「ねえマアサ~教えてよ、ねっ、ねっ、ホントお願い」
「いやぁこれだけは教えられないなぁ」
「いやいやダイエット以外でマアサに何教わるっての」
「えっ・・・何って勉強とかあるでしょ・・・」
「冗談はいいから教えてよ~~みんな知りたがってるし」
「うぅ・・・」
この物語の主人公である工藤マアサは後悔していた
何故自分はこういった事態を予測出来なかったのかと今まさに悔やんでいるのだ
(やっちゃったなぁ・・・高3は部活無いのを完全に忘れてたよ)
マアサは今年の春頃から以下のようなダイエット計画を立てていたのである
・ウエストを今から10センチ減らしたい
・一瞬で減らす事は可能だけどそれだとあからさますぎてバレてしまう
・ならば1日0.1センチづつ均等に減らせば良い、それなら微妙な変化なのでバレる可能性は低い
・1日0.1センチだとしても10日で1センチ!1ヶ月で3センチ!3ヶ月ちょいで10センチ!!
・晴れてダイエット完了!
実際マアサのダイエットは計画通りに遂行されていた
なので本来ならば万々歳なはずなのである
しかし高3の夏でもバレー部に顔を出すようなマアサとは違って大半の同級生には「受験」があったのだ
ゆえにほとんどの同級生らは夏休みにマアサと顔を合わすような事は無い
そんな状態で9月の始業式に参加したらどうなるだろうか?
「ねえマアサめっちゃ痩せてるじゃん!どうしたの?」
「教えてよ!最近動いてないから痩せたいの!」
「顔シュッとしたねぇ、二の腕も・・・あ!くびれまで!・・・本当に何やったの?」
・・・と、この通り質問責めにあってしまったのである
同級生からしれみれば7月20日のマアサと9月1日のマアサとではウエスト4センチ分違うので当然目立つ
それを計算出来なかったあたりがマアサのおつむの程度を表していると言えるだろう
マアサだって教えられるものならばちゃちゃっと教えてこの質問の嵐から開放されたいと思っている
だがしかし、そう思っていても出来ない理由が彼女にはあったのだ
(一般人には教えちゃダメって言われちゃったし・・・仮に教えたとしても誰も信じないだろうしなぁ)
「は~やっと開放されたわ・・・」
怒涛の質問責めを受け続け30分、ようやく工藤マアサは教室からの脱出に成功する
実はマアサにはバレー部のもとへと急がねばならぬ理由があったのだ
(今日が新生バレー部初の練習試合なんだよねぇ、元部長として熊田ジャパンをしっかり応援してあげなきゃ!)
急ぐマアサは廊下の先にあるベランダの方へと一目散に走っていく
そのスピードたるや100m11秒フラット級であり、高校インターハイ女子王者の記録を軽く越えてしまっている
そしてマアサはベランダへと到着するなりその勢いのまま下へと跳び下りてしまったのだ
ちなみに工藤マアサら3年生の教室は校舎の3階に存在している
通常女子高生が3階の高さから落下したとなれば決して無事では済まない、もちろん男子だって怪我の一つや二つをするはず
ところが今作の主人公であるマアサは違ったのだ
落下のスピードも衝撃も通常のそれとまるで変わらないと言うのに見事に着地してしまっている
しかも骨折などしていない、それどころかヒビの一つすら生じていないのだ
10m近くから飛び降りて何事もなしに立てるのは運動神経どうこうというのを超越している
もはや超人とも呼べるかもしれない、それが工藤マアサという女性なのである
試した事は無いが、彼女は地上30mから落下したとしても無事で済むとも思っているという
「ショートカットOK!よーしあとは体育館に走るだけ・・」
「待ちなさい、工藤」
「えっ・・・」
目的地に向かってダッシュをしようとしたその瞬間、マアサは何者かに呼び止められてしまった
まさか他人に見られてるとは思ってなかったのでマアサは冷や汗をかいてしまう
(まずい、バレちゃった?・・・)
「じゃあ工藤、言った通りしっかりと勉強するんだぞ」
「はぁ~い・・・」
マアサはガックリと肩を落としながら職員室から出ていく
先ほどマアサに声をかけた正体は担任の先生であり
受験を無視して部活に顔を出してばかりのマアサを叱るために職員室に呼び出したのである
幸いにも3階から落下したシーンを目撃されたワケではなかったらしいが
それでも30分以上お説教を受け続けた事がマアサにとっては深刻な問題であった
(あ~もう1セット終わっちゃったかなぁ・・・いや、教室から出るのも遅かったから2セットも!?
どうしよ、とにかく急がないと)
職員室は1階に在ったので3階の時と違い猛ダッシュで走る事が出来ない
なのでマアサは最遅の移動手段である「徒歩」で体育館に向かう事しか出来なかった。
とは言ってもさほど距離が開いては無かったのでマアサは5分ほどで到着する
勢いよく扉を開けるなりマアサは大声で問いかけた
「勝ってる!?勝ってる!?」
ここでマアサは「勝ってます!」という返答を期待していた
後輩たちが笑顔で、声を揃えてそう叫ぶのを期待していたのだ
しかしマアサが目にした光景はそれとは間逆のものとなっている
「うっ・・・うっ・・・工藤せんぱぁい・・・」
「く、熊田ちゃん?」
気づけば現キャプテンである熊田ユリナが目を腫らしながら嗚咽をあげている
それだけでは無い、他の部員だって熊田キャプテン同様に顔をグシャグシャにしているのだ
「そんな・・・負けちゃったの?・・・」
「負けてませぇん!でも、でもぉおお」
「ひどい・・・これはひどい」
体育館の倉庫内が悲惨な有様になっているのを見てマアサは驚愕する
用具はグシャグシャに散らかされ、紙類はビリビリに破られ
そして何より全てのバレーボールが油性マジックによって汚されていたのだ
「OBからの寄贈品だったのに・・・あんまりです、こんなのあんまりです・・・」
身長180近くある熊田ユリナがちっちゃくなっている様を見ているだけでマアサの胸は締め付けられる
「これ、誰がやったの?」
「わかりません、でも、うちの生徒がやったんじゃないと思うんです」
「てことは・・・」
マアサには練習試合の相手校が犯人だとしか思えなかった
なんでも今回の試合は熊田ちゃんチームのフルセット勝ちであったらしい
プレイ中もマナーのなってない、いわゆる心技体の揃わぬ対戦相手だったとのことなので
その高校が負けた腹いせに倉庫を滅茶苦茶にしたのでは無いかと推測出来たのだ
もちろん憶測だけで犯人扱いするのは決して良いことでは無いが
一応「補欠部員らしき者が倉庫に入るところを見た」という目撃情報もとる事が出来た
ここまで材料が揃っているのならば話し合いだけでもしてみる必要があるのでは無いだろうか
「私・・・行ってくるよ、まだ近くにいるよね?」
「えっ、な、な、殴りこみですか!?」
「違うよただ話すだけ、私に任せて」
そう言うと工藤マアサは単身で相手校のもとへと突っ走っていった
その様は後輩部員達から見てとても頼りになり、誇らしくも思える
「工藤先輩やっぱり素敵・・・最近痩せちゃったけど、それでもかっこいい!」
「つまり疑ってるってこと?」
「いや、あのそういうワケじゃなくて・・・」
「疑ってんじゃん!じゃなきゃわざわざ来たりしないしね
ほら証拠見せなよ証拠!私たちがやったっていう証拠をさ!」
(あれぇー?こんなはずじゃなかったんだけどなぁ・・・)
ガラの悪い対戦校の部員らに囲まれながら工藤マアサは理想と現実の乖離に苦しんでいた
推理漫画大好きのマアサとしては以下のような展開を期待していたのだ
『やってねぇよ!だいたい私たちがボールに落書きしてなんのメリットが・・・』
『落書き?今落書きって言いましたよね?』
『言ったからなんだってんだよ!』
『私は倉庫が滅茶苦茶になった事を伝えただけであって、ボールについては一言も触れませんでしたよ?』
『はっ!・・・し、しまった・・・』
『何故それを知っているか?それはあんたらが犯人だからだっ!!
真実はいつも一つ!じっちゃんの名にかけて!!』
しかし現実はそう簡単に動いてくれない
そのような美味しいワードを一言もやすやすと言ってくれるほど甘くはなかったのだ
(どうしよっかな・・・このままじゃ私が悪者だし、何か起死回生の手を思いつかないと・・・)
マアサがうんうん唸っているところに部員の一人がガン!と背中を蹴ってくる
「さっさと謝れよ、疑ってごめんなさいってさぁ」
相手校の部員らはますますマアサの近くに寄って来ている
どうやらここからリンチの流れに持っていきたいようだ
だがこの流れこそがマアサにとって起死回生の流れ
(あれ!?これって正当防衛とかでウヤムヤに出来るんじゃない!?
空も暗くなってきたし・・・いいや、やっちゃえやっちゃえ♪)
初秋とは言え18時を過ぎれば暗くもなってくる
この暗さこそがマアサにとっては有難い
では何故有難く思うのか?それは己の醜さを隠せるからだ
本気で能力を使用した時のマアサの姿はお世辞にも見て気分が良いとは言えない
マアサ自身、出来る事なら誰にも見られたく無いと思っているのだ
闇の中ならばちょっとやそっとの身体の変化くらいは隠す事が出来る
マアサの腕や足が突然消え去ったり、腹に穴が開いたりしてもそう簡単に気づかれはしないだろう
(あの人はみだりに一般人を傷つけちゃいけないって言ってたし気をつけなきゃ
そうすれば身体の変化も最小限に抑えられるはず・・・出来るかな?いや、やらなきゃ)
マアサは精神を集中させ、意識を頭のてっぺんから足の指の先にまで満遍なく行き届かせる
こうする事でマアサは相手がどんな攻撃でやってこようとも対応する事が出来るのだ
例えば今、敵の一人が大きく振りかぶってマアサをぶん殴ろうとしているが
こんな攻撃程度ならばマアサはその場から一歩も動かずにかわす事が出来るだろう
「なんとか言えよオラァッ!・・・あれ?」
拳を人体に思いっきりぶつけたはずが、空を切るように手応えが感じられなかった
それもそのはず、マアサは先に述べたように一歩も動かずに回避をしてみせたのだ
おかしく思った敵がもう一度殴りかかろうとしてもそれもまた通用しない
その感覚は映写機から映し出された虚像を殴るかのようなものなのである
「なに?・・・なんなのこいつ!」
その異常さは殴っている張本人以外にも伝わってくる
「や、やっぱり引退してても工藤マアサなんだ・・・市MVPの名は伊達じゃないんだ・・・」
「待ってよ!工藤マアサが喧嘩も強いなんて聞いた事・・・」
「馬鹿!バレーの筋肉があれば喧嘩も強いに決まってるでしょ!
現に、ほら、私のパンチ全部かわされてるし・・・」
現役時代、工藤マアサは強豪選手として周辺の高校から恐れられていた
バレーの技術が高かったのもあるが、特筆して目立っていたのはその筋肉だ
パワーと瞬発力の両方を兼ねそろえたその筋肉は「ベンチプレス100kgも軽い」とまで言われていた
(実際は80kgまでしか上げられなかったらしいので噂とは怖いものだ)
その筋肉によって生み出される超パワーのアタックは「爆音アタック」
どんなスピードのボールにも対応できるレシーブは「雷神レシーブ」
威力の強い速球でも防いでみせるブロックは「鋼鉄ブロック」とそれぞれ必殺技のように呼ばれていた
コートの上でそれだけの伝説を生んでいるのだから、敵も当然怯むだろう
さっきまでマアサを囲んでいた部員らも今では恐怖を感じ後方に後ずさりしている
マアサもこれならば自由に動ける程のスペースを確保出来る
(長引くと疲れるから一撃で終わらせちゃおう、一発で黙らせるには・・・あれかな)
次の瞬間マアサは勢いよくしゃがむ事によって敵の視界から自分を消そうと謀る
その目論見は上手くいき、すべての部員らが一瞬マアサを見失ってしまう
喧嘩において相手を見失う事は敗北へと繋がるので敵も慌ててしゃがんだ先に目を移したが
それでもマアサはいなかった、既に移動してしまったんだ
「えっ・・・どこに?」
対象を見失ってアタフタしている隙にもマアサは次の行動に移っている
マアサは己の二本の脚を消し、更に左腕さえも無くしてしまい
逆に右腕の筋力を4倍増強させる
(久々だな~"爆音アタック"を打つのは!)
筋力を寄せ集めた右腕を勢いよく振り下ろした先にあったのはガードレールであった
普通の少女がガードレールを叩いたとしたら当然のように手を怪我してしまうだろう
しかし工藤マアサは普通の少女などでは無い
「バキィイン!」という爆音とともにガードレールを捻じ曲げてしまったのだ
これぞマアサの必殺技「爆音アタック」
現役時代と比べて威力は4倍増しどころの話では無い
最終更新:2009年09月28日 01:56