55話


「だいぶ減っちまったな・・・」
男子12番 天道 衛(てんどう まもる)は疲れ切った表情で呟いた。
夜間の間に16人が死に、40人いたクラスメイトは今では15人しかいない。
今もまた島のどこかで誰かが殺し合って、命を落としてるかもしれない。
更に昨晩、眼の前で何人ものクラスメイトが死ぬ現場を見ていたのだ。
腕自慢の衛でさえ、大きな疲労を抱えていた。
そのすぐ隣を歩く女子11番 二階堂 澪(にかいどう みお)は、泣きべそをかきながら、トボトボと歩いていた。
「ユキちゃん・・・うぅ・・・」
澪は親友である唐沢幸子が死んだ事に対してショックを受けていた。
幸子は小さい頃から、大人しい澪を気にかけてくれる頼れるお姉さんみたいな存在であった。
「泣くなよ・・・・今は泣くな!」
衛は苛立ちを隠せずに怒鳴る。
びくぅ、と肩を震わせて、弱々しく衛を見上げる澪。
自分の態度が澪を怯えさせた事にすぐさま気付いた衛は
「・・・すまん」
そう言って、衛は再び歩き出した。
(昨日一晩、ユキちゃんが助けに来てくれる。ユキちゃんは凄いんだよ――なぁんて言ってたしな。唐沢が二階堂の心の支えだったんだろう・・・)
心の支えであった存在が死んだ。
泣くのも仕方ない・・・そんな風に思って、衛は俯く。

「・・・天道くん」
それは不意に背後からかけられた澪の声だった。
「・・・あ?」
後ろを振り向く衛。
彼が見たものは、首輪の爆破起動銃をこちらに向ける澪の姿だった。
衛は、自分の心臓が止まってしまうのではないかという程のショックを受ける。
「・・・ごめんね。私、ユキちゃんの分まで生きる事にしたんだ・・・」
泣きながら安らかに笑う。
笑顔で謝りながら涙を流すその顔は余りにも異様な表情だった。
「・・・・二階堂――ッ!!」
「ごめんね・・・」
銃のスイッチを押す澪。
衛は死を覚悟する。

「・・・・何?」

だが首輪の起動はしなかった。
螺川が死んだときのように、首輪は赤い光を灯さない。
「・・・な――なんで!! なんで爆発しないのよ!! 嘘でしょ!!」
澪は、信じられない、といった風にヒステリックに叫ぶ。
「・・・二階堂、もしかしたら、その起爆装置は一度きりしか使えなかったんじゃないか?」
衛は冷めた口調で澪の疑問に答えを出してやる。
(それもそうだ。首輪を爆破させるような反則級の武器が使用制限もなく与えられるのはおかしいしな)
「ひっ・・・!?」
今、自分は力のない只の女だという事を思い出し、澪は恐怖で震えだす。
震える手で、螺川の遺品である刀を抜いて、それを衛へと向ける。
その姿は余りにも哀れな姿であった。
(哀れなやつだ・・・)
「二階堂・・・お前は俺の命を一度救ってくれた・・・それに俺は殺し合いに乗るつもりは毛頭ない」
澪の眼を見据えて、衛は言った。
「天道・・・くん・・・・」
澪は刀を落とし、顔を抑えて嗚咽するように泣き出した。
「だけど、俺はもうおまえと一緒にはいられない・・・すまんな」
ゆっくり拒絶の意志を伝えて、衛はポケットを手に歩き出した。
「あ・・・・・」
澪は自分がとんでもない事をした――そう気付く。
取り返しのつかない事である。
彼女の流れ落ちる涙は止まられなかった。
最終更新:2012年01月07日 18:14