Case 14 死亡遊戯



「うげぇ……クソ、瀬戸のヤロォ……」

 這いずるようにこの場から立ち去ろうとする杉村に対し、俺は、俺自身へと与えられた武器を取り出した。
 ひゅんひゅんと風を斬るような音を立てて、ロープが唸りを上げていた。
 俺はロープを杉村の右足へと狙いを定めて、放つ。

「うお!? な、何だ!!」

 自らの足への異常を察知した杉村が驚きの声を上げていた。
 俺は構わず、ロープのもう一方を自分の足へと結ぶ事にした。

 ロープの一方が杉村の右足を縛り、もう一方が俺の足を強く縛っていた。

「立てよ……杉村……入ってやったぞ。お前の射程距離内にな……」

 静かな怒り、そして、皆の無念を晴らす為に、俺は横ばいになった杉村に近づく。
 俺の覚悟を知ったのか、杉村はよろよろと立ち上がる。

「杉村、俺を苦しめて殺すんだろう? 来いよ!!」

「分かっているのか、倉元、この半径2メートル……俺の拳なら、一瞬でキサマの顔面を潰れたトマトみたいにできるんだぞ?」

「大丈夫だ。問題ない!」

 そう言って、俺は自らの制服を破り捨てた。
 右肩の銃創が痛む。
 この行為が俺の弱点をヤツに教えるような愚かな行為だと人は笑うかもしれない。
 だが、杉村が自分だけダメージを受けている状態で戦い負けたとか言い訳させたくなかったから。

「杉村、お互い、手負いだ。ハンデだとかセコイ事を言うなよ」

「……………………」

「……………………」

 最後は、お互いに無言だった。
 俺と杉村、拳の応酬が続く。
 俺の拳を杉村が捌き、杉村の攻撃をスウェーで避ける。
 一進一退の攻防が続くかとも思ったものの、その均衛は10秒程で崩れた。

「がはっ!」

 そう、杉村の方が圧倒的に強いのだ。
 杉村の拳が俺の胸板に食い込み、俺は呻き声を上げる。

『今回も駄目だったよ』

 夢の中での男の声が頭の中に響く。

 駄目なものか!!

『アイツも良くやってくれてるよ』

 そんな中途半端な評価を俺にするんじゃない!!

『これはアーチというものだ』

 !!

 アーチという言葉が頭の中に響いた瞬間。頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。
 杉村の裏拳が俺の側頭部に叩き込まれたのだ。

「倉元くん! これを使いなさい! 光の刃よ!」

 ミズホのバタフライナイフが弧を描いて俺の方へと舞う。
 俺は、無意識の内にそれに手を伸ばすと、手への痛みで意識が覚醒する。
 彼女の投げたナイフをキャッチし損ねて、手の甲を切り裂いたからだ。

「一番いいのを頼む」

 再び、無意識の内に呟く。
 次の瞬間――。
 ぶおん、と右手が光に包まれた。

「な、なんだ、そ、それはーーー!?」

 杉村が驚愕の表情を浮かべる。
 人知を超えた何かが俺の手に握られているからだ。
 俺はこの神の与えた知恵、いや、武器を知っている。

「これは――アーチ!」

 弓反りの不可思議な剣から、神の刃が蠢くように射出されている。

「くそ、こうなったら、次の一撃で殺してやる!!」

 杉村は、奇妙な構えを取り、漲る殺気を放ちながら俺を殺しに掛かってきた。
 俺の目の前で、角刈りの男やさくらを一撃で葬ってきた杉村の拳法。
 ヤツの言葉は、ハッタリでも何でもない、真実だ。
 だが、次の瞬間、ヤツの動きが止まる。

「な、キ、キサマは――瀬戸ォ! 俺の足を放せぇーー!!」

「倉元くん、僕が押さえているうちに杉村をやれぇーーー!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「うぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」

 光の濁流の渦に飲み込まれ、その肉体が消滅していく杉村と瀬戸。

 気付いた時には、二人は既に居なかった。
 夢の中の男の言うとおりだとすれば、二人は浄化されたのであろう……。



男子11番 杉村弘樹
男子12番 瀬戸豊      死亡        to be continued
最終更新:2012年01月05日 18:36