50話


「斉藤くん、この辺で休みましょうか?」
ザックを背負った女子15番 松本 茜(まつもと あかね)は、後ろからついてくる男子8番 斉藤 浩介(さいとう こうすけ)を呆れ気味に見た。
浩介は息も切れ気味に疲労感たっぷりに、フラフラとついてきていた。
殺し合いの最中という極限状態ゆえに、精神的に疲れてるのもあるだろうが、茜にとって、浩介は幾らなんでも頼りなさすぎた。
「おう・・・そうしよう・・・ぜぇぜぇ」
そんな浩介を見て、茜は溜息をつくと、民家の中に入って行った。

「・・・電気は通ってないみたいね」
「水道もガスもな・・・ただいろりはあるみたいだし、点けてみるか?」
「ええ・・・家の造りからして火の光が漏れる事もないだろうし・・・そうしましょうか」
ふたりはそう話し合って、いろりの周りに腰を下ろした。
「取り敢えず美味いもんでも喰うか。さっき手に入れた缶詰くらいしかないけどさ。カロリーメイトは流石に味気ないしな」
浩介は、いくつかの缶詰を取り出す。
それは、先程工藤無頼を拘束した民家からくすねてきたものだ。
「そうね。果物のを貰ってもいい?」
「いいぜ。ほらよ」
「ありがとう」
茜は無頼から奪ったサバイバルナイフでアルミの缶をこじ開ける。
アルミは柔らかい金属素材だが、まるで紙でも切るかのような切れ味に茜は驚く。
「はい」
そう言って、茜は少し考えた後、ナイフを浩介に渡す。
「サンキュ」
そう言ってナイフでサバ味噌缶と乾パン入りの缶詰を開けると、それを茜に返した。
茜は黙ってナイフを受け取り、鞘に入れてポケットへと戻した。
「脱出の事を考えてたんだけどさ」
「・・・え?」
「何だよ?」
「いや、何でもない」
茜は驚く。
浩介は至極真面目な顔をしていた。
確かに昼間、浩介は「脱出」という言葉をちらつかせた。
だが、それは、ノリというか、口から出まかせというか――その程度にしか茜は思ってなかったからだ。
「ごめん、続けて」
「ああ、まず脱出しようにもこの首輪を外さなくちゃいけない。これがあるだけで、いつでも首輪を爆発されて殺されるからな」
「その通りね」
「だけどさ、こんなもん下手に弄ってたら、来栖谷の奴に変に思われて逆に爆破されるだろ?」
「うん」
「なら、どうすればいいか――この首輪の外し方を知ってる奴に解除させればいい」
「・・・・どうやって?」
「そりゃ来栖谷達を倒すしかないだろ」
「けど、それは・・・」
「うん、俺達二人じゃ無理だろうな・・・護衛の兵士もいるしさ。だけどさ、クラスのみんなが力をあわせたらイケるんじゃね?」
「さっきの放送だと、もう9人も死んでる・・・殺し合いに乗った人もいるわ・・・」
「説得すんだよ! 仲間じゃないか、俺達! 話せば分かるさ! 残り31人・・・悲しいけどさ・・・」
「でも、あれから何時間も経ってるし・・・これから何人死ぬか分からないんじゃない?」
「大丈夫だって! 夜は寝るものだろ・・・流石に・・・取り敢えず朝まで休んで・・・それから仲間を探しに行こう!」
「なら、あの工藤くんも説得するの?」
「むぅ・・・まあ、何とかなるだろ」
「ふふ・・・頼りにしてるわ」
ふたりの話は続く。
悪い雰囲気ではない。
浩介の話は、甘く突拍子もないが、不可能ではない。
茜も殺し合いをするくらいなら、その甘い話に乗ってみようか。
そう思い出し始めていた。
最終更新:2012年01月05日 23:52