第23話 「ときすでにおそし」
「くそっ……マジかよ……ハルヒが……死んだ?」
何の能力も持たない平凡な男子高校生であるキョンは、同じSOS団の涼宮ハルヒが死んだという放送を聞いて、大きな動揺を覚えていた。
彼はフラフラと頼りない足取りで歩く。
「ははは……そんな馬鹿な……いや、でも……」
キョンの頭の中にある光景が浮かび上がる。
勇者キースに背中を滅多刺しにされて死んでしまった骨川スネ吉の姿だ。
「嘘だろ……おい……ハルヒぃ……いてっ!?」
キョンはこけた。
足元にあった何かにつまづいてしまったからだ。
「え……?」
キョンの頭の中が真っ白になる。
彼は絶句した。
何故なら、倒れた彼の目の前にあったのは、頭を血塗れにした人間だからだ。
キョンはその倒れた人間をまじまじと見て、ソレの肩を揺らす、
「おい……婆さん、大丈夫かよ……ひっ!!」
キョンはかろうじて、倒れているそれが老婆である事が分かった。
だが、老婆は額を撃ちぬかれ、既に事切れている事を彼は理解する。
そして、彼は涙ぐみながら絶句した。
「本当に殺し合い……やってんのかよ」
そんな中、キョンは遠くから少女の悲鳴を聞く。
そして、中年男の笑い声とマシンガンの銃声も聞こえてきた。
「わっはっはっは、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。
どうせキミも両津の知り合いなんだろ? わしを驚かせようったってそうはいかんぞー」
それは、逃げ惑う女子中学生、稲田瑞穂。
そして、マシンガンを乱射しながら瑞穂を追う警察官、大原大次郎であった。
「そうら、追いつめたぞー」
瑞穂は、眼の前が行き止まりである事を知り青ざめる。
「こ、来ないで!!」
「わっはっは、今度はこっちの番だよ。
これは両津の考えたゲームなんだろ?
女の子に玩具といえども銃を向けるのは気が引けるが……ゲームと割り切って観念しなさい!」
大原はマシンガンの引き金を引いた。
引いたつもりであった。
だが、聞こえたのは銃声ではない鈍い打撃の音。
どさっと倒れる大原。
大原の背後で支給品である漬物石で、大原の後頭部をぶん殴ったキョンが立っていた。
「殺し合いをゲームだとか……あんたそれでもいい歳した大人かよっ!?」
大原の心情など知らないキョンは、主観により喚き散らす。
だが、大原はキリアンを殺害しており、本人に自覚はなくとも立派な殺人者。
殺されたとはいえ、正義感の強い大原がその事を理解せず逝ってしまったのは不幸中の幸いか。
「おい、あんただいじょ――」
瑞穂に助けの手を差し伸ばしたキョンの動きが止まる。
「洋二が死ぬわけない…………そんなワケないじゃない!!」
瑞穂の手にはバタフライナイフが握られていた。
バタフライナイフは、キョンの腹部に刺さっており、キョンは小さく血を吐き出した。
「ぐっ……ハ、ハル……ヒぃ…………」
「洋二は光の戦士……私の……愛す……る…………ッ!!」
瑞穂は既に動けないキョンに馬乗りになり彼を滅多刺しにする。
彼女は愛する倉元洋二の死亡の放送を聞き、正気を失っていた。
それに、既に死んだ大原は「今度はこっちの番」と言っていたのだ。
大原に対し先に攻撃を仕掛けたのは彼女の方であった。
もっと注意深くしていれば、キョンはこんな結末を迎えなかったかもしれない。
だが既に時は遅い。
どうにもならないのだ。
最終更新:2015年01月26日 23:14