ」と必死に指定しながらも、早口になる
「工藤は昔から恥ずかしがりやし、隠さんでもいいやろ?」
「う・・・
で、でも田中さんもまあちゃんのそういうところ、どうにかするべきだと思いませんか?
リゾナンターとしてチームプレーは必要ですし、あのムラさえなければまあちゃんはもっと強くなると思うんです」
「でも、それって佐藤らしさなくなるやろ?
佐藤の魅力って常識にとらわれない自由奔放なところだし、真面目やったられーな、佐藤を好きになれんと思う」
「で、でも、チームの一員としては」
「チーム、チームって別にそこまで考えんくてもいいっちゃない?
れーなのときにも自由な子おったわけやし。それでも、問題なかったけん、気にする必要はなかよ」
「・・・」
「それより、佐藤をあーだこーだ言ってるけど、れーなからしたら工藤にもそれは言えることあるとよ」
工藤は田中の目をまじまじと見つめなおした
「れーなからみると工藤は起こりうることを予想している、そうっちゃろ?」
「も、もちろんです」
「でも、その想定している範囲が未熟っちゃね
具体的にいうと、工藤は工藤が「できること」の範囲の中でしか自分を見ていない、そうれーなには見えると
佐藤が、佐藤が、っていっとったけど、それは佐藤の動きを読まなきゃならんって考えとうわけやろ
もう全てを把握していたいんじゃないのかな、工藤は」
そんなことはない、と言い返そうとしたが、返す勇気が出なかった
「佐藤なら、もしかしたら言うこと聞いてくれるかもしれんよ
でも、それをダークネスが、はい、そうですね、それはフェアではありません、やめましょう、なんていうと思うと?
ありえんやろ?想定外、想定外、想定外しかおきんよ」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「ん?別にれーなはそれがいいとか悪いとかはいっておらんよ
愛佳みたく未来が見えるわけでも、愛ちゃんがガキさんみたいに頭がキレるわけでもないけん
それにリンリンみたいに技術があるわけでもないし、やれることって限られとう」
腕を頭の上に組んで月を見上げ、「まー、れーなの場合は出たとこ勝負っちゃね」とつぶやいた
「・・・最初ははるが、はるなんやあゆみん、まあちゃんを引っ張る気でいたんです
でも気づけば、みんなはるの前にいるようになって
自信はあるんですよ、はるが一番だって!絶対負けないって
ただそうはならないことが不安なんですよ。はるは田中さんみたいに強くないから」
「別にれーなは強くなかとよ。泣きたい時だってあるし、逃げたいときだってあると
でも、そんな自分を後から思い返したら悔しいけん、逃げんようにしとるだけっちゃ
後悔しない、今の自分でできることをする、それだけでいいっちゃない?
・・・ま、れーなにはわからんけど、工藤の自信の大きさなんて」
ベンチに横になるれいな
「れーなはみんなにこうすればいいとか教えられんよ、元々一人やったし
ただ、考えすぎないように、自分の限界とか決めないようにはしてるとよ
工藤ももう少し考えるのをやめてみたらいいっちゃない?」
「・・・」
千里眼―すべての真理を見抜く力、だからこそ工藤は全てを理解しようとしていたのかもしれない
違うのかもしれない。工藤自身にもわからないが、田中の言葉は工藤の奥深くにすっと入ってきた
工藤もベンチに横になる
「田中さん」
「ん?」
「月、綺麗ですね」
「ニシシ、なんや工藤乙女みたいなこと言っとうとね」
そこにビューンと現れる、元気娘
「あ~たなさたんとDOどぅ寝てる!!まさも入る!!」
間に割り込もうと大声を上げた
「ちょ、まあちゃん、やめてよ」
「ずるいよ、たなさたんの隣はまさのものなの」
子供の喧嘩はいつでも始まる
「・・・でも、確かに工藤の言うことも一理あるっちゃね
よしっ。佐藤」
「はい、たなさたん」
「うわっ」
ベンチをがたがた揺らすのを急に辞めたので工藤は落ちそうになる
「なんですか?あ、これ、はんかちです。まさ、返しますね」
「はい、どうも。佐藤、さっきどこまで跳んだと?」
「う~ん、おうちの洗面所です」
「そこの手洗い場じゃだめかいな?」
「え~しっかりと着替えしたかったんだもん。たなさたんからもらった服着てるってみせたかったもん」
佐藤の頭をなでまわす
「うんうん、れーなのお古使っとうとね。服も喜んでるっちゃね」
「イヒヒヒ・・・」
「だけど、佐藤、ただ少し濡れただけやろ?それでわざわざ家まで跳ぶとか、疲れるやろ?
着替えやなくて、少しだけハンカチできれいにするだけでいいっちゃない?」
「たなさたんに服みせたかったんだもん」
頬を膨らませ、やや不満げな表情を浮かべる
「もちろん、れーなもうれしいっちゃけど、すぐに能力を使ってまででもすることではなかとよ
それよりもれーなは佐藤と少しでも長く話せるようにすぐに帰ってきてほしかったと
そのためには着替えるんやなくて、ちょっとの水で洗い流す、でよかとよ」
「たなさたんはまさと一緒にいてくれるの?」
「あたりまえやん、れーなは佐藤が大好きとよ、もちろん、工藤も
やけん、佐藤にはもっと自分の考えだけで決めるんやなくて、周りをみてほしいと」
「周り?誰もいませんよ」
「アハハハ、まあ、すぐにわからんくてもいいっちゃよ」
首をかしげ考えようとしたがすぐに諦め、田中に佐藤は抱き付いた
「わかんないけどわかった!!たなさたん、まさと一緒にいてください」
「・・・まあちゃん、足、足」
「足?」
「・・・はるの足踏んでる」
ごめん、といって足を上げる佐藤
「こういうことですか?」
「アハハ、うんうん、まずはこういうことからかいな」
田中はまた笑い始めた
楽しそうな田中を見て、佐藤も笑った、工藤もつられて笑った
「アハハハ」「イヒヒヒ」「ハハハ」
笑い声の三重奏、闇に包まれた周囲なのにその部分は明るく輝いて見えたことだろう
しばらくして笑いつかれたのだろう田中が立ち上がった
「ふぅ、疲れた、じゃあ、佐藤、工藤、帰るよ!」
「はい!」「え~やだ」
「ほら、もう遅いし、明日のこともあるっちゃろ。学校を寝坊させるわけにはいかんとよ
さあ、二人とも帰るよ」
「「は~い」」
★★★★★★
誰かが呼んでる、私の名前を
あなたはだれ?
・・・
長い黒髪をなびかせ、彼女は大声で私を呼んでる
あなたはだれ?
・・・
声は聴こえないけど、間違いなく私の名前を呼んでる
あなたはだれ?
私は・・・だれだっけ?
投稿日:2015/02/15(日) 09:39:31.42 0
最終更新:2015年02月18日 13:08