Case 13 彼は眠れる獅子だった



「無駄話は終わったか?」

 咽び泣く瀬戸、瀬戸を慰めるミズホ、既に息絶えた三村、そして、俺――その誰でもない何者かがそう呟く。

「ならば、この女、天堂のようにキサマらも死ぬ覚悟をするのだな」

 気配を断つようそこへ立っていたのは、武骨な大男、杉村弘樹だった。
 ヤツは手に持っていた天堂とかいう女の首を投げつけてきた。

「杉村ァァ!!」

 瀬戸は怒りのままに、日本刀を鞘から抜くと、三村へと斬りかかった。

 ガキン、と金属同士がぶつかり合う。
 瀬戸の鋭い斬撃を杉村は、鉈で軽々と受け止める。

「さあ、倉元、仲間が苦しみ、死んでいく姿を見ろ」

 次の瞬間、杉村が瀬戸を力任せに押し返すと、返す鉈の刃で、瀬戸の右腕を叩き落とした。
 地面へと落ちる瀬戸の右肘から先。
 だが、瀬戸は拒みもせずに左手に持った鞘の先端を杉村の口へと突き刺した。

「フゴォ!!」

 思いもよらぬ一撃を喰らい、杉村の動きが止まる。
 間抜けな声を上げながら、驚愕の表情をヤツは浮かべていた。

「皆の仇だ! 地獄へ落ちろォ!!!」

 そのまま全体重をかけて、鞘を口内へ突き立てるように杉村を押し倒そうとする瀬戸。
 だが――。

 凄まじい打撃音。
 車のタイヤを引きちぎったと形容するのが妥当だろうか。

 そんな凄まじい杉村の拳による攻撃を腹部へ受けて、瀬戸の動きが止まる。
 今まで素手で多くの人間を殺してきた杉村の拳がヒットしたのだ。
 俺とミズホの間にも戦慄が走る。
 その隙に、口から瀬戸の鞘を吐き出した杉村は倒れるように後退した。

「ぐっ……げぇおおおおおおおおおおお!!!」

 だが、胃液をまき散らしながらも瀬戸は尚も攻撃の手を緩めなかった。
 落ちていた日本刀を素早く拾い上げて、杉村に向かい振り上げた刀を振り下ろす。
 だが、杉村は高速の蹴りを放った。
 瀬戸は、奇跡的にも刀でその蹴りを受け止める。

 ぱきん、と中心部から折れる日本刀。
 だが、折れた刃先で、構わず追撃をかける瀬戸だった。

 その一進一退の攻防を打ち破ったのは、一発の銃声だった。

「瀬戸ォ……さっきはよくもやってくれたな……先生に逆らう生徒にはお仕置きが必要だよなぁ!! このバカチンがッッッ!!!!」

 長髪を左手でかきあげ、恰幅のいい中年――担当教官の坂持が銃を構えていた。
 瀬戸は、銃撃を受けて仰け反るように倒れる。

「さぁて、次はどいつの……」

 ぐさり、と坂持の首に刃先が生えた。

「……へ?」

 呆けたような顔がどんどん青ざめていき、ごぼっと血反吐を撒き散らす坂持。

「悪魔の手先め! 正義の刃を受けなさい!」

 やったのは、ミズホのようだ。
 彼女は、正義の刃という名のバタフライナイフで坂持を滅多刺しにしていた。
 流石、光の戦士というのは伊達ではなかったようだな。

 ここまで来るのに出会ったクラスメイト達の顔が鮮明に蘇る。
 出部杉、名も無き不良達、千草、親切な男、山何とか、眼鏡くん、新井田 7人くらい居た女子グループ達、瀬戸に三村。
 月岡の顔が頭をよぎったとき、肛門が痛んだが、それも今では笑える思い出話だ。
 みんな、俺に力を貸してくれ!



女子14番 天堂真弓      死亡     to be continued
最終更新:2012年01月05日 18:35