Case 11 残り11人



 俺は夢を見ていた。
 何もない薄暗い空間に傘をさした一人の男が立っていた。
 ぷるるる、と素っ気ないない着信音が鳴り、男は携帯に出た。

『ああ、今回も駄目だったよ。アイツは人の話を聞かないからなぁ。
 そうだな、次はコレを読んでいるヤツにも付き合ってもらうよ』


――お前は誰だ!? 一体、俺に何を伝えたいんだ!?


 俺の疑問は、言葉にならない。


『ああ、いいんじゃないかな?
 アイツも良くやってくれてるよ……ん?』

 男の独り言は続いた。
 男は、どうやら俺が死んでしまったかと思っていたのか、俺がまだ意識がある事に気付くと、携帯を持ったまま、俺の顔を覗きこみ、にやりと笑う。

『よし、分かった。説明しよう』

 だが、俺の伝えたい事は何故か男に届いたようで、彼は俺の傍へと近づいてきた。
 そして、何処からともなく弓反りになった棒切れを取り出す。

『これはアーチというものだ。神の作り出した知恵の1つ――いや、武器か。
 人類の作り出す叡智では決して辿り着く事の出来ない……神が我々に与えたものだ。
 ……神は、コレを爪楊枝に使っているとウワサに聞いた事がある……私はそんな所、見たことないがね』

 俺は、”アーチ”と呼ばれる武器モドキに手を伸ばす。
 だが、アーチの――弓で言うと弦の部分が光の刃を生み出し、俺は驚いて手を引っ込めた。

『おっと、驚かせてしまったな。ふふ、コレは人の言うレーザーでも電気でもない――云わば、神のみが作り出せるエネルギー体だ。
 気をつけろ、その光の刃……触れると、一瞬にして浄化されてしまうぞ? 浄化とは何だって? ふっはっは、それは昨日言っただろう?
 あ、すまん、キミにとっては、明日の出来事か……いや、もっと先の事だったかな……ふふ、その日が来たら、また説明しよう」

 次の瞬間、男は闇の中へと消えた。
 誰なんだ……お前は一体誰なんだ!?

『私の名はルシファーー……』





 次の瞬間、俺は目が覚めた。
 目が覚めた場所には、見覚えがあった。
 ここは……診療所じゃないか!
 辺りは既に明るく、もう朝である事が分かる。
 右肩がずきんと、痛む……何とかっていう女に撃たれた傷だ。
 どうやら、昨日起こった事は現実だったらしいな。

「目が覚めたようですね……。
 私の名前は、聖プリーシア・ディキアン・ミズホ。
 かつて、沖木島で悪魔ルシフェルの前に散った光の戦士の末裔です」

 ルシフェル……。
 英語で表記すると、Lucifer ―― ルシファー!?
 まさか、今しがた夢で見た、あの男と関係あるのか!?

「黙っているようですが、大丈夫ですか? どこか痛むのですか?」

「大丈夫だ。問題ない……聖プリーシア・ディキアン・ミズホ!」

「ミズホで結構です」

「ミズホ、俺は、杉村に親友と愛する女を同時に殺された……。
 俺は、杉村を倒したいが、アイツは強過ぎる……まさしく化け物だ。
 光の戦士であるミズホにこんな事を頼むのは、筋違いかもしれない……。
 だが、俺はアイツに復讐をしたい。俺にミズホの力を貸して欲しい!」

 俺は、恥も外聞も忘れて、ミズホに懇願した。
 土下座をした。
 さくらもいない俺に残されたのは、杉村への怒りのみ。
 ヤツへの復讐心のみしかないのだ。

「……頭を上げて下さい。分かりました。倉元くん……杉村くんは、恐らく悪魔ルシファーの生まれ変わりでしょう。
 彼は、多分私の宿敵です。この命が燃え尽きるまで、共に戦いましょう」

 にこり、と天使のような微笑みを浮かべるミズホに俺は、感謝の意を伝えた。


「あたーらーしーい! あーさがーきたー!
 きぼーうのーあーさーーがー!」

 ラジオ体操のテーマが流れる。
 そして、聞きたくもない定期放送が始まる。

「みんなー、殺し合い頑張っているようだなー!
 早速だが、みんなの頑張りを先生、発表しちゃうぞー!」

 新しく死んだのは、以下の17人だそうだ。

男子3番 大木立道
男子4番 織田敏憲
男子14番 月岡彰
男子16番 新井田和志
男子20番 元渕恭一
男子21番 山本和彦
女子2番 内海幸枝
女子3番 江藤恵
女子4番 小川さくら
女子6番 北野雪子
女子10番 清水比呂乃
女子11番 相馬光子
女子15番 中川典子
女子16番 中川有香
女子17番 野田聡美
女子19番 松井知里
女子20番 南佳織

「みんな、寝る間も惜しんで、殺し合いに精を出しているようで、先生、嬉しいぞー!
 だけど、おまえら、若いんだから、よく寝て、よく食べて、よく遊んで、よく学べよー!
 それが若者の正しい姿だー! がんばれー! 先生、応援してるぞー!」

 そして、定期放送が終わる。

「17人……すごい人数ですね」

 ミズホが不安そうに、そんな事を呟く。
 恐らく、最初の放送で、多くの人数の死者が出たために、ゲームに乗る人間が増え、殺し合いが加速したと考えるのが打倒だろう。
 それに、いくら光の戦士といえども、ミズホも女の子だ。
 不安な気持ちを押し隠せずにいる。
 だから、俺はそんな不安さを吹き飛ばすように微笑み、こう言うのだった。

「大丈夫だ。問題ない」


女子10番 清水比呂乃    死亡 残り 10人    to be continued
最終更新:2012年01月05日 18:34