第4話 関羽サマ まかり通る!


「うーむ、困ったのう。
 それがし、また道に迷ってしまったでござる」

 森の中で、屈強なる武士(もののふ)、関羽は眉を「ハ」の字に曲げて、うなった。

「はてさて、聖杯戦争のマスターである四条瑠璃子殿の指示で、”サイキ”とかいう男を始末するよういわれたのは良いが……」

 自慢のおひげを擦りながら、周囲を見渡す関羽。
 だが、人っ子ひとりいないので、道を尋ねる事も出来ない。

「そういえば、さっき殺しあえとか言われて気が付いたら、布袋を持っていたが……」

 ごそごそと、関羽は、布袋(デイバッグ)の中を漁る。
 中から出てきたのは、携帯電話だった。

「おお、これは携帯電話というものでござるな!
 それがし、瑠璃子殿がこれに向かって独り言をつぶやいていたのを知ってるでござる!」

 折り畳み型の携帯電話を悪戦苦闘しながら開く関羽。
 そして、携帯電話を耳に(上下逆に)当てて、彼は耳を澄ました。

「何も聞こえぬ……。
 おっと……それがしとした事が、合言葉を忘れていたでござる!
 礼儀を欠くとは、面目ないでござる……。
 確か、瑠璃子殿は、携帯電話に向かい、こう言っておったな。
 もしもし! もぉしもぉし!! もしもぉぉぉし!!! もぉしもぉぉぉぉおおおおしぃ!!!!!」

 関羽の馬鹿でかい声が森の中に木霊する。
 その声に引き寄せられたかのように、耳を手で塞ぎながら、何者かが関羽に近づいてきた。

「やれやれ……うるさいものだ。
 まったく、人間は下品でいかんな……」

 海のように青い髪をさらさらと揺らし、美形の少年が不快そうに関羽の前に姿を現した。

「おお、良い所に。
 拙者は、蜀の関羽雲長。
 少年、ちと道を尋ねたいのだが」

「げええぇっ!! 関羽!? って、何で叫んでるんだ……俺は。
 まあいい。ふふん、喜べ、ヒゲ。お前は、この水の蒼真の最初の生贄となるのだ!!
 死んでもらうぞ、出でよ、竜神!! そして、この俺と共に敵を皆殺しにするのだぁーーーっ!!」


 ……しーーん。


「……あれ?」

 しかし、何も起こらなかった。

「なるほど、蒼真とやら、おぬしは、拙者と戦いたいわけだな。
 若いのに見どころのある小僧だ。よし、拙者が稽古をつけてやろうではないか!」

 はっはっは、と高笑いをあげながら、関羽は直径30センチ、長さ5メートルはあろうかという地面に根を生やした木を軽々と引き抜く。

「では、行くでござる!!」

 関羽は、木を振り上げた。 

「え? え? ええええ!?」

 絶望の声をあげる蒼真。
 そして、一瞬後、彼はミンチとなったのであった。

「……む? それがしとした事が、やり過ぎてしまったわい。はっはっはっは!
 む、これは少年の……」

 関羽は高笑いをあげると、蒼真の遺品であるデイバッグに気が付き拾い上げた。

「まあいい。それよりも……もしもおおぉしぃ!!! もしもぉぉおおぉし!!!」

 携帯に向かい、合言葉を叫び続けながら歩き続ける関羽。
 智勇を兼ね揃えた歴戦の猛将である筈の彼だったが、まるで危機感というものが無かった。


 水の蒼真@スパロワシリーズ    死亡    残り45人
最終更新:2015年01月26日 22:58