■ テンクトナイ -能力者- ■
「吉澤サン!吉澤サァン!」
「あ?ああ…タ……シ…」
「よ…よじざわさぁ…」
「悪かったな…無茶な頼みごとばっか押し付けて…
それと…ふふっ…今夜はサンキューな…
さ…最後にお前と…"踊れて"楽しかったよ…ベイベー…」
"共鳴者"は首を振る。少女のように、そう「あの頃の」ままに。
吉澤と共にいた、あの頃のように。
あぁ…そうだ…勝ったら教えてやる…約束だったっけ…
三つ目は…」
吉澤の声は屋上に吹く突風にかき消され、言葉は"共鳴者"にだけに伝えられた。
「そう…さ…笑っちまうよなぁ…それが…俺たちの"能力"の本質さ…
そんなもののために…いや…だからこそ…俺たちは守らなければならな…
"D"から人間を…人間から…"D"を…俺たちは…そのための"器"…そのための"組織"…」
吉澤の声はかすれ…床には鮮血の海が広がっていく。
「た…た…シ…頼む…ぜ…"組織"を…"GOD"を…
お…俺たちは…"M"…悪を…粉砕…する…せ…せぃ…ひ…」
「…粉砕する正義の鉄槌。"モーニングスター"…明けの…明星…」
最後の言葉は"共鳴者"によって紡がれた。
…沈黙…
これ以上ないほどの、優しい、悲しい、微笑み。
吹きすさぶ風…
…そして"能力者"だけが残された。
朝日が昇る…剣のような一筋の光が、闇を切り裂いてゆく…
切り裂かれた闇は苦痛に身をよじり…
怯え、悶え、哭き叫び…それでも…光へ戦いを挑む…
やがて…全てを日の光に焼かれ…消えゆくとしても…闇は抗い続ける…
決して勝てぬと知りながら…
"能力者"は立ちあがる。
光の剣から己の体で最後の闇を守るように。
…もう、そこには、もう…
太陽に背を向け、"能力者"は…
◇ ◇ ◇
■ ミスタームーンライト -共鳴者- ■
吹きすさぶ突風が屋上を駆け抜け、
"共鳴者"と"能力者"が相見える。
「よぉ、やっときたか新人」
「………」
「はは。もうすっかりそう呼ばれることも無くなったってか?…が俺からすりゃ新人だよ…まだ、な。」
「………」
「あぁ。下の?見てきたのか。
もう済んじまったよ。…遅すぎたな」
「……!」
「そんなことより、さ。
今夜はお前に言っとかなきゃならないことがあってさ。」
「……?」
「言っときたいことは、"三つ"。それと…
まあ、頼みごともあってさ。」
「………」
「相変わらず熱いな。よくそれでリーダーやってられんな。
まあ"だからこそ"お前には話とかなきゃならないんだ…」
「まず、一つ目。後藤が死んだよ。」
「……!」
「知らなかったか?だろうな…最初はお前らかと思ったが…どうやら別の連中らしい。
まあ今はそれはどうでもいいんだ。そう…"どうでもいい"。」
「………」
「優しい奴だなぁ…後藤もいい後輩持ったもんだよ。」
「………」
「二つ目…"A"の脳波に反応が出た…おそらく、目を覚ますだろう…新垣には言うなよ」
「……!」
「つうか誰にも言わねえか…お前は言わない…そう言う奴さお前は…優しいからな。」
「………」
「三つ目、こいつは言葉だけじゃ伝わんねえ。
うん。これは伝わらねえ…。」
「だから、さ、新人。
あのときの"続き"をしようや。」
「………」
「勝ったら教えてやる…
おまえがもう新人じゃねぇってとこを見せてみろよ。」
「…!…!」
「ああ…だがお前は逃げない…優しいからな…そうだろ?」
風が止んだ。
月光がステージを照らす。
「さぁ…『僕と踊りませんか?ベイベー』」
最終更新:2011年09月27日 23:03