■ ライアーペア -亀井絵里- ■



 ■ ライアーペア -亀井絵里- ■

病室、一人、晴れ。

でね、リホリホったらね……
「うん」
イクタが急にガキさんになついちゃって……
「ほぇー」
れいなは相変わらずだよ、……
「うん」

そう、みんなあいかわらず

……

「えり?大丈夫?」
「ん?なにが?」
「ううん」
「えへへ」
「うん」

「うん」


病室、一人、夕焼け。


無言。


オレンジの光。


無言。









……


「『リホリホがね』って言われても困りますよね」
「んえ?」
「会ったこともないのに」
「あーでもほら、写真はさぁ」
「道重さん、もう帰っちゃいましたね。」
「あ、うん。けっこういそがしいからね、さゆも。」
「昨日は道重さん来なかったですよね」
「あーほれ、それは」
「『リホリホが』、でしたっけ?」
「うん」
「そうだ、梨たべます?」
「なし?」
「この板つかっていいですか?」
「板って、サイドテー…まぁ板か」
「じゃーん。これ手作りのカバンなんです。」
「なんかタグ付いてるけど」
「おとといも来てないですよね、道重さん」
「おいおいもどすねぇ、ってタッパでかっ」
「そりゃそうですよ。病室で梨剥くとかめんどくさいじゃないですか」
「いや、大きさのね」
「はいあーん」
「…あーん」


しゃくしゃくしゃく

「もう長いんですよね、ここ、亀井さん」
「んーそだねー」
「最近、新垣さん、来てます?」
「んー、なしもいっこもらうね」
「はいどうぞ、あーん」
「…あーん」
「田中さんて来ます?ここ。」
「いやーあのひとはほらぁ」
「来た事もない、ですか」
「いやそこまでは」
「はい、あーん」
「ひゃほこまへへも」
「さびしいですね」
「んー、そうでもないよぉ」
「『わりと、気楽だし』ですか」
「わりと気楽だし、それに」
「『会えなくても、わかりあえている』」
「……」
「わたしも梨たべよっと」
「…ん?」
「あーんしてくれないのかなって」
「なんか、今日、西日、強めだなぁ」
「天気がいいのも今日までだって予報で言ってましたよ」
「へー」
「今日はこんなに日差しが強いのに、明日は大荒れになるって」
「ふーん」

しゃくしゃくしゃく


「色々わかっちゃうのも考えものですよね」
「んー」
「この夕焼けが明日も見れるかもしれない。」
「あー」
「そうゆう、あこれ借ります」
「ちょっそれエリのパジャマだよ」
「あらごめんなさい。あんまりくたびれてるから、お手拭きかと思って」
「んもーなしフレーバーついちゃったよー」
「もういっこたべちゃお」
「えじゃ何のために拭いたんだよー」

しゃくしゃくしゃく

「えりのパジャマー」

「持ってきてもらえばいいじゃないですか、道重さんに」
「『あたらしいパジャマ買ってきて』って頼んだらいいのに」
「昔は平気で頼んでましたよね、パジャマぐらい」

しゃくしゃくしゃく

たのめないよ

しゃくしゃくしゃく

さゆはいまたいへんなんだもの

しゃくしゃく

だから


しゃくしゃく、しゃく、ごくん

シーツ、ベッド、パジャマ、無機質な引き出し、蛍光ランプ。

「これパジャマです」
「え?」
「パジャマ買ってきてあるんです。」

えりのすきな手触り

「これ手作りなんですよ」
「コットン100%ってタグが付いてる」
「脇のやつはいいんです。襟足のタグは外してあるから、着る時も首かゆくないですよ」

襟のタグが首に当たると、かゆくなるから、いつも自分で切り取ってた

「しめましょうか?、カーテン」

オレンジの光が、さらに強くなる。
世界の全てが、オレンジに、オレンジに。

「あのーところで、キミさ」
「はい?なんですか?亀井さん」

100円玉の山、100円を入れるTV、片耳のイヤホン。

「あの、キミは、」

病室、二人、夕焼け。


梨、タッパ、タグのついた、手作りのカバン。

「だれ、なんだね?」

緋色のスカート、薄桃色のカーディガン、薄紫の、ブラウス。

左耳、揺れる、ピアス。

丸い顔。

笑顔。


「申し遅れました。私は――」



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投稿日:2013/10/28(月) 21:54:47.58 0




















最終更新:2013年10月29日 01:24