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『あまいあまいおかし』



「源平の昔から戦で物を言うのは飛び道具と決まっとった。 弓矢から鉄砲、手にする得物が変わっただけで、戦の本質は今も昔も大して変わっとらん」
「じいさまは物知りじゃのう。 もしかしたらその頃から生きとるんか」

じいさまの手がわたしの頭めがけて伸びてくる。 
顔をほころばせながら、わしゃわしゃと頭を撫でていく。

「鞘師は切り返しが早いのう。 その調子で櫓も漕がんかい」
「じいさま、私まだ十二なんじゃ。 ほんとならランドセル背負って小学校に行く時分じゃけ、櫓を漕ぐのも疲れてきた、それに…」

以前からの疑問をぶつける。

「じいさまはなんでわたしのことを鞘師とか呼ぶんじゃ。 じいさまだって鞘師っちゅうんじゃろ」

両親と同じように、名前の里保で呼んでほしいと訴える。
わしゃわしゃ。
また頭を撫でられた。

「ほうか、気になってたんかの。 ひょっとしたらわしのこと惚けとると思うとんか?」
「そんなことはない。 じいさまは頭も体もしっかりしとる。じゃから櫓を漕ぐのを変少しだけ変わってつかあさい」

なんじゃ、もう疲れたんかと言うだけで、代わってはくれないじいさまに尋ねる。
エンジン付きの船だって出してもらえるのに、何でわざわざ手漕ぎの船に乗っているのか。
そしてそもそも今、わたしたちはどこへ修業に向かっているのか?

「それについて説明してやろうと思ったのに、お前が混ぜ返すからわからんようになったんじゃ。 年寄りの言うことは最後まで聞くもんじゃ」

今も昔も軍勢同士の戦いでは、遠距離からの射撃が主体となる。
しかし遠距離からの射撃だけでは戦闘は終結しない。
最後は兵と兵の白兵戦が戦いの雌雄を決する。
敵の本陣を踏みにじり、城下の盟を結ばせた方が勝者となる。

「陸の上の戦いじゃあ、本陣は砦や城じゃが、水軍の戦いじゃあ船が本陣じゃ。 水軍流は不安定な船の上での白兵戦を目的として練り上げられた武術。 じゃけえ船を漕ぐのも大事な修行じゃ」

漕げい、漕げいとじいさまは笑う。

「鞘師の家は元を辿れば、瀬戸内で暴れてた水軍じゃ。 
水軍といえば聞こえはいいが、実際は瀬戸内の海を航行する船に通行料を要求し、拒否されれば略奪するならず者も集まりじゃ」

「じいさまはそう言うが、ルフィの麦わら海賊団は困った人の為に戦う良い海賊じゃけん」

わたしがアニメの話をすると、じいさまの目が細まった。
ルフィ、ルフィと小さな声でつぶやいている。

「あ、じいさま。 わしはチョッパーが好きなんじゃ」

修行では厳しいじいさまじゃけど、甘い面もある。
こうして何かの折りに耳に入れておけば、そのうちわたしが寝ている間に枕元にチョッパーのぬいぐるみが置かれているという寸法じゃ。
ちょろいもんじゃ。

「まあ海賊にもいろいろあるんじゃろ。 とにかく鞘師、といってもその頃はまだ鞘師という姓も名乗っていない、ただの水軍衆じゃったわしらのご先祖は相当強かったらしい」

荒くれ者の多い水軍衆の中でも鞘師家の先祖は群を抜いて血の気が多かったらしい。
船同士で戦をする場合にも、真っ先に敵の船に切り込むぐらいに。

「まるで抜き身の白刃のように恐れられとった。 他の水軍衆だけでなく味方からもな」

足利幕府が終焉し、信長から秀吉、家康へと支配者が代わっていった。
それに伴い水軍衆を囲む事情も変わっていった。
敵の海上輸送や交易を妨害するために、城の海上封鎖をするために重宝してきた水軍衆も、強力な安定政権から見れば、海上輸送を妨害する無法者でしかない。
海の上を戦場に命を張ってきた水軍衆は、大名の家臣に組み込まれていく。
剥きだしの白刃のように恐れられていた、鞘師家の先祖もその一人だった。

「鞘師という姓はその時に授かったものらしい。 白刃のような鋭さで無用な殺生を行なわず、家名を末代まで保てるようにという殿様の心遣いが込められているということじゃ」

じいさまの言うことは難しすぎてよくわからん。
でもご先祖様がおるから、じいさまがおって、両親がおって、私がおるということはわかる。

「鞘師の家に生まれた者の中で群を抜いて強さを示したものは特別に鞘師と呼ぶ。 これは鞘師の家に伝わる習わしじゃ」
水軍流を後の世に伝えていく後継者としての期待、白刃の如き強さで、味方を、自分自身を傷つけないようにという戒め。

「じゃけん、わしじいさまに鞘師と呼ばれるほど強うはない。 船の櫓だって全然漕げんし」

わはは、じいさまは豪快に笑う。
その謙虚さが大事だとほめてくれる。

「おまえぐらいの年の子やったら、とっくの昔に掌の皮が剥けて、腕が痺れてしまって、櫓を持つことも出来んようになっとるが、お前はどうじゃ」

泣き言を言いながらも櫓を漕ぐ腕を片時も休めていない。

「船が思うように進まんのは、鞘師が潮の流れを読まんからじゃ」

「潮の流れ?」

じいさまが言うには、潮の流れには周期がある。
もしも潮の流れに乗るならば、強い時に。
潮の流れに逆らって進みたいのなら、弱い時に船を進ませるように櫓を操る。

「これが船を漕ぐのに一番大切なことじゃ。 そしてそれは水軍流にも通じる」

じいさまはそう言うと、拍手を打った。

「わしが手を打った時に、櫓を漕いでみい、ほれっ」

「おお、じいさま。 進む、進むぞ」

「わはは、潮の流れもよく見て、体に叩きこんどくんじゃぞ」

          ・
          ・
          ・

夢を見ていた。
そんなに昔のことでもないのにとても懐かしい気がする。
あの日、じいさまと一緒に小さな船の上で感じた海の揺れを自分はもう感じることは出来ない。

その代わりというわけでもないが、今自分は小さな部屋の中で揺れている。
身体が揺れてるんじゃない、頭の中が揺れている。
その原因は、リゾナンターの先輩である道重さゆみさん。
そして今自分がいるのは喫茶リゾナントの店内の一角にある収納庫の中だ。

~りほりほ、聞こえてるんでしょ。 早く出てくるの。

鞘師里保はため息をついていた。
原因は収納庫の外で酔っ払ってくだを巻いている道重さゆみにあった。

道重さゆみには感謝している。
瀕死の重傷を負った自分が、普通では考えられないぐらい短い期間で癒えたのは、彼女の治癒能力のおかげだからだ。

道重さゆみのことは尊敬している。
戦場で自分の身に降りかかる危険も顧みずに、傷ついた仲間を癒すリゾナンター愛の強さは、今の自分では逆立ちしたって敵わない。

自分に注ぐ視線が少し粘っこいとか、必要以上に自分の傍に来たがる点は困ったものだが、そのことで尊敬の念が減じることはない。
しかし、今日の道重さゆみの狼藉ぶりには弱ってしまう。

道重さゆみと同年代で、リゾナントのウエイトレスとして働いている田中れいなが言っていた。

「もし、愛ちゃんやれいながいない時に、さゆが酔っ払ってしまったら、立ち向かおうとするんじゃなか。 急いで何処かに隠れると」

そう言った時の田中れいなの表情が、苦々しいものだったことを覚えている。 まるで泥酔状態の道重さゆみにされたひどい仕打ちが頭の中で蘇っているかのようだった。

~ねえ、りほりほ。 お願いだから出てきて欲しいの。 りほりほに嫌われたらさゆみ、悲しくて生きていけないの。

道重さゆみは強い。 その心の強さ、意志の輝きは眩い限りだ。
しかし純粋な戦闘力だけを見定めたならば、強いとは言えない。 むしろリゾナンターの中でも最弱の部類に属するだろう。
いつもの自分なら、水軍流の手練で制圧することは容易だが、今の自分ではそうはいかない。
何故なら、今の自分は酔っている。

勿論、意識して酒を飲んだのではない。
道重さゆみが持ってきたチョコレート菓子の中に含まれていたアルコール分の所為で酔っている。
一緒に食べていた道重さゆみは、さらに酔っている。

自分は酔っているといっても道重さゆみのように人が変わるほど酔っ払ったわけじゃない。
バランス感覚を少し失っているだけだ。
水軍流は揺れる船の上での戦闘の中で生まれ、進化した武術だ。
この程度の酔いなら、あの日海の上でじいさまから叩き込まれた水軍流奥義を披露するのに何の問題も無い。

だが、それではきっと道重さゆみの命を奪ってしまう。
水軍流の源は必殺。
時が経つにつれ、その折の伝承者によって不殺の活人剣の一面も織り込まれてはきた。
しかし水軍流の本質は殺人剣だ。
酔いによって体の軸がずれた状態で水軍流を使っては、上手く手加減が出来るかどうかわからない。
待っているのは、無か一。
つまり生か死あるのみだ。

勿論、剣に弱いとはいえ道重さゆみも歴戦の戦士だ。
鞘師の水軍流の一閃を受けても致命傷は免れやもしれない。
そして意識さえあれば、治癒のチカラで傷を治すことは可能だ。

しかし身体の傷は治せたとしても、自分の好きな鞘師からそれほどまでの厳しい拒絶を示されたことで受けた心の傷はどうなるのか。
そのことを恐れている自分が今ここにいる。
だから水軍流をもって、道重さゆみの魔の手から自分を守ることは出来ない。

 …じいさま、こんな時はどうすればいいんじゃ?

リゾナントは既に閉店している。 一般客の助けは期待できない。 
24時間営業の業務スーパーの買出しに出かけた高橋愛と田中れいなが帰ってくるまでにはいま少し時間があるだろう。
となれば…。



~ちょっと、道重さん。 こんな所で何してるんですか

~フクちゃん、離すの。 りほりほにあんなことやこんなことをするの~

~止めて下さいって。 里保ちゃんの年齢を考えてください。 警察沙汰になってリゾナンターが終了になったらどうするんですか

鞘師にとっての頼みの綱、譜久村聖がやってきたようだ。
鞘師が敢えて逃げ場のない収納庫に閉じこもったのも、リゾナントで落ち合う約束をしていた聖の助けを期待していたからだ。
譜久村聖の能力はサイコメトリー。
探索型の超感覚能力は戦闘に適しているとは言えないが、この場合それが良かった。
酩酊状態の道重さゆみと揉みあっている内に、その能力でおおよその事情は飲み込んでくれるだろう。
その上で道重さゆみの動きを抑えこもうとしてくれるはずだ。

サイコメトリーという非戦闘系の能力者である譜久村聖であるが、戦闘時における体の使い方は意外にこなれている。
水軍流を体に叩き込まれた自分とは比較にならないが、同じ時期にリゾナントに身を寄せることになった同世代の仲間。
生田衣梨奈や鈴木香音に比べれば、遥かな高みに居る。

 …道重さんの経験値と今現在の状態。 それに聖ちゃんの実力を考えれば、道重さんの狼藉は防いでくれるはず。

収納庫の外では、離すの離すのという道重さゆみと落ち着いてくださいという聖とが揉み合っているようだったが、やがて静かになった。

自らの手を汚さず、聖に助けてもらおうとする自分は卑怯なのか、鞘師は自問自答する。
誰かを傷つけたくはないということで思い悩んでいる今の自分がとても滑稽で、少しばかり愛しい。

 …じいさま。 わしはもしかしたらじいさまに稽古をつけてもらった頃より弱くなっとりはせんかのう。

「里保ちゃん。 道重さんは寝ちゃったからもう大丈夫。ここを開けて」 
聖のおっとりした声がした。
声から判断する限り、道重さゆみが聖の声色を真似ているとか、聖が道重に脅されているような様子は無い。
これ以上事を荒立てては、道重さゆみに恥をかかせてしまうと思った里保は扉を止めていたつっかえ棒を外した。

差し伸べられた聖の柔らかな手を掴み、収納庫の外に出た。
視界の隅で並べられた椅子の上で横になっている道重さゆみの姿を捉えた。
どうやら聖と揉み合っているうちに体力を消耗し、酔いが回ったようだ。

「ありがとう、聖ちゃん。 道重さんが急にふざけて…」

できるだけあどけない様子を装おうとした里保だったが、言葉が途中で途切れてしまう。
聖が思い切り抱きしめてきたからだ。
里保が脅えていると思っているからかなのかもしれないが、その力はかなり強い。
鼻息も荒く、感じられる心臓の鼓動も強い。

「ちょっと、聖ちゃん。 痛いから放してってば」

里保がその気になれば、聖を制圧することなど実に容易い。
しかし、それが出来ない事情は道重さゆみに対した時と同じだ。

「…許せない」

 …え

「許せない。 里保ちゃんはこんなにかわいいのに…」

「違うよ、聖ちゃん。 ううん、道重さんとはほんとにふざけてて…」

道重さゆみが自分にひどいことをしたと思って聖は怒っている。
そう思った里保は道重さゆみのことを庇おうとした、が。

「こんなにかわいい身体をしてるのに、あと何年かしたら大人になるなんて許せない」

「ちょおおおっ!!」

怒りを向ける対象が違っている。 それ以前に人として間違っている。
ここは妖しい熱を放散している聖から離れた方がいい。

直感に突き動かされた里保は、聖の手をふりほどこうとした。
しかし聖の抱きしめる力が強すぎるうえに、体の平衡感覚の変調が残っている。
仲間に対して力をセーブしようという意識が働いていることもあって思うようにいかない。

 …聖ちゃんってこんなに力が強かったのかな

困惑気味の里保を他所に、聖は小柄な里保の体全体を抱え込みながら、指先を体に這わせている。
最初は遠慮がちだった指先も、だんだん大胆になっていく。

 …そういえば、田中さんが言っていたな。

里保や聖、香音に衣梨奈。
新しくリゾナンターに加わった者たちが集められて、格闘の手ほどきを受けた時のことだ。
講師である田中れいなの我流のケンカ殺法自体には、あまり見るべきものはなかった。
だがこれまで意識したことのなかった仲間と連携しての戦い方は、かなり有益であった。

いつのまにか熱中して、汗だくになった里保が体を拭っていると熱い視線を感じた。
それが不特定多数の人間がいる屋外でのことだったら、あからさまに視線の出所を確認するような真似はしない。
自分に害意を抱いている者が見ているのだとしたら、そのことに気づいたことを教えるのは危険だからだ。
しかし場所はリゾナントの地下のトレーニングルーム。 信頼できる仲間たちと一緒にいるときの出来事だ。
ついきょろきょろと辺りを見回した里保は、聖と顔が合ってしまう。
みるみるうちに聖の顔が真っ赤に染まっていくが、里保から視線を逸らそうとはしない。

そんな二人の様子を見て取ったれいなが意味ありげに笑いながら言った。

「さゆが変態さん一号なら、聖ちゃんは二号ったいね」

顔を真っ赤にした聖の抗議で、その発言は撤回された。
その時は何のことかわからなかったが、度重なる道重さゆみの接触プレーを受けた今ならわかる。

「こ、こやつら腐っとる。 二人ともとんでもない変態じゃ」

道重さゆみが眠ってしまったという聖の言葉に安心して、安全な収納庫から出てしまったことが悔やまれる。
あのまま閉じこもっていれば、やがては高橋愛や田中れいなが帰ってきて、何事もなく事態は終わっていた筈なのに。
聖の熱い吐息が里保の感情を逆撫でる。 
抱きついてきたのが鈴木香音だったら、こんな変な空気にはならなかったろう。 きゃあきゃあと騒いで終わりだった。
それがこんな変な空気を醸し出してしまうのは、聖がまとっている大人びた雰囲気のせいだろう。
許せない、許せないと抱きついてくる聖の弾力に富んだ胸が里保の心を直撃する。

 …許せんのはわしの方じゃ

水軍流は道場剣術の流派ではない。
命知らずの水軍衆が板子一枚下は地獄の海上で、実戦を重ねていくうちに発展した武術だ。
無刀の術者が自分よりも大柄な相手に捉えられた時の対処方も確立されている。
そして里保に水軍流の極意を叩き込んだ祖父は、自分の孫がそう遠くない日に闘争の渦に巻き込まれていくこと予測していたのだろう。
自分よりも大きい敵との戦い方を優先的に、孫に習得させている。

 …叩きのめしてやろうか

ほんの一瞬だけそんな思いが頭を過ぎってしまった。
しかし祖父から鞘師という姓の由来を告げられた時に授けられた、戒めの言葉がそれを阻む。
無用の殺生をしてはいけない。 ことに仲間を傷つけるような真似をしてはならない。

…聖ちゃんは仲間じゃ。 どんなにひどい変態でも大事な仲間じゃ。 傷つけとうはない。
放してくれるように辛抱強く頼もう。 わしのことを好きでこんなことをしちょるんじゃったらきっと放してくれるじゃろう。

「聖ちゃん、痛いんだけど」
「ああ、力が強すぎたんだ、ごめんね、ごめんね」
「とにかく放して欲しいんだけど」
「でも、こんなチャンスは二度と巡って来ないよね」
「チャンスって」
「だから、里保ちゃんの抱き心地を私の体で覚えておきたいの」
「いいから、放してって」
「このまま時間が止まればいいのに。 里保ちゃんはかわいいままだし、私はずっと傍にいられるし」

 …こいつ、ガチの変態じゃ

里保の体を軽い戦慄が走る。
当の聖はクンかクンか、里保の髪の毛の香りを嗅いでいる。

「それは違うの」

 …ひえぇぇぇ

心底から上げそうになった悲鳴を噛み殺す。
憑依能力者によって操られた男女に体を壊されかけた初陣の時。
学園で生田衣梨奈の【精神破壊】がもたらした惨状を目の当たりにした時も、恐怖を覚えなかった里保が恐れおののいた。

 …一号じゃ。 変態一号が復活してきおった。

道重さん。聖が呼びかけた。

「道重さん。眠っちゃったんじゃないんですか?」
「うふふふ。フクちゃんともみ合ってるうちに過呼吸っぽくなってふらっとしちゃったけど、ずっと起きてたの」

里保が収納庫の中に閉じこもってしまった膠着状態を動かすために、気を失った振りをしていたのだという。

「それはそうとフクちゃん」
「は、はい」

礼儀正しい聖はさゆみに改めて呼びかけられ、畏まってしまう。

「フクちゃんの言ってることは間違ってる。形あるものはいつか壊れていくし、花だって散ってしまう。だからこそ美しいの」

だから、りほりほも大人になっちゃう前に食べちゃいた~い。
さゆみの偏愛ぶりに、聖の腰が引けたのがわかる。

「まあそれはそれとしてフクちゃん、グッドジョブなの。 わたしのりほりほに抱きついたのはちょっと妬けたけど、でもそれはそれで寝取られたみたいで、燃えるシチュエーションだったの」

そう言うさゆみの左右の手には各々スマートフォンと携帯が握られている。

「美少女同士の熱い絡みは動画と静止画像で保存させてもらったの。 りほりほが足りなくなったときは、使わせてもらうの」
「道重さんには亀井さんがいるじゃないですか。 なのに私のりほりほとかずるいです」

温厚な性格の聖が先輩に対して声を荒げることなど、通常では考えられない。
しかし尋常ではない状況が聖をも変えていた。

絵里はね。聖の訴えにさすがに心が痛んだのか、さゆみは目を伏せる。

「絵里とはね。 もう家族のような関係だからもう一生離れることはないと思うの」

ギリリ。聖が歯を噛みしめる。

「亀井さんが道重さんの家族だというのなら、里保ちゃんは一体何なんですか」
「私にそれを言わせるの?」

言葉とは裏腹にさゆみは嬉しそうだ。 頬が緩み、目はハート型になっている。

「りほりほはね~、甘~いおかしなの」

いただきま~す。
日頃のさゆみからは想像できないぐらい、俊敏な動きで里保を抱きしめていた聖に迫る。

「待って下さい」

流石に里保を解放した聖が、両手を広げてさゆみの前に立ちはだかる。

「里保ちゃんは渡しませんから」

目一杯の勇気を振り絞って、さゆみに反抗しようとする。
しかしピンクの悪魔と化したさゆみにとっては、そんな抵抗などないと同じだった。
ぺろり。 さゆみが舌なめずりをすると聖は身震いをした。

「怒ったフクちゃんもりほりほに負けないくらいかわい~いの」

いただきま~す。
淫らな獣に襲いかかられた聖の悲鳴がリゾナントを揺らした。

「いやああああああっ」

買い出しを終え帰ってきた愛とれいなが見たものは、放心状態の…

          ・
          ・
          ・

「ちょっと待つの。一体どういうつもり」

つい先程まで淫らな期待に上気していたさゆみが、冷たい視線で聖を凝視している。

「えっ、どういうつもりって言われても」

さゆみの豹変に聖は目を白黒させている。

「フクちゃんが大声を出したのはとてもいいの。嫌がる娘さんを手籠めにする罪悪感がさゆみの背骨を駆け上ってきてたまらないの。でも…」

その後の"買い出しを終え帰ってきた~”のくだりがいただけないとさゆみは言った。

「そんな中途半端な終わり方で、一番美味しい場面は読者の想像力に委ねるとか、寝言は寝てから言えでございますなの」
「ちょお、それはっ」

 …聖ちゃん大変だな

狩る側だと思っていた変態二号譜久村聖が、変態一号道重さゆみの登場によって狩られる側に転じた。

 …弱肉強食とはこのことじゃのう

「お言葉ですけど、こういう話は曖昧な形で終わらせておくのが無難なんじゃないんでしょうか」

シャット・ユア・マウス!
唐突な英語での命令に呆気にとられたのか、聖がポカンと口を開ける。 アホである。

「2ちゃんねるの、日中に3時間も4時間も書き込みがないような過疎スレで無難も何もないの。 さゆみは美少女を美味しくいただければそれでいいの」
「わ、わたしまだ未成年なんですよ」
「それを言うならさゆみは永遠の処女なの」

ヒィィ。 聖が悲鳴を漏らす。

「里保ちゃん、耳を塞いで! こんなことを聞いてたら腐っちゃうよ」

 …お前が言うなとはこのことじゃのう

里保は興味津々で変態同士の攻防を観察している。

「休みの日は一日中ベッドの上で2ちゃんねる三昧の乙女の妄想力を舐めるなでございますのよ」

言い放つてスマートフォンを聖の顔に向けた。

「さあ。 フクちゃんの恥ずかしい瞬間を鮮明な画像で記録してあげるの。 一生の記念になるの」

「いやあああああっ」

撮影を止めさせようと、さゆみのスマートフォンに手をかけた聖はイメージの奔流に巻き込まれてしまった。
無意識の内に発動したサイコメトリー。
接触感応の能力によって、さゆみのスマートフォンに保存されていたお宝画像の数々が流れ込んできたのだ。

「あれもこれもどれもみんな、私たちを隠し撮りしたものじゃないですか」

聖の叫びには非難めいた響きが含まれていた。
それがさゆみには不満そうだった。

「隠し撮りなんて言い方止めて欲しいの。わたしはりほりほやフクちゃんたちのカメラを意識していない自然な姿を記録しただけなの」
「それが隠し撮りだって云うんです」

聖は自分たちの画像を消去するようさゆみに強く迫った。
それがピンクの悪魔の懐に飛び込む自殺的行為だということに、聖が気づいた時はもう遅かった。

「うぐあっ」

ピンクの悪魔に唇を奪われた聖は形容しがたい悲鳴を上げた。
ピンクの悪魔は唇を通して、聖の全てを奪おうとするかのように吸い尽くしている。
あっ。あっ。あっ。
呻き声を上げるたび、聖の中から大切なものが消えていった。
やがて…。

「ぶはぁぁぁつ」

満足しきったさゆみが唇を離すと、目が虚ろになった聖が腰から崩れ落ち、床に尻餅をついた状態で静止してしまった。
聖という前菜には豪華すぎる獲物を堪能したさゆみは、いよいよメーンディッシュである里保を味会うために唇を拭った。

笑っている。
鞘師里保が天使のような笑いをピンクの悪魔に向けている。

「怖くはないの?」

里保の反応が腑に落ちず、訝しげな表情を隠せない。

「はいっ。道重さんの動きは見切りましたから」

酔ったといってもチョコレートに入っていた僅かばかりのアルコール分に、気分が悪くなっただけのことだ。
様子がおかしくなった時点で、難を逃れるべく収納庫に逃げ込んだのは、かなり前になる。
心身とも本来の働きを取り戻すには十分だった。
そして何より譜久村聖が毒牙にかけられた一部始終。
ピンクの悪魔の全てを見切ったという会心の思いが、里保の頬に自然と笑みを浮かべさせた。

何故、ピンクの悪魔と化した道重さゆみが、ある程度習熟した戦闘スキルを持つ譜久村聖を秒殺できたのか?
そして格闘センスに秀でた田中れいなにさえ爪痕を残すことが出来たのか?
端的に言えば、道重さゆみは弱くないということに尽きる。
確かに戦闘に特化したメンバー、田中れいなや李純に銭琳といったメンバーと比較すれば見劣りはするだろう。
しかし戦場で敵の攻撃から逃げ回ったり、他のメンバーに守られている姿から類推されるほどには道重さゆみは弱くない。

リゾナンターは血に飢えた狼の集団ではない。 目的を持って行動する戦闘集団だ。
そして集団戦は前面に立って敵と戦うメンバーだけでは成立しない。

目となって敵の動向を掴む者。
頭脳となって戦略を立てる者。
矛となり敵を貫く者。
弓矢となって後方から援護する者。
盾となって味方を守る者。

各々の特性に応じた役割を果たすことで勝利を収められる。
その中で道重さゆみの役割は、傷ついた仲間を治癒するということだ。
道重さゆみが時に敵の攻撃から逃げまどうのは、恐怖心に駆られてのことではない。
自分が傷つけば、負傷した仲間を癒すことが出来ない。
自分が傷つかない、自分が生き残る。
それが戦闘の中で道重さゆみが果たす役割だったのだ。
傷つかないことが道重さゆみにとっての戦いだったのだ。
仲間を死なせないことが彼女の戦いの目的だったのだ。

そして彼女はその戦いに勝ち続けてきた。
凶悪な能力者集団との戦いの中で、傷つくことはあっても命を落としたリゾナンターはいない。
こんなに勝ち続けてきた道重さゆみが弱いはずなどない。
しかし周囲の仲間は道重さゆみの強さの本質を心では判っていても、表層的な部分で見誤っていた。
それこそがピンクの悪魔と化した道重さゆみが他のリゾナンターを毒牙にかけることが出来た秘密に他ならない。

仲間を救うために、自らが傷つかないように振る舞い、ややもすると臆病にさえ映る平素の道重さゆみと、己の淫らな欲望に忠実に従うピンクの悪魔。
同じ人間なのに二つの人物像の間に生じてしまったギャップが、ピンクの悪魔の動きを見誤らせその陵辱を許してしまったのだ。

譜久村聖もあえなく果ててしまった。
しかし聖の敗北は里保にとって極めて有益な糧となった。
道重さゆみという人間の本質。 そしてアルコールが入ったことによって生じる不規則な運動性。
全てを見切った。

いや道重さゆみはまだ全てを晒したわけではないのかもしれない。
たとえ未知の領域があろうとも対応してみせる。
どんな不規則に見える波にも規則性はあることを教えてもらったあの日。
祖父に海上で鍛え上げられた時のように。

「ちょっと待つのりほりほ」
「はいっ」

爽やかに答える里保に対して、さゆみは欲望を隠せない。

「今、回想シーンを始めようとしたでしょ。 冗談はやめやがれでございますの。 昔のことを思い出して新たな力に目覚めるとか、そんなのは『BLEACH』だけにしやがれなの」
「過去の私があるから、今の私がいて、そしてきっと未来に繋がるんだと思います」
「そんな能書きはたくさんなの。 私は過去よりも今現在の可愛いりほりほを食べたいの」

里保の返事はさゆみの意表をついたものだった。

「食べてもいいですよ。 もしも私のことを捕まえられたなら」

挑発的な目つきはピンクの悪魔の邪悪な心を刺激した。

「何その小悪魔みたいな目線。 そんなのさゆみのりほりほじゃないの。 でも食べた~い」

さゆみはいつもからは考えられないスピードで高速移動して、里保に抱きつこうとした。
さゆみの伸ばした手が触れそうになる寸前、サイドステップでかわした里保は不慣れなウインクをしてみせた。

「何、その余裕」
「それで終わりですか」

故郷の海で祖父と行った鍛錬に比べればなんということはない。
といって油断することもない。
ただ感じればいい。
あるがままの道重さゆみの感情の波を。
寄せては返す波濤の揺れに飲まれることなく、乗り切ってみせる。
あの日のように、何度でも、何十回でも、何百回でも。

「道重さんにお願いがあります」
「何なの」

攻撃と回避が幾度か繰り返された結果、さゆみの体力の消耗は進む一方で、里保の勢いは衰える所を知らない。

「鞘師が大人になったら、どこかお酒の飲める場所に連れて行って下さいよ。 そして道重さんのことを食べさせて下さい」
「あーん。 もう、もう、キュンときたの」

里保は食べるということの意味を理解しているわけではない。
しかしその時は自然に口をついて出てしまった。
ピンクの悪魔の顔に浮かぶ至福の笑顔、そして…。

「ダメなの。 りほりほが成人した頃にはさゆみもうアラサ・・・・」 いずれ迎える年齢を数えて、絶句した。

「オバサンになったさゆのことなんか、りほりほは食べてくれないの。 だったら今私が…」

さゆみの目に強い力が宿る。

 …そろそろ潮時じゃな。

一瞬引いた道重さゆみの感情の波が大きく昂ぶりだした。
酔いによってリミッターか外れた状態で動き続けてきた道重さゆみの体力も限界だろう。
乱れた髪、妖しく光る瞳、荒ぶる息、波打つ身体。
どれ一つ取ってもいつもの清楚な道重さゆみとはかけ離れている。
そんな道重さゆみがありったけの力をかき集めての跳躍、と見せかけて里保の足下へ飛び込んだ。
レスリングなら両足タックル、柔道なら双手刈りと呼ばれる攻撃。
リゾナンターの中では長身の部類に入るさゆみが、里保の足下へ突進する。

 …いい攻めじゃ。押し倒して馬乗りになってわしのことを喰らうつもりか。

結局こういうことになってしまった。
これまでの攻勢とは違う圧力を感じる。
これを最後と定めたさゆみの乾坤一擲の大勝負だ。
もし回避したらさゆみは顔面から床に激突してしまいかねない。
自分の体に染み込んだ「武」が道重さゆみを拒んでしまう。
受け止めるしかない。
道重さゆみを傷つけないようにするには、受け止めて絡め取るしかない。

「もらったの!」
地を這うように進んださゆみの右肩が里保の下肢と接触した。
里保の両膝を刈る腕の動きと、前方への動き。
相反するベクトルの働きで里保は背中から床に倒れていった。

里保に怪我をさせないために手加減することをさゆみは一瞬考えた。
しかし里保の水際立った動きと、自分の技量の拙さを対比させると出来なかった。
受け身を取ったことも判らない鮮やかさで、衝撃を吸収しながら床に倒れ込んだ里保に安堵を覚えながら、次の瞬間情欲の権化へと立ち戻る。
自らの体で覆い尽くさんばかりに、里保の上体にのし掛かっていく。

 …こう来ることは判っとった。

乾いた観察眼でさゆみの動きを捉えながら、当たり前のことを認識する。
体格で勝り、技術で劣る道重さゆみが里保のことを喰らうにはこうしてくるしかない。

水軍流は瀬戸内を支配する水軍衆によって、研鑽され発達した武術だ。
本来水軍衆の戦は、陸の上の戦のように倒した敵の首を掻くようなことはなかった。
武功を認め、論功行賞で領地を安堵する主君に仕えるということがなかったからだ。

支配する海を航行する船から通行料を徴収したり、陸の上の武士の依頼によって海上を封鎖したり、意に沿わぬ船を襲撃したり。
水軍衆の戦とはそういうものだった。
しかし時の流れか、大名の領地支配に組み込まれていった水軍衆は、陸の上の武士同様に、命を賭した働きの証として、敵の首を刈るようになっていった。
命を取ることに徹した戦技として進化していった水軍流は、そういった水軍衆の戦いの変化にも対応していった。
そのうちの一つを里保は今使おうとしている。

足場が悪く不安定な船上で、上を取られた敵の急所を破壊するその技法を里保に伝えた時、祖父はこう言った。

「いいか、この技は強く速く打ち込む必要はない。むしろその逆に最小限の動きでゆっくりと相手に流し込むんじゃ。 波の揺れから作り出した波動をな」

今里保が仰臥しているのはリゾナントの床の上だ。
波の揺れは感じられない。
しかし人間の体には脈打つ鼓動がある。命が波打っている。
さゆみに押し倒され馬乗りになられる一連の流れの中で、僅かに自由になる右足の踵を床に打ち付けて作り出した波動を膝を通じて射出した。

カンフーに通じ中国武術全般の知識も豊富な銭琳が、里保の動きを目の当たりにしたらきっと驚嘆の声を上げただろう。
鞘師サンは寸頸を徹すことが出来るのデスカ、と。
里保が非凡な所はさゆみを傷つけないために、急所ではなく皮下脂肪の厚い下腹部に生体波動を打ち込んだところだ。
命中時の衝撃だけを見ればとてつもなく弱々しいその一撃は、通常の打撃よりも長い時間対象であるさゆみに接していたことで、さゆみの身体中の細胞組織に衝撃波を浸透させていった。


「ああっ」

さゆみの口から悲痛な声が洩れた。
体に痛みが走ったわけではない。
さゆみはその現象が里保の所為だとは気付かなかったが、寸頸のような打撃による衝撃波が浸透したことで、体が麻痺してしまった。
手を伸ばせば届くところに、甘い甘い里保の唇があるというのに、体が自由にならないことを嘆いたのだ。
もしかして自由にならない自分の体で里保を傷つけてしまうかもしれないので悲鳴を上げたのだ。

里保の顔を傷つけてはいけないと、自由にならないながらも崩れていく体を少しでも里保から放そうと試みるさゆみは気付いた。
明確な力が自分に加えられていくと。
今、リゾナントにいる者の中でそれが出来るのは里保しかいない、が。

えっ。
さゆみは戸惑った。
里保が自分の体の上に、さゆみを引き寄せたからだ。
もし誰かが見れば抱き合っているように見えるかもしれない。

「道重さん。 そっちに倒れたら顔に怪我しますよ」

そう囁きながらさゆみの背中をぽんぽんと叩く。

里保が自分のことを気遣ってくれたのは嬉しい。
しかし、こんなに近くに里保がいるのに自分の手で抱きしめられないのは、口惜しいのを通りこして悲しい。
せめぎ合う感情。
何故自分の体はこんなに自由にならないのか。

まさか、今自分の体がこんなに痺れているのは里保の仕業なのか。
まさか、これって。

「あっ、あっ」
「道重さん、無理しないでください」
「さつ、さゆみ。 りほりほにイカされちゃったの」
「えっ、何のことですか。 私は身を守るために…」
「責任とって欲しいの。 さゆをりほりほのお嫁さんにして欲しい」

ボタンを掛け違えたような二人の会話は、ようやく帰ってきたリゾナントの店主の怒声に遮られた。

「あほかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

里保を押し倒しているように見えるさゆみを叱り飛ばし、起こそうとする。
里保の無事を確認することも忘れない。
れいなは気絶している聖の介抱に回っている。
魂を抜かれたような様子を見て、かつて自分を襲った災厄に聖も見舞われたことを悟る。

「聖ちゃん。 気を確かに。 たとえ体は汚されても心は清いままやけん」
「アホなこと言っとらんで、聖ちゃんが無事やったら手を貸して」

体に痺れが残っているさゆみを愛一人の力では引き起こすことはできない。
二人で抱き起こして、愛の部屋に連れて行き説教するという。

「えっ、愛ちゃんの部屋」

さゆみの目に歓喜の輝き。
それを見た愛に怯えが走る。

「あっ、あーしの部屋は止めとく。 れーな、あんたが責任を持ってさゆの面倒見て。 私は聖と鞘師を」
「ちょっ、愛ちゃん」


結局、さゆみの体が痺れてしまっている状態を見て愛は考え直したようだ。
れいなの力を借りてさゆみを自分の部屋へ運び説教することにしたらしい。
もっとも、かなり及び腰で聖や里保の様子を見に来ようとしたれいなをその場に留めていたが。

ピンクの悪魔が復活するという万が一の事態も恐れてか、部屋のドアも開けっ放しにしていたため、説教の模様もまる聞こえだ。
後輩の目に付かないよう説教をするという配慮も無駄にしてしまったようだが。

~もう鞘師たちを隠し撮りするの禁止
~えぇーっ
~これまでの画像は全部消去
~やなの、やなの
~リゾナントではアルコール禁止
~それは平気。 だって、だってさゆは愛ちゃんに酔ってるから
~いやああ、れいな助けて
~さゆ、愛ちゃんに何を、ギャース

お姉さんズの悲鳴と歓声が入り混じった声が聞こえてくる階上を見上げながら、里保は思った。

大好きですよ、道重さん。 わしのことかわいいって言ってくれてありがとう。
故郷にいた頃はそんなこと言われたことなかったから嬉しかった。
出来ればそのことを伝えたかったけど。

「お前は強い。 少なくともここ数十年の鞘師の中ではもっとも強くなる。 しかしお前の強さに意味がなければ、お前は誰よりも弱くなる。
強くあらんという克己心。 強くあらねばという使命感がお前を強くあらしめる」

じいさまの言っていたこと、今ならわかる。
わしは強くありたい。
大好きな仲間のことを守れるくらいには強くなりたい。
たとえ、それがとんでもない変態じゃったとしても。








最終更新:2011年12月17日 19:51