(1)
あーしにはMの養成所時代に友達がおった。
ガキさん、あさ美ちゃん、麻琴。そして・・・
飛行機の中で愛は眠っていた。
「愛ちゃん。」
里沙に起こされて、愛は目をこすった。
「うーん、もう着いたんか?」
「あと、10分足らずでね。それにしても愛ちゃん、よく眠ってたね。」
「懐かしい夢を見とったやよ。養成所時代の。」
「懐かしいわね。あの時はみんなよく遊んで。ねぇ、そういえば彼女とは連絡がついたの?」
「いや、まったく音沙汰なし。養成所を離れてからかなりたっとるから。今はどこにいるのか。」
この日、高橋愛と新垣里沙はMフランス支部で完成したあるものを見るためにフランスを訪れていた。本来は保田が見に行く予定だったのが、風邪をこじらせてしまい同行するはずだった麻琴もその看病をするために行けなくなったのでふたりに白羽の矢が立ったのだ。
「それにしても何をフランスで作ってたんやろ?」
「さぁね、極秘中の極秘みたいだからね。本当なら私たちだって見られる立場じゃなかったんだから。」
フランスについた早々、ふたりはMフランス支部の職員に連れられて、フランス支部に到着した。
「この地下にM秘密ドックがあります。」
専用エレベータに乗り、ふたりは地下に降りた。
「「うわー!」」
そこには巨大な空母が入れられていた。大きさはアメリカの空母・ニミッツの三倍はある。
さらにはジェットエンジンのようなものまで装備している。
「やぁ、来たな。おふたりさん。」
ドッグの方から男が声をかけてきた。
「阿久博士。」
声をかけてきたのは警視庁科学技術局の局長・阿久悠博士。
ロボット工学の権威である。Mの科学顧問でもあり、リゾナンターとは面識があった。
「どうしてここに?」
「いや、この空母の装備について知恵を借りたいと言われたのでね。出張してわざわざ開発を手伝っていたのだ。
保田君は来られなくて残念だったが、君たちにも見せる価値はあっただろう?」
里沙は戦隊オタクのためか今にも乗り出しそうな勢いだった。
「博士、この空母いったい何なんですか!」
「Mの巨大戦闘空母。その名もU・フロントだ。」
「U・フロント。」
「うむ、兵員輸送だけでなく、この空母一隻だけでの戦闘も可能にした。現代の大和だよ。
君たちも宇宙戦艦ヤマトぐらいは知っているだろう。あの空母には巨大なジェットエンジンを装備している。巨艦だがスピードは早い。
さらにビーム砲や戦闘機の巨大ハッチ。そしてわたしが一番貢献したのが、これだ!」
そこには人間より少し大きなロボットのようなものがたくさん並んでいた。
「あれはU・フロントファイタースーツだ。この空母の装備のひとつだ。特殊装甲で機関銃を喰らっても傷つかない。
ウェポンラックにはマシンガンだけでなく、小型ミサイルも装備している。
小型ジェットエンジンも装着しているから空も飛べる。」
「あれは人が着るんですか?」
「ああ、戦闘機以上の小回りを生かした特殊戦闘用の装備だ。どうだ、すごいだろ!」
博士は説明を終えて、優越感に浸っていた。
「それで博士、私たちは何を。」
「今日はこのU・フロントの試乗をすることになってな。君たちにはそれに同行してもらい、レポートを書いてもらう。」
「「えー!聞いてない(やよ)!」
「おや、ボスにはちゃんと伝えたんだがな。」
ふたりの脳裏に日本を発つ前にあったボスの言葉がよみがえる。
“まぁ楽なもんやから、観光気分で行ってきいや”
「あの猫!」
愛が毒づいた。
「まぁ、そんな堅苦しいものではないから。気楽にやってくれ。さぁ乗り込むぞ。」
三人はU・フロントの司令室に到着した。
「ふたりとも紹介しよう。U・フロントの艦長のフィリップだ。」
「メルシー。そろそろ出発するぞ。」
U・フロントは発進準備に入った。
まずはジェットエンジンを入れない状態での通常航行に入った。
「U・フロント、発進!」
その頃、地中海では・・・
「石川さん、レーダーが目標を捕えました。」
「いいわ、絵梨香。全艦隊に出撃命令を伝えて。」
「了解!」
地中海には粛清人Rこと石川梨華が率いるダークネス艦隊がU・フロントの出撃を今かと待ち構えていた。
「この間はミティや矢口に手柄を持っていかれたけど今度は私がMに引導を渡してやるわ。
唯、あいつと一緒に戦闘機の出撃準備をしてちょうだい!」
ダークネス司令艦・戦闘機ハッチ内
「りょうか―い。あんさん、出撃準備しまっせ。」
Rの部下・岡田唯に呼ばれた女はずっと小さな女の子がふたり映っている写真を眺めていた。
「あんた、聞いてますの!」
「わかってるよ!」
唯に呼ばれて、女は写真をふところにしまった。
(2)
突如、異変が起きた。
「艦長、前方に正体不明の艦隊が接近!」
「何!フランス海軍じゃないのか!」
「いえ、現在フランス軍の艦隊がいるとの報告はありません!」
U・フロントを狙うといったらおのずと敵はわかる。
「ダークネスか!総員、戦闘配置につけ!」
艦内に警報が鳴らされた。
「博士、どうしましょう。」
さすがのリゾナンターのふたりも艦隊との戦いなど経験がない。
「心配するな。現代科学の粋を集めた空母がそう簡単にはやられない。」
「Mの空母を確認、射程に入りました。」
「いいわ、全艦砲撃開始!」
ダークネス艦隊の砲が火を噴いた。
「敵艦隊からの砲撃きます!」
「ジェットエンジン起動。緊急回避!」
すぐにエンジンがうなりを挙げ、砲弾の嵐をかいくぐった。
「すごい、あれだけの砲弾をすべて回避したわ。」
「あれは予知能力による回避行動だ。」
「えっ?」
「ここの船員のほとんどは能力者だ。戦闘配置につくことでそれぞれの能力を展開して、臨機応変に戦いをするんだ。
今のは予知能力で捕えた映像をU・フロントが認識して自動回避したんだ。まさに最新技術と能力を融合させた空母なんだ。」
「全弾、回避されました。」
「仕方ないわね。チャフ・スモークミサイル発射。」
ダークネス艦隊から発射されたミサイルから電子機器を狂わせるチャフと視界を遮るスモークがだされた。
「艦長、レーダーが使えなくなりました。」
「船のコントロールは!」
「手動で動かせます。」
「よし!」
フィリップ艦長の目が光った。
「もしかして、あの艦長も能力者なんか?」
「彼は超視力の持ち主だ。どんな状況でも任意のものをとらえることができる。」
「敵艦隊は以前、前方にある。レーザー砲用意。」
「艦長、チャフの影響でロックオンシステムが不調!」
「私が位置を言う。その通りに攻撃せよ。」
するとフィリップ艦長は次々と位置を指示した。
「よし、撃て!」
発射されたレーザーはダークネス艦隊にダメージを与えた。
第一艦、第二艦がレーザーで損傷。」
「唯、あなたたちの出番よ。」
「よっしゃー、行きまっせ。」
ダークネス艦隊は小型戦闘機を出動させた。
「敵艦隊より、小型戦闘機の機影を確認。」
チャフの影響がなくなり、レーダーが回復したようだ。
「われらも迎撃、戦闘機部隊出動!」
U・フロントからも戦闘機が出撃した。
「ああ、あーしらもなんかできないんか!」
「無茶いわないの。」
「そうや、博士。あのファイタースーツはもう配備してるんですか?」
「ああ、もちろんしている。どうするつもりだ。」
「あれを着て、あの戦闘機たちを撃ち落とす!」
愛はそういうと走り出した。
「ちょっと、愛ちゃん!」
里沙は追いかけたが、愛は瞬間移動でファイタースーツが置いてあるところまで行ってしまった。
「もう、まいっちゃうよ。」
愛はすでにファイタースーツの前にいた。
「でも、どう動かせばいいんやろ。」
「高橋君、聞こえるかね。」
「博士!」
「止めても聞かないだろうから、それの操縦法を教えよう。
簡単だ、君の頭とシンクロして、スーツが自動的にフィットするようになっている。起動も君が動かしたいと思ったら勝手に動く。」
「わかりました!」
愛がスーツに乗り込み念じるとスーツは自動的にフィットして、起動した。
「おお、すごいな。よし、高橋愛行きます。」
ジェットエンジンを起動して、愛は飛び出した。
一方、ダークネス戦闘機群は少しずつU・フロント側をおしていた。
「どうや、うちらのテクニックはまだMには負けへんで。」
するとレーダー上に戦闘機と違う機影をとらえた。
「なんや?」
愛はスーツの小回りが利くのを生かして、次々と戦闘機を機関銃やミサイルで落としていった。何度か機関銃が命中したが、強化装甲が守ってくれている。
(よーし、この調子で艦隊の方も)
「なんや?あんなもんうちが落としたる!」
唯が愛の方に向かおうとすると、無線が入った。
「あいつは私がやる。」
一機の戦闘機が愛の方に向かってくる。愛は相手のあまりの早さに回避行動をとった。
「くらえ!」
愛は小型ミサイルを撃った。しかし相手の戦闘機もミサイルで応戦し、そして機関銃で愛のジェットエンジンの中を正確に打ち抜いた。
「うわー!」
飛行能力を失い、愛はまっさかさまに落ちていった。
(3)
「愛ちゃん、応答して。愛ちゃん!」
里沙が無線で愛を呼び続けた。
「大丈夫やよ、ガキさん。」
「よかった。」
里沙はほっと胸をなでおろした。
「地面に叩きつけられる前に瞬間移動で木に逃げたから助かったやよ。でも、スーツがおしゃかになったやざ。」
「今すぐに助けにいきたいけど、こっちはまだ戦闘が終わってないの。そっちの位置はわかっているから愛ちゃん、そこを動かないで。」
「わかったやよ。」
念のため愛はデバイスを起動させ、戦闘服を装着した。
すると人の気配がした。愛は懐の銃を抜き、身を潜めた。
人影はゆっくりと歩いてる。愛は相手の背後を突くために瞬間移動を使い、銃を向けた。
「動かないで!」
人影は止まった。
「久しぶりの再会なのに、銃を向けるのはひどいんじゃないの?愛?」
愛の聞き覚えのある声だった。そして人影はゆっくり振り向いた。
「優樹菜。」
そこにいたのは愛の養成所時代の友人・木下優樹菜だった。
「優樹菜どうして、ここに?」
愛が銃をおろしたのを見て、優樹菜は一気に近づいて銃を奪い、愛を投げ飛ばした。
「いっつもそう、愛は甘いから優樹菜に負ける。」
優樹菜は銃を分解して、森に投げた。
「どういうつもりや!」
「どういうつもりって、さっき愛を撃ち落としたのは優樹菜なんだよね。」
「えっ、それってまさか!」
「そう、優樹菜はダークネスに雇われたの。」
愛に衝撃がはしった。
「嘘や、あんなに正義感が強かった優樹菜がダークネスの味方になるはずがない!」
「ふん、愛。だから甘いって言ってるんだよ。この世の中ではダークネスが一概に悪とは言えないんだよ。」
「どういう意味?」
「無駄話は好きじゃないのは知ってるだろう。あんたの命もらうよ。」
優樹菜は愛に蹴りかかってきた。瞬間移動で回避するが、すぐに距離を詰めて右ストレートを決めようとする。
愛はすぐに左腕で防御しようとするが、
右ストレートが決まる前に愛の腹に左ストレートが決まった。
それにより愛の防御に使うはずだった右腕がぶれて顔に右ストレートも決まった。
愛はダブルパンチで地面に倒れた。
「昔よりは強くなったみたいだけど、喧嘩ではまだ負けないよ。」
そうだ、優樹菜は昔から短気で喧嘩をよくしていた。しかしその分、喧嘩には負けたことがなかった。
その実力はおそらくれいなが戦っても勝てるかどうかわからない。
「優樹菜、二発喰らわせたぐらいで勝った気でいるんか?」
「頑固なところは今も相変わらずだね。もっと叩きのめさないと駄目か。」
今度は愛の方から仕掛けた。とび蹴りで優樹菜の顔を狙ったが、優樹菜の両腕のガードに阻まれた。続けて、上空からパンチを喰らわせようとするが優樹菜につかまれて、近くの大木に体を叩きつけられた。
そのまま、愛を殴りつけようと優樹菜がパンチしてきたのをとっさに体を下にずらして避けた。そして優樹菜の腹にパンチを喰らわせた。
「くっ、やっぱそうこなくちゃ面白くないよ。」
殴りかかった優樹菜をよけて、そのまま回し蹴りを喰らわせたが優樹菜はひるむことなく襲いかかった。
ガシッ!
優樹菜の両手を愛も両手で押さえた。
ゴツン!
優樹菜が頭突きを喰らわせた。愛の額から血が流れた。
愛は身軽になるために戦闘服のジャケットを脱ぎ、銃のホルスターも投げ捨てた。
優樹菜は連続で蹴りを入れてきた。愛も応戦しようとするが、いかんせん愛の身長や足は優樹菜より短い。スキをうかがうしかない。
少しずつ蹴りを喰らいながらもチャンスをうかがった。そして、優樹菜が少し足を滑らせた。
(今や!)
愛は根心のパンチを優樹菜の顔にヒットさせた。優樹菜は地面に倒れて動かない。
(勝った!)
愛は捨てたジャケットとホルスターを拾おうとしたが・・・
「はははは、いいパンチだったよ、愛。でも忘れた?優樹菜の能力を。」
まるで何事もなかったかのように優樹菜は立っていた。
「私は光を吸収することで体力もスタミナも回復するんだよ。」
(そうだ、優樹菜は何度やられても光さえあれば立ち上がれるんやった。)
「悲しいな、友達の能力も忘れてたなんて。幻滅しちゃうよ、愛。」
そう言うと優貴菜はいきなり愛の腕をつかみ、肘打ちで・・・
ボキッ!
「ああー!」
愛の右腕が折れた。あまりの痛さにもだえ苦しむ。
さらに優樹菜は愛を蹴りあげた。
「そろそろ、かたをつけるよ。向こうの戦局も気になるしね。」
(利き腕が使えない。このままじゃあかん。どうすれば・・・)
その時、かつてれいなが言っていたことを思い出す。
“どんなに強くてもあるところに一撃加えてしまえば、どんな奴でも倒せるとよ。“
(れいな、あんたの言葉信じるやよ。)
優樹菜が近づいた。もうチャンスは一度きりだ。
(今や!)
愛は根心のとび蹴りで優樹菜の顎を蹴りあげた。
優樹菜はそのまま地面に倒れた。
「やってくれるじゃないか。顎を強打して、動けなくなっちまった。うちの能力でももう立てないよ。」
「前に仲間から聞いたことがある。顎を強く打つとどんな奴でも倒れてしまうって。」
「なら、そいつかなり喧嘩し慣れているな。一度、やりやってみたい。」
「そうやの、優樹菜といい勝負になるで。」
「優樹菜、どうしてあんたダークネスなんかに。」
「優樹菜は養成所を抜けた後、別の組織の部隊に入った。
でも、そこではいたずらに民族紛争やテロを誘発させて、世界各国の軍需を潤すことを目的としていた。
最初はそんなことを知らず、単に人のためになることをしていると思ってた。でも、違っていた。連中は表では平和のためなんて言ってるけど。
裏では争いを起こさせて利益を得てるんだ。そんなやつらを私は許せなかった。そんなとき、優樹菜の組織がダークネスと戦闘になった。」
“どう、私たちの組織に入ってみない。“
「粛清人Rに叩きのめされた優樹菜は生かされて、腐った今の世界を潰すために働かないかって。」
「それでダークネスに入ったんか。」
優樹菜は静かにうなずいた。
「でも、それでもいかんよ。ダークネスのやり方が必ずしもいいわけじゃない。」
その時、愛のデバイスに里沙からの無線が・・・
「愛ちゃん、こっちの戦闘が終わった。今から迎えに行く。」
「ダークネスは?」
「司令艦を除いてほとんど片づけた。とは言っても転送ゲートで逃げられたけど。」
「優樹菜は置いて行かれたわけか。」
愛は折れてない方の腕で優樹菜を起こそうとした。
「愛、何やってんだよ。」
「あんたも連れて帰る。」
「私はあんたを殺そうとしたんだぞ、構わず置いていけ。」
「そんなことはできん、たとえどんな形で再会してもあんたはあーしの友達や。見捨てるわけにはいかん。あんたは動けないんだから、黙ってあーしの言うことを聞け。」
そう言われると優樹菜は溜息をついた。
「わかったよ、頑固なあんたについていく。」
愛はそれを聞くと笑顔になり、優樹菜を連れていった。
その頃、ダークネス基地に戻ったRは・・・
「あらあら、艦隊をこんなにボロボロにして帰ってくるなんて中澤さんになんて言われるかな?」
氷の魔女に嫌味を言われていた。
「これは名誉の負傷よ。U・フロントがどんなにすごかったかもわかったし。」
「でも、こないだ仲間に入れた奴は帰ってこなかったみたいじゃない。」
「まだ、死んだとは限らないわ。ともかくミティは黙っててちょうだい!」
数日の間、フランスの病院に愛と優樹菜は入院した。愛はすぐにでも優樹菜のところへ行きたかったが、何分大けがを負っていたので動くに動けなかった。
そして、やっと病院内を動けるところまで回復した。
「優樹菜!」
優樹菜の病室にはいるとそこには優樹菜の姿はなかった。
「愛ちゃん。」
里沙が入ってきた。
「里沙ちゃん、優樹菜は?」
「今朝にはいなくなってたって。でも、愛ちゃんに手紙残している。」
里沙は手紙を愛に渡した。
“愛へ 当分、旅にでてもう少し世の中のことを考えようと思う。本当はもっと一緒にいたかったけどいたら迷惑になるから消えるよ。
もし、日本に戻れるようなことがあれば、あんたの喫茶店によるよ。それじゃあ、また会う日まで 優樹菜”
「愛ちゃん、リゾナントの住所教えたんだって?」
「うん、あーしのコーヒー飲ませて驚かせたかったんやよ。」
「いつか、また会えるわ。」
(完)
最終更新:2010年09月25日 01:42